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調査・報告  分業実態  畜産の情報 2026年10月号

北海道における酪農の哺育・育成過程の分業化の現状と課題 ―根室振興局管内を中心として―

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旭川市立大学 名誉教授 佐々木 悟

【要約】

 北海道根室振興局管内は、農林水産省統計部『2020年農林業センサス』では、乳用牛飼養頭数は17万6750頭、1戸当たり乳用牛飼養頭数は155.6頭と、北海道内ではいずれも十勝に次ぐ第2位を占める。特に、哺育・育成センター数は2023年現在、全道88センター中、最多の30センター(34.1%)が同管内に開設されており、哺育・育成センターを利用する酪農家戸数も、全道958戸中、同管内は421戸と43.9%を占める。このような哺育・育成センターの利用割合が高い一方で、同管内の哺育・育成センターにおける死廃率は北海道平均を上回り、これをいかに低減させるかが課題となっている。
 労働力不足もさることながら、アンケートによると、産地では講習会や見学会などの学習・研修の機会に乏しく、綿密な個体管理技術の習得が難しい状況にある。農業協同組合や農業改良普及センター、農業共済組合、地方自治体などの関係諸機関は、各種研修会や学習会の開催、巡回の増加による飼養管理技術水準の向上および新生子牛の死廃率の低減を図り、健康で丈夫な初妊牛を酪農家に送り出す必要がある。

1 はじめに

(1)根室振興局管内の概況

 日本酪農における酪農家戸数と乳用牛飼養頭数の停滞・減少が続いている。2016年以降、25年までの直近の10年間に、乳用牛飼養頭数は134万5000頭から129万3000頭へと5万2000頭(16年比3.9%減)減り、酪農家戸数は1万7000戸から1万1300戸へと5700戸(同33.5%減)減少している(注1)。他方、そのような全国的動向の中で、北海道の酪農は、急速な規模拡大によって飼養頭数を増やしてきている。同じく16年から25年までに、北海道における乳用牛飼養頭数は78万5700頭から81万6800頭へと3万1100頭(同4.0%増)増加し、全国の乳用牛飼養頭数に占めるシェアは58%から63%へと5ポイント上昇している。北海道で生産された生乳、あるいは生乳を原料とする牛乳・乳製品の都府県市場への供給・販売が急増しており(注2)、このような大量出荷は北海道の1戸当たりの乳用牛飼養頭数の拡大に拍車をかけている。25年2月現在、北海道の1戸当たり平均飼養頭数は164頭であり、都府県の75頭の2.2倍、全国平均の114頭の1.4倍以上となっている。
 北海道の酪農地帯では、大規模化の進展に伴い、哺育・育成過程の飼養管理を担う労働者の雇用が難しくなってきていることから、大規模な哺育・育成専門牧場(以下「哺育・育成センター」という)が設立され、同センターに預託して哺育・育成される新生子牛の頭数が急増している。つまり、酪農が、1)経産牛を飼養して搾乳を専門に行う搾乳経営と、2)新生子牛を哺育・育成して受胎させ、妊娠牛を搾乳経営に返却する哺育・育成経営―に分業化が進展している(注3)。
 「2020年農林業センサス」を見ると、根室振興局管内の乳用牛飼養頭数は17万6750頭と、北海道全体の22%が飼養されており、これは振興局管内別では、十勝総合振興局管内(同年飼養頭数23万4400頭)に次ぐ北海道第2位の飼養頭数である。他方、哺育・育成センターについては、根室振興局管内には23年現在30センターと、道内の全哺育・育成センター(88センター)の34%が開設されており、振興局別では最多となっている。
 北海道農政部の調査(生産振興局畜産振興課「新搾乳システムの普及状況について」)では、23年度の道内の哺育・育成センターを利用している酪農家戸数は958戸に上るが、根室振興局管内の酪農家戸数が突出して多く、421戸と北海道全体の43.9%を占める。
 

(2)根室振興局管内における酪農の進展と課題

 根室振興局管内のこのような哺育・育成センターの集中的設立と哺育・育成センターの高い利用割合は、政府による巨大投資が背景にある。
 根室管内の酪農は、明治初期の開拓とともに始まり、戦後の高度経済成長期には、政府が酪農振興を目的に2度の大規模投資を実施した。まず、根釧パイロットファーム事業では、1955〜64年までに約360戸が入植し、約5000ヘクタールを開墾して近代的酪農経営の基盤を整備した。続いて、73年からの新酪農村建設事業では、935億円を投じて農地造成や道路・用水整備、農地の集団化を進め、大規模・高効率な酪農経営を推進した(注4)。一方で、過度な規模拡大や高泌乳化による負債・労働負担の増大から離農者も生じたため、近年は、自給飼料や家畜ふん尿を活用し、低投入で持続的な経営を目指す「マイペース酪農」が広がっている(注5)。
 このように根室管内では、過去の事業による過度な規模拡大などから、飼養管理に係る労働力が不足しており、これが哺育・育成センターの利用率の高さにつながっていると考えられる。また、哺育・育成センターにおいても労働力が不足している状況は変わらず、この結果、北海道平均と比較して、同振興局管内の新生子牛の哺育・育成期の死廃率が高くなっている可能性がある。
 本稿では、農業共済組合(NOSAI)北海道の資料ならびに根室管内哺育・育成センターへのアンケート調査とその分析によって、酪農の新生子牛の哺育期・育成期の飼養管理と死廃率の課題を明らかにし、その改良と高い死廃率による損耗を改善する方策を考察したい。

2 哺育・育成センターの経営形態別の概要と家族経営のセンター閉鎖の増大

(1)哺育・育成センターの経営形態別の概要

 2023年現在、根室振興局管内に存立する30の哺育・育成センターを経営形態別に見ると、会社組織が10センター(うち9センターが株式会社、1センターが有限会社)、組合組織が7センター、家族経営が13センターとなっている(表1)。
 預託牛頭数を見ると、会社組織の1センター当たり平均預託頭数は677頭であり、組合組織は544頭、家族経営は138頭であった。中でも、会社組織のABは2200頭と根室振興局管内で最多の預託牛を受託しており、次いでADは1252頭と1000頭を超えている。他方、家族経営の平均は100頭台と、小規模である。
 


 

(2)家族経営による哺育・育成センターの大量閉鎖、撤退

 北海道農政部は、2025年9月末現在の「哺育育成部門の外部化実施状況」を26年2月に公開した。その結果、会社組織(AH)と組合組織(BE)のそれぞれ1センター、そして家族経営の6センター(CA, CB, CC, CD, CF, CI)の合わせて8センターの閉鎖が明らかになった(表1参照)。とりわけ、家族経営によるセンターでは、高齢化などにより搾乳経営の継続が難しくなったことから哺育・育成センターを開設した経営主もおり、持続に産地総ぐるみの支援が必要とされる。
 一方、新規参入する哺育・育成センターもあり、会社組織(株式会社)の2センターと家族経営の3センター、合わせて5センターが新たに参入し、25年9月末現在で根室振興局管内に現存する哺育・育成農家・営農集団は27センターとなる。

3 「哺育・育成センター」へのアンケートとその分析

(1)アンケートの内容および調査先

 哺育・育成センターに対し、主に哺育・育成センターの預託牛の健康管理について、図に示した内容でアンケートを行った。
 会社組織の4センター(AD, AE, AI, AJ)、組合組織の2センター(BA, BF)、家族経営の2センター(CH, CL)の計8センターから回答を得た。
 




 

(2)アンケートに対する回答

ア 子牛預託受け入れの条件としての予防措置
 哺育・育成牛受託の条件としての疾病、けがの予防措置として、最も回答が多かったのは、「サルモネラ陰性の確認」と「健康状態良好の確認」であり、全8回答のうち6回答であった。次いで「初乳の給与済み」と「BVD陰性の確認」(BVD:牛ウイルス性下痢)がそれぞれ4回答であった。なお、1センターが「母牛のワクチン接種」と「除角」としていた。

イ 哺育・育成牛のセンター入牧日齢と下牧月齢
 入牧は3日齢が4回答と最も多く、次いで7日齢が2回答、6日齢と17日齢がそれぞれ1回答であった。
 下牧は、妊娠牛を受け入れる利用酪農家の都合や要請もあってさまざまであり、16カ月齢が2回答、その他は、12〜15カ月齢、17カ月齢、19カ月齢、20〜21カ月齢、22カ月齢がそれぞれ1回答であった。

ウ 導入牛舎への収容
 手作業のみの牛舎もロボットを導入している牛舎も、新生子牛の導入時には、1頭ずつ個室のハッチあるいは牛舎の中に造成した屋根付きのペンで哺育し、数日後、手作業のみの牛舎ではそのままハッチやペンで哺育を続け、ロボットを導入している牛舎では個室から出して少数頭の集団でロボットを機能させて哺育を行う。従ってアンケートでは、すべての哺育・育成センターはハッチ、あるいはペンを所有しており、導入当初はいずれかに収容している。

エ 離乳の確立月齢
 離乳は2カ月齢が3回答と最も多く、他は4〜6カ月齢、4カ月齢、2〜3カ月齢、1.5カ月齢など、各センターによって離乳確立月齢にはばらつきがある。

オ 哺育牛導入直後における暑熱対策、寒冷対策
 哺育牛の暑熱対策として、換気扇による送風が5回答と最も多く、次いで遮光カーテンが2回答、ファーネス、ダクト、ミスト装置、送風機の設置がそれぞれ1回答であった。
 寒暖差が大きく気温が低い根室振興局管内の寒冷対策は多様である。カーフジャケットの着用が3回答、ネックウォーマーの着用、赤外線ウォーマーによる暖房がそれぞれ2回答、他に防風カーテン、温風ファーネス、パネルヒータ―、湯たんぽ、ジェットヒーターなどがあり、中には寒冷地と豪雪地帯であることを逆手にとって、雪を利用したかまくらなどによる寒冷対策を行っている哺育・育成センターもあった。

カ 従業員数
 深刻な労働力不足は、とりわけ中小・零細経営に大きな影響を及ぼしており、従業員数に如実に反映されている。従業員数については、16人が1回答、次いで10人と8人がそれぞれ2回答、6人、1人、0人がそれぞれ1回答であった。なお、従業員1人および0人は、家族経営のセンターであった。

キ 最初の人工授精
 最初の人工授精については、12〜14カ月齢の2カ月間における都合のよい日を選んで行っているセンターが4回答、次いで11カ月齢、12カ月齢、13カ月齢に行っているセンターがそれぞれ1回答あり、さらに組合組織の1センターは、育成牛を10カ月齢で下牧させ、人工授精は家畜人工授精師の資格を持つ職員の豊富な農業協同組合(JA)で行っていた。

ク 運営上あるいは子牛の健康に問題等が起きた時の対応
 運営上あるいは子牛に病気などの危急の問題が起きた時の対応としては、1回答を除いて、かかりつけの獣医師に相談すると回答していた。相談する対象として、「農業改良普及センターや普及員」、「近隣の親しくしている哺育・育成センター」を選択した回答はなかった。獣医師の診断を必要とする危急の病気などの場合を除いて、農業改良普及センターの定期的巡回と相談を通して子牛の疾病を早期発見し、死廃頭数の減少、死廃率の低下を達成する必要があると考える。

ケ 牛の管理に関わる講習会、見学会の有無と参加
 2024年度に講習会、見学会参加の機会が「2回あり、2回とも参加した」が2回答、「1回あり、1回参加した」が1回答あった。残りの5回答は一度も講習会などへの参加の機会がなく、飼養管理を牧場管理者の経験にのみに頼っていることになる。
 講習会や同業のセンター見学会などは、会社経営者や職員、家族経営の経営主にとって、運営情報を獲得し、飼養技術、経営機能を高める重要な機会であり、哺育・育成センター自らが積極的に企画・推進し、飼養管理技術をさらに高める必要があると考える。特に飼養技術は次節以降で述べる哺育・育成牛の死廃頭数の減少や死廃率の低下に深く関わっている。
 農業改良普及センターやJA、地方自治体などの関連団体は、講習会や見学会などを通して、地域センターの管理者、職員や家族経営主に対して情報を提供し、知見を高めるべく、啓発、教化の活動を増やすことが求められている。
 

(3)死廃頭数、死廃率

ア 根室振興局管内の高死廃率とその要因
 生後2カ月齢までが牛の哺育期であり、この哺育期から育成期に至る時期は死亡や廃用の最も発生しやすい時期でもある。NOSAI北海道の資料によると、2024年度(24年4月2日〜25年4月1日)の1年間に、北海道では18万1452 頭のホルスタイン種の雌子牛が出生している。
 北海道における子牛の月齢別の死廃頭数、死廃率を見ると、哺育期の死廃頭数は9787頭であり、出生頭数に対する死廃頭数の割合、すなわち死廃率(9787頭÷18万1452頭)は5.39%を占め、特に1カ月齢の死廃頭数が8894頭と多く、死廃率も4.90%と高い。3〜12カ月齢までの育成期の死廃頭数は3207頭であり、死廃率は1.77%である。24年度の北海道における乳用子牛の1〜12カ月齢までの死廃頭数は1万2994頭であり、死廃率は7.16%である。
 また、同年度1年間に根室振興局管内では、6万5072頭の乳用子牛が生まれている。同管内における月齢別の死廃頭数、死廃率を見ると、哺育期の死廃頭数は3744頭であり、死廃率は5.75%である。3〜12カ月齢までの育成期の死廃頭数は1288頭であり、死廃率は1.98%である。24年度の同管内における乳用子牛の1〜12カ月齢までの死廃頭数は5032頭であり、死廃率は7.73%である(表2)。
 北海道と根室振興局管内の死廃率を比較すると、哺育期については北海道の5.39%に対し、根室は5.75%と根室が0.36ポイント高く、育成期についても北海道の1.77%に対し、根室は1.98%と根室が0.21ポイント高く、24年度の1〜12カ月齢までについても、北海道の7.16%に対し根室は7.73%と、根室が0.57ポイント高いのである。つまり、根室振興局管内の急速な酪農の規模拡大に伴う労働力需要の急増に供給が追い付いておらず、とりわけ同管内の哺育・育成段階の飼養管理は、まだ手薄で不十分な状態にある。また、預ける子牛に給与する初乳が不足していたり、周産期病に罹患していたり、先天的に弱い牛であったりして、それらが著しく死廃率に影響する場合もある。このような農家の側の要因もかなりあると言えよう。
 



 
イ アンケート先8センターの高死廃率
 表3は、NOSAI北海道の資料による2024年度の北海道と根室振興局管内の平均、そしてアンケートに回答した8センターのそれぞれの死廃率であり、同年度において北海道平均より高い死廃率を太い破線で示した。
 哺育期については、北海道の4.9%に対し、ADセンターは5.9%と1ポイント、AJセンターは5.0%と0.1ポイントそれぞれ高い。次に育成期については、北海道の1.2%に対し、AIセンターは3.7%と2.5ポイント、AJセンターは5.7%と4.5ポイント、BFセンターは1.6%と0.4ポイント、CLセンターは2.6%と1.4ポイントそれぞれ高い。そして、2024年度の1〜12カ月齢については、北海道の7.6%に対し、AJセンターは10.7%と3.1ポイント高いのである。
 以上のように、哺育期では2センター、育成期では4センター、2024年度1〜12カ月齢では1センターの死廃率が北海道平均を超過しており、少なくとも北海道平均の数値まで低減させる取り組みが求められている。

4 おわりに

 根室振興局管内の乳用牛飼養頭数は17万6750頭(農林水産省統計部『2020年農林業センサス』による)と、振興局別では十勝総合振興局管内に次ぐ第2位を、1戸当たり飼養頭数も155.6頭と同2位をそれぞれ占めている。このような規模拡大に伴う労働力不足から、哺育・育成センターへの預託が増え、2023年現在、全道88センター中最多の30センター(34%)が開設されている。哺育・育成センターを利用している酪農家戸数では北海道958戸中、根室振興局管内は421戸と43.9%を占める。このような高い哺育・育成センターの利用割合にもかかわらず、同管内の哺育・育成センターにおける死廃率は北海道平均の死廃率よりも高い場合が多く、死廃率の低減が課題となっている。
 アンケートの結果、講習会や見学会などの研修、学習の機会が少なく、綿密な個体管理が困難になっている可能性が大きいことが死廃率を高めていると考えられる。
 対応として、JA、地方自治体、農業改良普及センターやNOSAIの関係諸機関が各種研修会や見学会、学習会、巡回をさらに増やして、哺育・育成期の飼養管理技術の水準を高めることで死廃頭数を減らし、健康で丈夫な初妊牛を搾乳経営の酪農家に送り出していかねばならない。

(注1)農林水産省『畜産統計調査』
(注2)上田宏一朗他『北海道における乳牛哺育・育成牧場の現状』(JRA畜産振興事業(平成31〜令和3年度))北海道大学大学院農学研究院、p1
(注3)佐々木悟『北海道における酪農の哺育・育成センターによる分業化の現状と課題 ―十勝地区を中心として―』独立行政法人農畜産業振興機構『畜産の情報』2025年10月号、pp,62〜68
(注4)吉野宣彦『家族酪農の経営改善』日本経済評論社、2008年、pp.77-136.
石渡一人「根釧パイロットファームから新酪農村事業」北海道開発公社『北海道学 美味しいミルクの生まれるところ』2021年、左11〜左71 p23
(注5)三友守行『マイペース酪農 ―風土に生かされた適正規模の実現―』農文協、2000年、pp.33〜117