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経営合理化への取り組み状況調査について

鹿児島県畑作地帯における「でん粉用かんしょ」の生産農家の現状と
経営合理化への取り組み状況調査について

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最終更新日:2010年8月4日

鹿児島県畑作地帯における「でん粉用かんしょ」の生産農家の現状と
経営合理化への取り組み状況調査について

2010年8月

財団法人かごしま産業支援センター 五反田 健二

1 調査の概要

1−1.はじめに

 鹿児島県の薩摩半島および大隅半島には、ともに火山噴出物に由来するシラス土壌、黒色火山灰土壌が広く分布している。平均気温は17〜19度、年間降水量は2500ミリ以上で梅雨から夏にかけて年間降水量の約半分が集中する半面、夏期には干ばつの被害を受け、毎年のように豪雨を伴う台風にも見舞われる地域である。厳しい環境にあるこの地域では、かんしょ栽培が農家の経営を支えている。表1に調査を行った2市についての概要を表した。
 
 今後、かんしょ農家の経営安定化を図るためには、畑地の基盤整備の推進、優良品種の導入、機械化による規模拡大の推進など、単位当たり収量の引き上げ、生産コストの低減等が必要である。
 
 今回の調査は、薩摩半島と大隅半島の畑作地帯におけるでん粉用かんしょ生産農家の経営の実態を調査し、経営の特徴とかんしょ栽培体系などの検討、課題の整理を行うことによって、今後のかんしょ農家の方向性について、提言を行うために実施したものである。
 
 
 

1−2.調査時期、場所、調査戸数について

 基幹作物としてかんしょの生産が行われている薩摩半島の鹿屋、大隅地域および薩摩半島の南九州地域において、各2戸、計4戸について、個別に農家を訪問し、青色申告決算書や記録簿などの聞き取り調査を基に集計した。
 
 対象とした農家は、いずれもかんしょを経営の柱として生産を展開し、かつ地域農家の目標となるような経営を行い、また、かんしょの専作農家およびかんしょと他の作目との組み合わせによる複合型の農家を2戸ずつ選んだ。
 
 調査農家の選定および現地調査については、鹿児島県南薩地域振興局および大隅地域振興局の農政普及課並びに曽於畑地かんがい農業推進センターの全面的な協力をいただき実施した。なお、調査は平成20年度の実績をベースにし、平成21年12月に実施した。また、農業経営費の中の減価償却費については、税制改正による耐用年数などの変更や補助事業などによる導入、耐用年数経過資産などがあり普遍性をもたせるため数値を一部調整した農家もある。また、青色申告などによる専従者給与控除などは所得として計上した。
 
 かんしょの生産は、でん粉用、焼酎用、加工用、青果用など異なる販売形態が存在するが、ここではでん粉用かんしょ部門を主体に調査した。かんしょ部門負担割合については、聞き取りにより大まかに按分した。
 
 
 
 

2 農家別経営調査結果

2−1.A農家

(1)経営の現状と成果
 
 労働力は経営主夫婦と後継者の3名で、かんしょ(930アール)とばれいしょ、だいこん等の野菜(25ヘクタール)を経営する大規模複合専業農家である。土づくりや労働力の調整に、かんしょは野菜の前作としている。
 
 以前はかんしょ15ヘクタールを栽培していたが、天候等の関係で平成20年度は930アールに減らし、その内訳は焼酎用710アール、加工用120アール、でん粉用100アールとなっている。農業機械や大型の格納庫も整備されており、今後は焼酎用からでん粉用に計画的に転換、拡大していく予定である。
 
 かんしょの粗収入は約12,000千円で農業所得は約2,900千円となっている。うちでん粉用かんしょについては、10アール当たりの収量は県の目標指標より低く、また同粗収入も県指標の73%となっている。しかし、規模拡大による経費節減により、農業経営費が同59,100円で、今回の調査では最も高い所得率35.6%で10アール当たり32,700円の農業所得を誇る。かんしょ以外の作物の規模が大きいことによる負担が少ないため、農業経営費の中では減価償却費が県指標の55%と低い。
 
 単収(10アール当たり収量。以下同じ。)を3,000キログラム以上に高めることで、所得の増加が期待できる。野菜部門との輪作体系をどう調整するかが今後の大きな課題である。
 
 
 
(2)経営のポイント
 
ア、農業委員会を通した借地を行っており、関係機関や近隣農家との情報交換を積極的に行っている。
 
イ、計画的に大型汎用農業機械を導入し、雇用労賃や減価償却費などのコスト低減が図られている。
 
ウ、野菜との複合経営であり、前作の残さ(有機物)や残肥で肥料費が県指標の約50%に抑えられている。
 
エ、かんしょの単収が低いのは、野菜の前作の収穫作業の遅延によりかんしょの作付が遅れ、充分な生育期間が確保できなかったためと思われる。輪作体系の検討が必要である。
 
 
 

2−2.B農家

(1)経営の現状と成果
 
 労働力は経営主夫婦と後継者の3名で、でん粉用かんしょ(650アール)とタバコ(250アール)の複合経営で、地域の中核的専業農家である。
 
 タバコ作を徐々に減らし、かんしょ栽培を平成15年度の300アールから650アールへと拡大転換している。農業機械はほぼ整備されており今後、タバコは現状維持(250アール)で、借地によりかんしょ作を拡大していく予定である。
 
 農業所得は約9,000千円と安定しており、でん粉かんしょ部門の粗収入は、7,466千円、農業所得は2,071千円である。
 
 でん粉用かんしょの収量は単収3,300キログラムで、今回の調査の中では2番目に収量が高い。これは県目標指標の87%であり、栽培面積からも高収量といえる。今後、単収を維持して規模拡大すれば所得の向上が期待できる。
 
 農業経営費は県標準の82%であり、所得率28%、10アール当たり所得32,500円で安定経営といえる。
 今後、かんしょ部門に主力を移す計画である。単収の向上により、農業所得率30%以上が期待できる。
 
 
 
(2)経営のポイント
 
ア、畑地の経営面積10ヘクタールのうち、農業委員会を通じ8ヘクタールを借り入れている。地域全体は農地整備はなされているが、比較的山間部で集団化されていないため、経営の効率化の面では課題があると思われる。
 
イ、かんしょとタバコの複合経営ではあるが、植え付けや肥培管理などの栽培期間が重複するため、作業をいかに合理化するかがポイントとなる。
 
ウ、農業経営費は県標準より低く、農業所得は標準より多いので理想的な経営といえる。
 
 輪作による肥よくな土壌のおかげで単収3,300キログラム以上を確保している。今後もタバコとの作期の調整による増収を期待したい。
 
 
 
 

2−3.C農家

(1)経営の現状と成果
 
 かんしょと茶、野菜の地域でもトップクラスの大型複合経営である。かんしょについては、地域の最大の総面積20ヘクタールである。でん粉原料用(25%)、焼酎用(67.5%)、加工用(7.5%)と3種類を栽培している。焼酎用は13.5ヘクタールであるが、焼酎用原料の需要減から、今後はでん粉用かんしょに移行する計画である。設備は整備されており、かんしょの総作付面積は現状維持の予定である。
 
 でん粉用かんしょについては、単収3,554キログラム、粗収入約6,000千円で農業所得約1,800千円である。
 
 単収は県標準に近い実績と、今回調査した4戸のうち最も多く、10アール当たり粗収入が県標準指標とほぼ同じ約120千円である。
 
 農業経営費については、特に肥料費と減価償却費が低く、10アール当たり合計で84千円と県標準よりも約16千円安い。かんしょ全体で農業所得率が35%と今回の調査農家の中で一番高く、経営としては充分安定しているといえる。
 
 
 
(2)経営のポイント
 
ア、借地12ヘクタールを含む畑地経営20ヘクタールである。地域全体としては、基盤整備や畑地かんがい施設が整い、茶園の拡大が進む一方、普通畑において路地野菜、花などの農地の利用率が高い中、これだけの借地を可能にしている。地域の実情を経営主が充分把握し、さらに農業委員会と常に情報を交換しているのがポイントである。
 
イ、たい肥を冬場に比較的安く購入保管し、さらにかんしょの後になたねを栽培し、生牛糞を散布し耕運することで肥料費を削減している。また、減価償却費について、機械類の日常の清掃や維持管理の徹底がなされ、耐用年数を経過したものを使用することで低く抑えられている。
 
ウ、かんしょ部門をでん粉原料用、焼酎用、加工用とバランスよく組み合わせ、年次ごとに面積を調整しているのが特徴である。
 
 
 
 

2−4.D農家

(1)経営の現状と成果
 
 平成17年度までは肥育牛180頭規模の専門畜産経営であったが、18年度から全面かんしょと野菜の経営に転換してきた。焼酎用かんしょ580アールを主体とした、かんしょ700アールとキャベツ120アールの複合経営の専業農家である。焼酎用からでん粉用かんしょへ移行しつつ、規模は今後も労働力との関係で現状維持の予定である。
 
 でん粉用かんしょの面積は、60アールで単収が3,071キログラム、単価34円で粗収入626千円である。10アール当たりでみると、粗収入が104千円で県標準の83%で低い。しかし、農業経営費が県標準より約25千円安いため、農業所得率27%で農業所得28千円と概ね標準所得を確保している。
 
 かんしょは植付作業を除くと、すべて機械化されており規模拡大は可能であるが、労働力との関係で、当面、現状維持の方向である。今後、収穫量の増加によってさらに所得向上を図ってもらいたい。
 
 
 
 
(2)経営のポイント
 
ア、かんしょ経営の組み合わせとして単価が40円と高い焼酎用が83%を占めている。
 
イ、農業経営費の中の肥料費が極端に低いのは、かんしょの収穫後の冬場に近隣の畜産農家からの無料たい肥を施し、さらに緑肥になる飼料作物をすき込むことにより、化学肥料(購入肥料)を標準の半分以下に抑えている。また、キャベツの収穫後にでん粉用かんしょを植え付けて肥料費の節減を図っているのも特徴である。
 
ウ、減価償却費についても、耐用年数経過済みの畜産用と野菜用大型機械が多いため、低く抑えられている。修理についてもほぼ自己で行っている。
 
エ、農業経営費の節減に関して、単収の向上のため、植え付け時期の早進化や苗の活着促進技術の習得により解決できると思われる。
 
オ、借地250アールについては親戚関係からの借地が50%を占め、今後も増加可能である。
 
カ、地域でのでん粉部会長を務め、地域のまとめ役としても貢献しており信頼を得ている。
 
 
 
 

3 調査結果から見た農家経営の特色とかんしょ栽培体系の現状

3−1.土地利用の合理化と農業機械の導入

 今回調査した農家は、いずれも借地により規模拡大を行っている。これは機械化が可能になるなど効率化が進むことで、経営安定に大きな効果があると考える。鹿児島県としても「現行のかんしょ生産に係る労働時間を40%程度低減」することを目標としている。
 
 借地に当たって、4戸は以下のことを行っている。
 
ア、所轄の農業委員会を通じて、手続きを進める。
イ、日頃から貸し手農家とのコミュニケーションを大切にする。
ウ、借地を適切に管理する。
エ、たい肥などで土壌を肥よくにしておく。
 
 また、調査農家では借地に当たり、前作の不明な畑を中心にpHが上がりすぎないように、また過剰な窒素分によるつるボケ防止対策として、地域のJA、農業共済分析センター、県地域振興局等の指導の下、土壌診断を行っている。
 
 一般的に、大規模化に伴い、機械化が必要と思われる。大きな投資を伴うが、労働力の削減、生産コストの低減が可能となる。調査農家が所有する農地はそのほとんどが大規模の基盤整備地区に包含されて、ほ場整備、畑地かんがい事業が実施(計画も含む)されており、機械の効率な活用が可能な地域である。
 
 調査対象農家が機械導入に当たって、留意している事項は次の点である。
 
ア、機種決定の根拠
・区画の大きさ、形状、傾斜、土壌条件、生育状況、作業方法、オペレーターの技能を算定基礎にする。
・1日の作業面積は、1日当たりの作業時間と作業能力によって決める。
・車庫、格納庫からほ場までの距離、農道、路面、耕地の集積状況、準備時間なども考慮に入れる。
・高価な高性能機械の導入に当たっては、利用面積が確保され、かつ明確な経済効果が期待できることを条件としている。
 
イ、事前評価の実施
 耐用年数や年間負担額などの経済性、信頼性、安全性、従来の作業方法と導入後の新技術との比較、汎用性などを評価の判断基準として十分な検討を行う。
 
 こういった点に留意し、機械化を行うことで効率よい栽培が可能となると思われる。
 
 このほかにも土地利用の合理化として、組織化といった方法も考えられる。
 
 土作りについては、かんしょのいもづるを肥料として利用する場合もある。調査した農家のうち3戸は経営規模も大きく、収穫期間も2カ月と比較的短期間であるため、掘り取り作業を円滑に進めることを重視し、従来の茎葉処理機で裁断し、ほ場に還元している。ただし、残りの1戸は、鹿児島県農業開発センター大隅支場で開発され、実用化が進んでいる家畜飼料化システムプラントに、原料としていもづるを提供している。
 
 ほかにも、かんしょ収穫後、緑肥作物を植える、冬期の農閑期に家畜のたい肥を譲り受け、それをすき込むといった例が見られた。たい肥はできるだけ早めの散布(1月中)に特に効果がある。このような例を参考にしながら、肥料費を抑えながら土作りを進めることができる。
 

3−2.栽培方法

 調査農家では、規模拡大を図る中、かんしょ栽培方法に関して以下の取り組みを行うことにより経営安定を図っている。
 
ア、用途別かんしょ栽培
 調査農家4戸のうち3戸がでん粉用、焼酎用、加工用等異なる用途の組合せによるかんしょの作付けを行っており、収穫時期の分散によって労働配分の均衡化を図るとともに、収穫作業機に対する過剰な投資を避け、生産コストの低減を図っている。また、台風や干ばつなど気象被害の危険分散に有効である。
 
イ、輪作
野菜、茶、タバコなどとの輪作を行っている。これにより前作の刈り株や残さなどの土壌有機物の供給、土壌物理性の改善、土壌養分のバランスの維持、さらには土壌伝染病、害虫の抑制など多様な効果が期待でき、作物の生育上好ましい現象が生じる事が明らかである。タバコ作との複合経営で労働力の競合が見られる農家もあるが、タバコ作の機械化により労働力の節減に努力している。
 
ウ、マルチ栽培
 調査農家の栽培面積の95%がマルチ栽培である。マルチ栽培の特長として、
 a.植付時期が4月上旬と早い場合、地温上昇と保温による生育促進効果
 b.降雨による土壌の流亡や肥料の流失を防止する効果
 c.水媒による病害の予防効果
 d.雑草防止の効果
 
がある。
 
 なお、資材に関して、再利用、共同購入することでコスト低減ができると考える。
 
エ、多収量品種への転換
 でん粉原料用品種の選定に当たって、農家は先ず収量性、品質、そして機械化適応性を選定の基準に置いている。そのうち収量性については、自然条件の変化や栽培条件の変化に順応できること、早期肥大が望めること、また、品質面からはでん粉の歩留まりが高いこと、さらに挿苗機植え付けに適した苗の生産ができることが重要であると答えている。
 今回の調査農家は県奨励品種「シロユタカ」を3戸が100%、1戸も95%採用していた。
 
オ、種いも生産におけるウイルスフリー苗の使用
 でん粉原料用いもの生産においては、一般的に種いもを用いた伏せ込み育苗を行っている。種いもの条件としては、品種の特性を十分に発揮し、生育が旺盛でいもの形状や大きさの揃いが良いことやウイルス病の発生が少ないなどが挙げられる。このため、翌年産の種いもを生産するのにバイオ苗を購入し鉢上げ苗を育苗床に定植し、そこから採苗した苗で本ぽ定植用を増殖する方法が取られている。当然のことながら、土壌消毒を適切に実践しなければならない。
 

3−3.調査農家の経営上の課題や方向

(1)「でん粉用かんしょ」経営の今後の方向について
 
ア、でん粉用かんしょは、鹿児島県の気象条件や土壌条件に合った畑作作物である。
 今後も経営の柱にすべきである。
 
イ、かんしょ栽培についての機械化は育苗段階を除いてほぼ整備されているので、農地の確保ができれば規模拡大は十分に可能である。
 
ウ、地域での「かんしょ収穫受託組織」が結成できればさらなる規模を拡大が望める。しかし、現状では収穫期間が短く、作業が競合するので組織が結成できない状況である。
 
エ、焼酎ブームが収まり、今後は焼酎メーカーからの需要が減少していくと思われる中で、地域の農家も価格が安定しているでん粉用かんしょに移行していくと思われる。
 
オ、かんしょの経営は家族経営が主体だが、機械が整備されれば、20ヘクタール経営は充分可能である。
 
 
 
 
(2)行政や指導機関等への要望について
 
ア、焼酎用、加工用などに比べ安定した収入が得られるでん粉用かんしょの現行制度を今後も維持、継続してもらいたい。
 
イ、でん粉用かんしょ生産者交付金価格を今後も維持してもらいたい。
 
 県内のかんしょの作付け状況は、昭和38年より減少していたが、平成16年から増え始め、全国第一位の生産面積を誇るようになった。
 4戸の事例を参考にして、地域ごとの農家がさまざまな努力のもと経営安定を図っていくこと、また4戸の農家とともに現行制度の維持を望む。
 
 

4.でん粉用かんしょ農家の今後の経営の方向について

4−1.単収向上のための技術対策

 所得の向上には、単収を上げることが最大のポイントである。
 
 本県における過去の平均収量は表7のとおり2,850キログラムであり、今回の調査農家は単年度ではあるが、3,156キログラムである。
 
 
 
 
  今後、県指標の3,800キログラムを目標に収量を上げる努力を期待したい。単収の向上により単位当たり生産コストが減少し、結果として所得は向上する。そのための要点を整理する。
 
(1)多収量品種への転換
 収量性が高く、でん粉歩留まりが良い県奨励品種シロユタカへの転換が望まれる。
 
(2)茎頂培養苗の利用
 (1)のために極力、種いもを更新することが重要である。自家で対応できないとしても、JAの生産する更新いもの購入で対応できる。
 
(3)植付け時期の検討
 増収のためには、かんしょのほ場期間が長いほど有利である。そのためには、植え付けの早進化と収穫時期をできるだけ伸ばす事で対応できる。
 
(4)マルチ栽培の実践
 4月上旬からの植付けを可能にするためにも、マルチ栽培を実践する。
 また、4月植えは透明マルチを、その後は黒マルチを使用する事を勧める。
 
(5)活着促進への努力
 植付け時の活着を促進するため苗の茎葉水分を抑える対策が必要である。
 そのためには、十分な置苗が必要である。
 
 

4−2.低コスト技術の定着化対策

 低コスト対策がその結果として、農業所得の向上につながることは当然である。
 
 かんしょの生産コストは、用途別に異なり、加工用が最も高く、次いで焼酎用、でん粉用が最も低いとされている。また、肥料費、諸材料費、動力光熱費の占める割合が、いずれの用途も約3〜4割となっている。これらの費目の低減に加え、機械化によるコストの節減についても検討が必要である。
 
 
(1)肥料費の削減
 
ア、有機物施用による土づくり
 家畜たい肥などの有機物施用効果は、腐食を蓄積することによる土壌養分保持力や物理性の改善などの効果をもたらし、肥料費節減につながる。
 
イ、土壌分析に基づく適正な施肥
 土壌分析によって、ほ場の過剰養分や不足養分が明確になり、適正な量の肥料を施すことにより経費節減につながる。
 
ウ、耕畜連携による家畜排せつ物の肥料利用
 畜産部門の導入や有畜農家との連携による、家畜排せつ物の利用は肥料費節減に大きく貢献できる。
 
エ、適期作業や適期管理は農業者として当然であるが、そのことによってて肥料効率が向上し、肥料費の節減につながる。
 
オ、野菜作物との輪作体系を確立することにより、前作の残肥効果による節減効果がみられる場合がある。
 
 
(2)諸材料費の削減
 
 諸材料費のかなりの部分を占めるマルチ資材について、作物の生育に悪影響のない範囲で再利用することによりコスト低減が図れる。
 また、生産者グループでの共同購入によりコスト低減も図られる。
 
 
(3)動力光熱費の削減
 
ア、アイドリングストップ、定格回転数での運転、定期的なメンテナンスの実施による燃費向上対策の実践。
 
イ、農地の集積による移動コストの削減
 このことは、労働時間の短縮にもつながる。
 
 
(4)機械導入による経費節減
 効率的な機械の導入は、大きな投資を伴うが、労力削減につながる。
 
 ただし、減価償却費が発生するので、適正な規模の機械導入が必要である。また、機械導入コストが作業委託コストを下回ることが前提となる。当然、共同利用による各種補助事業の導入も検討する。
 
 

5.今後のでん粉用かんしょ農家の育成の方向について

 耕作放棄地が増えている現状や高齢化が進む中で、でん粉原料用かんしょについては、
 
(1)国の制度により単位当たりの価格が安定している。
(2)でん粉工場との契約取引により流通諸経費が安定している。
(3)出荷調整作業が比較的容易である。
(4)栽培が野菜等と比較し容易である。
(5)機械化体系が確立し、規模拡大が容易である。
(6)気象災害や病害虫に強い。
 
 など、鹿児島県における畑作の主要作物として、経営安定が期待できる品目であるとともに大規模農家の育成が可能な品目である。
 
 今回の調査農家4戸の経営主は全て、でん粉用かんしょの作付拡大が経営安定につながるとしている。
 
 鹿児島県内のかんしょの作付面積は、昭和38年をピークに減少していたが、平成16年から増加し始め、平成19年度は14,000ヘクタールと前年に比べ300ヘクタール増加している。また、全国の生産量の34%を占め、全国第1位の面積となっている。
 
 今後も、地域ごとに用途別の需要に応じた計画的な生産のもと、安定生産、省力化、栽培技術の確立・普及などによるかんしょ農家の所得向上を期待するものである。そのための方向として次の6つの課題の解決を提案する。
 
(1)でん粉工場の安定的な原料確保のために、農家と工場との契約栽培の推進
(2)でん粉専用品種の開発と普及および種いもの更新
(3)かんしょ栽培機械化体系の確立
(4)かんしょ農家の専作型、複合型の経営モデルの実証
(5)大規模農家を中核とした地域かんしょ生産体制の確立
(6)地域耕畜連携の樹立に向けた研究・検討
 
 最後に、4戸の農家全てが要望しているように、でん粉かんしょの現行制度の維持を強く要望し報告を閉じる事とする。
 
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
Tel:03-3583-8713