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2011年における世界のでん粉需給動向

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最終更新日:2013年7月10日

2011年における世界のでん粉需給動向〜天然でん粉と化工でん粉について〜

2013年7月

調査情報部

【要約】

●2011年の世界の天然でん粉生産量(製品重量ベース)は、コーンスターチ1576万トン、タピオカでん粉790万トン、ばれいしょでん粉150万トン、小麦でん粉135万トンであった。また、デキストリンを含む化工でん粉の生産量は、767万トンであった。

●経済発展と人口増加により需要が堅調なアジアが、2011年の世界のでん粉消費をけん引した。2012年以降も、引き続き堅調に推移するアジアと景気回復が見込まれる欧米の需要増により、消費量は増加することが予測される。

●2011年の世界のでん粉輸出は、EUの天候不順によるばれいしょ減産から、EU産ばれいしょでん粉は減少し、キャッサバ害虫被害からの回復によりタイ産タピオカでん粉は増加した。

●2012年以降のでん粉需給動向を見通すにあたり、EU共通農業政策(CAP)の見直し、EUタイ自由貿易協定、中国の需給動向と政策に注視する必要がある。

1.はじめに

 でん粉は、地理的条件や気候などに応じて、トウモロコシ、小麦、コメ、キャッサバ、かんしょ、ばれいしょ、ヤシなどさまざまな原料作物から生産され、天然でん粉といわれる。天然でん粉を加工し、生産された糖化製品、発酵製品、化工でん粉などが流通している。

 近年、コーンスターチ、タピオカでん粉、化工でん粉の需要が堅調に推移する中、天候不順による原料供給の減少から需給がひっ迫し、価格が上昇した。2012年に入っても、米国および黒海地域の干ばつの影響により穀物価格が高騰し、価格は高水準で推移している。でん粉輸入国である我が国にとって、世界のでん粉需給動向が注目されるところである。

 そこで本稿では、世界の主要な天然でん粉(コーンスターチ、タピオカでん粉、ばれいしょでん粉、小麦でん粉)およびデキストリンを含む化工でん粉について、2011年の生産状況と今後の消費見通しについて、英国の調査会社LMC社の報告に基づき紹介する。

 なお、本稿中の数値については、すべて製品重量ベースである。

2.天然でん粉

(1)コーンスターチ

 コーンスターチは天然でん粉の中で最も生産量が多く、2011年の世界の生産量は1576万トン(前年比2.4%増)と増加した。このうち、アジアは1131万トン(同3.8%増)と、生産量全体の7割以上を占めている。特に東アジアの生産量はアジアの生産量の8割以上を占めており、毎年約2パーセントずつ増加している。次いで、北アメリカが前年とほぼ同水準の242万トン(同0.3%増)、ヨーロッパは130万トン(同4.0%減)であった。

 2011年の消費量は、生産量と同様にアジアが1132万トン(同3.4%増)と最も多く、コーンスターチ最大の消費地域となっている。世界で一番消費量の多い国は中国で年間850万トンと、アジア全体の消費量の7割以上を占めた。次いで、北アメリカが230万トン、ヨーロッパが127万トンとなった。ヨーロッパでは、景気後退に伴い、製紙業など工業向けの需要が減少した。

 ヨーロッパ、北アメリカのコーンスターチの需要は飽和状態にあるものの、アジア、アフリカ、南アメリカでは今後も需要の増加が見込まれており、2012年以降の消費量は毎年3パーセント増の見通しとなっている。
 
 アジアでは需要の増加を反映し、2011年は前年に引き続きコーンスターチ純輸入地域(純輸入量5,600トン)となった。ただし、純輸入量は、4年ぶりに純輸入地域となった前年から大幅に減少(約9割減)した。これは、インドネシアのコーンスターチ生産量が23万9000トン(前年と比べ5倍増)と大幅に増加したことが要因の一つとなっている。アジアで最も輸出量の多い国は中国で、主な輸出相手国はインドネシア、マレーシア、フィリピンである。
 
(2)タピオカでん粉

 タピオカでん粉は天然でん粉の中でコーンスターチの次に生産量が多く、2011年の生産量は790万トン(前年比3.8%増)であった。このうち、アジアが723万トン(同3.9%増)と生産量全体の9割以上を占めており、次いで、南アメリカの54万トン(同3.4%増)、アフリカの13万トン(同4.9%増)となった。主要生産国の一つであるタイでは、2008年に発生したキャッサバの害虫コナカイガラムシの被害により単収が著しく低下したことで、タピオカでん粉の生産量は減少した。その後、害虫発生の抑制からキャッサバ生産量は回復し、タピオカでん粉生産量も回復している。

 2011年の消費量は、アジアが709万トン(同3.8%増)と最も多く、次いで南アメリカの55万トン(同3.0%増)、アフリカの15万トン(同4.1%増)となっている。インドネシア(200万トン)、タイ(190万トン)、中国(160万トン)の3か国における消費量は、アジア全体の消費量の77パーセントを占める。これらの国では、人口の増加に伴い、消費量も増加傾向で推移している。

 アジア以外の地域におけるタピオカでん粉の需要は、ほぼ横ばいで推移しているが、アジアの需要は依然堅調と見込まれていることから、2012年以降の消費量は増加の見通しである。
 
 2011年のアジアの純輸出量は13万9千トン(同9.5%増)となった。今後、アジアの経済成長は、2000年以降の10年間に比べ鈍化との見通しもあるが、東南アジアにおけるタピオカでん粉の安定供給が確保できれば、他の天然でん粉よりも価格優位性があるため、引き続き、タピオカでん粉市場の成長が見込まれる。

 EUでは、タイ産タピオカでん粉について1万トン、タイ産以外について1万500トンの関税割当数量を設定しており、この関税割当内の輸入はトン当たり66ユーロ、割当外の輸入には同166ユーロの課説が課せられている。
 
(3)ばれいしょでん粉

 ばれいしょでん粉の2011年の世界の生産量は、150万トン(前年比6.7%減)であった。ヨーロッパの生産量が最も多く、全体の約6割を占め、99万トン(同21.4%減)であった。次いで、アジアの44万トン(同56.5%増)、北アメリカの7万トン(同12.9%増)となっている。EUでは、2011年は、2009年と同じく天候不順により、生産量はさらに7万トン少ない量となった。

 2008年のEU共通農業政策(CAP)の見直しにより、EUでは2012年6月末で生産割当制度やでん粉用ばれいしょの最低保証価格制度は廃止された。このため、長期的にみると、EUのばれいしょでん粉産業は縮小との見方があるが、自由化により産業は活性化するとの見方もあり、2012年以降の生産見通しは不透明である。一部地域の農家では、ばれいしょやばれいしょでん粉の生産意欲が減退していることから、でん粉企業は農家に対し、ばれいしょの作付に対するインセンティブを提供している。

 2011年の消費量は、ヨーロッパが68万トン(同4.6%減)と最も多く、次いで、62万トン(同8.0%減)でアジアが続き、次いで北アメリカの16万トン(同1.9%減)となっている。

 景気が回復基調にあるヨーロッパ、経済成長が著しいアジアにおいて、でん粉の需要の増加が見込まれており、2012年以降の消費量は、増加傾向で推移する見込みである。
 
 輸出されるばれいしょでん粉の約9割はEU産である。2011年のEU輸出量は、原料の減産により70万トン(同31.4%減)減少した。主な輸出相手国は北米6万3千トン(同5.8%減)、韓国4万7000トン(同1.3%減)、中国4万3千トン(同75.7%減)、台湾1万5千トン(同68.8%減)、日本1万5千トン(同21.6%減)とアジア地域が主となっている。中国向け輸出については、中国政府が、国内ばれいしょでん粉産業の保護の目的で、2011年5月からEU産ばれいしょでん粉に対して相殺関税措置を発動したため、大幅に減少した。
 
(4)小麦でん粉

 小麦でん粉の2011年の世界の生産量は、135万トン(前年比0.8%増)であった。ばれいしょでん粉同様に、ヨーロッパの生産が最も多く、全体の約6割を占める76万トン(同3.2%減)であった。次いで、アジアの38万トン(同8.4%増)、北アメリカの10万トン(前年同)となっている。EUの主な生産国は、ドイツ、フランスであるが、近年ではリトアニアの生産量が増加しており、EU域内への輸出を拡大させている。

 2011年の消費量は、ヨーロッパが76万トン(同2.2%減)と最も多く、次いでアジアの41万トン(同3.8%増)、北アメリカの9万トン(同1.1%増)となっている。コーンスターチと同様に、ヨーロッパでは工業向けの需要が減少したため、2011年のヨーロッパにおける小麦でん粉消費量は減少した。一方、2008年の経済危機以降、食肉の中で割安な鶏肉消費が増加したEUでは、たん白質含量の高い飼料用小麦の需要が増加したことから、フランス、ドイツの小麦でん粉の国内価格は、コーンスターチと同水準にまで高騰した。
 
 アジア地域の需要は、引き続き堅調と見込まれている。このうち、中国市場においては、でん粉需要が拡大しているものの、工業向けのでん粉原料はトウモロコシであることから、著しく増加することはないと見込まれる。

 アジアでの需要が増加する中で、ヨーロッパ(純輸出量4,000トン)、北アメリカ(同1万トン)、オセアニア(同3万2000トン)が小麦でん粉の純輸出地域となっている。EUでは、主にポーランド、フィンランド、オランダ向けに輸出しているリトアニアの台頭が顕著であり、2011年輸出量は10万トンを超えた。
 
 

3.デキストリンを含む化工でん粉

 2011年のデキストリンを含む化工でん粉の世界全体の生産量は、767万トン(前年比2.3%増)であった。このうち、アジアが300万トン(同7.8%増)で最も多く、次いで、北アメリカの233万トン(同0.8%増)、ヨーロッパの196万トン(同2.5%減)となった。

 2011年の消費については、アジアが313万トン(同5.2%増)と最も多く、次いで、北アメリカの209万トン(同2.1%減)、ヨーロッパの191万トン(同2.0%増)となっている。北アメリカでは景気が回復基調にあるものの、製紙業など工業向けの需要が回復しておらず、消費量は減少した。2012年以降は、これら需要の回復が予想されることから、毎年1パーセント程度の増加が見込まれている。

 一方、アジアにおける需要は、毎年6パーセント前後増加し、アジア以外の地域における2012年以降の化工でん粉の需要も、毎年僅かながら増加が見込まれている。
 
 2011年のデキストリンを含む化工でん粉輸出量は、339万トン(同7.8%増)となった。このうち、ヨーロッパ52パーセント、アジア32パーセント、北アメリカ14パーセントを占めており、主な輸出国はタイ、オランダ、米国、フランス、ドイツである。これら5カ国で全体の輸出量の7割以上を占めている。EUは域内向け、タイは日本と中国向け、米国はカナダ、メキシコ、日本向け輸出がほとんどとなっている。
 
 

4.おわりに

 2008年のリーマンショックに端を発した景気後退後も世界のでん粉需要は、中国をはじめとしたアジアにおいて引き続き堅調であり、今後も増加が見込まれている。しかしながら、干ばつ、天候不順、害虫被害などによる原料作物の不作やEUのばれいしょでん粉生産割当、最低保証価格の廃止による影響など、今後のでん粉原料の安定供給が懸念される。

 今後の世界のでん粉需給においては、交渉を開始したEUとタイの自由貿易協定の動向、中国の需給動向と政策に注視する必要がある。これらの動きが世界のでん粉需給に大きな影響を与える要因となる。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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