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調査・報告 凝集技術 畜産の情報 2026年9月号

メガファームにおける廃用乳凝集処理技術に関する国内調査

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静岡県立農林環境専門職大学短期大学部 教授 川村 英輔
宇都宮大学農学部 准教授 菱沼 竜男

【要約】

 酪農の大規模化が進展することで、搾乳装置から発生する含生乳排水や出荷できない廃用乳などの発生量が増加し、汚水処理施設の処理性能に与える影響が大きくなっている。そこで、廃用乳、搾乳装置から発生する含生乳排水を対象とした凝集処理について、全国2カ所で調査を行った。調査した凝集処理装置は、1)経営者が自作し、薬剤などを作業者が手動で投入する自作型廃用乳凝集処理装置、2)メーカーが販売している対象汚水や薬剤の投入、凝集および凝集物の回収までを自動で行う廃用乳専用凝集処理装置―の2方式とした。どちらの方式においても、ろ液の生物化学的酸素要求量などの性状が、凝集前に比べ低減しており、その後の汚水処理施設への生物化学的酸素要求量や浮遊物質量の負荷が軽減されていることが確認された。

1 はじめに

 わが国の搾乳牛の飼養戸数および飼養頭数は年々減少しており、それに伴い生乳生産量も減少傾向にある。一方、1戸当たりの飼養頭数は年々増加しており、令和6年には1戸当たり110頭となった(農林水産省「畜産統計調査」)。昨今の酪農情勢では、経営の効率化を図るため、経営規模の拡大が進展している。5年における同調査によると、乳用牛の成牛飼養頭数が300頭以上の経営体は350戸あり、そのうち北海道に所在する経営体は218戸と6割を占めている。都府県における乳用牛の成牛飼養頭数が300頭以上の経営体は36府県と全国に点在しており、1戸当たりの平均成牛飼養頭数は北海道832頭に対し、都府県816頭と肉薄している。酪農経営を取り巻く環境を見ると、経営の安定化や高収入化を図る目的で規模拡大が進み、メガファームと称される年間1000トン(t)以上の生乳出荷をする酪農経営が出現している。
 このような経営体では、1経営体での搾乳牛頭数も多く、乳房炎などの疾病時に生産される生乳や初乳と呼ばれる分娩後約1週間の生乳などは出荷できず、廃棄しなくてはならない生乳(以下「廃用乳」という)が発生する。また、搾乳装置では、前搾りによって得られた生乳は廃棄される。このように、酪農経営においては出荷できない生乳を含む汚水(以下「含生乳排水」という)が発生し、これを搾乳装置専用の浄化槽に投入すると浄化処理が不全となる恐れがある。
 そこで、廃用乳に凝集剤を添加し、廃用乳や含生乳排水から凝集固形物を取り除くことで、搾乳装置専用浄化槽への生物化学的酸素要求量(BOD)負荷を軽減している2牧場について、廃用乳の凝集処理の現状を把握することを目的として調査を実施した。

2 調査研究の実施方法

 廃用乳の凝集処理を実施している2牧場について、牧場の概要、廃用乳の凝集処理、家畜排せつ物の処理について、経営者から聞き取り調査を行った。併せて、汚水処理施設の施工メーカーへの聞き取りと、浄化槽の規模積算数値、図面などから、汚水処理施設への廃用乳の負荷量を検討した。堆肥化処理施設については、規模積算を別途行い、現有施設規模との比較を実施した。
 凝集処理前の汚水、凝集処理後の凝集物を二重にしたガーゼでろ過し、そのろ液および凝集固形物の分析を行い、凝集処理の状況を調査した。液状物は、その後の汚水処理への影響を評価するため、水素イオン指数(pH)、BOD、化学的酸素要求量(COD)、浮遊物質量(SS)、総窒素(T−N)、総リン(T−P)、ノルマルヘキサン濃度を分析した。固形物については、堆肥化処理施設への影響を評価するため、水分、有機物および灰分(ミネラル)を分析した。

3 調査牧場の概要

 調査対象牧場は、西日本のA牧場、東日本のB牧場を選定した。調査を実施した令和7年9月現在の概要を以下に示す。

(1)西日本 酪農A牧場

飼養頭数:搾乳牛650頭(計画頭数800頭)令和7年9月調査時点
搾乳装置:ロボット型ロータリーパーラー40ポイント
従業員数:12人

ア 牧場の概要
 本牧場は、平成22年に廃業した牛舎を取得し、新規就農として酪農経営を開始した。当初は搾乳牛200頭の飼養からスタートし、26年には400頭とした。さらに、令和3〜4年には国の事業を活用して、フリーストール牛舎、家畜排せつ物処理施設、汚水処理施設の再整備を実施し、総飼養頭数800頭規模への拡大を図った。なお、7年9月の調査時点では、搾乳牛が650頭であったが、12月現在は計画頭数である搾乳牛800頭を飼養している。
 家畜排せつ物処理においては、フリーストール牛舎から発生するふん尿混合物に、汚水処理過程で得られる浄化処理水を加え、汚水処理施設へ排出している。また、ロータリーパーラーから発生する洗浄水および廃用乳も汚水処理施設に投入しており、廃用乳については凝集処理を経た後に処理される。汚水処理施設では、汚水槽に貯留された原水に薬品を注入することなく固液分離機で処理し、固形物と液分に分離する。得られた液分と曝気槽からの余剰汚泥は第一調整槽に貯留され、凝集剤を添加した後、汚泥脱水機により脱水ケーキと脱水ろ液に分離される。これらの固形物および脱水ケーキは堆肥化の対象とし、生成された堆肥は戻し堆肥として牛舎の敷料に再利用している。
 子牛などに使用するおがくずは、2社から購入しており、月2回の頻度で50立方メートル(m³)(週当たり20m³)を確保している。なお、自給飼料の生産は行っておらず、ホールクロップサイレージ(WCS)を含む購入飼料を給与している。

イ 凝集処理の概要
(自作型廃用乳凝集処理装置)
 廃用乳凝集処理装置は、容量1m³のステンレス製のタンクに、羽根が二段構造になっている撹拌かくはん機を組み合わせた簡素な構造で構成されている(写真1)。搾乳装置の排水は、マスから水中ポンプを介して待機場の排水溝へ移送されるが、配管を分岐することで、廃用乳を容易にタンクへ貯留できる仕組みとなっている。運用においては、出荷予定の搾乳牛の搾乳が終了し、分娩後約1週間の牛や乳房炎などの疾病治療中の牛の搾乳が開始されるタイミングでバルブ操作を行い、廃用乳が直接タンクに流入するよう作業者の手で切り替える。廃用乳の貯留が完了した後は、バルブを元に戻し、以降の洗浄水は通常通り排水溝へ流れるように制御される。調査日は、約800リットル(L)の廃用乳を凝集処理していた。
 
 
 
 凝集処理は、作業者が廃用乳の量に応じて3種類の薬剤(凝集剤である水質浄化剤α〈以下「α」という〉、ポリ塩化アルミニウム〈PAC〉、アニオンポリマー)を準備し、撹拌しながら順次添加することで行われる。処理量800Lに対する標準的な添加量は、αが500ミリリットル(mL)の計量カップ1杯分、PACが5Lバケツ1杯分、アニオンポリマーは少量である(図1、写真2)。凝集処理は約10分で完了し、処理後はタンク下部のバルブを開放して、凝集固形物とろ液を混合状態のまま排水溝へ流し込み、汚水槽へ移送する。この段階では固形物の分離は行わず、後段の汚水処理工程において、ふん尿混合物とともに固液分離機および汚泥脱水機で処理され、最終的に固形物として回収される(写真3)。
 
 





 
 
 凝集前の廃用乳のpHは3.9を示していたが、凝集処理後は3.6であった。
 凝集前の廃用乳の性状は、BOD、COD、SSが1L当たり1万〜2万ミリグラム(mg)台の濃度であったが、凝集処理後のろ液は、BODが同4200mg、CODが同8400mg、SSが同150mgまで減少していた(表1)。除去率は、CODが24%であったが、その他の項目は74%から99%と高い値となった。
 凝集処理により、後段の汚水処理施設への影響が緩和されていることが、明らかとなった。
 


 
 凝集処理装置のランニングコストは、薬剤の購入費用として、年間69万1152円が必要となる(表2)。1日の処理量を0.8tとすると、年間292tの処理量となり、含生乳排水1t当たりの薬剤代は2367円となった。
 なお、凝集反応に用いた撹拌機は、稼働時間が短く消費電力量が小さいため、ランニングコストに含めていない。
 

 

(2)東日本 乳肉複合B牧場

飼養頭数:搾乳牛500頭(計画頭数500頭)令和7年9月調査時点
搾乳装置:ロボット型ロータリーパーラー40ポイント
従業員数:60人(三つの農場合計)

ア 牧場の概要
 本牧場は、搾乳牛を飼養する二つの酪農農場(第1農場および第2農場)と肥育牛を飼養する肥育農場の計3農場で構成されている。本調査の対象は、酪農第2農場である。
 飼養頭数は、酪農第1農場に搾乳牛1000頭、酪農第2農場に同500頭、肥育農場に肥育牛1000頭を有している。飼料畑は総面積70〜80ヘクタール(ha)で、そのうち自己所有地は40haである。主に青刈りトウモロコシを栽培し、堆肥を散布して自給飼料生産を行っている。
 搾乳装置は、酪農第1農場ではロータリー型ミルキングパーラーを、酪農第2農場では40ポイントのロボット型ロータリーパーラーを導入している。搾乳装置の洗浄水は、両農場とも汚水処理施設で浄化処理されており、酪農第2農場では搾乳装置の待機場からの洗浄水および凝集処理後のろ液が処理対象となっている。
 廃用乳の処理は、酪農第1および第2農場ともに、酪農第1農場の堆肥化処理施設にて堆肥化処理を行っている。酪農第2農場では、搾乳装置の含生乳廃水は凝集処理を経て、ろ液は浄化処理、回収された固形物と畜舎から搬出されたふん尿混合物は肥育農場に搬出し堆肥化処理されている。堆肥化施設は、酪農第1農場にスクリュー型撹拌機を備えた堆肥化処理施設1棟、ハウス(36メートル〈m〉×50m×高さ0.5m)、堆肥舎1棟を有し、酪農第2農場および肥育農場にもそれぞれ堆肥舎1棟が設置されている。堆肥化物はふるいにかけて処理され、大型の木片は再利用される。
 生産された堆肥は、牛舎のベッド材として戻し堆肥を用い、通路には戻し堆肥とおがくずを敷き詰め、スクレーパーにより除ふんを行っている。また、堆肥は自給飼料畑への施用に加え、野菜農家を中心に2t車1台当たり3000円で販売している。資材面では、生の剪定せんてい枝を1台当たり40m³で2000〜3000円にて購入しており、月間使用量は未定である。おがくずは月間40m³を牛舎で使用し、単価は1m³当たり2000円である。

イ 凝集処理の概要
(廃用乳専用凝集処理装置)
 ロボット型ロータリーパーラーから発生する排水のうち、生乳が混入する前搾り乳と洗浄水(含生乳排水)、および廃用乳を処理対象とする専用の廃用乳凝集処理装置で凝集処理を行っている。調査時点では、1日3回の搾乳が行われており、搾乳牛499頭分の含生乳排水が、1日当たり約3m³排出していた。なお、疾病治療中の牛30頭分の廃用乳は別タンクに貯留され、肥育農場で堆肥化処理されていた。
 凝集処理装置は、原水槽、薬品A作液タンク、薬品A貯蔵タンク、薬品B溶解装置、凝集配管、回収かごから構成されている(写真4)。処理対象汚水は、バルククーラー内で10度以下に保冷されている。凝集配管は、混合配管、撹拌配管、曲成配管からなり、これらの内部で凝集対象液、薬液A、薬液Bを混合反応させることで凝集処理を行う(図2、写真5〜7)。処理液は自動送液され、回収かごへ排出される。
 










 
 処理条件としては、原水毎分25Lに対し、溶解率1.3%の薬品Aを毎分16L、薬品Bを1.23g添加している。回収かごには100メッシュのナイロン製ろ布が設置されており、凝集物はかごに投入される。凝集固形物はろ布内にとどまり、自重によりろ液が外部へ排出される(写真7)。排出されたろ液は、汚水処理施設へ送られる。ろ液の量は、凝集剤添加により原水の約1.5倍に相当する4.5m³となる。
 凝集後の固形物は、回収かご内で数時間から1日間放置された後、脱水固形物として堆肥舎へ搬出される。理論上の排出量は0.3m³であるが、実際には約0.5m³が得られている。回収かごとろ布は、使用後に作業者が高圧洗浄機により洗浄し、翌日の凝集物投入に備える。
 調査時の運転条件では、処理対象液を毎分25Lで凝集管に移送し、毎時1.5m³の処理能力で約3m³の液を2時間で処理していた(写真8)。装置の最大対応能力は毎分50Lであり、最大処理量は毎時3m³に達する。なお、処理対象物は最長で22時間貯留されることがあり、その間はバルククーラーにより冷却・撹拌を行い、品質保持と安定処理を図っている。
 



 
 凝集前の含生乳排水のpHは5.7を示していたが、凝集処理後は5.0であった。
 凝集前の含生乳排水の性状は、BOD、CODが1L当たり1万〜2万mg台の濃度であったが、凝集処理後のろ液は、BODが同3700mg、CODが同5000mg、SSが同45mgまで減少していた(表3)。除去率は、CODが62%であったが、その他の項目は84%から99%と高い値となり、特にSSは、高い除去率を示した。
 凝集処理により、後段の汚水処理施設への影響が緩和されていることが明らかとなった。
 



 
 凝集処理装置のランニングコストは、薬剤の購入費用として、年間284万3940円が必要となる(表4)。1日の処理量を3tとすると、年間1095tの処理量となり、含生乳排水1t当たりの薬剤代が2597円となった。
 


 
 次に凝集装置の消費電力量であるが、消費電力の大部分が処理対象物である含生乳排水の冷却のために消費されていた(表5)。含生乳排水1t当たりに換算すると55.3キロワット(kW)であった。東日本管内の低圧電力の料金単価25.57円(夏季27.14円)から電気料金を算出すると、1t当たりの電気代は1414円となった。
 廃用乳専用装置の処理対象物1t当たりのコストは、薬剤代2597円、電気代1414円を合算し、4011円となった。

4 おわりに

 本調査は、廃用乳、搾乳装置から発生する含生乳排水を対象とした凝集処理について全国2カ所で調査し、廃用乳の凝集処理について整理を行った。調査した凝集処理装置は、1)経営者が自作し、薬剤などを作業者が手動で投入する自作型廃用乳凝集処理装置、2)メーカーが販売している対象汚水や薬剤の投入、凝集および凝集物の回収までを自動で行う廃用乳専用凝集処理装置−の2方式とした(表6)。
 方式は異なるが、どちらの装置も廃用乳に適応可能な高分子凝集剤を用いて、凝集処理を行っていた。自作型廃用乳凝集処理装置は、凝集固形物の回収を行っていなかったが、後段の汚水処理工程において、ふん尿混合物と合わせて脱水機により脱水ケーキとして回収されていた。一方、廃用乳専用凝集処理装置は、凝集物回収ボックスで固形物を回収しており、後段の汚水処理施設へのBODやSS負荷を大きく低減していた。
 どちらの方式においても廃用乳、含生乳排水を凝集処理することで、ろ液のBODなどの性状が凝集前に比べて低減しており、後段に行われる汚水処理施設へのBODやSSの負荷が軽減されていることが確認された。また、廃用乳専用凝集装置は、凝集物を布製のろ布で回収するとともに、水分の低減が図られていた。これにより、堆肥化施設への水分の持ち込みが低減されていた。ランニングコストについては、廃用乳専用凝集装置の場合、処理対象汚水1t当たり、薬剤代として2597円、電気代1414円を合計し、4011円であった。
 


 
 本調査を実施するに当たり、調査にご協力いただいた牧場、搾乳施設・汚水処理施設施工業者および廃用乳専用凝集処理装置の開発者の方々に深く感謝する。