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海外情報 EU 畜産の情報 2026年9月号

EUにおける酪農・乳業の需給動向 〜拡大する乳たんぱく製品需要に着目して〜

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調査情報部 渡辺 淳一、玉井 明雄

【要約】

 EUの生乳生産は、環境規制などを背景に、中長期的には横ばいで推移すると見込まれている。一方、健康志向の高まりなどを受け、ホエイを含む乳たんぱく製品の需要は世界的に拡大している。EUでは、生乳の量に限りがある中で、収益性の高いチーズや乳たんぱく製品へと優先的に仕向けられる傾向が強まっており、バター向けなどは相対的に減少するとも予測されている。こうしたEUにおける乳製品の需給動向の変化が、日本向け乳製品の供給や価格に与える影響について注視していく必要がある。

1 はじめに

 国連食糧農業機関(FAO)によると、2024年における世界の生乳生産量は9億5000万トン(前年比1.5%増、図1)となり、前年をわずかに上回った。インド(同3.9%増)やパキスタン(同3.3%増)などで増産が継続する一方、EUは1億5500万トン(同0.4%減)と前年をわずかに下回り、横ばい傾向が続いている。しかし、EUは世界の生乳生産量の16.3%を占めており、依然として世界最大級の生乳生産地域である。
 
 
 
 25年における世界の飲用乳を含む乳製品の輸出量(生乳換算数量)は、9121万7000トン(22〜24年平均比3.9%増)と推計され、生乳生産量のわずか9.1%にとどまる。また、輸出量の内訳は、EUが2514万3000トン(同2.7%増)、ニュージーランド(NZ)が2053万4000トン(同2.0%増)、米国が1310万1000トン(同0.4%増)であり、これら3地域で全体の65%を占める(図2)。このため、世界の乳製品需給は、こうした主要輸出地域の情勢に大きく左右される。
 

 
 本稿では、EUにおける乳製品の最近の需給動向を整理するとともに、世界的に需要が拡大している乳たんぱく製品に焦点を当て、その動向について報告する。
 なお、本文中の為替レートは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2026年7月末TTS相場の1ユーロ=186.62円を使用した。

2 現在のEUにおける酪農・乳業の需給動向

(1)生乳出荷量

 2025年のEUの生乳出荷量は、1億4900万トン(前年比1.8%増)となった(図3)。生乳クオータ制度(注1)廃止直前の14年(同4.5%増)には及ばないものの、25年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大以降で最大の増加率となった。


 
 この背景には、堅調な生乳価格に加え、良好な天候による良質な牧草の確保、飼料品質の安定、一部加盟国(ドイツ、フランス、オランダ、ベルギー)におけるブルータング(注2)の影響からの生産回復など、複数の要因がある。
26年1〜4月の生乳出荷量は、前年同期比4.3%増となり、多くの加盟国で増加した。一方で、下半期(7〜12月)は、中東情勢の影響によるエネルギー価格上昇に起因するインフレなど、不確実要素もあり、年間では前年比1.7%増とわずかな増加が予測されている。

(注1)生乳生産量の上限を加盟国ごとに割り当て、上限を超えた場合には一定額の課徴金を課すとともに、加盟国内の農家間での割当量の売買などを認めた生産割当制度。2015年3月末に廃止された。
(注2)反すう動物に、粘膜の充出血や
潰瘍かいようなどを引き起こすウイルス性感染症。吸血昆虫のヌカカが媒介し、発生国では家畜や精子、受精卵の輸出制限が生じる。人への感染はなく、感染した家畜の肉や乳の摂取による健康問題は生じない。
 
 経済協力開発機構(OECD)とFAOが公表した35年までの中長期的な世界食料需給見通し(以下「OECD/FAO需給見通し」という)によると、EUの35年の生乳生産量は、乳牛飼養頭数の減少と1頭当たり生乳生産量の伸びの鈍化により、23〜25年平均比0.1%増と、ほぼ横ばいで推移すると予測されている。なお、生乳生産には域内で地域差が見られ、今後は東欧の供給拡大が期待されているという。
 

(2)主要な乳製品の生産動向

 生乳出荷量が増加した2025年は、主要な乳製品の生産量も増加した(表1)。中でもバターは、生乳出荷量や乳固形分の増加などに伴い、247万5000トン(前年比6.2%増)とかなりの程度増加した。これに伴い、脱脂粉乳も154万8000トン(同5.0%増)とやや増加した。一方、チーズ(同1.7%増)およびホエイ(同0.7%増)の増加率は、バターや脱脂粉乳には及ばなかった。
 

 
 また、イタリアの調査機関CLALによると、25年のEUにおけるチーズ生産量は、生乳換算ベースで8537万7000トンとなり、同年の乳製品生産量の57.6%を占めた(図4)。同じく15年のチーズは7452万8000トン(同54.5%)であり、チーズ生産量およびチーズに仕向けられる生乳の割合は着実に増加している。
 

 

(3)主要な乳製品のEU域外輸出

 前述の通り、EUはNZや米国と並ぶ世界有数の乳製品輸出地域である。中でもチーズは、EU域外に輸出される乳製品の最大品目であり、国際市場で取引される数量の約半分をEU産が占めており、米国農務省海外農業局(USDA/FAS)によると、2025年の輸出量(142万2000トン)はNZの3.3倍、米国の2.3倍に達する。また、チーズの生産時に副次的に生産されるホエイの輸出量は、欧州委員会の短期需給見通しによると、チーズ輸出量の増加に伴い、25年は前年比1.8%増の75万5000トンとなった(表2)。26年は世界的な需要拡大を背景に、76万8000トン(前年比1.7%増)の輸出が予測されている。
 
 
 
 25年の主要な乳製品のEU域外向け輸出(表3)を見ると、英国向けチーズについては、アイルランド、フランスおよびデンマークの3カ国で輸出量の48%を、米国向けチーズでは、イタリアおよびフランスの2カ国で47%を占めている。
 ホエイについては、中国向け輸出量の58%をポーランド、オランダおよびドイツの3カ国が占めた。脱脂粉乳については、アルジェリア向け輸出量の76%をポーランドおよびベルギーの2カ国が占めている。
 また、バターについては、アイルランドが際立っており、米国向け輸出量は6万3000トンに達し、同国向けバター輸出量の92%を占めている。なお、域外向け輸出では、小売用バターが増加する一方、業務用のバルクバターは減少しており、EU産バターが域外市場でブランド品として評価されているとされる。
 

 
 OECD/FAO需給見通しによると、EUの35年における乳製品輸出量は、23〜25年平均比でチーズが15.4%増、ホエイが16.2%増、バターが2.2%増および脱脂粉乳が4.2%増と予測される一方、全粉乳については同25.5%減と予測されている。
 

(4)主要な乳製品の価格動向

 EUの乳製品価格は、2015年3月末の生乳クオータ制度廃止以降、変動幅が大きくなっている(図5)。
 ワーヘニンゲン経済研究所およびアイルランド農業食品開発局(Teagasc)によると、制度廃止以降の市場原理に基づいた生乳生産がその背景にあるとしている。以前から世界的な乳製品需要は拡大しており、国際価格も上昇基調で推移していた。同制度が廃止されて以降は、EU乳業の国際競争力が高まり、乳製品輸出が拡大した一方、国際市場とEU市場との価格連動性も強まり、EU産価格の変動が大きくなった。
 なお、25年下半期には、生産量の増加や国際競争力の低下などを背景に、バターやチーズの価格が大幅に下落した。一方、脱脂粉乳は、脱脂乳を乳たんぱく製品の生産に仕向ける米国からの供給減少などによりEUの国際競争力が高まり、価格が上昇した。なお、ホエイについては、たんぱく質含有量が80%以上のホエイたんぱく濃縮物(Whey Protein Concentrate:WPC)80や、脂質や乳糖を除去してたんぱく質含有量を90%以上に高めたホエイたんぱく分離物(Whey Protein Isolate:WPI)の生産にホエイが仕向けられていることなどを背景に、価格が上昇している。
 
 
 
 OECD/FAO需給見通しによると、ホエイパウダーは、乳児用食品、高齢者向け食品などを中心に世界的に需要が高まっており、ホエイパウダーの輸出は中期的には増加すると予測されている。また、北米および欧州では、健康志向の高まりを背景に、ヨーグルトやカッテージチーズといった高たんぱく食品の需要も拡大しているという。
 以降では、近年その価値が高まっているホエイおよび乳たんぱくに焦点を当てて見ていく。

コラム1 ホエイたんぱく質とは

 ホエイたんぱく質は、ホエイ(乳清)に含まれるたんぱく質成分で、カゼインとともに乳中のたんぱく質を構成する。乳中のたんぱく質は、カゼインが約80%、ホエイたんぱく質が約20%を占める。また、ホエイたんぱく質は、必須アミノ酸を豊富に含み、溶解性にも優れていることから、育児用調製粉乳や小児向け食品に加え、高齢者向け食品や医療栄養用途まで、幅広い年齢層の食生活に利用されている。
 欧州ホエイ加工業者協会(EWPA)によると、ホエイ(乳清)の健康価値は古代ギリシャから認識されており、「Food Research International」では、ヒポクラテスがすでにホエイの健康効果を評価していたとされる。さらに、ヒポクラテスは、免疫力や体力の向上、筋肉の成長促進のためにホエイの摂取を勧めていたとされる。その栄養価や健康増進効果は、16世紀ころのヨーロッパにおいて、ホエイを与えた豚の成長が早いことに養豚農家が気付いたことで再認識された。
 ホエイは、FAOが提唱する消化性必須アミノ酸スコア(DIAAS)においても、鶏肉や卵と同等の評価を受けている(コラム1−図)。
 

 
 ホエイが注目される背景には、ライフステージに応じて必要とされるたんぱく質量が異なり、たんぱく質摂取の重要性が再認識されていることもある。欧州食品安全機関(EFSA)は、たんぱく質について推奨摂取量を設定しており、乳幼児の身体発達期に加え、妊娠中や授乳期の女性、筋力トレーニングを行う成人、加齢によって筋肉量が減少する高齢者に対しては、より多くのたんぱく質摂取を推奨している(コラム1−表)。なお、総筋肉量は30歳以降、10年ごとに最大3〜8%ずつ減少するとされ、この割合は60歳以降さらに高くなる。
 

 
 加齢に加え、座位中心の生活習慣によって、筋肉量などの低下を特徴とする「サルコペニア」が高齢化社会において問題となる中、良質なたんぱく質を十分に摂取するとともに筋力トレーニングを組み合わせることが、サルコペニアを予防し、加齢や運動不足による影響を軽減する効果的な方法とされている。

3 ホエイおよび乳たんぱく製品の輸出の動向

(1)ホエイおよび調製ホエイ(関税分類番号0404.10)

 2025年のEUの域外向けホエイ輸出量は、76万3000トン(前年比2.5%増)となった(図6、表4)。輸出先は、中国向けが約3割を占め最大となり、東南アジア向けと合わせると、輸出量全体の6割超を占める。OECD/FAO需給見通しによると、中国におけるホエイの主な用途は家畜飼料とされる。
 フランスなど主要な輸出国は、中国を主要市場とすることに加え、東南アジア向けの比重が高い。なお、日本向けには2万7000トンが輸出されており、ドイツおよびポーランドからの輸出が多い。
 輸出単価は、22年の1キログラム当たり1.88ユーロ(同351円)をピークに、近年は1.5ユーロ(同280円)台で推移している。
 なお、EWPAによると、欧州域内で消費されるスイートホエイ(注3)の少なくとも3分の2は家畜飼料向けとされている。

(注3)主にレンネット(凝乳酵素)を用いて生産するゴーダやチェダーなどのチーズの副産物として生じるホエイであり、カッテージチーズなどの酸凝固チーズから生じるアシッドホエイと区別される。
 
 


 

(2)WPC80およびWPI

 WPC80およびWPIの輸出は、米国とEUが国際市場を主導している(図7)。特に米国は、近年輸出量を拡大しており、2025年には9万トンを超えた。一方、EUは10年以降増加基調で推移したが、20年以降は5万トン台で推移している(図8)。
 輸出先は、中国および英国が最大となっているが、中国向けは20年をピークに横ばいで推移している。一方、近年はインド向けが拡大傾向にある。
 輸出単価も、21年以降おおむね上昇基調で推移している。25年には過去最高となる1キログラム当たり12.6ユーロ(同2351円)となり、WPC80およびWPIに対する国際需要の強さがうかがえる。
 輸出国別に見ると、ドイツ、オランダおよびポーランドの3カ国で全体の約8割を占める(表5)。ドイツは中国向けの主要輸出国であり、オランダは英国向け、ポーランドはインド向けの主要輸出国となっている。なお、日本向けではドイツが最大の供給国である。
 





 
 

(3)乳たんぱく濃縮物など

 脱脂乳を濃縮してたんぱく質含有量を85%以上とした乳たんぱく濃縮物(MPC85)および同じく含有量を90%以上に高めた乳たんぱく分離物(MPI)関連製品の輸出も、EUと米国が主要な供給地域となっている(図9)。
 25年の輸出量は、EUが8万9000トン、米国が7万トンとなった。近年はカナダが3万4000トン(前年比31.4%増)および豪州が2万8000トン(同53.1%増)と両国の輸出拡大も目立っているが、輸出規模としては、依然としてEUおよび米国が大半を占めており、世界の高乳たんぱく製品市場をけん引している。
 
 

 
 EUのMPC85およびMPI関連製品の域外輸出は、2010年以降増加基調で推移し、19年には10万トンを超えた(図10)。その後は減少したが、近年は9万トン前後で推移している。輸出先別では米国および英国が主要市場であるほか、中国、日本および韓国向けも増加傾向にある。
 輸出単価は近年大きく上昇している。22年以降は1キログラム当たり10ユーロ(同1866円)前後で推移しており、WPC80およびWPIと同様、国際需要の強さがうかがえる。
 
 
 
 MPC85およびMPI関連製品の25年における域外輸出は、デンマーク、フランスおよびスペインの3カ国で全体の約5割を占めた(表6)。WPC80およびWPIと比較すると、輸出が複数の加盟国に分散していることが特徴である。
 また、米国向けはデンマークおよびベルギー、英国向けはフランス、オランダ、日本向けではデンマークが主要な輸出国となっている。

4 ドイツの酪農乳業と乳たんぱく需要

(1)ドイツの酪農乳業

 ドイツはEU最大級の酪農・乳業国であり、日本向けWPC80およびWPIの供給国でもある。ドイツ乳業協会(MIV)によると、年間3390万トンの生乳が生産され、製造された乳製品はEU域内外へ広く輸出されている(図11、12)。生乳の約半分はチーズに仕向けられ、ホエイについても主要な供給国であるほか、販売先は国内市場向けと輸出市場向けでおおむね半々となっている。アジア向け乳製品輸出額は11億ユーロ(2052億8200万円)に達しており、そのうち42%が中国向けとなっている。
 


 

(2)ホエイたんぱく製品等の需給

 ドイツ連邦農業・食品機関(BLE)によると、2025年のホエイたんぱく製品の生産量は4万3300トン(前年比4.3%増)、輸出量は4万7600トン(同9.5%増)となった(表7)。一方、国内供給量は2万1700トン(同0.7%減)とわずかに減少した。自給率は200%となっており、同製品の輸出国としての性格が強いことがうかがえる。
 同年の乳たんぱく製品の生産量は3万8000トン(同27.2%増)、国内供給量は4万2400トン(同33.5%増)となった。1人当たり消費量も0.51キログラム(同33.5%増)と増加し、国内需要が拡大している一方、自給率は90%となっており、ホエイたんぱく製品と比べると輸入への依存度が高い。
 このように、ドイツではホエイたんぱく製品および乳たんぱく製品の需給は拡大の傾向にあり、とりわけ乳たんぱく製品では国内供給量や1人当たり消費量の増加が見られる。
 
 
 

(3)広がる乳たんぱく需要

 ドイツ乳製品市場価格情報センター(ZMB)によると、欧州ではホエイたんぱくは当初、スポーツ選手による利用を中心に普及した後、ドリンク、パウダー、プロテインバーなど、多様な消費形態が広がり、その需要が拡大しているという。さらに、高齢者向け需要なども拡大しており、継続的な需要として定着しつつあるとみられている。
 実際に、ドイツの小売市場では、乳たんぱくの摂取を意識したさまざまな商品や消費形態が広がっている。MIVによると、カッテージチーズは既存の製品であるが、近年の高たんぱく需要を背景として再び注目を集めており、若年層から高齢層まで幅広い世代に浸透しているという(図13)。カッテージチーズ需要は世界的に増加しており、生産能力の強化を目的とした設備投資を進める乳業メーカーもあるとの報道も見られる。また、アイスランドの伝統的な乳製品であるスキール(Skyr)にエナジードリンクを加えて飲用する方法や、ギリシャヨーグルトなどにビスケットを組み合わせた「ジャパニーズチーズケーキ」と呼ばれる消費スタイルも広がっている。
 こうした事例は、乳たんぱく食品が、日常的な食品・飲料として浸透していることを示しており、乳たんぱく需要の裾野が拡大していることもうかがえる。なお、「ジャパニーズチーズケーキ」という名称は、日本のSNS(インターネット交流サイト)を起点として広がった消費スタイルであるためとされる。MIVはこのような消費動向について、SNSを通じた予測困難な需要であるものの、若年層のヘルシー志向を反映したものであり、乳製品の需要の拡大につながるものとして前向きに評価している。


コラム2 生乳取引価格と高付加価値製品

 ZMBおよびMIVによると、生乳取引価格(以下「乳価」という)は需給バランスに大きく左右されるため、特定の乳製品が乳価を直接支える単純な構造にはなっておらず、近年需要が高まる乳たんぱく製品についても、乳価を直接押し上げている要因とは一概に言えないとしている。
 乳価水準は乳業メーカーごとに異なり、各社の乳価決定方法や製品構成の違いが背景にある(コラム2−図)。
 オランダ最大の乳業である協同組合系のフリースランド・カンピーナ社およびデンマーク最大の乳業で酪農協同組合のアーラフーズ社は、国際市況などを指標として乳価を決定しており、乳価の変動は比較的大きい。一方、フランスの大手乳業ラクタリス社は、2024年以降、乳価の算定において生産コストの比重を高めており、乳価は比較的安定して推移している。また、フィンランドの乳業最大手で酪農協同組合系のヴァリオ社は、製品の販売実績や収益性を踏まえ乳価を決定しているが、同国の生乳生産コストが高いことから、その乳価は比較的高い水準で推移しているとみられる。同社は、国内で収益性の高い販売を行っている一方、売上高の2〜3割を占める輸出市場において、乳糖フリー製品(コラム2−注)や高たんぱく原料などの高付加価値製品へのシフトを進めることで、価格変動の影響を受けにくい事業構造を目指している。

(コラム2−注)乳糖を取り除くなどして乳糖含量を極めて低くした乳製品であり、乳糖不耐症者向けの商品として位置付けられている。

5 今後の見通し

(1)EU酪農の強みと弱み

 欧州乳製品輸出入・販売業者連合(Eucolait)によると、EUの生乳生産は、環境規制、後継者不足および気候変動などの影響から、増産の余地が限られ、中長期的に大幅な供給拡大は見込みにくいとされる。
 こうした中、Eucolaitは、EUは放牧主体のNZと比べ生乳生産の季節変動が小さく、年間を通じて供給が安定していることをEUの強みとしている。また、衛生面や品質に対する評価が高く、乳児用食品などの高品質市場において高い競争力を有していること、さらに、地理的表示やブランド力、長年にわたる取引関係が市場での信頼を支えていることも強みとして挙げている。
 一方、弱みとしては、環境規制などを背景とする生産コストの高さを挙げており、EUは、米国やNZと比較して価格競争力が低いとされている。また、EWPAによると、EU域内ではチーズおよびホエイ向けの投資が進む一方、WPC80、WPI、MPC85などの高付加価値製品では、生産能力の面で米国に遅れを取っているという。米国では、ここ数年での需要拡大以前からホエイ関連設備への投資が進められてきたことに対し、EUでも投資は進んでいるものの短期間での生産能力拡大は容易でないとしている。固定費回収のため既存製品の生産を維持する必要があることなどから、生産構成を短期間で大きく変更することは難しいとしている。
 

(2)今後の世界需要

 EWPAによると、収益性の高いチーズと、需要が拡大しているホエイを含む乳たんぱく(以下「乳たんぱく」という)が最も高い付加価値を生むため、生乳の仕向け先や投資は、両製品に集中しているとされる。その結果、バターや脱脂粉乳などは、相対的に生産が抑制される傾向にあるという。ただし、Eucolaitによると、過去にはバター不足が生じた時期もあり、高付加価値製品へのシフトは、各製品の需給状況を見極めながら調整されていくとみられる。
 今回訪問したEWPAやEucolaitなどでは、乳たんぱく需要の高まりは一過性の流行ではなく、若年層から高齢層までライフステージのすべてに関わる需要であるため、今後もこの傾向は継続するとの見方が示された。なお、こうした需要の拡大は、COVID-19の感染拡大を契機とした健康意識の高まりにも後押しされたという。また、米国でのGLP−1受容体作動薬(注4)関連需要の拡大も、乳たんぱく需要や同市場を押し上げている。米国では、こうした需要の増加に対して供給が追い付いておらず、その結果としてインドの需要の一部がEUへシフトする動きも見られるという。さらに、中国などのアジア市場の需要も堅調であり、東南アジアを含め今後さらなる需要拡大が見込まれている。一方、中国では生乳生産コストの低下が進み、近年は国際市場における価格競争力が高まっているとされ、将来的に乳製品の輸出国としての存在感が高まる可能性も指摘されている。このため、EUにとっては中国向け輸出戦略の見直しが課題となるとともに、東南アジア市場の重要性は今後さらに高まるとみられている。

(注4)インスリンの分泌を促進して血糖値を下げるとともに、満腹感を高めて食欲を抑制する2型糖尿病治療薬。肥満症治療にも使用され、食欲抑制により食事量が減少する中、筋肉量維持や栄養確保のため乳たんぱく食品への需要が高まっている。
 

(3)今後の日本向け輸出

 日本向け輸出について、Eucolaitは、日本は品質や安全性を重視する高付加価値市場であり、日EU経済連携協定(EPA)に基づく安定した取引関係も構築されていることから、供給が直ちに不安定化する可能性は低いとしている。しかし、中長期的に見ると、生乳の仕向け優先度が相対的に低いバターや脱脂粉乳について、供給が不安定化する局面も想定されるという。また、WPCやMPCなど付加価値の高い乳たんぱく製品では、世界的な需要拡大が供給を上回る状況が続いており、価格上昇や調達競争が発生している。こうした動向は、日本の輸入量や輸入価格にも影響を及ぼす可能性があるとしている。

6 おわりに

 EUの生乳生産は、環境規制や後継者不足などを背景に中長期的には横ばいで推移すると見込まれている。一方、健康志向の高まりなどを背景に、ホエイおよび乳たんぱく製品の需要は増加しており、生乳の量に限りがある中で、収益性の高いチーズおよびホエイに生乳が優先的に仕向けられる傾向が強まっている。今後は、こうした需給構造の変化が、日本向け乳製品の中でもバターや脱脂粉乳の供給量に与える影響に加え、高たんぱく製品に対する世界的な需要の増加が日本向けホエイの価格に及ぼす影響も注視していきたい。
 もっとも、現在の高たんぱく需要について多くの関係者が継続的な需要と捉えている一方、今後の動向については、引き続き見極めていく必要がある。