■(1)実施概要
口腔温度および飲水行動データを基に、発情状態の予測について評価を行った。その上で、説明変数と目的変数の関係を線形的に捉えることができるロジスティック回帰分析を用いて、発情予測を行った。ロジスティック回帰分析とは、主に二値分類問題
(注1)に用いられる基本的な機械学習手法である。この手法では、複数の説明変数
(注2)を線形に結合した値を基に、ある事象が発生する確率を推定する。つまり、「説明変数と目的変数
(注3)の関係を明示的に示すための基礎モデル」であるロジスティック回帰分析を用いることで、スマート給水器で取得した測定データが発情予測にどの程度寄与するかを定量的に評価できると考えた。
(注1)入力されたデータを二つのクラスのどちらかに分類する機械学習モデル。
(注2)ある事象や数値の原因となる変数。
(注3)ある原因によって発生した結果を表す変数。
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(2)特徴量選定と分析手法
本研究では、母豚6頭のデータを用いて解析を行った。データ構成は、訓練データ70%、テストデータ30%に分割し、モデルの学習および性能評価を行った。説明変数間に強い相関が存在する(多重共線性がある)場合、回帰係数の推定が不安定になる可能性がある。そのため、解析に先立ち、説明変数間の相関係数を確認し、相関が強い変数ペアについては一方を削除することで、多重共線性の影響を低減した。この処理により、各説明変数が発情予測に与える影響をより安定して評価できるようにした。
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(3)分析結果
ア 発情予測に寄与する主要な行動指標
本解析では、ロジスティック回帰分析により推定されるオッズ比を算出し、それぞれの説明変数が発情予測に与える影響を評価した。オッズ比は、説明変数が1単位増加した際に、発情であるオッズが何倍になるかを示す。オッズ比が1より大きい場合は発情である可能性を高める方向に作用し、1未満の場合はその可能性を低下させる方向に作用することを示す。
また、発情予測を行うに当たり、モデルが出力する発情確率に基づいて最終的な判定を行うため、予測精度が最も高くなるようなしきい値を選定した。しきい値とは、ロジスティック回帰分析モデルによって出力される発情確率を、発情であるか否かに分類するための基準値であり、この値を越えた場合に発情と判定される。発情検知性能を考慮し、最終的な予測精度が最適となるしきい値を探索的に決定した。
ロジスティック回帰分析を用いた発情予測に強く寄与している上位10個の説明変数は、表2の通りである。なお、表2に示す説明変数名のうち、「5日間std」は5日間の移動平均の標準誤差、「5日間ma」は5日間の移動平均、「3日間diff」は3日前比を表している。
この結果、8時から17時までの活動時間帯における1時間単位の飲水行動および遊びの行動に関する説明変数が多く抽出された。これらの時間帯は、豚が活動している時間帯に相当しており、夜間の休息時間帯と比較して、飲水や遊びといった行動が発情に伴う生理的変化を反映しやすいと考えられる。そのため、1日単位で行動を集計した場合には見落とされやすい変化であっても、1時間単位で行動指標を分解して解析することで、発情に関連する行動パターンをより明確に捉えることが可能となった。以上より、1時間ごとの行動データに基づく説明変数設計が、ロジスティック回帰分析による発情予測において有効であったことが示唆された。
イ モデルの予測精度
発情予測モデルの性能評価として、正確率、検知率、および最適なしきい値を表3に示す。
最適なしきい値は0.167であり、このしきい値を用いた場合の性能は正確率27.3%、検知率57.1%であった。さらに、モデルが発情と判定したデータのうち実際に発情であった割合は27.3%であった。
以上より、ロジスティック回帰分析は、発情予測に寄与する時間帯や行動指標を明確に示す点において有用であり、各説明変数が発情状態に与える影響を定量的に把握できるという点で、説明変数の解釈性に優れた手法であると言える。