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ばれいしょでん粉粕の有効利用

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最終更新日:2010年12月27日

ばれいしょでん粉粕の有効利用
〜資源循環型畜産技術の開発に向けて〜

2011年1月号

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
北海道農業研究センター 専門員 村井 勝



【要約】
 年間約10万トンにも達する北海道特産の農産副産物「ばれいしょでん粉粕」については、高水分、貯蔵中のカビ発生、そうか病の伝播等々から、飼料への利用はわずかであった。他方、国の指針として飼料自給率向上や資源循環型農業の振興などが強く叫ばれ、ばれいしょでん粉粕も飼料資源としての利用技術の開発が求められていた。
 こうした状況の中、カビ防止の貯蔵技術、サイレージ調製、乳・肉用牛への給与技術及びそうか病の伝播防止技術について検討し、サイレージ調製による飼料利用がそうか病の伝播抑制に貢献できることなど、一定の成果を得た。
 粉状そうか病での新たな課題の発生がある中、でん粉粕を核とする資源循環型の農業技術システム構築に向け、耕種部門と畜産部門とが共に益する技術という共通の視点を持って取り組んでいくことが、今もっとも大事である。

1.はじめに

 日本国内で、でん粉粕が産生されている地域は、九州と北海道のみである。いずれも原料からでん粉を分離した時に産生する固形残渣物で、九州での原料はかんしょであり、北海道はばれいしょである。しかし、これまではこの副産物に大きな注目もなく、原料イモ集荷圏内で堆肥の資材にして畑地に還元する程度で、つい最近までは飼料としての利用も低いものであった。
 ばれいしょでん粉粕の原料であるばれいしょは、北海道畑作の重要な基幹作物の一つで、全国生産量の約80%(200〜250万トン/年)を占めている。生野菜あるいは加工食品用以外に、でん粉用としては80〜90万トン/年 仕向けられ、ばれいしょでん粉粕が年間9〜10万トン産生されている。でん粉粕の産生は、ばれいしょの収穫期間である9月〜11月の3カ月間であり、季節限定となる。生産地も、大規模畑作地帯の網走と十勝地区に偏り、両地域で全体の95%前後を占めている(図1)。以前は北海道内各地にあったでん粉工場も、安価な輸入でん粉が増えるにつれ、現在は網走および十勝地区の大規模工場に集約されつつある。
 ごく最近まで、ばれいしょでん粉粕は、(ア)高水分(75〜85%)かつ粘土質で扱いづらい(イ)カビが発生し腐敗し易く悪臭が発生する(ウ)そうか病の伝播−等々から、積極的な利用技術の開発が進まず、却って産業廃棄物扱いでの処理方法が検討される、という状況にあった。他方、国の指針として、飼料の自給率向上や、環境保全に配慮した資源循環型農業の振興が強く叫ばれ、ばれいしょでん粉粕も飼料資源としての活用が求められた。そこで、平成16〜18年にわたり農水省プロジェクト予算で集中的な技術開発研究が行われ、その後も新たな病害汚染伝搬防止についての検討が進められている。本稿では、これらの一連の検討成果を紹介するとともに、求められている資源循環型農業技術にはどんな視点が必要か、でん粉粕を核とした畑畜連携の一モデルとして紹介したい。
図1 ばれいしょでん粉粕の地域別資源量
2.ばれいしょでん粉粕の飼料利用に向けての技術開発

(1)飼料としてのでん粉粕の特性

(ア)サイレージ調製素材としての特徴:

 でん粉粕(以後、ばれいしょが原料のでん粉粕を指す)は、水分が80%前後で、乾物当たりでタンパク質4〜6%、でん粉20〜30%、灰分1〜2%、粗脂肪0.5%、繊維成分25〜35%と繊維含量がやや高く、でん粉もかなり含まれている素材である。ただし繊維部分は、磨り潰されて微細で消化性は高い。このような繊維部分とペクチン(10%程度の含有)の存在もあり、高い保水性と粘土質的な物性を呈している。一方、付着している微生物叢は、サイレージ発酵で重要な乳酸菌が105個cfu(注)/g、他にカビおよび酵母も104個cfu/g前後と、気温が高いと腐敗し易い素材である(写真1)。
 (注)cfu:colony forming unit、検査培地上に作られる菌の集落数
写真1 脱水処理後にベルトコンベアーで搬出されたでん粉粕の堆積
(イ)サイレージ発酵の特徴:
 脱気密封したでん粉粕は、常温(20〜25℃)では貯蔵5日後にはpH4.0前後に低下する。一方、低温(5℃)では、貯蔵2週間後でpH4.5、2カ月後に4.0前後に達する。北海道の秋の低温下でも、サイレージ発酵がゆっくり進んで、翌春には良質なサイレージに調製できることが確かめられた。なお、サイレージ発酵が完了したでん粉粕は、原料時の白色気味から飴色気味に変化する(図2、写真2)。
図2 ばれいしょでん粉粕サイレージ調製におけるpHの推移
写真2 良好なサイレージ発酵であるバンカーサイロのでん粉粕
 嫌気貯蔵により乳酸菌が優占し、サイレージ中の有機酸組成は、2/3以上が乳酸で残りは酢酸のみである。なお、低温下では、有機酸産生量は常温の1/3程度と少ないものの、サイレージ品質は非常に良い。

(ウ)でん粉粕の防カビ方法の提案:
 取扱い性・価格・防カビ効果等から、肥料用尿素を防カビ資材として用いて、でん粉粕堆積の表面に散布する方法(表面散布法)と、均一にでん粉粕に混合する方法(均一混合法)の2通りの処理法を提案した。表面散布法は農家の庭先で実行でき、でん粉粕の堆積表面に尿素100g/m2を散布して密封する(図3)。また、均一混合法では、0.5%濃度(添加後の最終農度で)となるよう混合する。ただし、外気温により尿素の分解が左右され、11月以降では10℃以下の低温となり、尿素の分解が緩慢となるが、同時に微生物活性も低下するので、でん粉粕の腐敗は抑えられる。なお、尿素添加では、サイロ開封後のカビ発生も抑制できるので、サイレージ変敗の防止ともなる。
図3 尿素100g/m2表面添加の有無におけるカビ数の推移
(エ)でん粉粕サイレージの給与成績:
 泌乳牛:
でん粉粕は、第一胃内で分解し易く、慣行で給与されるとうもろこしよりも分解速度が早く、可消化養分総量(TDN)は75%前後と、エネルギー価は濃厚飼料に近かった。また、泌乳量35〜40kg/日の乳牛では、給与飼料の10%程度の代替までは、飼料摂取量・乳量・乳成分に影響がなく、圧ぺんとうもろこし2kgの代替として、でん粉粕サイレージ8〜10kg/日が給与できることを示した。
 肉用牛:肉用育成牛(16〜40週齢)では、慣行の穀類主体配合飼料の50%をでん粉粕サイレージに代替しても、増体量・ルーメン内のpH・総VFA(揮発性脂肪酸)濃度に影響はなかった。また、10カ月齢からの肥育では、濃厚飼料の20%をでん粉粕サイレージと代替しても、22カ月齢までの日増体量は0.95kgと慣行区並みだった。この間、でん粉粕サイレージ給与区の飼料摂取量は、慣行区よりやや少ない傾向であった。と体枝肉成績は、慣行肥育区と差はなく、肉質も大差ないものであった。これらの育成・肥育成績から、でん粉粕給与によって、コスト試算で約7万円/頭の飼料費節約を計上できた。

(2)でん粉粕利用におけるばれいしょそうか病の伝播防止技術に向けた成果

(ア)でん粉粕のサイレージ飼料化・給与におけるばれいしょそうか病菌の生残性:

 ばれいしょそうか病汚染の実態調査を行ない、でん粉粕およびでん粉工場排液には、102〜3個cfu/gのそうか病菌が存在していた。各工程でのそうか病菌の消長を調べたところ、そうか病菌が低いpHに弱く、でん粉粕のサイレージ発酵過程では、pHが4近くなると菌数が激減した。また、サイレージ発酵の有機酸(乳酸・酢酸)濃度の増加も、顕著に死滅速度を促進すること、牛の消化管内容液中では、pHが6〜7の第一胃液では死滅しないが、pHが2前後の十二指腸では30分以内に死滅することが判明した(表1)。
表1 ジャガイモそうか病菌の消化管内での生残性
(イ)ばれいしょ栽培圃場への家畜糞還元とばれいしょそうか病菌の動態:
 そうか病菌を混和した飼料、そうか病罹病イモで調製したでん粉粕を牛に給与しても、糞からそうか病菌の検出はなかった。一方、生でん粉粕の土壌施用では、栽培ばれいしょの約50%が発病したのに対し、pHが4前後に低下したサイレージのでん粉粕では、発病はなかった。また、家畜糞尿のスラリー貯留中でのそうか病菌は、スラリー温度が25〜38℃では1〜2週間後、4℃では2カ月後には死滅した。さらに50℃以上の堆肥発酵熱曝露では、そうか病菌は5日前後で死滅することが確認された。

(ウ)でん粉工場排液におけるばれいしょそうか病菌伝播の防止技術:
 でん粉製造排液を牛糞尿スラリーに50%混合し、その混合原料を家畜糞尿用バイオガスプラントに投入しても発酵阻害を起こすことなく、通常時のようにメタン生成が持続した。でん粉製造排液中に含まれるそうか病菌は、排液の嫌気発酵処理により死滅すること、同時に処理液の臭気も未処理に比べると1/20に低下することも確認した。

3.でん粉粕利用技術の開発に向けてのポイントは?

 副産物を利用するに当たっては、新たな高付加価値が見出されない限りは、燃料代・電気代・大きな施設等を必要としない、如何にコストをかけずに容易に有用資源化するかが重要である。今回のでん粉粕のサイレージ調製による畜産的利用は、この条件に適った技術であるとともに、副産物を出す側(畑作)にも有益なプラス効果をもたらす技術でもある(図4)。
図4 でん粉粕の飼料利用による資源循環型畜産技術の開発
得られた成果の共通の要件は、「ばれいしょそうか病の伝播防止が出来る」にあった。この要件は、ばれいしょの生産性に直結し、畑作輪作としても大きな問題である。しかし、畜産側にとっては、ばれいしょそうか病自体は生産性に何ら影響しないものである。でん粉粕の飼料および給与特性のみが重要で、上述の得られた(1)の成果だけで充分である。このように、互いの生産性のみを追求した技術開発である限りでは、なかなか畑作−畜産相互に有益である技術は、開発されない。今回、道立の畜産試験場・十勝農業試験場の研究が功を奏して、サイレージ調製・給与・家畜糞尿処理という畜産技術の中では、ばれいしょそうか病菌は容易に死滅できることが明らかにされ、そうか病伝播拡大の危険性が非常に小さいことを実証した。この成果は、でん粉粕のサイレージ調製による飼料利用が、ばれいしょの重要病害ばれいしょそうか病の伝播抑制に貢献できることを示したと言える(図5)。
図5 ジャガイモそうか病菌のフリー化ステップ
 これまでは、でん粉原料ばれいしょ生産農家がでん粉粕を引き取り、自家圃場への堆肥還元とするケースが多く、そうか病原菌の圃場密度は、決して低下することがなかったはずである。本格的なそうか病の伝播拡大防止を図るためには、汚染圃場の清浄化が必要であるが、相当な費用負担が生じるはずであるし、場合によってはばれいしょ生産のストップさえも考えられる。ドラスチックで高コストな清浄化・菌撲滅の方法ではなく、現状の生産体制を維持しながら、なおかつ低コストで病害菌の蔓延を抑制・縮小させる方法が望まれるところであり、今回の成果はこの要件に応える実例となるものである。また、処理に苦慮していたでん粉工場排液も、バイオガスプラント(家畜糞尿+汚水等による嫌気発酵装置)を利用した嫌気発酵により、そうか病菌が発酵過程で死滅することも見出されており、ばれいしょそうか病の伝播の危惧なく、バイオエネルギー、液状肥料源として利用できることが明らかになった。
 ヒト・物・生物(特に微生物)の国を超えた広域的移動が頻繁である現在、完璧な病害菌の汚染防止はなかなか至難の業である。現実的な対処の一つとして、まずは現状の汚染地域の拡大を防止する方法(作物の耐病性付与、病害菌除染資材の開発、耕畜連携技術の開発等)を探し出して、生産を持続させるということがあると思われ、今回の事例はそのような方向での取り組みの一つとして、耕畜連携技術の開発により、一方で有用副産物として利用しながら、他方で病害菌の汚染抑制ができることを実証した、と言える(図6)。
図6 期待されるでん粉粕を「核」とした畑畜連携
4.でん粉粕を核として資源循環に向けての普及・定着化と課題は?

 プロジェクトの成果が出始めた頃、従来から引き続いていた自給飼料資源の開発(エコフィードの利用、飼料イネ等)や資源循環型畜産の推進が喧伝される中、折からの輸入飼料の高騰もあり、足下の自給飼料源への関心が高まっていた。北海道でも農業普及部門・農協・個人の酪農家から、でん粉粕の飼料利用技術への要望が出ていた時期であり、プロジェクトはタイムリーに応える事が出来たと言える。輸入飼料の価格高騰や輸入への不安感から、畜産経営者では自給飼料の確保が経営的に重要な事項となりつつあり、その流れは現在も続いている。そのため最近は、でん粉工場に対してもでん粉粕の引き取りの希望が多く、時にはその希望量に応えられない工場もあるくらいである。確実にでん粉粕の飼料利用は、特殊な事例ではなくなって、乳・肉用牛に給与される飼料としての認知が進んでいる。十勝・網走周辺は酪農家・肉牛生産者も多く、でん粉粕飼料利用も、ほとんどがこの地域である。近隣の畑作農家へのそうか病汚染拡大防止への関心は高くなっており、その点でも互いの共通事項(そうか病伝搬防止、病害抑制、安価な自給飼料の確保)として、共有されつつあるように思う。なお、紹介した成績は、いずれも北海道の農業技術の開発・普及を検討する会議に提出して、技術参考情報として農業改良普及所等に配付されている。
 一方、そうか病伝播の問題はクリア出来たが、新たに粉状そうか病がばれいしょ生産上、新規のウイルス病媒介菌として大きく取り上げられる新事態が生じており、この菌の伝播防止が緊急の課題となっている。でん粉粕の飼料利用でも、この点を配慮して大々的な普及技術とはせずに、地域毎、個別的に進めている。現在、粉状そうか病菌のため、でん粉粕給与家畜の糞・堆肥等の畑地への還元を停止している状況にあり(草地には可)、伝播防止に向けた研究が精力的に進められている。このような現状ではあるが、でん粉粕を挟んで、耕種部門と畜産部門が同じ土俵上にあり、資源循環型の農業技術システム構築に向けての意識は、確かに高まっているものと評価できる。

5.おわりに

 本来、畜産と耕種は競合するものではなく、畜産が成立するのは人間が直接利用できない植物性バイオマスの利用である。すなわち、草であり、耕種副産物であり、耕種の余剰穀類、人間の余剰食品・残飯等が飼料となるのが、畜産の姿そのものである。人間の食料生産では、耕種が可能な土地では、耕種の生産性の向上・維持が優先されると考えると、副産物利用技術の開発でも、耕種の生産性を阻害しないということが大変重要である事が判る。この当たり前のような事が、「効率」の優先によりこれまで脇に追いやられてきたが、このことを前提にした技術開発がなによりも大事であり、それが技術開発を考える出発点・基点となる。
 これからの農業技術は、その分野だけで有効というのではなく、他の分野との相補的関係(地域農業としての生産性を高める)が重要となり、地域システムにとって有用な「技術」が技術であるという時代に向かいつつあり、技術開発者自身の意識変革が最も早急に求められていると考える。

【参考成績資料】
1)北海道立畜産試験場(2007):でん粉粕中に存在するジャガイモそうか病菌の飼料利用場面における動態、北海道農業試験会議・成績資料.
2)北海道立畜産試験場、南十勝農産加工農業協同組合連合会(2007):溶液噴霧によるでん粉粕への飼料養分添加法、北海道農業試験会議・成績資料.
3)北海道農業研究センター(2007):でん粉粕の飼料特性評価に基づく泌乳牛への給与法、北海道農業試験会議・成績資料.
4)北海道立畜産試験場、帯広畜産大学(2007):尿素添加によるでん粉粕のカビ抑制技術および肉用牛への給与法、北海道農業試験会議・成績資料.
5)北海道立根釧農業試験場(2007):でん粉製造排液のバイオガスプラントによる嫌気発酵利用、北海道農業試験会議・成績資料.
6)北海道農業研究センター(2007):バレイショデンプン粕サイレージの特徴、新しい畜産技術―近未来編―(畜産技術協会).

 なお本文は、農林水産省プロジェクト研究「高度化事業」1605における研究の成果を元としており、参画機関(北海道農業研究センター、道立畜産試験場、道立根釧農業試験場、道立十勝農業試験場、南十勝農産加工協同組合連合会、帯広畜産大学)、協力機関・生産者等々(十勝中部地区農業改良普及センター等)に謝意を表します。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
Tel:03-3583-8713