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話題 畜産の情報 2026年10月号

持続可能な養豚に向けた J-クレジット創出の取り組み 〜データの力で、飼料改善を生産者の収益に変える〜

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 株式会社Eco-Pork 沼澤 祐介

1 はじめにー豚と温室効果ガスの意外な関係ー

 地球温暖化対策というと、工場や自動車を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、実は畜産業も温室効果ガス(GHG)の排出源の一つです。国連食糧農業機関(FAO)の最新推計によれば、畜産は人為起源のGHG排出量の約12%を占めるとされています。飼料生産から小売りまでのライフサイクル全体で見ると、養豚によるGHG排出量は、国内だけで年間約405万t-CO2e(GHG排出量を二酸化炭素に換算した重量〈トン〉)に上ると当社は推計しています。
 中でも見過ごせないのが、豚の排せつ物の処理から発生する一酸化二窒素(N2O)です。N2Oは、同じ重量の二酸化炭素の265倍の温室効果(100年間の地球温暖化係数による算出値)を持つガスで、養豚のライフサイクルの中でも排せつ物管理は最大級の排出源となっています。
 この「排せつ物由来のN2O」を、豚に与えるエサの工夫で減らし、しかもその削減分を生産者の収益に変える。それが、当社の取り組む養豚業初のプログラム型J-クレジット創出プロジェクトです。

2 プロジェクトの概要 ーエサを変えると、なぜGHGが減るのかー

 J-クレジット制度は、GHGの排出削減量や吸収量を国が「クレジット」として認証する、日本政府運営の公的な制度です。認証されたクレジットは、脱炭素に取り組む企業などに売却でき、削減に取り組んだ生産者の収益となります。約80の「方法論」(削減方法のルール)のうち、私たちが取り組むのが「AG-001:家畜へのアミノ酸バランス改善飼料の給餌」です。
 仕組みはこうです。従来の飼料には、豚が必要とする量を超えたタンパク質(アミノ酸)が含まれているものもあり、使われなかった分は排せつ物中に窒素として排出され、堆肥化の過程でN?Oになります。そこで、アミノ酸のバランスを整えながら粗タンパク質(CP)の含有率を1〜3%抑えた「アミノ酸バランス改善飼料」を給与すると、排せつ物中の窒素が減り、N?Oの発生を抑えられます(図1)。先行研究では、適切に設計した場合、豚の発育や枝肉格付けへの悪影響はないことが報告されています。豚の健康を損なわず、生産成績を維持したまま、環境負荷だけを減らせる方法なのです。
 
 
 
 当社は2024年9月、ENEOSホールディングス株式会社とともに、この方法論を用いた養豚業初のプログラム型J-クレジット創出プロジェクトを開始しました。「プログラム型」とは、複数の生産者の削減活動を一つのプロジェクトに束ねる方式です。個々の生産者が単独で申請すると、書類作成や審査対応、モニタリングといった負担が重く、費用もかかります。そこで、当社が窓口となって申請・認証・売却までを一括して代行することにより、本プロジェクトに生産者は費用負担なく参加でき、クレジット売却益の還元を受けることができます(図2)。


3 データで支えるMRV−当社Eco-Porkの役割−

 当社Eco-Porkは、「次世代に食肉文化をつなぐ」をビジョンに、2017年に創業した養豚DXのスタートアップ企業です。主力の養豚経営支援システム「Porker」は、繁殖・肥育成績や給餌の記録をクラウドで一元管理し、データに基づく飼養管理を支援するもので、現在、国産豚肉の約15%が当社テクノロジーを活用して生産されています(図3)。
 また当社は、豚房の天井に設置したAI(人工知能)カメラで豚の頭数カウントや体重推計を非接触で行う「PDS(PigDataStation)」を開発・提供しています(図4)。人手をかけずに生育状況を把握できるため、出荷時期の最適化など生産性向上に直結するデータ基盤として活用が進んでいます。
 こうしたデータ基盤は、実はカーボンクレジットと高い親和性を持っています。鍵は「MRV」(測定・報告・検証)です。クレジットの信頼性は、削減量を正しく測り、記録し、第三者が検証できることで初めて担保されます。Porkerには、給餌内容や飼料の変更時期、飼養頭数といったデータが日々の経営管理の中で自然に蓄積されるため、クレジット申請に必要なエビデンスを、生産者が新たな記録作業をほとんど増やすことなくそろえられます。さらに、クレジット算定の基礎データである飼養頭数をPDSのAIカメラによって記録すれば、計測・転記の手間が省けるだけでなく、人為的な誤りの入り込む余地も小さくなります。省力化と信頼性の向上を同時に実現する、次世代のMRV基盤になると考えています。当社が提供するこれらの技術が、養豚経営のDXだけでなくGHG削減にも貢献できる。そう考えたことが、J-クレジット創出プロジェクトの出発点でした。
 



4 参画生産者の現況−キリシマドリームファームの事例−

 プロジェクト開始当初から参画いただいている生産者の一つが、宮崎県都城市のキリシマドリームファーム株式会社様です。ブランド豚「霧島黒豚」を展開する大規模農場で、DXにも積極的に取り組まれています(写真1、2)。




 
 同ファームは、当社からの声掛けをきっかけに、飼料中の余分な粗タンパク質を減らすことで堆肥発酵時のN2O放出を抑えられることを知り、「環境負荷低減の取り組みが農場でも可能であること」に共感して参画を決められました。
 導入に当たって、同ファームに不安がなかったわけではありません。CP値の調整を誤れば、アミノ酸バランスが崩れて豚の発育が鈍る恐れがあるためです。同ファームでは、Porkerを活用し、飼料切り替えの前後で飼料要求率(FCR)や事故率の比較検証を継続。その結果、従来と遜色のない発育成績を維持できていることをデータで確認できたといいます。ご担当の坂元啓祐氏は、「『このステージの豚にはCPはこれくらい必要だろう』という固定概念を払拭できた点は非常に良かった」と話します。また、「企業規模や業種の垣根を越えてGHG削減の取り組みを広げられる点」にこの制度の魅力を感じているとのことです。
 こうした取り組みが実を結び、参画生産者は平均13%のGHG排出削減を達成しています(当社算定)。そして、2026年、本プロジェクトは養豚を対象とするプログラム型プロジェクトとして国内初となるJ-クレジットの認証・発行に至りました。

5 おわりに −今後の展開・展望−

 畜産分野の脱炭素は、デンマークで2030年からの家畜由来GHG排出への課税導入が合意されるなど、世界的に待ったなしの課題となりつつあります。一方で日本には、生産者が前向きに取り組めば収益になる、J-クレジットという優れた制度があります。
 当社は、今後も参画生産者のネットワークを広げるとともに、サービス・システムの提供を通じて、養豚の環境負荷低減に取り組んでいきます。カーボンクレジットはそれ自体が目的ではなく、手段の一つです。当社が目指すのは、データの力で生産性向上と環境負荷低減を両立させ、生産者の経営を強くし、養豚が100年後も産業として続いていく未来をつくることです。飼料を最適化し、データで証明し、収益として生産者に還す――この循環を業界に根付かせることが、「持続可能な養豚」への確かな一歩になると信じています。豚肉がこれからもおいしく食べられる未来のために、生産者の皆さま、そして畜産に関わるすべての方々と、共に歩んでいきたいと思います。


【プロフィール】
沼澤 祐介(ぬまざわ ゆうすけ)

株式会社Eco-Pork GHGプロジェクト責任者。
広告代理店やプロスポーツ業界を経て、2022年にEco-Pork入社。
広報業務、豚肉流通事業などに携わったのち、2025年よりGHG事業および海外事業を担当。