本章では、現地訪問したカリフォルニア州の乳業企業2社(ヒルマー社およびカリフォルニアデイリーズ社)について、乳たんぱく製品とバターの生産動向および各種取り組みを紹介する。
(1)ヒルマー社
ヒルマー社(Hilmar Cheese Company)は、1984年にカリフォルニア州ヒルマーで酪農家により設立された非上場の乳業メーカーである(写真4)。米国有数のチーズ生産企業であり、1日当たり550万リットル超の生乳を処理してチーズやホエイ製品を製造し、50カ国以上に輸出する。中でも、ホエイ製品の高付加価値化に注力している点が特徴である(写真5)。
今回の訪問では、原料(ホエイ)部門の担当者に対し、乳たんぱく製品を中心にインタビューを行った。
ア 乳たんぱく製品の生産・販売動向
ホエイ製品については、WPCやWPIの他、2000年代初頭から開発に取り組み、同社の主力製品となっているホエイたんぱく加水分解物(WPH)
(注8)などを生産している。近年は、これらホエイ製品の生産拡大に伴い、チーズ(業務用のチェダーやジャック系など)の生産量も増加している。
乳たんぱく製品は、あらかじめ用意された成分を調整することで顧客が求める特性に対応可能となっているが、新たに製品を開発する場合、処方の調整や保存期間試験、消費者テストなど複数の工程を経るため、少なくとも9〜12カ月を要するという。
WPCなどの製造副産物として産生するホエイパーミエートについては、カリフォルニア州工場
(注9)では乳糖に加工し、その99%を輸出する。大部分が脱脂粉乳の標準化用途としてNZへ仕向けられるほか、日本向けにも製菓用途を中心に輸出され、一部は育児用調製粉乳にも利用されている。
(注8)WPIを酵素により分解した製品。分解の程度によって消化・吸収性や風味が変化し、各社が独自の製法を有する。一般に分解が進むほど吸収性が高まる一方、苦味も増しやすい。
(注9)テキサス州やカンザス州の工場では、飼料として販売している。
イ 今後の展開
WPCやWPIについては、通常は需給に応じて3年周期の価格変動が見られるが、近年は米国内外の需要増を背景に価格上昇が続いている。このため、従来の価格や数量での輸出が困難になりつつあり、供給先の中にはMPCなど比較的安価な製品へ切り替える動きも見られている。
日本市場については、米国内などに比べ厳格な規格水準が求められる一方、価格に敏感な市場との認識を示している。国内価格が上昇する中でも、日本からは引き続き一般的なWPC(34、80)の安定供給が求められている。こうした中、同社は価格競争ではなく、機能性や独自性を追求し、WPHやペプチドなど高機能製品の販売拡大に注力する考えを示している。中でもWPHは、消化・吸収性に優れることから、当初は育児用調製粉乳向けが中心であったが、現在はプロテインバーを柔らかく保つ用途などにも向けられている。また、認知機能や腸内環境に対する消費者の関心が高まる中、ペプチドを活用した認知機能補助製品や、腸内環境を整えるとされるラクトフェリンなどの販売を通じ、収益の向上を図るとしている。
(2)カリフォルニアデイリーズ社
カリフォルニアデイリーズ社(California Dairies, Inc.:CDI社)は、1999年にカリフォルニア州内の酪農協同組合が合併して設立された、酪農家が所有・運営する乳業メーカーである。バターや粉乳製品を中心に生産する。加盟する酪農家が生産する生乳は年間78億リットルで、このうち61%を自社事業で使用し、残る39%を他の乳業メーカーに販売している。
カリフォルニア州内には、7カ所の工場を有する(図14)。
ア バターの生産・販売動向
バターの年間生産量は22万トンと、米国全体の約2割を占める。この6割が小売向けで、小売向け生産量は米国内でトップである。また、残り4割はバルクバターとして業務用や輸出向けに出荷される。米国産バターは、一般に乳牛飼料に穀物が多く用いられることから、牧草主体の飼養でカロテンを多く含むNZ産バターなどに比べ色が白いことが特徴で、こうした特性を好む輸出先もあるという(写真6)。
輸出については、2025年後半のバター価格下落による価格競争力の向上を背景に、売上高が2年前の7倍に増加している。日本向けも26年から輸出を開始した。輸出先のカナダや韓国、中東などでは、日本と同様、NZ産やEU産から切り替える動きが見られるという。
輸出上の課題としては、相手先が求める追加検査
(注10)に対応するため、輸出対応施設をティプトン工場1カ所に集約している点である。このため、輸出量は同工場の生産能力に左右される。ただし、同工場にはなお供給余力があり、国内向けを輸出に振り向けることで供給拡大は可能としている。
(注10)米国内向け製品では工程管理を中心とした食品安全管理が行われている一方、輸出向け製品では輸出先の要求に応じた成分検査やロット検査が求められる場合があるため、集約による効率化を図っているという。
イ 今後の展開
同社でも、乳たんぱく製品の需要拡大を背景に、近年は設備投資を進め、MPCなどの生産を拡大している(表2)。これは、利益率が低いバターや脱脂粉乳に比べて高付加価値な製品の生産を増やすためである。また、安価で販売している余剰生乳を自社で付加価値の高い製品に加工することで、収益の向上につながるという。
2025年に稼働したベーカーズフィールド工場は、3億米ドル(483億円)を投じて建設され、倉庫内オペレーションの無人化など省人化や物流効率化を目的とした最新設備を導入し、ESL牛乳
(注11)などの高付加価値な飲用乳を製造している。さらに、26年からは大手小売店向けに高たんぱく飲用乳(UFミルク)の供給を開始した(写真7)。これは、高たんぱく飲用乳市場最大手のフェア・ライフ(コラム2参照)が西海岸に生産拠点を持たないことを商機と捉えたためである。今後は、MPC、MPI、ラクトフェリン、ESL牛乳といった高付加価値製品の生産を拡大し、組合員酪農家への利益還元を強化したいとしている。
(注11)Extended Shelf Lifeの略で、冷蔵下での賞味期限を延長した牛乳。