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アメリカのトウモロコシをめぐる事情

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最終更新日:2012年4月10日

アメリカのトウモロコシをめぐる事情〜エタノール用途を焦点とする需給動向を中心に〜

2012年4月

財団法人日本農業研究所 客員研究員 服部 信司

はじめに:アメリカからのトウモロコシ輸入とでん粉用途

 わが国の年間トウモロコシ使用量は約1630万トン(2007〜10年度平均)。その大部分をアメリカからの輸入によっている。1630万トンのうち、飼料用が1170万トン、でん粉用途を中心とする飼料用以外が460万トンである。

 1630万トンの大部分をアメリカに依存しているということは、飼料用トウモロコシ、でん粉用トウモロコシの価格がアメリカのトウモロコシ需給によって大きく影響されるものであることを意味する。これは、07〜08年の輸入トウモロコシ価格の高騰→畜産飼料価格の高騰として記憶に新しいところである。

1 最近のアメリカのトウモロコシ需給の特徴

(1)価格

 価格が上昇に転じる前=2005年のトウモロコシ農場販売価格は、1ブッシェル(25.4kg)2.1ドルであった。価格の高騰が始まった2007年から2011年の5年間平均のトウモロコシ価格は同4.23ドル(注1)、高騰以前の2.1倍である。07年以降、価格の高騰状態が構造化している。


(2)エタノール用途の激増

 こうした価格高騰とそれが持続している背景には、大量のトウモロコシ(生産量の40%:1億2000万トン以上)がエタノール生産に使用されるに至っている事態がある。

 2005/06年度(2005年9月→06年8月)におけるトウモロコシのエタノール向け使用量は4040万トン、生産量2億8000万トンの14%であった。以降、エタノール向け使用量は激増し、2010/11年度には05/06年度の3倍の1億2750万トン、生産量3億1600万トンの40%に至る。その結果、穀物需給の内容が食料需給から食料・エネルギー需給へ変化し、食料需給が構造的にタイト化しているわけである。そこから、価格高騰が持続してきた。

2 エタノール用途激増の背景

 このようにトウモロコシのエタノール向け使用が激増した背景には、次の4点がある。

(1)原油価格の上昇

 長い間(1980年台後半から90年代を通して)原油価格は1バレル(42ガロン、約160リットル)10ドル台、アメリカのガソリン価格は1ガロン(約3.8リットル)1ドル前後であった。これが、2001〜03年には原油価格20ドル台(ガソリン価格1.3〜1.5ドル台)、05年50ドル(同2.3ドル)、07年67ドル(同2.8ドル)へと上昇してきた。06年におけるエタノールの生産コストは1.3ドル/ガロン(注2)とされていたから、ガソリン価格が1.5ドル/ガロンを超えた時点(2003年)から、エタノール生産が着実に拡大し始めたのである。


(2)燃料促進剤としての使用拡大

 アメリカは、1990年「改正大気清浄化法」によって、ニューヨークなどの大都市に、ガソリンの燃焼を向上させ一酸化炭素の排出を抑制するために、大気汚染の激しい季節に酸素を含有した改質ガソリンを使用することを92年から義務づけた。エタノールは、このために用いられた。さらに、エタノールとは別に改質剤として用いられていたMTBE(注3)が地下水汚染を引き起こすとされたことから、2005年以降、ガソリン改質材としてのエタノールの使用が急拡大した。


(3)再生燃料使用基準の導入:2005年エネルギー政策法、07年エネルギー自立・保障法

 ブッシュ政権は、2005年9月に「エネルギー政策法」を成立させた。安全保障上の観点から中東〜海外への原油・エネルギー依存を引き下げるためにエネルギー自給化政策を進めるとし、その要として「再生燃料使用基準量」(Renewable Fuels Standard: RFS)を設定したのである。

 RFSというのは、2006年から2012年に至る毎年、一定量の再生燃料(エタノール)をガソリンに混合して用いることを、ガソリン流通業者=給油会社に義務づけたもの。それは、2006年の40億ガロン(1520万KL)→12年75億ガロン(2850万KL)とされた。

 さらに2007年12月、「エタノール自立・保障法」が成立し、再生燃料使用基準量を倍増させた。2008年に54億ガロンであった使用基準量は90億ガロンに、2012年の75億ガロンは152億ガロン(トウモロコシからのエタノールで132億ガロン)に引き上げられたのである。

3 最近のバイオエタノールをめぐる動き

(1)税控除の廃止

 2011年12月をもって、エタノールへのガロン45セントの税控除、バイオディーゼルに対するガロン1ドルの税控除が廃止された。厳しい財政赤字削減の要請のなかで取られた措置である。ただし、エタノール生産は、原油価格が1バレル60ドルならば、税控除による補助なしでほぼ採算がとれるとされる(注4)から、原油価格が90ドルを超す現状では、税控除の影響は決定的なものではない。


(2)セルロースからの再生燃料基準量の大幅な下方修正

 2007年「エネルギー自立法」において、トウモロコシ以外のものから作られるバイオ燃料(先進バイオ燃料、セルロース系とバイオディーゼルが含まれる)の中心として考えられていたセルロースからのバイオ燃料は、技術的に容易ではないことから、その基準量が大幅に引き下げられた。2011年の当初基準は2.5億ガロンであったが660万ガロンに、2012年の5億ガロンは865万ガロンになった(表1)。
 
 
(3)バイオディーゼルについての基準量の設定

 2009年以降バイオディーゼルついての基準量が設定された。2009年5億ガロン、2011年8億ガロン(エタノール換算12億ガロン)、2012年10億ガロン(同15億ガロン)である。

 2012年においてバイオディーゼルで15億ガロン(エタノール換算)の供給があったとしても、なお先進バイオ燃料の基準量20億ガロンとの間には5億ガロンの差が残る。その差は、ブラジルなどからのサトウキビ由来のエタノールで補う見通しとされている。


(4)2001年以降の車モデル:E15(エタノール15%混入)可とする

 これまでアメリカ環境保護庁は、ガソリンへのエタノール混入を10%に制限してきた。E10である。しかし、2011年1月、2001年以降の車モデルは15%混入が可とした。該当車は登録車2億5420万台の62%に及ぶ(注5)。事実上、E15が可能となったのである。

 ただし、E15が事実上普及していくには、小売段階におけるエタノール給油設備の整備、エタノール貯蔵庫の設置、輸送体制の確立等の課題がクリアーされていく必要がある。このことは、仮にE15が法定されても、エタノール消費・生産の急拡大にはつながらず、緩やかな拡大となることを含意する。

4 2015年のトウモロコシ需給予測

 E15となった場合、200億ガロンのバイオ燃料が混入されることになる(注6)。200億ガロンは、2015年の再生燃料使用基準量205億ガロンとほぼ同じである。E15に必要な200億ガロンの再生燃料が必要となると考えられる2015年のトウモロコシ需給はどのように見通せるのか、ということである。


(1)エタノール向けトウモロコシ使用の増大量

1)トウモロコシ使用量が15年使用基準量の場合とほぼ同じ場合(表2−(b))
 2010年のエタノール生産量は132億ガロン、同年度のエタノール向けトウモロコシ使用量は1億2750万トンであった。この関係を前提にすれば、2015年の通常バイオ燃料使用基準量150億ガロンに対応するトウモロコシ使用量は1億4200万トン、2010年からの増大量は1450万トンとなる。

2)トウモロコシ使用量が15年基準量の場合を20億ガロン相当量上回る場合(表2−(c))
 仮にE15が決定され、先進バイオ燃料55億ガロンのうち20億ガロンがバイオディーゼルの拡大やブラジルなどからのサトウキビエタノールの輸入によっても満たされず、通常バイオ燃料(トウモロコシ由来)によって満たされる場合には、エタノール生産量は170億ガロン、必要トウモロコシ量は1億6380万トンとなる。増大量は3630万トンである。
 
 
(2)予測生産量

1)単収
 2009〜11年の平均単収は9.83トン/ha、2002〜04年平均9.16トン(表3)。7年間で0.67トン(7.3%)、年約0.1トン(1%)の増大である。これに基づけば、2015年の単収は10.31トン/haと予測し得る(表4)。
 
 
 
 
2)生産量
 2015年の収穫面積をアメリカ農務省の予測収穫面積8280万エーカ(注7)=3312万haとすれば、予測生産量は3億4147万トン(10.31×3312)となる。現行(2009〜11年平均)3億2090万トンから2060万トンの増大になる。


(3)需給ギャップの程度とその埋め方

1) 2015年のエタノール生産量が15年使用基準量と同水準ならば、必要トウモロコシの増大は1450万トンであり、生産量の増大2060万トンでカバーし得る。トウモロコシ価格は現行の価格変動内で基本的に推移すると考えられる。  

2)通常バイオ燃料の使用量が使用基準150億ガロンを20億ガロン上回って170億ガロンになり、必要トウモロコシの増大が3630万トンになった場合には、現行の体制を前提にした生産量の増大2060万トンとの間に、1570万トンの差が生ずる。

 この差は、(輸出の削減や在庫の削減で対応しない限り)面積の拡大でカバーする以外にない。それは、可能か。

 現在、農地を休ませる制度である保全留保計画(CRP)に1250万haの農地が入っている。このうち、「持続的な生産方法でトウモロコシ〜大豆生産に復帰し得るのは、170〜280万ha」(注8)とされる。仮に、220万ha(CRP面積の18%)が復帰しトウモロコシ生産にあてられれば、その単収を通常の7割としても1590万トンの生産が可能となる(220×10.3×0.7=1590)。上述の差:1570万トンはカバーされ得ることになる。

 昨年11月における次期農業法の検討において、上院・下院両農業委員長は、保全留保面積を750万エーカー(300万ha)削減することを含む案を取りまとめた。CRPの削減は現実的根拠を持っている。

 とすれば、仮に、2015年の通常バイオ燃料の使用量が基準量を20億ガロン(13%)上回る事態になっても、基本的に現行体制のなかで対応し得ることになる。価格も現行の価格変動内で基本的に推移し得ると考えられる。

 わが国の飼料向けトウモロコシ、でん粉向けトウモロコシも、同様の価格変動内に置かれると考えていいのである。



注1)USDA(アメリカ農務省)、Agricultural Statistical Indicator, Dec. 2011, ほか。
注2)アイオワ州立大学経済学部、R. ウイズナー(Wisnor)教授,2006年9月。
注3)2011年前半に提起されたグラッスレイ上院議員(共和、アイオワ州)の提案によれば、原油価格が60ドル以上の場合は、補助は不要とされていた。これに基づく。
注4)MTBE:メタノール、イソブテンを原料として製造されるガソリンのオクタン価向上剤。水に溶けやすい性質をもつ。
注5)R. Schnepf, Agriculture Based Bio-Fuels, Jan. 2012, CRS R-4128,
注6)同上。
注7)USDA, Agricultural Projection to 2021. Feb. 2012.
注8)前アメリカ農務省チーフエコノミスト、K. コリンズ(Collins)、2006年9月6日。
このページに掲載されている情報の発信元
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