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紙に使用されるでん粉

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最終更新日:2010年5月10日

紙に使用されるでん粉

2010年4月

王子コーンスターチ株式会社 開発研究所 研究員 石田光雄

はじめに

 皆さんが日常的に目にする様々な「紙」には「でん粉」がよく用いられているのをご存知でしょうか? 表1、図1にでん粉が使用されている紙の例を示しましたが、実に様々な紙にでん粉が使用されているのが分かります。
 
 今回は紙とでん粉の関わりについて簡単に述べたいと思います。
 
 
<DIV><STRONG>表1 紙の種類とでん粉を利用する紙製品例</font></STRONG></DIV>
表1 紙の種類とでん粉を利用する紙製品例

製紙とでん粉の役割

 日本では古来より和紙を作り、利用されてきましたが、和紙は三椏(みつまた)や楮(こうぞ)、雁皮(がんぴ)の木の皮から繊維を取り出して原料としています(1)。現在私達がよく利用している紙は木材から「パルプ」と呼ばれる繊維を取り出して紙をすいて作られており、一般に「洋紙」と呼ばれています。日本で木材パルプを使用して工業的に洋紙が作られるようになったのは19世紀も終わりの頃で、まだ百年と少し前の事です。
 
 さて、現在の紙(洋紙)にはよくでん粉が用いられていると前述しましたが、和紙にはでん粉を用いません。紙にでん粉を用いる主な理由の一つが、「紙を強くする」ために紙の原料であるパルプの繊維と繊維を「接着」する事です。和紙の原料である上記の木の皮の繊維は数ミリ〜20ミリと非常に長いため、繊維同士の絡まりが多くなり、非常に丈夫に仕上がります。これに対し、洋紙は針葉樹や広葉樹の繊維を主な原料としていますが、針葉樹の繊維の長さは数ミリ、広葉樹は1ミリ前後しかありません。よって繊維同士の絡みがあまり多くなく、和紙ほどには引張ったりした時に耐えられる力は強くありません。そこで、でん粉のような接着剤を用いて繊維同士の絡みに加えて繊維と繊維をつなぐ事で、紙の強度を向上させています。
 

でん粉使用の歴史

 しかし、紙(以下特に断りがない限り洋紙のことを示します)が作られた当初からでん粉が使われて来た訳ではありません。初めはでん粉を使わずに紙をすいていましたが、木材パルプの種類や紙の利用の移り変わりによって、紙に強度やさまざまな機能を持たせる必要が生じ、でん粉が使われるようになりました。
 
  木材パルプも当初は繊維長の長い針葉樹を原料にしていましたが、1950年頃から日本では針葉樹の確保が難しくなり、色々と模索した結果、繊維長の短い広葉樹のパルプから紙を作る事に成功しました。また、紙は情報の媒体として多く使用されるようになり、様々な印刷機が登場して印刷の高速化・鮮明化が進みました。
 
 印刷の高速化に伴い、印刷する際の紙表面に掛かる負荷(印刷インキの粘りによって、紙表面の繊維がはぎ取られる)が大きくなりました。近年急速に普及したコピー機に用いられるPPC用紙も、コピーをする際に紙が正確に送り込まれ、トナーがきれいに付着するように紙の強度や表面の質の向上が図られています。さらに、紙の生産量も右肩上がりに上昇し、かつ、近年の環境問題から紙のリサイクル化が促進され、質の劣るパルプを使いこなしてこれまで以上に強度、質の良い紙を作る必要性が生じてきました。
 
 ちなみに、日本では2010年までに紙・板紙の古紙利用率を62%とすることを目標にしており、製紙業界では目標達成の努力が日々行われています(2)。このような状況から、でん粉が紙に多く用いられるようになりました。1955年に生産された紙は約230万トンであったのに対し、使用されたでん粉は約2万トンでした。2005年には紙の生産が約3100万トンであったのに対し、でん粉使用は約48万トンにまで増加しています(3)(4)。
 
 紙の生産量の増加と共にでん粉の使用量も増えてきましたが、紙に使用されるでん粉の割合も大きく変化してきています。なお、でん粉以外にも同様の役割として合成系の接着剤(ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ラテックス等)が紙に用いられていますが、紙の種類によってさまざまな使われ方をしています。特にでん粉に関しては合成系の接着剤に比べて、自然分解すること、水に溶けやすく紙の再生がしやすい、安価である、などの特長があります。

でん粉の紙への利用方法

 次に、紙へのでん粉の使用方法について説明します。紙といっても様々な種類がありますが、紙の種類によってでん粉の用途が異なり、でん粉にもさまざまな種類(加工品)があります。また、現在日本で紙に使われるでん粉の主な種類は、コーンスターチ(とうもろこしでん粉)、タピオカでん粉、ばれいしょ(じゃがいも)でん粉で、特にコーンスターチの使用量が多くなっています。
 
 基本的には接着剤の役割を果たすため、でん粉の種類に関係なく「糊」として使用されることになります。皆さんの身近なところででん粉の糊と言うと、「片栗粉(ばれいしょでん粉)」を料理の「とろみ」として利用したり、「葛粉(葛でん粉)」に熱湯を加えてかき混ぜて粘性のある液体(葛湯)を作ったりなどでしょうか?
 
 これらのでん粉から作られた粘性のある液体は、乾かすと丈夫で硬いフィルムになり、物と物を接着する事ができます。そして、紙に用いるでん粉も、でん粉に水を加えて加熱することで糊を作り、紙の繊維や、紙に使われているその他の材料を接着して丈夫な紙に仕上げています。次にでん粉の用途別に説明していきます。

パルプを絡ませる内添用でん粉

 紙は主に木材パルプ(繊維)が絡み合ってシートを形成しています。繊維が短いと絡み合う場所が少なく、すぐに解けてしまいます。その絡みの手助けにでん粉を紙料に添加して用います。ただし、紙はパルプを水に懸濁させてから脱水して紙のシートになるので、普通(未加工)のでん粉を用いると水に溶けるでん粉の大半は水と共に流れてしまい、紙に残らなくなります。
 
 そこでパルプとでん粉を結び付きやすくするために、パルプがマイナスの電荷を帯びている性質を利用して、あらかじめプラスの電荷を帯びているでん粉を使用します。普通のでん粉はマイナスの電荷を帯びているので、カチオン基と呼ばれるプラスの電荷を帯びた物質をでん粉に反応させてでん粉をプラスの電荷にします。
 
 現在内添用でん粉によく用いられているカチオン基は4級アンモニウム(R3N+-;Nは窒素、Rは炭化水素)と呼ばれるもので、窒素原子がプラスに大きく帯電しています(5)。このカチオン基が付いているでん粉を一般にカチオンでん粉と呼びます。カチオンでん粉は電荷の偏りが大きく、水中で不安定(水のpHの変化で凝集する事がある)になりやすいので、カルボキシ基(―COOH)やリン酸基(―H2PO3)といったアニオン基(大きなマイナスの電荷を持つ)をカチオンでん粉に少量導入する事で、電荷の偏りが小さくなりでん粉が水中で安定的に存在します(ただし、カチオン基の量がアニオン基よりも多くなっているので、でん粉全体としてはプラスの電荷を帯び、パルプに付きやすくなっています)。これを一般的に両性でん粉と呼び、現在ではこの2種類のでん粉が内添でん粉としてよく用いられています。
 
 紙にはパルプ以外にも炭酸カルシウム、タルク(滑石という鉱石を微粉砕した粉末)、クレー(粘土)などといった填料(紙の平滑度、印刷適性などを高めるため、パルプを添加する無機顔料(鉱物))も多く含まれていますが、内添でん粉にはパルプの接着以外にも填料をより多く紙中に取り込む役割もあります。
 
 実際の紙の作り方は、水に懸濁させたパルプに填料やでん粉の糊液(あらかじめでん粉の懸濁液を加熱して糊にしたものを使用)、その他の薬品を加え、この懸濁液を目の細かいワイヤー(網)上に流し込んで脱水し、ワイヤー上に形成されたシートを乾燥させて紙となります。填料はパルプが絡み合った空間に取り込まれて紙に留まるため、パルプの絡みが多いと紙をすいた時の填料の取り込みも多くなります。
 
 内添でん粉を用いるとパルプの絡みが多く、パルプが織り成す網目も小さくなる為、脱水時に水と共に抜ける填料が少なくなり、紙中に留まる填料が多くなります。さらに、パルプ同士がより接近し、パルプが抱えていた水を排出させる作用もあるため、脱水しやすくなります。このため、脱水した時のパルプシートの水分が低くなり、その後の乾燥負荷を軽減する効果もあります(6)。
 

被膜を形成させるサイズプレス用でん粉

 印刷をした時、紙の表面はインキによって引っ張られ、大きな負荷が掛かります。紙表面のパルプが丈夫に絡まって固定化されていないと、印刷時にインキによって表面のパルプが引きはがされ、印刷写りが悪くなったり、場合によっては印刷中に紙が破れてしまう場合もあります。この様な事態を防ぐために紙の表面にでん粉などの接着剤を塗って被膜を形成させ、表面のパルプなどを固定化する事をサイズプレスと言います。
 
 サイズプレスはでん粉の糊液(あらかじめでん粉の懸濁液を加熱して糊にしたものを使用)をロールに転写させて紙に塗ったり、紙を糊液に瞬間的に浸して搾り取って塗ったりする方法があり、糊液を塗った後すぐに乾燥を行って、紙の表面にでん粉の被膜を形成させます。紙の表面に高速でかつ均一に糊液を塗る必要があるため、サイズプレス用でん粉はでん粉粘度が低いものを用います(6)。
 
 でん粉の粘度を低下させる加工方法としては、塩酸や硫酸などの酸を用いた酸変性でん粉や、次亜塩素酸を用いて酸化させた酸化でん粉があります。また、でん粉の糊を作る際に酵素(α−アミラーゼ)を添加して、糊の出来上がりと共にでん粉を分解して粘度を低下させた酵素変性でん粉もあります(5)。
 
 でん粉を用いたサイズプレスは紙表面の強度を向上させるだけでなく、紙の腰を強くする働きもあります(新聞紙などの薄い紙を持った際、紙が垂れ下がらないようにすること)。
 

写りを良くする塗工用でん粉

 カレンダーやポスター等の紙の表面がツルツルしてつやがあり、印刷の写りが非常に鮮明な紙は一般に塗工紙と呼ばれ、紙の表面にクレーや炭酸カルシウム等の無機顔料(鉱物)が塗られて塗工層を形成しています。これら顔料を紙に付着させるために接着剤が用いられますが、これらの接着剤として主にラテックスやでん粉が用いられています。これら接着剤は顔料同士を接着する事が目的であるため、顔料とよく混ざり合うものが求められます。
 
 塗工用でん粉は基本的にはサイズプレス用でん粉と同じ性状のもので代用できますが、よりでん粉粘度の低いものが求められる傾向にあります。また、顔料との混合性の良さから、でん粉にリン酸基を導入したリン酸でん粉もよく用いられています。
 
 塗工紙の作り方は、先ず顔料を水に分散させ、そこにラテックスやでん粉の糊液(あらかじめでん粉の懸濁液を加熱して糊にしたものを使用)を加えてよく混合した塗料液を作ります。この塗料液を紙の表面に塗って乾燥させます。この時、塗料の水分が紙中に大量に浸み込んでしまうと、水溶性の接着剤成分も一緒に紙中へ流れてしまい塗工層に接着剤が残りにくくなります。
 
 でん粉をある程度以上塗料に加えると、でん粉は保水力があるため紙中への水分移動をコントロールすることができます。また、塗料に適度な粘性を与えるため、塗工が行いやすくなります。最後に表面が鏡のように非常に滑らかなロールに紙を押し当てて通す事で、紙の表面が非常に滑らかでツルツルと光沢のある塗工紙が出来上がります(7)。
 

板紙作りに層間接着用でん粉

 板紙はすいてまだ乾燥していないパルプシートに、別にすいたパルプシートを重ね合わせる事を繰り返し、2〜8枚くらいのシート層を形成させてから水を絞って乾燥させて作られます。乾燥していないパルプシート層を重ねてから乾燥させることで、各シート層のパルプ同士が絡まって接合しますが、よりシート間の接合を高めるために層間接着用でん粉を使用することがあります。
 
 層間接着用でん粉は、これまで述べてきたでん粉と少し使用方法が異なり、使い始めはでん粉を糊にしないで用います。パルプシートとパルプシートの間にでん粉(粉)の水懸濁液を吹き付けます。この時点ではでん粉は糊になっていませんが、板紙を乾燥させる時に加える熱と、紙中に存在する水を利用して糊になり、シート間を接着します。
 
 層間接着用でん粉は、十分な水と熱があれば未加工のでん粉を使用できますが、必要最低限の熱と水を利用して糊にしなければならない場合は、低い温度でも糊化が進むようにでん粉にリン酸基を導入したものが用いられます。例えばコーンスターチの糊化温度は70℃くらいですが、これにリン酸基を導入すると糊化温度を40℃くらいまで下げる事もできます(6)。

特別な加熱不要な段ボール用でん粉

 段ボールの断面を見ると2つの平面シートの間に波型のシートが挟まっていますが、平面シートと波型シートを接着するのにでん粉が用いられています。段ボール用でん粉も糊にして使用しますが、でん粉(粉)を水に懸濁させ、そこに水酸化ナトリウム溶液等の強アルカリ溶液を添加して糊化させます。
 
 強アルカリ物質はでん粉分子の会合を阻害し、でん粉分子に水を取り込ませやすくして糊化が進むので、特別な加熱は必要ありません。また、ホウ酸を添加して粘性を高めたり、水に可溶なでん粉を用いたりして接着性を良くします(8)。
 
 この段ボール用でん粉の糊液を波型シートの山の頂上部に付着させ、平面シートを重ね合わせてシートを加熱すると、糊が乾燥してシート同士が接着し、段ボールシートが出来上がります。
 
<DIV><STRONG>表2 でん粉の用途種類とその効果</STRONG></DIV>
表2 でん粉の用途種類とその効果

今後の課題

 以上、紙に関するでん粉の使われ方について述べてきましたが、この十数年間はでん粉の用途別による使用割合は特別大きく変わっていないように思われます。ただし、これまではコーンスターチの割合が非常に大きかったのが、タピオカでん粉をはじめとして、各種のでん粉輸入量が増加しており、加工でん粉の製品種類も多くなって、さまざまな機能や用途の開発が進んでいます。
 
 また、製紙会社の技術の向上により、従来は使用が難しかった未加工でん粉、あるいは低加工のでん粉を使う割合が増えつつあると同時に、合成系の接着剤の使用割合を抑えてでん粉で代用するケースも見られます。
 
  紙に用いられるでん粉は、各種原料でん粉の特長を生かした安価な低加工でん粉の開発と、機能をさらに持たせた高加工でん粉の開発といった二極的な考えで、今後開発が進められる傾向にあると思われます。

参考文献

(1)王子製紙編書「紙の知識100」 東京書籍(株)
(2)経済産業省「紙製造業者に関わる古紙利用率目標の改定」 平成18年
(3)通商産業省「紙パルプ統計」
(4)日本スターチ糖化工業会資料「澱粉需要分析」
(5)不破英次他「澱粉科学の辞典」 (株)朝倉書店
(6)大江礼三郎他「紙およびパルプ 製紙の化学と技術」第3巻 拠外産業調査会
(7)紙パルプ技術協会編「紙パルプ製造技術シリーズ(8) コーティング」 紙パルプ技術協会
(8)紙業タイムス社編「段ボール原紙」 (株)紙業タイムス社
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