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でん粉利用におけるかんしょでん粉の特性と用途についての一考

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最終更新日:2012年7月10日

でん粉利用におけるかんしょでん粉の特性と用途についての一考

2012年7月

日本澱粉工業株式会社 開発研究部機能素材開発グループ 吉元 寧
 


【要約】

 かんしょは強い生命力で人類を危機から救ってきた。昨今、その主要用途の一つであるかんしょでん粉が大きな岐路に立たされている。事業に関連する従事者が一丸となって、その存在価値を高める努力が必要である。その効果的打開策は新たな用途開発であり、現在様々な取り組みが進行中である。本稿では、かんしょでん粉の一般的性質を示すと同時に、食品利用における可能性について紹介する。

1.はじめに

 かんしょでん粉の用途拡大と生産コスト低減を目的として、新規でん粉原料用品種「こなみずき」が九州沖縄農業研究センターから創出された1)。「こなみずき」が有するでん粉の性質は、これまでのかんしょでん粉のものとは大きく異なる。天然でん粉であるにも関わらず、低温糊化や耐老化性といった非常に興味深い特徴を有している。これらの特性を生かした用途開発を筆頭に、栽培面からでん粉製造まで含めた実用化に向けた取り組みが現在進行中である。その成果が生産者をはじめとする南九州地域でのかんしょでん粉事業活性化に寄与することを期待して止まない。

 一方、従来のかんしょでん粉も急速に変貌を遂げている。高品質化に向けた国の支援策2)や同時乾燥方式導入などかんしょでん粉製造事業者の取り組みによって、従来のイメージ(低白度、独特の臭い)が払拭されつつある。しかしながら、その需要はコーンスターチやばれいしょでん粉の動向に強く左右される。そのため、品質、価格、物流を考慮した実需者/消費者目線での用途開発はかんしょでん粉事業の直近の課題である。

 ここで、弊社についてこの場を借りて説明させて頂くと、かんしょでん粉製造事業者とその実需者(糖化メーカー)としての側面を併せ持つ。現在、製造時でのかんしょでん粉の品質向上に向けて取り組むと同時に、用途拡大についても検討を行っている。本稿では、かんしょでん粉の一般的性質を含め、主に実需者の観点から食品用途としての可能性や現状について紹介する。

2.かんしょでん粉の一般的性質

 かんしょでん粉は、ばれいしょでん粉やタピオカでん粉と並んで地下茎でん粉と称される。その形状を顕微鏡下でみると、ツリガネ形や円形、多角形のものなど形の異なるでん粉粒が認められる(図1)。また、粒径にも幅がありその範囲は2〜30μm以上である。平均粒径はかんしょでん粉では14.1μmでタピオカでん粉と同じ値を示したが、ばれいしょでん粉の約1/3(38.8μm)であった。さらに、かんしょでん粉の粒度分布はタピオカでん粉と類似していたものの、大粒(>30μm)の割合においてばれいしょでん粉と顕著な相違が認められた(図1)。

 次に、用途の観点からかんしょでん粉の特徴を他の植物種由来(地上系でん粉も含めて)のものと比較してまとめた(図2)。でん粉が糊になる温度(糊化開始温度)はコーンスターチや小麦でん粉に比べて低いが、タピオカやばれいしょでん粉よりは高く、中間の順位であった。粘度は地上系でん粉の特徴(高粘度)を示したが、テクスチャーや機械耐性、老化性、ゲル化特性はどちらかというと小麦でん粉やコーンスターチに近い性質を示した。これらの結果を総じると、かんしょでん粉はとうもろこしや小麦でん粉などの地上系でん粉とタピオカやばれいしょでん粉の中間的な性質を持つといえる。
 
 
 
 

3.かんしょでん粉の用途

1)糖化製品用原料

 かんしょでん粉はそのほとんどが糖化製品用原料として使用される。限られた用途ではあるが、そこでの利点や可能性を見出すこともかんしょでん粉のアピールであり、用途拡大に向けた取り組みの一つと捉えることが出来る。一般的な糖化工程を図3に示した。最初に、でん粉懸濁液を調製し(でん粉乳)、それらを加熱することで糊液にする。同時にα-アミラーゼを加え液化液を調製する(液化工程)。次いで、液化液にグルコアミラーゼを添加し、でん粉の最小構成単位であるぶどう糖にまで分解する(糖化工程)。この糖化液を精製後、濃縮または結晶化することでぶどう糖製品が得られる。一方、ぶどう糖精製液に異性化酵素(グルコースイソメラーゼ)を作用させると、ぶどう糖の約半分は果糖に変化する。これらを精製/濃縮またはクロマト分離することで果糖含量が異なる異性化糖が製造される。他方、でん粉分解の最終産物はぶどう糖であるが、その中間産物として粉飴や水飴があげられる。水飴は古くから菓子原料として親しまれており、麦芽糖を多く含むというイメージを持つ方が多いのではないかと思われる。しかし、昨今では糖化や液化をコントロールすることで、様々な糖組成のものが作られている。これらは多様な性質を持つことから従来の菓子類用途にとどまらず、幅広い分野で用いられ、近年消費が伸びている。現在、これら粉飴や水飴は主にコーンスターチやタピオカでん粉を原料としているが、かんしょでん粉を用いてさらには糖化/液化条件を工夫することで、従来のものとは性質が異なる製品が出来るかもしれない。原料の供給など問題点があるものの、ぜひ検討してみたい課題である。また、かんしょでん粉から製造した糖化製品は全て純国産であり、製品または素材における一つの訴求ポイントとなりうる。加えて、製品から原料かんしょへのトレーサビリティーシステムが構築されれば消費者が求める安心・安全の食の提供に貢献できる。
 
 

2)直接利用(食品用途)

 かんしょでん粉はわらび餅などの和菓子や各種豆腐類(ごま豆腐、呉豆腐、落花生豆腐)に用いられている。これらの食品は、かんしょでん粉のゲル化特性を利用したものである。また、一部はえびせんべいなどのスナック菓子や水産練り製品でも使用されているが、これらにはかんしょでん粉以外のでん粉も使用される。多くの場で述べられているように、かんしょでん粉活性化のためには、新規用途開発は緊急の課題である。

 用途開発では、種々の試験を行い、得られた結果から可能性を例示する方法もあるが、一方で顧客からの情報(イメージ)をもとに新規用途開発(商品開発)が行われる場合もある。平成19年度に農畜産業振興機構が食品メーカーを対象に行ったでん粉の需要実態調査4)によれば、そこで実需者がかんしょでん粉に抱いているイメージは「安価であるが品質が悪い」というものであった。しかし、これは言い換えると品質が向上すれば実需者に採用してもらえる可能性があるともいえよう。先にも述べたように、国の支援策やでん粉製造事業者独自の取り組みなどによって、その品質は年々向上している。その後行われた同様の調査におけるかんしょでん粉についての結果を見ると、一部ではあるが「においの問題もなく品質が向上した」とする意見もあった5)。とは言うものの、かんしょでん粉の食品分野での用途開発はようやく評価の土俵にあがったばかりである。評価して頂くと同時に、顧客(実需者)ひいては消費者の目線に立った用途開発に取り組んでいかなければならないと痛感している。かんしょでん粉はその性質の観点では「中間的な性質で特徴がない」と言われている。これまではネガティブな捉え方をされがちであったが、オールラウンド(応用範囲の広い)な素材とも捉えることが出来る。価格面や安定供給などの課題は残されているが、ばれいしょでん粉や輸入でん粉と品質面において競争出来る製品となってきており、今後の発展に期待したい。

4.おわりに

 かんしょでん粉を取り巻く環境は厳しいものであり、転換期に立たされている。かんしょでん粉事業は生産者、でん粉製造事業者、実需者が一体となってはじめて成り立つものである。各々が抱える問題点/課題点を共通のものとして捉え、一丸となって克服することが現状打破に繋がるものと考える。また、産学官の関係についても同様である。互いの連携がより一層深まり、最終的にはかんしょでん粉の新たな用途開発が実現されることを期待している。かんしょでん粉事業に関わる者として、その活性化に微力ではあるが尽力していきたい。


1)片山健二、新しい低温糊化性でん粉品種「こなみずき」の特性、でん粉情報、2011年4月号
2)稲村勝久、かんしょでん粉の高品質化に向けた取り組みへの支援について、でん粉情報、2011年10月号
3)日本スターチ・糖化工業会、異性化糖について(2)、砂糖類情報、2004年8月号
4)農畜産業振興機構 調査情報部 調査課、でん粉の需要実態調査の概要、でん粉情報、2008年7月号
5)農畜産業振興機構 調査情報部、平成22年度でん粉の需要実態調査の概要、でん粉情報、2011年5月号
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713