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新しい低温糊化性でん粉品種「こなみずき」の特性

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最終更新日:2011年4月8日

新しい低温糊化性でん粉品種「こなみずき」の特性

2011年4月

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター 
サツマイモ育種研究チーム 主任研究員 片山 健二

【要約】

 サツマイモでん粉の食品への用途を拡大するため、低温糊化性でん粉を含む原料用新品種「こなみずき」を育成した。でん粉収量は一般的な原料用品種と同程度で、そのでん粉は耐老化性や高分解性といった特徴も有することから、食品の品質保持期間を伸ばす効果が期待される。

1.はじめに

 日本におけるでん粉原料用サツマイモの消費量は、1965年頃の最盛期にはサツマイモの用途の中で第1位を占めていたが、安価な輸入でん粉の増加に伴い減少を続け、2005年以降は生食用、焼酎原料用に次ぐ第3位にまで減少している1)

 サツマイモでん粉は、ジャガイモでん粉に比べて固有の用途が少なく、日本ではその約9割が異性化糖などの糖化用に使われ、他に菓子類、春雨などの食品用がある程度である。またその利用範囲は限られており、コスト面では安価な輸入でん粉に対する競争力がない。そこで、新たな用途の開発と生産コストの低減が重要な課題となっている。

 2002年に通常のサツマイモでん粉より20℃程度低い温度で糊化するでん粉を含む青果用品種「クイックスイート」が育成された2)。この低温糊化性でん粉は、糊化したでん粉ゲルが離水・硬化などの老化現象を生じにくい(耐老化性)、生のでん粉粒が消化酵素の分解を受けやすい(高分解性)などの特徴を示すことから3)4)、サツマイモでん粉の付加価値を高め、食品向けのでん粉需要の拡大に繋がるものとして注目されてきた。しかし、「クイックスイート」は青果用のため、でん粉原料用として利用する際には、でん粉収量が低い、萌芽性やでん粉白度が劣るといった問題点が多く、低温糊化性でん粉を含むでん粉原料用品種の育成が緊急の課題となっていた。

 今回新たに育成した品種「こなみずき」は、標準のでん粉原料用品種「シロユタカ」と同程度のでん粉収量を示し、病虫害抵抗性に優れ、「クイックスイート」と同様の低温糊化性と耐老化性を示すでん粉を含む。サツマイモでん粉の糖化製品以外の用途拡大を振興している農水省生産局は、本品種の2010年度からの普及を促すため、「砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律」の交付金対象品種リストに本品種を登録し、鹿児島県で普及が図られることとなったので、その育成の経過や特性などについて紹介する。

2.育成の経過

 「こなみずき」は、低温糊化性でん粉を含む「99L04−3」を母、高でん粉・多収の「九系236」を父とする交配組合せから選抜した品種である。2003年に育成地である九州沖縄農業研究センターで交配採種を行い、2007年に「九州159号」の系統名を付け、関係各県の農業試験場にも配布して試験を進めてきた。その結果、「こなみずき」は「シロユタカ」と同程度のでん粉収量を示し、病虫害抵抗性に優れ、そのでん粉は低温糊化性で耐老化性に優れることが明らかとなった。このため、2010年に品種名「こなみずき」として品種登録申請を行った。

3.特性の概要

 「こなみずき」の主要特性を表1に示した。
 
 

(1)地上部および地下部の特性

 圃場における草型はやや匍匐型(平らに広がるタイプ)、茎の長さは中、太さは中である。茎と節における紫の着色は無である。頂葉色は淡緑、葉色は緑、葉形は心臓形、葉の大きさは中である。葉脈および蜜腺における紫の着色は無である(図1)。
 
 
 しょ梗(いものなり首)の長さは中、強さはやや弱である。いもの形状は長紡錘形、いもの揃いはやや整、大きさはやや大である。いもの条溝(縦の溝)は微、裂開(表皮の割れ)は無、皮脈は無で、外観は中である。いもの皮色は白、肉色も白である(図2)。
 
 

(2)萌芽性、収量性および病虫害抵抗性

 萌芽の遅速はやや速、萌芽揃いの整否は中、萌芽伸長の遅速はやや速、萌芽の多少はやや多で、萌芽性はやや良と判定した。

 育成地の標準無マルチ栽培における上いも収量は「クイックスイート」を上回り、「シロユタカ」と同程度である。いもの切干歩合(乾物率)、でん粉歩留は「シロユタカ」や「クイックスイート」より1〜2%程度高い。単位面積当たりのでん粉収量は「クイックスイート」を上回り、「シロユタカ」と同程度である。長期透明マルチ栽培では「シロユタカ」の上いも収量、でん粉収量を下回るが、「クイックスイート」より多収である。

 晩植無マルチ栽培では、でん粉歩留が約3%、でん粉収量が11%「コガネセンガン」を上回り、晩植栽培適性はやや高い。早掘透明マルチ栽培では、上いも収量、でん粉収量ともに17%「コガネセンガン」より低く、早掘栽培適性は低い。

 サツマイモネコブセンチュウ抵抗性は強、ミナミネグサレセンチュウ抵抗性はやや強、黒斑病抵抗性はやや強で、病虫害抵抗性に優れる。いもの貯蔵性は中である。

(3)品質特性およびでん粉特性

 蒸しいもの肉質はやや粘質で、食味は中である。

 「こなみずき」のでん粉特性を表2に示した。でん粉白度は「シロユタカ」よりやや低く、「クイックスイート」よりやや高い。でん粉の糊化特性をみると、糊化開始温度は「シロユタカ」より約20℃程度低く、「クイックスイート」並の低温糊化性を示す。最高粘度は「クイックスイート」より高く、「シロユタカ」と同程度である。でん粉の老化性をみると、冷蔵保存中のでん粉ゲルの離水率や硬度は「シロユタカ」より大幅に低く、「クイックスイート」と同程度の耐老化性を示す。

 アミロース含量は「シロユタカ」や「クイックスイート」と大差はない。生でん粉粒の消化性でん粉含量は、「シロユタカ」より高く、「クイックスイート」と同程度の高分解性を示す。また、アミロペクチンの側鎖長分布をみると、「クイックスイート」と同様に一般のサツマイモでん粉に比べて、グルコースの重合度が6〜10の短い側鎖が多く、アミロペクチンの構造変異を示すとともに、でん粉粒は中心部に亀裂のある特殊な形態を示す(図3)。これらの変異が、でん粉粒が糊化・分解しやすい原因であると考えられる。また、でん粉が糊化する際には、比較的低い温度から十分に糊化してゲルの保水性が増すため、老化しにくいと考えられる。
 
 
 
 

4.栽培および利用についての留意点

 「こなみずき」は南九州のかんしょ作地帯での栽培に適する。栽培に当たっては、以下の3点に留意する必要がある。(ア)高温時に収穫したいもは傷みやすく、早掘栽培では減収しやすいので、早掘栽培は避ける。(イ)長期マルチ栽培では収量性が「シロユタカ」に劣る。(ウ)いもの形状が長くなりやすく、掘取の際にいもが切れたり折れたりしやすいので、注意する。

 「こなみずき」のでん粉は、天然のままで優れた耐老化性を示すことから、食品の品質保持期間を伸ばす老化防止剤としての利用が期待される。わらび餅、葛餅、ごま豆腐、ケーキなどの生菓子類、めん類、水産練り製品などの食品への利用が期待されている。

5.おわりに

 「こなみずき」の品種名は、冷蔵保存したでん粉ゲルが長くみずみずしさを保つことができる耐老化性でん粉を含むサツマイモ品種であることを示している。近年、気候変動による不作や新興国の需要拡大に伴い、世界的に食料の供給不足が懸念されており、食料品やその原料の国際価格が高騰している。でん粉も今後同様の状況が続くと考えられ、日本国内でのでん粉供給体制の強化が求められる。本品種がこうした体制の強化や国内のでん粉産業の発展、および地域農業の活性化に貢献できることを期待している。

引用文献

1)農林水産省生産局特産振興課,「いも類に関する資料」,平成20年3月
2)片山健二ら,サツマイモ新品種「クイックスイート」,作物研究所研究報告, 3, 35-52, 2003.
3)K. Katayama et al. , Starch properties of new sweet potato lines having low pasting temperature, Starch/Starke, 56, 563-569, 2004.
4)K. Kitahara et al. , Physicochemical properties of sweetpotato starches with different gelatinization temperatures, Starch/Starke, 57, 473-479, 2005.
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