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調査・報告 暖地酪農 畜産の情報 2026年9月号

暖地酪農のデメリットを克服する酪農家の経営展開 〜宮崎県都城市の川野牧場を例に〜

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広島大学大学院統合生命科学研究科 
研究員(岡山大学名誉教授) 横溝 功

【要約】

 わが国の酪農は、飼料価格の高騰や暑熱による受胎率低下など、厳しい経営環境に直面している。宮崎県では、酪農家戸数が令和3年の204戸から7年には157戸へと2割以上減少し、乳用牛の分娩間隔も460日と全国平均より長い。こうした中、都城市の川野牧場は、トウモロコシの二期作とイタリアンライグラスを中心に、作付延べ面積47ヘクタールの飼料基盤を確保し、粗飼料自給率60〜70%を実現している。1頭当たりの年間(305日)乳量は9560キログラムと宮崎県平均を上回り、省力化機器の導入や暑熱対策、牛群検定の活用により、高い生産性を維持している。これは、暖地酪農の課題を克服し、地域資源を活かした経営展開のモデルとして注目される。

1 はじめに

 わが国の酪農を取り巻く経営環境は、かつてないほど厳しさを増している。酪農生産における主要なインプットは飼料であり、主要なアウトプットは生乳である。近年、生乳価格は上昇傾向にあるものの、それを上回るペースで飼料価格が高騰しており、酪農経営を圧迫している。
 さらに、中東情勢を背景としたホルムズ海峡周辺の安全保障環境の不安定化により、海上輸送にも影響が生じている。この結果、輸入に依存する飼料原料の調達に不確実性が高まり、原材料コストの上昇という深刻な影響が生じている。
 こうした厳しい経営環境の下で、わが国の酪農家戸数は減少を続けている。また、近年の夏季の暑熱は、乳用牛の生産に負の影響を及ぼし、経営の不安定要因となっている。
 本稿では、このような状況を踏まえ、西南暖地に位置し「畜産王国」の一つとして知られる宮崎県を取り上げる。宮崎県の畜産は、行政、農業団体、生産者などの連携の下で発展してきた。農協系統では、宮崎県経済農業協同組合連合会(JA宮崎経済連)が中心的な役割を担ってきたが、県域JAへの体制に変化した。まず、その経緯と組織体制の概況を述べる。次いで、宮崎県における酪農の現況を明らかにする。最後に、都城市で規模拡大を図りつつも、家族経営体として酪農を展開している川野牧場を取り上げ、そこから得られる知見と教訓を提示する。

2 宮崎県農業協同組合(JAみやざき)の誕生

 宮崎県では、令和6(2024)年4月1日に県内13農協(JA)が合併し、宮崎県農業協同組合(JAみやざき)による1県1JA体制が実現した。これは、全国で6番目の事例である。1県1JA体制の背景とすれば、1)宮崎県におけるJA再編の経緯、2)県連合会の強い主導力、3)事業の広域化の進展−が挙げられる。今回の合併では、宮崎中央農業協同組合(JA宮崎中央)を存続JAとする存続合併(吸収合併)方式が採用された。
 合併方式には、新設合併と存続合併の2種類がある。新設合併は、全てのJAを解散した上で新JAを設立する方式であり、手続きが煩雑で統合に時間を要する傾向にある。一方、今回採用された存続合併は、一つのJAを存続させ、他のJAを統合する方式で、新設合併と比較して手続きが簡易な上、迅速な統合が可能とされる。存続合併方式を採用した背景には、経営基盤の格差が挙げられる。宮崎県内の13JAは事業規模に大きな差があり、ゼロからスタートする新設合併では、多大な調整コストを要することになる。合併前の各JAの事業概要は表1の通りであり、貯金、長期共済では宮崎中央、販売、購買では都城が相対的に規模が大きいことが分かる。
 1)について、宮崎県のJA再編の歴史では、1990年代初頭には宮崎県内に20以上のJAが存在していたが、平成9(1997)年にJA宮崎中央が発足し、平成12〜22(2000〜10)年にかけてJAは13に集約された。JA宮崎中央以外に、都城、こばやし、西都、尾鈴など地域の中核となる大規模JAが形成された。各JAの特徴として、宮崎中央と西都は園芸分野が強く、都城、こばやし、尾鈴は畜産分野が強い傾向にあった。
 2)について、宮崎県は全国有数の畜産県で、県全体での広域的な生産基盤づくりが進められ、JA宮崎経済連がその中心的な担い手となってきた。平成22(2010)年における口蹄疫の危機を経て、宮崎県、JA、株式会社ミヤチク、生産者が一体となり、生産基盤の再構築が図られたが、この過程においてもJA宮崎経済連が主導的な役割を果たした。
 3)について、宮崎県は農業分野全体においても、園芸作物などの大産地であり、広域化のメリットを享受している。こうした広域化においても、JA宮崎経済連が大きな役割を果たしていた。
 中心となるJAを軸にした存続合併は、統合コストを低く抑えることができ、実務面でも合理的な方式であったと言える。宮崎県では、組織再編を段階的に進めており、現在は「ステージ2」に位置付けられている。令和7(2025)年3月1日には、県連合会(宮崎県農業協同組合中央会・宮崎県信用農業協同組合連合会・宮崎県経済農業協同組合連合会)および畜連(西諸県郡市畜産販売農業協同組合連合会、児湯郡市畜産農業協同組合連合会、東臼杵郡市畜産農業協同組合連合会)がJAに統合され、県域組織の一体化が進んだ。
 令和9(2027)年7月からは「ステージ3」への移行が予定されており、(1)組織機構、(2)JA運営、(3)経営管理、(4)事業、(5)人事管理―の5項目が主要な検討・整理事項となっている。
 なお、「ステージ1」は合併に至るまでの準備期間を指し、「ステージ2」は13JAを地区本部として機能・存続させた体制である。「ステージ3」では、複数の地区本部を広域本部へと再編・集約することが計画されている。
 


 
 JAみやざきの令和7年3月末時点の組合員数は、正組合員4万6346人、准組合員10万1167人、合計14万7513人となった。これは、表1に示した令和6年3月末の組合員数14万8441人から1年間で928人減少しており、組合員基盤の縮小が着実に進んでいることを示している。
 このように、JAの組織基盤である組合員数が減少する厳しい状況の下で、より柔軟かつ効率的に事業運営を行うための体制整備が求められている。現在、宮崎県のJA再編は「ステージ2」に位置付けられているが、今後は、現在の難局に対応し得る組織運営を実現するため、「ステージ3」に移行予定である。

3 宮崎県酪農の現状

(1)宮崎県の酪農

 宮崎県の令和5(2023)年における農業産出額は3720億円であり、そのうち畜産が2483億円と66.7%を占めている。全国的に見ても畜産の比重が高く、県農業の中心的部門である。畜産の内訳は、養鶏が41.2%、肉用牛が30.8%、養豚が24.2%、乳用牛が3.8%となっている(注1)
 また、令和6(2024)年2月1日時点の家畜飼養頭羽数を見ると、ブロイラーが全国2位、採卵鶏21位、肉用牛3位、豚3位、乳用牛11位であり(注2)、宮崎県が全国有数の畜産県であることが改めて確認できる。
 酪農については、農業産出額に占める割合は小さいものの、乳用牛の飼養頭数では全国上位に位置しており、県内畜産の重要な一部門を構成している。表2に示すように、令和7(2025)年の酪農家戸数は157戸、経産牛7818頭、育成牛2297頭であり、近年は戸数・飼養頭数ともに減少傾向が続いている。
 


 
 酪農家戸数の推移を見ると、宮崎県では令和3(2021)年の204戸から令和7(2025)年の157戸へと減少し、年率6.34%の縮小となっている。同期間における都府県全体の減少率(年率5.92%)と比較しても、宮崎県の減少幅は大きく、酪農経営の厳しさが際立っている。
 また、宮崎県の生乳は、九州生乳販売農業協同組合連合会を通じて出荷されており、その約半分が福岡方面へ向けられる。一方、県内向け出荷も約半分を占めており、その多くが都城市に立地する南日本酪農協同株式会社(デーリィ)の工場へ供給されている。こうした出荷構造から、宮崎県の酪農は、県内外双方に安定的な供給体制を持ちながらも、戸数減少が続く中で生産基盤の維持が重要な課題となっている。

(2)暖地酪農

 宮崎県では、夏季の暑熱により人工授精(Artificial Insemination:以下「AI」という)の受胎率が著しく低下し、その結果として分娩間隔が長期化する傾向が見られる。一般社団法人家畜改良事業団の牛群検定成績(2024年)によれば、平均分娩間隔は北海道422日、都府県442日、全国428日であるのに対し、宮崎県は460日と突出して長い(注3)。この数値は、暖地特有の暑熱ストレスが繁殖成績に強く影響を与えている結果の一つであると考えられる。
 周知のように、乳牛の泌乳曲線は分娩後50〜60日でピークに達し、その後は緩やかに減少する。従って、分娩間隔が長くなるほど、乳量が低下するステージが相対的に長くなり、経営上の不利が大きくなる。このため、暖地酪農では暑熱対策が極めて重要となる。
 こうした状況を踏まえ、JAみやざき本店 酪農飼料部・酪農課(以下「JAみやざき」とする)では、夏季に受精卵移植(Embryo Transfer:以下「ET」という)の活用を酪農家に推奨している。AIでは卵子や初期胚が暑熱の影響を受けやすいのに対し、ETは暑熱に弱いステージを回避できるという利点がある。
 一方、飼料作に関しては、暖地で降雪が少ないという条件を活かし、トウモロコシ(夏作)とイタリアンライグラス(冬作)の二毛作が可能である。また、水田では稲WCS(ホールクロップサイレージ)と冬作イタリアンライグラスの組み合わせも実施できる。このような土地利用型酪農は、家畜排せつ物の有効利用、自給飼料の確保、資源循環の促進、さらにはコスト削減に寄与する。
 なお、JAみやざきへのヒアリング調査によれば、宮崎県の飼料作に関しては一部地域連携も進んでいるが、自己完結型が多いとのことであった。

(3)酪農の担い手

 JAみやざきが実施した酪農家向けアンケート調査によれば、経営主の平均年齢は57.2歳、後継者が存在する割合は33%にとどまり、新規就農は少なく、第三者継承も限定的であることが明らかとなった。前述のように、宮崎県の酪農家戸数の減少率が都府県平均より大きい背景には、既存経営主の廃業が多い一方で、新規参入が極めて少ないという構造的要因がある。その結果として、経営主の平均年齢が高止まりしている状況が確認できる。
 なお、一般社団法人中央酪農会議が実施した「令和5年度酪農全国基礎調査結果報告書」では、全国・北海道・都府県の経営主の年齢構成が示されており、宮崎県の状況も都府県の分布に近いと推測される。
 

 
 北海道では60歳代以上の経営主が27.9%であるのに対し、都府県ではその割合が53.5%に達している。同報告書で宮崎県の詳細データはないものの、都府県の分布と同様の傾向にあると推測され、経営主の高齢化が深刻な課題となっている。
 宮崎県では、関係団体と県が連携して新規就農者向けの酪農研修制度などを整備し、担い手育成に取り組んでいる。また、県内には五つの酪農ヘルパー組合が存在し、既存酪農家の労働負担軽減に大きく寄与している。今後は、酪農ヘルパー経験者が酪農家として新規参入する可能性も期待される。
 しかし、一方で、前述のように酪農家戸数が減少し続けていることは、ヘルパー組合の事業維持にとって大きな課題となっている。担い手不足と経営体の減少が同時進行する中で、地域の酪農支援体制をいかに持続させるかが、今後の重要な検討課題である。

4 川野牧場の経営概況

(1)労働力

 本稿で取り上げる川野牧場は、JR都城駅から南南東へ約4キロメートルの水田地帯に位置している。経営の中心を担うのは40歳代半ばの川野大輔氏である(写真1)。調査時点(令和8年3月24日)における基幹労働力は大輔氏の両親と妻の男性2人、女性2人の計4人であり、いわゆる二世代による家族労働力を基盤とした酪農経営が行われている。
 

 
 川野牧場は個人経営であり、経営主は大輔氏の父親である。これは、融資を受ける際に経営実績が求められるためであり、経営承継は大輔氏が実績を積んだ上で段階的に進められる予定である。
 家族労働力に加え、飼料作の繁忙期には、近隣に住む50歳代後半の男性をパートタイム労働者として雇用している。川野牧場では、牧草やトウモロコシの二期作を行っており、こうした外部労働力の活用が作業体制を支えている。
 酪農ヘルパーは1カ月に3回利用しており、1回当たり2〜3人のヘルパーが訪問する。利用料金は1回当たり5〜6万円で、利用に当たっては前月15日までの予約が必要である。また、ヘルパー組合の運営および制度の都合上、月1回の利用が義務付けられている。
 川野牧場が利用しているヘルパー組合は「都城地域酪農ヘルパー利用組合」であり、酪農家自身が組織する法人格を持たない協同組織である。

(2)規模拡大

 川野牧場は、令和2(2020)年に畜産クラスター事業を活用してパイプミルカー用の乳量計付き自動離脱装置(MMD500)を導入した、つなぎ飼い牛舎を新築している。調査時点での経産牛飼養頭数89頭(うち搾乳牛72頭、乾乳牛17頭)、育成牛32頭となっている(写真2〜4)。規模拡大以前は、経産牛飼養頭数が約50頭規模であった。
 経産牛は、基本的には自家で育成している。唯一の外部導入は、令和2(2020)年の規模拡大の際に北海道から初妊牛20頭を導入したことであった。当時は、初妊牛の価格が高い時期で、経営に対する負担は大きかったものと推測される。
 





 
  図は、初妊牛の価格の推移について見たもので、赤の実線がそれである。この図は、平成30(2018)年4月から令和8(2026)年4月までのホクレン農業協同組合連合会のデータをグラフ化したものである。令和2(2020)年ごろは、価格が高かったことが分かる。長期的な推移を見ると、U字型の傾向を示している。平成30(2018)年4月には、1頭当たり98万2000円と100万円近い値であったが、令和6(2024)年6月には、図の中で底値の42万1000円にまで下がっている。また、初妊牛の価格(赤の実線、以下「現データ」という)は、1カ月ごとに大きく変動していることが分かる。季節変動を見るために、ここでは12カ月の移動平均を用いた。この移動平均のデータが青の破線である。例えば、平成31(2019)年3月の移動平均の値は、30(2018)年4月から31(2019)年3月までの12カ月分の現データの平均値である。これによって求めた青の破線(移動平均)は、季節変動を除去した値ということになる。見方としては、青の破線を上回る月は相対的に価格が高く、下回る月は価格が低いことを示すということになる。
 ここでは、季節変動を数量的に捉えるために、季節指数を計算する。なお、季節指数は下記の式で求める。
 季節指数=現データ÷移動平均
 季節指数を一覧にしたものが、表4である。なお、季節指数が1.0以上だと初妊牛の価格が高い月、同じく1.0未満だと価格が安い月ということになる(注4)
 
 

 
 以上のように、初妊牛を外部導入に依存した場合、価格高騰する時期になると、酪農経営にとってはコストの増加になる。また、表4の季節指数から、5〜11月にかけて価格が下がる傾向にあること、12〜4月にかけて価格が上がる傾向にあることが分かる。
 もともと、川野牧場は3戸の酪農団地のうちの1戸であった。2戸が廃業したので、その農地を購入している。それ故、牛舎の新築が可能だったのである。また、旧牛舎を乾乳牛、育成牛の飼養に活用している(写真5、6)。
 


 
 前述のように、省力化のためにMMD500を導入している。また、MMD500はマックスフィーダー(自動給飼機)とデータ連携している。連携の仕組みは、下記の通りである。
 (1)MMD500が搾乳時に、乳量・乳温・電気伝導度を計測、(2)計測したデータを飼養管理ソフト VMAP-3に送信、(3)VMAP-3が個体ごとの給飼量を算出、(4)マックスフィーダーへ自動送信、(5)マックスフィーダーが設定時刻に乳量連動給飼を実施―このようなハード面を構築するに当たって、大輔氏は、都城市内の2〜3戸の酪農家を参考にしている。
 さらに、交雑種(F1)や和牛の子牛を20頭飼養している。1カ月に4〜5頭を目安に、2〜3カ月齢で都城地域家畜市場に出荷している。
 和子牛の場合、福岡県にあるJA全農ET研究所(九州分場)に外部委託し、和牛凍結卵(黒毛和種)を1個当たり4〜5万円で移植している。なお、和牛凍結卵の品種系統はET研究所に一任し、1カ月に2〜3頭、移植をしている。

(3)飼料作の状況

 令和7年産の飼料作物の作付け状況は、次の通りである。トウモロコシは二期作を行い、作付面積は16ヘクタール(ha)(うち借地7ha)、イタリアンライグラスは13ha(同6ha)、稲WCSは2〜3haである。稲WCSについては、近隣の稲作農家との耕畜連携により、水はけの良好な圃場ほじょう12〜13枚に作付けしている。牧場からおおむね1キロメートルの範囲内に集約されており、極めて作業効率が良い。
 なお、小作料は、10アール(a)当たり1万2000円であり、農地法第3条許可に基づく賃貸借契約の形態である。
 生草収量は、トウモロコシで10a当たり6〜7トンである。イタリアンライグラスおよび稲WCSはロールの個数になるが、イタリアンライグラスは10a当たり2〜3個、稲WCSは同2個である。なお、ロール1個当たりの重量は500〜600キログラム(kg)である。
 輸入乾草については、経産牛に1日1頭当たりルーサンを2kg、スーダンを0.5〜1kg給与している。
 粗飼料自給率は60〜70%と高水準にあり、高い粗飼料自給率によって、圃場内での堆肥処理が完結できている。新設された搾乳牛舎ではスラリー方式を採用し、地下貯留槽に一時貯留した後、バキュームカーにより圃場へ散布している。なお、臭気対策のために曝気処理を行っている。一方、旧牛舎では、従来通り堆肥化し、マニュアスプレッダーにより圃場に還元している。
 このような飼料生産体系の下、川野牧場の飼料作付延べ面積は合計47haとなる。
 経産牛は89頭であり、1頭当たりの飼料作付面積は0.53haとなっている。
 一般社団法人中央酪農会議の「令和5年度酪農全国基礎調査結果報告書」によると、経産牛飼養頭数75頭以上100頭未満階層の飼料作付面積の分布は表5の通りである。
 
 

 
 表5から川野牧場は、都府県の同規模の酪農家と比較して経産牛1頭当たりの飼料作物の作付面積が大きい経営であることが分かる。
 川野牧場では、飼料作に係る作業機械を自己で所有している(写真7)。なお、トラクターについては長年使用しているものの、適宜修理を行いながら使用できている。ただし、稲WCSについては、近隣の稲作農家との役割分担の下、田植えは稲作農家が行い、収穫・調製は川野牧場が行っている。

(4)敷料の調達

 川野牧場では、これまで木工団地から発生する鉋屑かんなくずを敷料として利用していたが、近年はバイオ資源として利用されるようになったことから、その代替として、ライスセンターから発生する籾殻もみがらを無料で譲り受け、20ha超の規模の稲作農家から車両(ダンプ)を借りて自ら運搬している。
 また、乾燥剤・環境衛生資材として、雪印種苗株式会社の「雪印エスカリウ(ESCALIU)」を新設牛舎の牛床に散布している。エスカリウは、ケイ酸カルシウム水和物を主成分とする多孔質の白色粉粒体であり、1)乾燥、2)消臭、3)静菌、4)滑り止め、5)堆肥発酵促進−などの効果を有する。これにより、畜舎内の衛生環境が大幅に改善され、乳房炎の発生や転倒事故のリスク低減に寄与している。

5 川野牧場の酪農の技術と経営管理

(1)牛群検定から

 令和8(2026)年2月23日の牛群検定成績表を基に、305日乳量について見ていく。305日乳量とは、分娩から数えて305日間に搾乳された乳量の累計を指す。搾乳日数305日を超えた牛については、実測値としての305日乳量を用い、305日に達していない牛については、期待乳量による補正をすることになる。この目的は、個体間の泌乳成績を公平に比較するための指標であり、国際的にも標準的に用いられている(注5)
 なお、泌乳曲線は、分娩後50〜60日ごろにかけて乳量が急増し、ピークに達する。その後、乳量は緩やかに減少していく。
 表6から、乳量は1産、2産、3産と順を追うごとに増加していることが確認できる。一般に、初産牛は乳腺組織の発達が不十分であるため乳量が低く、産次の進行に伴い乳腺が発達し、乳量は増加する。乳量は通常3〜5産でピークに達し、6産以降は徐々に減少することが知られている。
 
 

 
 川野牧場の平均305日乳量は9560kgであり、宮崎県平均の8900kg(令和6年)を660kg上回っている。また、宮崎県内の検定農家135戸のうち、50頭規模以上層の平均乳量9272kgと比較してもこれを上回っており、高い生産性を維持していることが分かる。
 川野牧場の乳成分について見ると、平均乳脂率は4.00%、たんぱく質率は3.32%、無脂固形分率は8.73%であった。これらを宮崎県全体の平均値(乳脂率4.00%、たんぱく質率3.42%、無脂固形分率8.79%)と比較すると、川野牧場の成分値はおおむね県平均と同水準にあることが分かる。また、県内の50頭規模以上の検定農家の平均値(乳脂率3.99%、たんぱく質率3.44%、無脂固形分率8.83%)と比較しても、ほぼ同等の水準にあり、成分面においても安定した生産性が確保されていると評価できる(注6)
 川野牧場の分娩間隔は468日であり、宮崎県平均の460日と比べて8日長い。産次数別に見ると、2産が404日、3産が435日、4産以上では517日となっており、産次の進行に伴い分娩間隔が延びる傾向が見られる。既述の通り、乳牛の泌乳曲線は分娩後50〜60日ごろにピークに達し、その後は緩やかに減少するため、分娩間隔が長くなるほど乳量が少ない期間の割合が増え、経営上の不利が生じやすい。
 一方で、川野牧場の平均305日乳量は、宮崎県平均および50頭規模以上層の平均を上回っていることから、分娩間隔の長期化が必ずしも経営に大きなマイナスとして表れていない点は注目される。
 ただし、分娩間隔の短縮が図られれば、泌乳ピーク期の割合を高めることが可能となり、さらなる生産性向上が期待できる。このため、分娩間隔の改善は今後の重要な経営戦略の一つと位置付けられる。

(2)労働時間と飼養管理のポイント

 前述の通り、川野牧場は二世帯による家族労働力を基盤としている。大輔氏は、午前の搾乳を4時30分から10時まで行い、その後は飼料作業に従事している。午後の搾乳は15時から20時までであり、1日の大半を作業に費やす長時間労働となっている。
 夫人は、育・育成作業を中心に担当しており、午前8時から10時、午後15時30分から18時30分まで作業を行っている。両親は補完的な労働力として、19時30分から20時まで搾乳作業を手伝っている。
 このように、川野牧場では、大輔氏の労働負担は大きいものの、MMD500の導入により、搾乳作業における肉体的負担は大幅に軽減されている。
 大輔氏は、搾乳作業の省力化によって生じた時間を、日々の牛の観察に充てている。特に、乳牛の状態を自らの目で確認する時間の確保を重視しており、これが疾病予防の基盤となっている。具体的には、ふん尿の状態を丁寧に観察し、異常の早期発見に努めている。
 また、分娩前後に発生しやすい低カルシウム血症(乳熱)への対策として、獣医師に依頼し、カルシウム点滴を実施している。カルシウムは筋肉や神経機能、代謝に不可欠であり、不足すると1)起立不能、2)食滞、3)反芻はんすう停止、4)ケトーシス−などの疾病リスクが高まることから、重要な管理項目となっている。
 さらに、宮崎県の酪農において重要な暑熱対策について、川野牧場ではハード面の整備として扇風機や細霧装置を導入している。加えて、牧場の西側に広がる水田が風の通りを良くし、天然のクーラーとして機能している点は特筆される(写真8、9)。これらは、牛舎環境の改善に寄与し、暑熱ストレスの軽減に大きな効果をもたらしている。
 経産牛の追求目標は、乳量よりも、長命連産および健康の維持を重視した管理を上位に上げている。
 



 
 

(3)データの活用、支援機関との連携

 乳用牛に関する技術情報については、前述の通り牛群検定を積極的に活用している。また、粗飼料自給率が高いことから、JAみやざきに飼料分析を依頼し、その結果を飼料設計に反映させている。
 経営データの管理については、母親が手書きで簿記記帳を行い、JAの青色申告会に参加している。決算結果は家族間で共有されており、経営状況を把握しながら意思決定に活かしている。さらに、家計支出の管理も母親が担っており、家計と経営の両面で重要な役割を果たしている。
 大輔氏は、日本酪農青年研究連盟(酪青研)に加入しており、会員同士の情報交換を通じて最新の技術や経営情報を得られる点が大きなメリットとなっている。
 また、宮崎県ではホルスタイン(乳牛)の共進会が都城地域家畜市場で開催されており、川野牧場も積極的に参加している。都城市内の多くの酪農家が出品・来場する中で、現場での交流や情報交換が活発に行われている。
 支援体制としては、JAみやざきのスタッフが定期的に酪農家を巡回している点が挙げられる。現場の状況を迅速に把握し、課題を整理した上で、関係者と酪農家が一体となって解決策を検討する体制が構築されている。こうした継続的な支援とコミュニケーションの積み重ねが、酪農経営の持続性を高める基盤となっている。

6 おわりに

 本稿では、近年の厳しい経営環境の下にある宮崎県酪農の現状を整理し、とりわけ都城市の川野牧場を事例として、暖地酪農が抱える構造的課題とその克服に向けた経営戦略を明らかにした。
 宮崎県の酪農家戸数は、令和3(2021)年の204戸から令和7(2025)年には157戸へと年率6.34%のペースで減少しており、都府県平均(年率5.92%)を上回る厳しい状況にある。また、乳用牛の分娩間隔は460日と全国平均(428日)より長く、夏季の暑熱が受胎率を低下させるという暖地特有の課題が顕在化している。
 一方で、暖地酪農には降雪が少なく、トウモロコシとイタリアンライグラスの二毛作が可能であるという利点がある。川野牧場は、この地域特性を最大限に活かし、計47haの飼料作付延べ面積を確保している。経産牛89頭に対して1頭当たり0.53haの作付面積は、都府県の同規模層と比較しても極めて大きく、粗飼料自給率60〜70%という高い水準を実現している。このような自給飼料基盤は、堆肥の循環利用および飼料費の低減といったコスト削減に大きく寄与している。
 生乳生産においても、川野牧場は高い成果を上げている。305日乳量は平均9560kgで、宮崎県平均(8900kg)を660kg上回り、50頭以上層の平均(9272kg)をも上回る。分娩間隔は468日と県平均より長いものの、乳量の高さがその不利を補っている点は注目される。さらに、乳脂率4.00%、たんぱく質率3.32%、無脂固形分率8.73%と、成分面でも県平均と同等の水準を維持している。
 経営管理面では、MMD500とマックスフィーダーを連動させた省力化を進めつつ、日々の観察を重視する姿勢が特徴的である。大輔氏は早朝からの長時間労働の中でも、ふん尿観察や分娩前後のカルシウムなど、きめ細かな管理を徹底している。また、扇風機・細霧装置に加え、水田による自然風の活用は、暖地酪農における暑熱対策として極めて有効である。
 さらに、JAみやざきによる飼料分析や牛群検定の活用、酪青研での情報交換、ヘルパー組合の利用など、外部支援機関との連携も経営の安定化に寄与している。特に、月3回のヘルパー利用は、家族労働力を基盤とする経営において重要な役割を果たしている。
 以上のように、川野牧場の事例は、暖地酪農が抱える制約条件を踏まえつつ、地域資源の有効活用と技術・経営両面での工夫により、それを克服している点に特徴がある。今後、人口減少や担い手不足が進む中で、宮崎県酪農の持続性を確保するためには、このような取り組みを地域全体で共有・展開するとともに、支援体制のさらなる充実を図ることが不可欠である。暖地酪農の特性に即した技術導入と経営改善の積み重ねこそが、今後の酪農振興に向けた重要な方向性となる。
 
謝辞
 本稿をまとめるに当たって、川野牧場の川野大輔様、JAみやざき本店酪農飼料部・酪農課の課長 加藤喜博 様、課長補佐 内田好祐 様、主幹 川添翔哉 様、日高里保 様から懇切なご指導を賜りました。ここに深甚なる謝意を表します。
 
脚注
(注1) 『宮崎の畜産2025』宮崎県農政水産部畜産局のデータを用いる。
(注2) 同上のデータを用いる。
(注3) 一般社団法人 家畜改良事業団のウェブサイトを参照
「牛群検定・個体識別」>「乳牛最新情報」>「乳用牛群能力検定成績のまとめ」から2024年を選択
(注4) 横溝 功・伊東祐孝・土肥宏志(2025)「刈谷市畜産クラスター協議会」『畜産クラスター 令和6年度優良事例報告書』公益社団法人 中央畜産会、pp.36-37を引用
(注5) 相原光男(2025)「新しい牛群検定成績表について(その94)」『LIAJ NEWS』一般社団法人 家畜改良事業団、No.212、pp.18-20を引用。
(注6) 家畜改良事業団「乳用牛群能力検定成績のまとめ」(2024)の宮崎県における「飼養規模別検定成績(1頭あたり成績)立会検定+自家検定+自動搾乳」のデータを用いる。