(1)労働力
本稿で取り上げる川野牧場は、JR都城駅から南南東へ約4キロメートルの水田地帯に位置している。経営の中心を担うのは40歳代半ばの川野大輔氏である(写真1)。調査時点(令和8年3月24日)における基幹労働力は大輔氏の両親と妻の男性2人、女性2人の計4人であり、いわゆる二世代による家族労働力を基盤とした酪農経営が行われている。
川野牧場は個人経営であり、経営主は大輔氏の父親である。これは、融資を受ける際に経営実績が求められるためであり、経営承継は大輔氏が実績を積んだ上で段階的に進められる予定である。
家族労働力に加え、飼料作の繁忙期には、近隣に住む50歳代後半の男性をパートタイム労働者として雇用している。川野牧場では、牧草やトウモロコシの二期作を行っており、こうした外部労働力の活用が作業体制を支えている。
酪農ヘルパーは1カ月に3回利用しており、1回当たり2〜3人のヘルパーが訪問する。利用料金は1回当たり5〜6万円で、利用に当たっては前月15日までの予約が必要である。また、ヘルパー組合の運営および制度の都合上、月1回の利用が義務付けられている。
川野牧場が利用しているヘルパー組合は「都城地域酪農ヘルパー利用組合」であり、酪農家自身が組織する法人格を持たない協同組織である。
(2)規模拡大
川野牧場は、令和2(2020)年に畜産クラスター事業を活用してパイプミルカー用の乳量計付き自動離脱装置(MMD500)を導入した、つなぎ飼い牛舎を新築している。調査時点での経産牛飼養頭数89頭(うち搾乳牛72頭、乾乳牛17頭)、育成牛32頭となっている(写真2〜4)。規模拡大以前は、経産牛飼養頭数が約50頭規模であった。
経産牛は、基本的には自家で育成している。唯一の外部導入は、令和2(2020)年の規模拡大の際に北海道から初妊牛20頭を導入したことであった。当時は、初妊牛の価格が高い時期で、経営に対する負担は大きかったものと推測される。
図は、初妊牛の価格の推移について見たもので、赤の実線がそれである。この図は、平成30(2018)年4月から令和8(2026)年4月までのホクレン農業協同組合連合会のデータをグラフ化したものである。令和2(2020)年ごろは、価格が高かったことが分かる。長期的な推移を見ると、U字型の傾向を示している。平成30(2018)年4月には、1頭当たり98万2000円と100万円近い値であったが、令和6(2024)年6月には、図の中で底値の42万1000円にまで下がっている。また、初妊牛の価格(赤の実線、以下「現データ」という)は、1カ月ごとに大きく変動していることが分かる。季節変動を見るために、ここでは12カ月の移動平均を用いた。この移動平均のデータが青の破線である。例えば、平成31(2019)年3月の移動平均の値は、30(2018)年4月から31(2019)年3月までの12カ月分の現データの平均値である。これによって求めた青の破線(移動平均)は、季節変動を除去した値ということになる。見方としては、青の破線を上回る月は相対的に価格が高く、下回る月は価格が低いことを示すということになる。
ここでは、季節変動を数量的に捉えるために、季節指数を計算する。なお、季節指数は下記の式で求める。
季節指数=現データ÷移動平均
季節指数を一覧にしたものが、表4である。なお、季節指数が1.0以上だと初妊牛の価格が高い月、同じく1.0未満だと価格が安い月ということになる
(注4)。
以上のように、初妊牛を外部導入に依存した場合、価格高騰する時期になると、酪農経営にとってはコストの増加になる。また、表4の季節指数から、5〜11月にかけて価格が下がる傾向にあること、12〜4月にかけて価格が上がる傾向にあることが分かる。
もともと、川野牧場は3戸の酪農団地のうちの1戸であった。2戸が廃業したので、その農地を購入している。それ故、牛舎の新築が可能だったのである。また、旧牛舎を乾乳牛、育成牛の飼養に活用している(写真5、6)。
前述のように、省力化のためにMMD500を導入している。また、MMD500はマックスフィーダー(自動給飼機)とデータ連携している。連携の仕組みは、下記の通りである。
(1)MMD500が搾乳時に、乳量・乳温・電気伝導度を計測、(2)計測したデータを飼養管理ソフト VMAP-3に送信、(3)VMAP-3が個体ごとの給飼量を算出、(4)マックスフィーダーへ自動送信、(5)マックスフィーダーが設定時刻に乳量連動給飼を実施―このようなハード面を構築するに当たって、大輔氏は、都城市内の2〜3戸の酪農家を参考にしている。
さらに、交雑種(F1)や和牛の子牛を20頭飼養している。1カ月に4〜5頭を目安に、2〜3カ月齢で都城地域家畜市場に出荷している。
和子牛の場合、福岡県にあるJA全農ET研究所(九州分場)に外部委託し、和牛凍結卵(黒毛和種)を1個当たり4〜5万円で移植している。なお、和牛凍結卵の品種系統はET研究所に一任し、1カ月に2〜3頭、移植をしている。
(3)飼料作の状況
令和7年産の飼料作物の作付け状況は、次の通りである。トウモロコシは二期作を行い、作付面積は16ヘクタール(ha)(うち借地7ha)、イタリアンライグラスは13ha(同6ha)、稲WCSは2〜3haである。稲WCSについては、近隣の稲作農家との耕畜連携により、水はけの良好な
圃場12〜13枚に作付けしている。牧場からおおむね1キロメートルの範囲内に集約されており、極めて作業効率が良い。
なお、小作料は、10アール(a)当たり1万2000円であり、農地法第3条許可に基づく賃貸借契約の形態である。
生草収量は、トウモロコシで10a当たり6〜7トンである。イタリアンライグラスおよび稲WCSはロールの個数になるが、イタリアンライグラスは10a当たり2〜3個、稲WCSは同2個である。なお、ロール1個当たりの重量は500〜600キログラム(kg)である。
輸入乾草については、経産牛に1日1頭当たりルーサンを2kg、スーダンを0.5〜1kg給与している。
粗飼料自給率は60〜70%と高水準にあり、高い粗飼料自給率によって、圃場内での堆肥処理が完結できている。新設された搾乳牛舎ではスラリー方式を採用し、地下貯留槽に一時貯留した後、バキュームカーにより圃場へ散布している。なお、臭気対策のために曝気処理を行っている。一方、旧牛舎では、従来通り堆肥化し、マニュアスプレッダーにより圃場に還元している。
このような飼料生産体系の下、川野牧場の飼料作付延べ面積は合計47haとなる。
経産牛は89頭であり、1頭当たりの飼料作付面積は0.53haとなっている。
一般社団法人中央酪農会議の「令和5年度酪農全国基礎調査結果報告書」によると、経産牛飼養頭数75頭以上100頭未満階層の飼料作付面積の分布は表5の通りである。
表5から川野牧場は、都府県の同規模の酪農家と比較して経産牛1頭当たりの飼料作物の作付面積が大きい経営であることが分かる。
川野牧場では、飼料作に係る作業機械を自己で所有している(写真7)。なお、トラクターについては長年使用しているものの、適宜修理を行いながら使用できている。ただし、稲WCSについては、近隣の稲作農家との役割分担の下、田植えは稲作農家が行い、収穫・調製は川野牧場が行っている。
(4)敷料の調達
川野牧場では、これまで木工団地から発生する
鉋屑を敷料として利用していたが、近年はバイオ資源として利用されるようになったことから、その代替として、ライスセンターから発生する
籾殻を無料で譲り受け、20ha超の規模の稲作農家から車両(ダンプ)を借りて自ら運搬している。
また、乾燥剤・環境衛生資材として、雪印種苗株式会社の「雪印エスカリウ(ESCALIU)」を新設牛舎の牛床に散布している。エスカリウは、ケイ酸カルシウム水和物を主成分とする多孔質の白色粉粒体であり、1)乾燥、2)消臭、3)静菌、4)滑り止め、5)堆肥発酵促進−などの効果を有する。これにより、畜舎内の衛生環境が大幅に改善され、乳房炎の発生や転倒事故のリスク低減に寄与している。