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地域だより

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最終更新日:2013年8月8日

鹿児島県農業開発総合センター 平成25年度研究成果発表会「さつまいもを生かす」の開催について

2013年8月

鹿児島事務所 丸吉 裕子
 


  平成25年7月5日(金)、かごしま県民交流センターで、鹿児島県農業開発総合センターによる平成25年度研究成果発表会が開催され、県下の研究者をはじめ約230人が参集した。当発表会は、全体会と分科会(耕種・畜産)の二部構成で、このうち全体会は、「さつまいもを生かす」と題され、1)サツマイモ茎葉収穫機の開発と普及 2)サツマイモ新品種「こなみずき」でん粉の用途開発―について関係者から発表があった。この全体会の模様について報告する。

  開催にあたって、鹿児島県中西農政部長から、「本県農業の持続的な発展のため、試験研究は大変重要である。国が目標に掲げる農業所得倍増・攻めの農業の実現のための具体的な施策として、規模拡大や中山間地の利活用などによる農地の確保、六次産業化を中心としたバリューチェーンの構築、輸出拡大などによる需要の創出などの事業を進めることとなるが、このためには、生産コストを下げ農業算出額の増加を目指すほか、高付加価値化に向けた取り組みが必須である。TPPへの対応など問題は山積しているが、県下の関係者が一致団結すれば乗り越えられない壁はない。熱い想いをもって、関係各位にはわが県の農政に力を注いでいただきたい。」と、関係者へ激励のあいさつがあった。
 

1 サツマイモの茎葉収穫機の開発と普及

 発表テーマおよび発表者、発表概要は次のとおりであった。

【テーマ・発表者】

(1)サツマイモ茎葉収穫機の開発
  鹿児島県農業開発総合センター大隅支場農機研究室 大村 幸次氏

(2)サツマイモ茎葉のサイレージ調整と大家畜への給与
  鹿児島県農業開発総合センター畜産試験場乳用牛研究室 大六野 洋氏

(3)サツマイモ茎葉の畜産飼料化に向けた現場における取組
  曽於畑地かんがい農業推進センター 宮下 浩秋氏

【発表概要】

 鹿児島県では、飼料や生産資材の価格が高騰している中で、自給飼料の確保や飼料コスト・環境負荷の低減の観点から、サツマイモ茎葉という低・未利用資源の有効利用体系の確立に向け、茎葉収穫機の開発をはじめ茎葉サイレージの給与試験や給与コストの調査・研究が行われてきた。

 最新型茎葉収穫機は、主にでん粉・焼酎用サツマイモの茎葉収穫に利用でき、蔓切断から細断、搬出までを一工程で行う。作業能率は、10アール当たり0.8〜1.2時間、茎葉回収率は90パーセント以上で、作業時のいもの損傷は1パーセント以下である。枕地は4メートル以上、適応畝幅は90センチメートル以上確保される必要があるが、この畝幅は、でん粉・焼酎用サツマイモでは一般的である。でん粉原料用品種で最も作付面積の多いシロユタカ(平成24年産の対象でん粉原料用いも生産者要件審査申請ベース)は、特に茎葉が柔らかく、脱葉しやすいため、本収穫機を用いることは、畜産飼料用茎葉の収穫効率の向上の観点や、でん粉原料用サツマイモ収穫作業負担軽減の観点からも双方にメリットがあるという。

 また、収穫した茎葉を適切に水分調整すれば、黒毛和種繁殖雌牛や泌乳中期の乳牛への給与に適切なサイレージ化が可能である。各研究機関では、茎葉収穫機とサイレージ技術の普及にあたり、バンカーサイロ体系によるサイレージ調整作業を行ったり、水分調整剤に安価なでん粉粕や自給粗飼料を利用したりすることにより、更なるコスト低減に向けた検討を行っている。収穫機導入費や作業労賃などの回収のためには、一定規模の収穫面積の確保が必要であることから、受託組織などでの導入検討やサツマイモ農家と畜産農家の地域内での連携を促す仕組みづくりが必要であると思われる。生産物の垣根を超えた連携により、鹿児島県の農畜産業の更なる発展が期待される。
 
 

2 サツマイモ新品種「こなみずき」でん粉の用途開発

 発表テーマおよび発表者、発表概要は次のとおりであった。なお、各者の発表の後、発表者と座長の鹿児島県農産物加工研究指導センター所長 大江正和氏の間でパネルディスカッションが行われた。

【テーマ・発表者】

(1)「こなみずき」でん粉の特性と食品への利用について
  鹿児島県農産物加工研究指導センター 時村 金愛氏

(2)新規サツマイモでん粉開発の取組
  日本澱粉工業株式会社 片野 豊彦氏

(3)「こなみずき」でん粉を利用した新商品開発
  鹿児島県経済農業協同組合連合会 中畠 善郎氏

【発表概要】

 鹿児島県下で生産されるサツマイモの約4割はでん粉原料用であるが、その用途の約7割が海外産と競合する糖化用であるため、付加価値の高い食品用への用途拡大が重要な課題となっている。近年育成された新品種「こなみずき」のでん粉は、従来のでん粉よりも低温度(56〜58℃)で糊状(とろみがある状態)になる特性(低温糊化性)を持つことから新たな用途開発が期待されており、県下では食品への利用方法が研究されているほか、食品メーカーへの利用提案や共同での商品開発が行われているところである。

 鹿児島県農産物加工研究指導センターでは、新規サツマイモでん粉の食品利用の研究を行なっている。このうち、「こなみずき」でん粉の特性としては、でん粉ゲルを冷蔵したときの離水やゲルの硬化がほとんどみられず、耐老化性をもつほか、ゲルの保形性が優れ、少量のでん粉でゲルを成形できることなどが挙げられ、わらびもちなどのゲル性菓子(コシがあり歯切れがよい。冷凍耐性を有する。)や、パール状加工品(蒸気処理時間の短縮効果あり。タピオカパールにはない弾力感あり。)、さつまあげ(従来のサツマイモでん粉やばれいしょでん粉よりも歯切れがよく、硬くなりにくい。)、ソース・ジャム類(とろみ付け、離水防止効果あり。)のほか、ベーカリー製品やかるかんやボーロなどの膨化性食品への利用に適している。

 日本澱粉工業株式会社は、輸入化工でん粉が添加物に指定される動きが始まる中、機能性の高い国産天然でん粉のニーズが高まるとの判断から、平成16年から「クイックスイート」でん粉の製造に着手し、平成18年からは「こなみずき」でん粉を含むサツマイモでん粉の実用化に向けた産学官連携による技術開発事業に参画し、サツマイモでん粉の品質向上への取り組みや食品メーカーへの情報発信を続けている。

 鹿児島県経済農業協同組合連合会は、平成24年5月に『鹿児島県さつまいもでん粉プロジェクト「こなみずき」―消費者に支援される商品開発委員会』というプロジェクトを立ち上げ、鹿児島県農産物加工研究指導センター時村氏の指導のもと、県内食品メーカーとともに商品開発を行った。平成25年4月には、「こなみずき」でん粉を使用した商品発表会を行った。

 今後も、県下ではサツマイモでん粉の品種や製造特性の多様性を生かした新たな用途開発が進められるとともに、サツマイモでん粉の認知度を高めていくべく、食品メーカーや消費者に対し積極的な情報提供や販路拡大の取り組みがなされていく予定である。一方で、サツマイモでん粉の安定供給のため、日本澱粉工業株式会社や鹿児島県経済農業協同組合連合会などの製造事業者は、生産者への効率的な苗供給体制の整備など増収対策を強化していくという。

 パネルディスカッションでは、日本澱粉工業株式会社の片野氏からは、「かんしょでん粉を文化として培ってきた鹿児島県から、日本全国のユーザーに情報を発信していきたい。」、鹿児島県経済連農業協同組合連合会の中畠氏からは、「生産者団体として、生産者がサツマイモを再生産できるよう、主体となって今後も付加価値の高い商品開発を進め、マーケットでのサツマイモでん粉の地位を確立していきたい」、鹿児島県農産物加工研究指導センター時村氏からは、「サツマイモでん粉は、鹿児島県で製造されている「食べておいしい」特徴的なでん粉である。研究機関として、今後も食品利用した際の客観的な指標を示していくので、まず地元の鹿児島県で特産品などに積極的に利用してもらいたい。」と今後の展望について意見交換が行われた。
 
 
 
 
 今回の研究成果発表会では、現場での取り組み状況や課題、今後の方向性について丁寧な紹介がなされた。今後、試験研究で培われた技術や県下の農畜産物を利用した商品の一層の普及が望まれる。当機構としても、でん粉原料用かんしょ生産者および国内産かんしょでん粉製造事業者の皆様の経営の安定に資するよう、今後も交付金の交付業務の適切な運営に努めるとともに、県下関係者のでん粉原料用かんしょの生産振興に向けた取り組みについて積極的に情報提供してまいりたい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713