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バレイショの現状と可能性

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最終更新日:2012年3月9日

バレイショの現状と可能性

2012年3月

筑波大学 遺伝子実験センター 教授 渡邉 和男

世界と日本の生産と需要の概況

 バレイショの用途は、一般食用、加工食品用、でん粉等原料用、種イモ及び飼料と世界的に幅広い。2008年FAO統計によると、世界総生産量は、約3億1400万トン、栽培面積は世界全体で、約1800万haとなっている。バレイショ生産量は、発展途上国において過去30年間増加してきている。これに対し、ドイツ、ポーランド、ロシア、米国等の先進主要生産国での生産量は減少傾向にある。大量生産国は、中国5700万トン、ロシア2900万トン、インド3500万トン、米国1900万トンとなっている。発展途上国の平均収量は10〜20t/haで多くても先進国の半分くらいである。一方、メキシコのような新興国においては単位面積あたりの収量の増加が貢献して過去20年の間に国内生産量を3倍に上げてきている。生産力の増加要因には、優良な種イモや高収量性品種の育成などがあるが、発展途上国においては、栽培知見の充実も大きく貢献している。また、需要が大きく伸びてきている事が、生産量の増加につながっている。世界的に、加工食品としての人気が高まっていることやでん粉由来の工業原料としての多用途化が需要増に拍車をかけている。

 日本では、2009〜2010年統計(注1)によるとバレイショは輸入原料も総じて、年間340万トン程度の消費がある。一般食用(青果流通)は22%、加工食品用は20%、でん粉用35%、 種イモ6%程度の比率で消費されている。青果流通は、年間70〜80万トン程度の利用があり、これはすべて国産である。家庭での調理の簡素化により、年々減少傾向にある。加工用については、ポテトチップス、フライドポテト、惣菜、サラダなどの用途があるが、国産バレイショの使用割合は、加工食品全体での40%程度であり、年々輸入材料に移行している傾向がある。一方、外食産業での加工食品は、利用が若干ながら増加する傾向がある。でん粉原料用ばれいしょの需要量は、年間100万トン程度で推移しているが、北米、欧州やアジア諸国からの加工でん粉等が安価な原料として輸入される傾向があり、国産品の比率は減少しており、ばれいしょでん粉の年間の生産量は20〜25万トン程度となっている。

 国産バレイショについては、約8万3000ha栽培され、収穫量は約250万トン程度である。自給率は約70%と年々減少傾向にある(注1)。北海道での夏作が主体で、作付面積の65%及び収量としては約80%を占める。他主要生産地は、長崎県(10万トン程度)、鹿児島県(8万トン程度)、茨城県(4万トン程度)などがある。青果用は、1月くらいから沖縄をはじめとして、奄美大島、鹿児島、長崎から本州へ生産地が北上していき、北海道の8〜9月収穫を頂点に南下していく。青果用は周年異なる生産地から供給されている。平均収量は約30t/haであり、日本は世界トップクラスの生産性を持っていると考えられる。粗生産額は約1200億円、輸入量は生イモ換算で約90万tである。今後国産バレイショの生産量は、高価な生産単価と安価な海外加工産物の影響で減少していく可能性が高い。青果用は、植物検疫上の理由で、需要は国産に依存しなければならないので、急激な減少はないと考えられるが、消費者での利用程度に大きく左右することになる。でん粉等の工業原料の需要は減っている訳ではなく、再生可能資源として、アルコール、プラスチック等工業原料への加工など幅広い可能性がある。しかし、国際的には、トウモロコシやキャッサバ等由来の原料との価格競争が大きな課題点である。

バレイショの育種

 生産技術は頭打ちの状態であり、生産コスト削減のために栽培資材等の使用制限もあり、高収量を確保するためには育種に多くの投資をせざるを得ない。育種による収量の飛躍的な向上の可能性はあるが、生産者・消費者の要求に合うものを目指す必要が当然ある。

 バレイショの植物学的特性としては、他殖性、栄養体繁殖かつ同質4倍体であること等が挙げられる。基礎遺伝学的な情報は揃っているが、イネ等穀類とは異なる複雑な遺伝的特性から品種改良は容易ではなかった。多数の実生を展開し、 選抜する確率論を基礎とする育種が行われてきた。育種の形質の供給源として、病虫害抵抗性や環境ストレス耐性は、近縁野生種を利用することができる。

 バレイショの遺伝資源は多様である。近縁種の地理的分布は、北米の中西部から南米のチリまで幅広い。気候的にも、南米の海岸砂漠、アリゾナやメキシコの乾燥地帯から、アンデスの熱帯高地、アマゾン上流の亜熱帯地域と多様な生息域を持っている。分類学者にもよるが、2倍性から6倍性まで約200種存在する。これらに関し、倍数性進化(注2)、交雑(注3)、自家不和合性(注4)等の研究もなされている。野生種の利用に関しては、交雑の成否や特定形質の導入における関連遺伝子の所在等でDNAマーカーを指標とした選抜ができるようになってきている。これにより、育種に用意すべき実生集団の大きさの特定と精度の高い系統選抜ができるようになってきており、育種の推進に役立っている。

科学技術の進展

 バレイショの遺伝子情報の基礎となる塩基配列(ゲノム)が解明されたとの報告が国際科学雑誌のNature2011年7月14日号に掲載されている。これでバレイショの遺伝子の機能がすべてわかったわけではないが、今後バレイショの生理や作物としての能力に関わる多様な情報が得られていくことになる。前述の報告では、塊茎形成に関わる機構に作用する遺伝子群について、光や植物ホルモンの相互調整により塊茎形成されることが体系的に整理された。でん粉性状改変のための遺伝子群の情報も解明されつつあり、これら遺伝子の操作により工業加工せずに原料を適正な形質にすることも将来的には可能と考えられる。また、バレイショ疫病の抵抗性に関連する遺伝子群が整理され、抵抗性の進化についても解明されつつあることが紹介された。バレイショ品種改良を行う上で、求める多様な形質の一部が栽培品種や近縁野生種にない場合や収量等の形質が複雑な遺伝様式である場合、往々にして選抜が難しくなりがちだが、上記ゲノム研究をベースとしてDNAマーカーが改良され、多様な形質を選抜することが可能になってきている。

 既存の遺伝資源に存在しない耐冷性や耐塩性などの環境ストレス耐性や光合成促進による高収量性などは、遺伝子組換え操作で可能である。遺伝子組換え操作で、でん粉組成の改変や糖化形質の調整も容易にできる。バレイショでは、形質転換による遺伝子導入は技術的に容易であるが、遺伝子組換え体の社会受容が大きな課題となっている。本分野の技術利用では、農業先進国とは比較にならず、ブラジル、中国、インド等海外中進国と比べても日本の遺伝子組換え体利用は遅れており、今後さらなる経験や技術利用格差が生じる可能性がある。

可能性と挑戦

 産業原理としては、安価な材料が安定供給されれば、営利的な継続性が担保される。よって、原料の由来は、輸入で良い事になる。一方、作物の工業原料転用が、世界的な潮流としてある。国際的に、でん粉原料等の需要の伸びや供給の変動はここ数年激しく変化しており、国内産業においても、原料確保は、重篤な課題になっていく可能性がある。原料及び食料安全保障の観点からは生産の振興が必要と考えられる。これを実現していく上では「じゃがいもMiNi白書(http://www.jrt.gr.jp/mini/pmini012.html)」に掲載されている「我が国の『じゃがいも』に関する施策と今後の課題」も参考になろう。

 また、高付加価値有体物としての高品質種イモの輸出、産地及び種イモブランド化による知財蓄積、新品種の海外での利用による知財による利益取得などの案件は早急に対応できる事項と考えられる。特に、過去において日本で育成された品種が海外で成功した南米でのデジマ等の例があり、 国内の生産確保とともに、海外への種イモ等の輸出の挑戦はバレイショ生産の振興に資する取り組みと考えられる。
(注1)資料は下記による。
    日本語サイト http://www.jrt.gr.jp/
            http://www.geocities.jp/a5ama/
     英語サイト http://www.geohive.com/charts/ag_potato.aspx

(注2)倍数性進化:ゲノムの数が変わることにより、新しい種ができるような進化。

(注3)交雑:遺伝子組成の異なる2個体間の交配。

(注4)自家不和合性:近親交配を避けるために植物が自己・非自己を認識して同一個体や遺伝的に近い個体の花粉で受精しない性質。
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