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加工でん粉の機能性と食品・繊維加工への利用

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最終更新日:2012年6月11日

加工でん粉の機能性と食品・繊維加工への利用

2012年6月

日澱化學株式会社 研究開発室長 中島 徹
 

【要約】

 でん粉は、加熱して吸水膨潤させた後も粒子形状のままで用いられることがあります。食品の麺類では、小麦粉に添加された加工でん粉の吸水膨潤した粒子の粘弾性が麺の食感を改良します。揚げ物では、膨潤抑制処理でん粉を油脂加工したものを衣材として用いると、種と衣の結着性や食感が向上します。工業用途の繊維加工では、紡績糸やガラスフィラメント同士を接着した後に、分離する工程があります。分離するときの抵抗値を小さくし、糸の風合いを柔らかくするのに架橋でん粉が有効です。合成樹脂には無い粒子形状に起因するこれらの機能を中心に述べます。

1.食品への加工でん粉の利用

1−1.麺類への利用

 うどんや中華麺では小麦粉の特性が重要ですが、麺の粘弾性については小麦粉の成分の約90%を占めるでん粉の性質が大きく反映されます。

 図1は未加工の各種でん粉10%水分散液を沸騰水浴中で加熱糊化し、70〜75℃でレオメーター(静的粘弾性測定装置)を用いて測定した糊液物性です。小麦粉のでん粉であるコムギでん粉に比べ、ワキシーコーンスターチ、ばれいしょでん粉、タピオカでん粉はいずれも粘弾性に富んだ特性を有しており、これらを小麦粉に配合すると麺の粘弾性付与に有効であることを示唆しています。

 その一方、未加工でん粉は、加熱直後には良好な粘弾性を有するものの、冷えて時間が経つとでん粉の老化が進行して粘弾性が低下し、おいしいとは言いにくい食感の麺となります。ゆで麺、ロングライフ麺、チルド麺や冷凍麺などでは避けることのできない問題です。
 
 
 図2はタピオカでん粉の加工後の糊液物性変化をイメージとして表した図です。その程度にもよりますが、でん粉粒子の膨潤を抑える架橋処理(注1)を行うと、硬さ・弾力が強くなり粘性が減少します。また、エーテル化(注1)やエステル化(注1)を行うと、硬さ・弾力が減少し、粘性が増大します。これらの加工を組み合わせると、適度な硬さと粘弾性を持たせることが可能となります。
 
 
 エーテル化の一種であるヒドロキシプロピル化やエステル化の一種であるアセチル化は、でん粉の老化性を改善します。特にヒドロキシプロピル化でん粉は耐老化性に優れているため、小麦粉に配合することによりロングライフ麺やチルド麺においても粘弾性の低下を防ぎ、長期保存中の麺の食感の劣化を低減します。さらに、加工でん粉を配合するとゆで時間などの加熱時間が短縮され、エネルギーコストを削減できます1)

 麺に使用される加工でん粉は、その物性や価格面で優れるタピオカでん粉の加工品(アセチル化、ヒドロキシプロピル化、およびそれらの架橋処理品)がほとんどで、小麦粉への配合量は5〜35%です。

1−2.揚げ物用衣材への利用

 揚げ物用衣材として、油脂加工でん粉(注2)が主体で小麦粉を用いないバッター(衣材に水を加えて調製した粘性のある液)が使用されていますが、二価の不飽和脂肪酸含量が多いサフラワー油、大豆油などで油脂加工したものでは、種と衣の結着性は満足できるものではありませんでした。

 この問題は、エゴマ油などの三価以上の不飽和脂肪酸含量が多い食用油脂を用いて、膨潤抑制でん粉を油脂加工することによって解決されました。これをバッターに用いると、ピックル液(注3)をインジェクション(注入)した肉、ハムカツ類、魚介類などのように結着しにくい種も良好に結着することができます2)

 油脂加工するでん粉として、架橋処理や湿熱処理により膨潤抑制したでん粉を用いると、バッターや種から出る水分の抜けが良くなるため、衣の膨れや剥がれがなく外観が良好で食感の優れた揚げ物が得られます。

2.繊維加工への加工でん粉の利用

2−1.紡績糸のたて糸糊付

 日本の繊維製造業は、新興国の追い上げに対抗するため、超高速織機のエアジェットルーム(Air Jet Loom:AJL)(注4)や高性能糊付機の導入などの技術革新を行いました。加工でん粉は、AJLの製織効率を上げる要因となるたて糸切れ数の減少に貢献しました。

 たて糸糊付用糊剤としてポリビニルアルコール(Polyvinyl Alcohol:PVA)を用いると、柔軟性のある皮膜が糸表面層に形成され、糸が屈曲・引張り・摩擦を受けたときの糸の耐久性が向上しますが、織機上でのたて糸切れ数は、PVA単独の糊剤よりもでん粉を混合した糊剤を使用するほうが少なくなります(図3)。
 
 
 紡績糸は多本数・高密度でたて糸糊付を行うため、隣接する糸同士が接着されますが、乾燥工程で一本ずつに分離(デバイド)します。このとき、糸表面の繊維が絡んだ糊の被膜を引裂いて糸を分離しますが、PVA皮膜は強くて柔軟性があり引き裂きにくく、無理に裂くと繊維を傷めて毛羽けばを引き起します。ところが、硬くて脆い皮膜物性を有するでん粉を配合すると、引裂き強度が低下してスムーズに糸を分離することができます3)(図4)。デバイド抵抗を下げ、たて糸の損傷を減らすには、架橋でん粉のほうがコーンスターチよりも効果があります。
 また、高速糊付時にたて糸へ均一に浸透し、乾燥エネルギーを低減するためには、糊の高濃度低粘度化が必要です。この糊処方としては、物性の優れた高分子量(高粘度)PVAと粘度の低い酸化でん粉(注5)の組合せが好ましいのですが、PVAと酸化でん粉は相分離(注6)しやすいので、保管中に分離しないよう強く攪拌することが必要な上に、均一な糊付がしにくいという問題がありました。

 この問題は、PVAとの相溶性(注7)に優れたアクリル酸グラフト共重合酸化でん粉(注8)によって解決されました。低粘性で作業性に優れた糊によって欠点の少ない均一な糊付糸が得られ、AJLの製織効率が著しく向上しました4)。

2−2.ガラス繊維用集束剤

 東京ドームの屋根の内側の素材は、フッ素樹脂コーティングしたガラス繊維織物(ガラスクロス)です。エアドーム用ガラス繊維(ヤーン)の開発に当たっては、加工でん粉の利用がキーポイントとなりました5)

 図5に示す膜材の製造工程を順に説明します。 

紡糸:数百本のフィラメントを紡糸ノズルより引き出し、でん粉や油を塗布し集束して管に巻取り、ケーキと呼ばれる加工用のガラス繊維の集合体ができるまでの工程。 
撚り:ケーキを適度に乾燥し、ケーキの外側より糸口を取り出して撚糸機で撚を掛けながら乾燥し、ボビンに巻き取る工程。
織り、ヒートクリーニング:ヤーンを2次サイジングしたて糸とし、AJLの圧縮空気でよこ糸を搬送してガラスクロスを織り、ガラスクロス中のでん粉と油を焼却除去する工程。

 その後、樹脂コーティング、裁断を経て膜材となります。
 現在、加工でん粉を集束剤として製造されるヤーンはプリント基板(Printed Circuit Board:PCB)(注9)用の需要が多く、加工でん粉の選択は重要なノウハウとなっています。加工でん粉が使用されるのは、撚糸工程でケーキから糸を剥がすときの抵抗が小さくてフィラメント切れが生じにくいことや、空気で搬送しやすい(飛走性が良い)柔らかいヤーン(よこ糸用)が得られるためです。

 PCB用ヤーンには、皮膜形成能に優れ、皮膜が強くて柔軟性に富むヒドロキシプロピル化したハイアミロースコーンスターチ(注10)が主に用いられています。この加工品は集束力が強く、良好なたて糸用ヤーンを得ることができますが、よこ糸用としては硬めで、飛走性が悪くなる傾向があります。また、ヒドロキシプロピル化と同時に低粘度化したものは、溶解性が高くでん粉粒子があまり残らず、かつ低粘性であるため、湿潤したケーキ中で移行し付着ムラが生じやすくなります。

 このようなヤーンの硬さの調整や、乾燥前のケーキ中の集束剤の移行性を調整するために、粒子形状が残る加工でん粉を併用しています6)

 また、ヒートクリーニング処理で集束剤を焼却除去しますが、加工でん粉の不快臭が無く燃焼しやすいという機能も評価されています。

3.終りに

 今回、紙面の都合上限られた事例しか紹介できませんでしたが、食品加工分野ではユーザーの要求に応じ、様々な機能性を有する食品用加工でん粉を日々開発しています。  一方、工業分野でも、加工でん粉を合成樹脂と併用する検討や脱合成樹脂の検討を行っており、「たかがでん粉されどでん粉」という評価を得ています。様々な分野で、加工でん粉を積極的に検討して頂くことを期待しています。

参考文献

1)特公昭63−3572(特許第1375849号)
2)特許第4442801号
3)中島徹:繊維機械学会誌(繊維工学)Vol. 47,No. 9(1994)
4)特許第3224160号
5)中村和雄:化学と生物Vol. 26,No. 9(1988)
6)特許第3949746号


(注1)でん粉を構成するグルコースには反応できる水酸基を3個有している。この水酸基に官能基を導入、付加したものをでん粉誘導体といい、官能基がエーテル結合(でん粉の水酸基の水素原子がアルキル基などで置換)で付加されたものをエーテル化でん粉、エステル結合(でん粉の水酸基と無機酸、有機酸が脱水結合)で付加されたものをエステル化でん粉、2ヶ所以上のでん粉の水酸基間に橋かけ状に多官能基で結合(エステル結合とエーテル結合がある)したものを架橋でん粉という。エーテル化・エステル化によりでん粉粒子は膨潤・溶解しやすくなり、架橋により膨潤しにくくなる。

(注2)微量の油脂類をでん粉に混合し、加熱処理(乾燥)したものを油脂加工でん粉といい、撥水性、乳化性、ゲル強度、吸水性、などに特性を有する。

(注3)トンカツ肉用のピックル液は、少量の食塩、リン酸塩(結着補強材)、ゲル化材、調味料、シーズニングなどを溶かした調味液であり、短時間で均一に行うために、ピックル液を原料肉に注入する(ピックルインジェクション)。

(注4)糸表面とノズルから噴射された空気流との摩擦抵抗によりよこ糸入れをする織機で、従来の杼(シャトル)を用いないので、高速運転が可能である。また、よこ糸はボビンから連続的に送られるので、杼替や管巻機構は不要であり、よこ打機構もなく低騒音である。

(注5)でん粉を次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤で処理したものを酸化でん粉といい、分子内にカルボキシル基(-COOH)とカルボニル基(-CO)の生成とともに低分子化(低粘度化)が生じ、でん粉粒子は溶解しやすくなる。

(注6)2種類の高分子の混合物の場合、互いに混じり合わない(相分離)場合と、互いに溶解する(相溶する)場合とがある。高分子溶液は分子間相互作用の効果で相分離しやすいといわれている。

(注7)2種類または多種類の物質が相互に親和性を有し、溶液または混和物を形成する性質を相溶性という。

(注8)幹ポリマー(高分子)に他種のポリマーを枝のように結合させたものは、接ぎ木(グラフト)のようであるからグラフト共重合体(graft copolymer)という。アクリル酸グラフト共重合酸化でん粉は、幹ポリマーが酸化でん粉で、枝ポリマーがポリアクリル酸であり、酸化でん粉の存在下、アクリル酸を重合して得られる。

(注9)機械的強度、耐熱性、電気絶縁性に優れたガラスクロスを重ねエポキシ樹脂を含浸した絶縁基板上に導体配線でプリント回路を形成した電子部品を搭載するための土台をプリント基枝といい電気製品の主要な部品のひとつ。

(注10)通常のデントコーンから得られるコーンスターチに比べてアミロース含量が多く、アミロース含量により等級分けされている。食物繊維などの食品用途および接着用途など工業用の特殊用途向けに利用される。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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