でん粉 でん粉分野の各種業務の情報、情報誌「でん粉情報」の記事、統計資料など

ホーム > でん粉 > 生産現場の優良事例など > かんしょでん粉品質向上に関する取り組み

かんしょでん粉品質向上に関する取り組み

印刷ページ

最終更新日:2013年5月10日

かんしょでん粉品質向上に関する取り組み

2013年5月

日本澱粉工業株式会社 井上 真吾 

【要約】

 糖化用より付加価値の高い食品用としてのかんしょでん粉は、微生物品質や異物の有無、製品白度(でん粉の白さを表す規格=タンパク質などの不純物が少ない)が重要な品質となる。そこで、当社は以下に示す各項目について製造工程の調査・改善を行い、品質向上を図った。

(1)微生物対策として、系外からの混入リスク低減や増殖対策
(2)異物対策として、製造工程のクローズ化や運転担当者への教育
(3)製品白度については、精製工程や不純物除去工程の運転方法の見直しや工程改善

 このような対策などを行った結果、食品用に適した品質のかんしょでん粉の製造ができた。
  

1.はじめに

 かんしょから抽出されるでん粉は、その多くがブドウ糖や水飴などの糖化用の原料として使用されている。一方で、食品用(和菓子や春雨など)としても一部使用されており、糖化用より付加価値のある製品として流通している。今後の安定した需要の確保や産地の収益性を向上させるために、食品用への転換が必要となる。そこで、付加価値の高い食品用かんしょでん粉を製造するために、『原理・原則』に基づいた工程改善を実施した。今回は、その内容について紹介する。 

2.改善内容

2−1 微生物対策

 微生物の基本的な対策は、『持ち込まない』・『増殖させない』・『発生させない』ことであり、4M(原料:Material、機械:Machine、人:Man、方法:Method)の観点から『なぜなぜ分析』を行うとともに、要因解析を行った。 

(1)系外からの『持ち込み』
 土壌菌が付着した原料芋や微生物を含む工程水(水道水に適した井戸水を使用)から微生物が持ち込まれていることが明らかとなった。それに対し工程水については、水道水中の残留塩素と同程度の次亜塩素酸ナトリウムを使用し殺菌した。
 
(2)系内での『増殖・発生』
 工場立ち下げ時の系内の残液、また配管や空タンク壁面に付着したでん粉が微生物の汚染源となっていた(一晩で、100〜1000倍に増殖)。そこで、工場の立ち下げ時はタンクに澱乳を残さない、タンク・配管は必ず水洗浄する、ことを基準化し実施した。また、同時乾燥が出来る能力の乾燥機を導入し、微生物の増殖対策を行った。更に、でん粉工場は、原料芋の収穫時期にあわせた稼働(9〜11月)であるため、操業開始前には、工場全体をライン洗浄機やピグ(注)を用いて洗浄・殺菌した。
 
(注)ピグとは配管内部の汚れをかき出す玉(スポンジ状の樹脂)のこと。ピグをポンプ圧(水)で配管内部に流し、汚れをかき出して洗浄する。ピグには硬さや形状が数種類あり、配管材質に合わせて選択する。 
写真1
写真2

2−2 異物対策

 微生物対策同様に解析を行い、開放したタンクやコンクリート槽が土・砂・金属片・毛髪などの混入に繋がることが明らかとなったため、開放したタンクには蓋を設置し、屋外のコンクリート槽は密閉したタンクに変更することで、工程のクローズ化を図った(材質はステンレス)。 
写真3
写真4
 また、現場担当者の異物対策への意識の向上を図るために、社内の教育施設でISO9001、FSSC22000に則った教育、建屋内への持ち込み禁止項目の掲示、工具などの整理整頓、建屋入口に手洗い場の設置を行った。特に、異物除去に重要な篩やマグネットの点検を基準化することで、管理を徹底した。 
写真5

2−3 製品白度の向上(不純物の除去)

 製品白度を向上するには、でん粉中の不純物の除去が重要となる。工程としては、精製工程と不純物分離工程があり、各工程でタンパク質や微細粕、でん粉以外の芋由来成分の凝集物(以下、凝集物)をでん粉との比重の違いで分離する。 
図1
写真6
(1)精製工程
 精製工程では、遠心分離機(ノズルセパレーター)を用いて、タンパク質や微細粕などを分離する(でん粉(重)>不純物(軽))。遠心分離機で効率的に不純物を除去するには、安定した濃度の澱乳を供給することが重要である。そこで、前工程の不安定要因に対して、原料庫の構造や水路の幅・傾斜の改善、精製工程のタンク容量の増加、精製液のでん粉濃度を一定に調整するシステムの導入を実施することで、でん粉濃度を安定させ、精製工程の安定につなげた。
 
(2)不純物分離工程
 不純物分離工程では、タンクに澱乳を貯留し自然沈降後、凝集物を比重分離する。比重分離では、自然沈降時間や分離する量が品質に大きく影響するが、約3カ月の操業期間で条件検討し、品質向上につなげるのは難しいと考えた。そこで、操業開始前に検討項目を絞るため、実験室で条件の検討を行った。結果、自然沈降時間は長過ぎても短過ぎても分離効率が悪くなることが分かった。これらの事前検討結果を実機の運転条件に反映した。
 
写真7

3.まとめ

 食品用のでん粉は、微生物や異物の有無、製品白度などの品質も重要であることから、『原理・原則』に基づいた工程改善を実施した。各項目の改善の結果、製造直後で食品用に適した品質のかんしょでん粉製品を製造することができた。今後は本社工場で取り組んでいるFSSC22000(食品安全マネジメントシステム)を応用し、工程の改善や管理を実施することで、より安心・安全な製品の提供に努めていきたい。 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713