(1)生乳出荷量
2025年のEUの生乳出荷量は、1億4900万トン(前年比1.8%増)となった(図3)。生乳クオータ制度
(注1)廃止直前の14年(同4.5%増)には及ばないものの、25年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大以降で最大の増加率となった。
この背景には、堅調な生乳価格に加え、良好な天候による良質な牧草の確保、飼料品質の安定、一部加盟国(ドイツ、フランス、オランダ、ベルギー)におけるブルータング
(注2)の影響からの生産回復など、複数の要因がある。
26年1〜4月の生乳出荷量は、前年同期比4.3%増となり、多くの加盟国で増加した。一方で、下半期(7〜12月)は、中東情勢の影響によるエネルギー価格上昇に起因するインフレなど、不確実要素もあり、年間では前年比1.7%増とわずかな増加が予測されている。
(注1)生乳生産量の上限を加盟国ごとに割り当て、上限を超えた場合には一定額の課徴金を課すとともに、加盟国内の農家間での割当量の売買などを認めた生産割当制度。2015年3月末に廃止された。
(注2)反すう動物に、粘膜の充出血や潰瘍などを引き起こすウイルス性感染症。吸血昆虫のヌカカが媒介し、発生国では家畜や精子、受精卵の輸出制限が生じる。人への感染はなく、感染した家畜の肉や乳の摂取による健康問題は生じない。
経済協力開発機構(OECD)とFAOが公表した35年までの中長期的な世界食料需給見通し(以下「OECD/FAO需給見通し」という)によると、EUの35年の生乳生産量は、乳牛飼養頭数の減少と1頭当たり生乳生産量の伸びの鈍化により、23〜25年平均比0.1%増と、ほぼ横ばいで推移すると予測されている。なお、生乳生産には域内で地域差が見られ、今後は東欧の供給拡大が期待されているという。
(2)主要な乳製品の生産動向
生乳出荷量が増加した2025年は、主要な乳製品の生産量も増加した(表1)。中でもバターは、生乳出荷量や乳固形分の増加などに伴い、247万5000トン(前年比6.2%増)とかなりの程度増加した。これに伴い、脱脂粉乳も154万8000トン(同5.0%増)とやや増加した。一方、チーズ(同1.7%増)およびホエイ(同0.7%増)の増加率は、バターや脱脂粉乳には及ばなかった。
また、イタリアの調査機関CLALによると、25年のEUにおけるチーズ生産量は、生乳換算ベースで8537万7000トンとなり、同年の乳製品生産量の57.6%を占めた(図4)。同じく15年のチーズは7452万8000トン(同54.5%)であり、チーズ生産量およびチーズに仕向けられる生乳の割合は着実に増加している。
(3)主要な乳製品のEU域外輸出
前述の通り、EUはNZや米国と並ぶ世界有数の乳製品輸出地域である。中でもチーズは、EU域外に輸出される乳製品の最大品目であり、国際市場で取引される数量の約半分をEU産が占めており、米国農務省海外農業局(USDA/FAS)によると、2025年の輸出量(142万2000トン)はNZの3.3倍、米国の2.3倍に達する。また、チーズの生産時に副次的に生産されるホエイの輸出量は、欧州委員会の短期需給見通しによると、チーズ輸出量の増加に伴い、25年は前年比1.8%増の75万5000トンとなった(表2)。26年は世界的な需要拡大を背景に、76万8000トン(前年比1.7%増)の輸出が予測されている。
25年の主要な乳製品のEU域外向け輸出(表3)を見ると、英国向けチーズについては、アイルランド、フランスおよびデンマークの3カ国で輸出量の48%を、米国向けチーズでは、イタリアおよびフランスの2カ国で47%を占めている。
ホエイについては、中国向け輸出量の58%をポーランド、オランダおよびドイツの3カ国が占めた。脱脂粉乳については、アルジェリア向け輸出量の76%をポーランドおよびベルギーの2カ国が占めている。
また、バターについては、アイルランドが際立っており、米国向け輸出量は6万3000トンに達し、同国向けバター輸出量の92%を占めている。なお、域外向け輸出では、小売用バターが増加する一方、業務用のバルクバターは減少しており、EU産バターが域外市場でブランド品として評価されているとされる。
OECD/FAO需給見通しによると、EUの35年における乳製品輸出量は、23〜25年平均比でチーズが15.4%増、ホエイが16.2%増、バターが2.2%増および脱脂粉乳が4.2%増と予測される一方、全粉乳については同25.5%減と予測されている。
(4)主要な乳製品の価格動向
EUの乳製品価格は、2015年3月末の生乳クオータ制度廃止以降、変動幅が大きくなっている(図5)。
ワーヘニンゲン経済研究所およびアイルランド農業食品開発局(Teagasc)によると、制度廃止以降の市場原理に基づいた生乳生産がその背景にあるとしている。以前から世界的な乳製品需要は拡大しており、国際価格も上昇基調で推移していた。同制度が廃止されて以降は、EU乳業の国際競争力が高まり、乳製品輸出が拡大した一方、国際市場とEU市場との価格連動性も強まり、EU産価格の変動が大きくなった。
なお、25年下半期には、生産量の増加や国際競争力の低下などを背景に、バターやチーズの価格が大幅に下落した。一方、脱脂粉乳は、脱脂乳を乳たんぱく製品の生産に仕向ける米国からの供給減少などによりEUの国際競争力が高まり、価格が上昇した。なお、ホエイについては、たんぱく質含有量が80%以上のホエイたんぱく濃縮物(Whey Protein Concentrate:WPC)80や、脂質や乳糖を除去してたんぱく質含有量を90%以上に高めたホエイたんぱく分離物(Whey Protein Isolate:WPI)の生産にホエイが仕向けられていることなどを背景に、価格が上昇している。
OECD/FAO需給見通しによると、ホエイパウダーは、乳児用食品、高齢者向け食品などを中心に世界的に需要が高まっており、ホエイパウダーの輸出は中期的には増加すると予測されている。また、北米および欧州では、健康志向の高まりを背景に、ヨーグルトやカッテージチーズといった高たんぱく食品の需要も拡大しているという。
以降では、近年その価値が高まっているホエイおよび乳たんぱくに焦点を当てて見ていく。