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タイのエタノール政策と砂糖およびでん粉業界への影響

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最終更新日:2013年9月10日

タイのエタノール政策と砂糖およびでん粉業界への影響

2013年9月

調査情報部 審査役 河原 壽
調査情報部(現 経理部資金課)日高 千絵子

【要約】

 タイ政府は、2011年12月に新たな「再生可能・代替エネルギー開発計画2012-21」を公表し、サトウキビおよびキャッサバの単収増加によりエタノールの原料を確保することで、エタノール生産目標を1日当たり900万リットルとしている。同国のエタノール需給は、同計画の一環である2013年1月のレギュラーガソリンの販売停止(エタノール混合の義務化)により消費量が大幅に増加し、それまでの供給過剰からひっ迫する状況に大きく転換した。

 エタノールの原料となる糖蜜は、飲料向け需要の拡大などにより、エタノール向けの供給は上限に達しつつあるとされる。ただし、国際砂糖価格が下落する中でも、政府支援によりサトウキビ生産者の生産意欲は維持されており、サトウキビ・糖蜜の増産は期待できる状況にある。一方、キャッサバは、担保融資制度によりキャッサバ価格が引き上げられ、生産者の生産意欲は維持されているものの、エタノールの生産コストが糖蜜と比べ高いという問題があり、キャッサバ由来のエタノールの増産は難しい状況にある。このため、エタノール生産は当面、糖蜜に依存するとみられ、エネルギー省によれば、糖蜜が不足する場合には、ケーンジュースからのエタノール生産も検討するとされている。エタノール需給がひっ迫に転じたことにより、エタノール政策が砂糖およびでん粉産業に与える影響はますます大きくなるものと推察される。

はじめに

 タイのエタノール生産は、主に糖蜜およびキャッサバを原料としている。国内のエタノール消費の増加に対応するため、タイ政府は、サトウキビおよびキャッサバの単収を増加させることで、エタノール原料を確保する計画である。

 2012年以前のエタノールの需給は、生産が消費を上回る状況であった。その後、2013年1月から実施となったバイオ燃料政策に基づくレギュラーガソリンへのエタノール混合の義務化により、エタノール需要は大幅に増加し、一転して、需給のひっ迫傾向が見込まれている。

 なお、タイでは、バイオエタノールはガソリンに混合され、「ガソホール(Gasohol:gasolineとalcoholを組み合わせた合成語)」として利用されており、エタノールの混合割合に応じてE10(混合割合10%)、E20(同20%)、E85(同85%)の3種類が販売されている。このうち、主流はE10(ガソホール販売量の85.8%)であり、E20(同12.4%)、E85(同1.8%)の流通量は少ない(図1)。E10には、オクタン価95(いわゆるハイオク)およびオクタン価91(いわゆるレギュラー)の2種類があるが、E20およびE85は、オクタン価95のみとなっている。このため、本稿では、オクタン価95のガソホールをハイオクガソホールE10、E20、E85、オクタン価91のガソホールをレギュラーガソホールE10と呼ぶこととする。また、本稿中の年度は10月〜翌9月、為替レートは1バーツ=3.21円(2013年7月末日TTS相場)を使用した。
 

1.バイオエタノール政策

 タイのバイオエネルギー政策は、1985年のロイヤルプロジェクトとして、ガソリンにサトウキビ由来のエタノールを混合するガソホール生産から始まった。しかし、本格的にエタノールを生産するバイオ燃料政策が推進されたのは、2003年の原油価格の高騰以降であった。タイ政府は2003年12月、2006年までに1日当たりの生産量を100万リットル、2011年までに同300万リットルを目標とする国家エタノールプログラム「ガソホール戦略計画(National Ethanol Program Gasohol Strategic Plan)」を公表し、エタノール生産を推進した。また、ガソホールの物品税を削減し、価格をレギュラーガソリン価格に比べ10〜15パーセント安く設定するなどにより消費拡大が図られた。

 この結果、2005年12月のガソホール全体の消費量は、ガソリン消費全体の17.4パーセントを占めるまで拡大し、2008年11月のエタノール消費量は、1日当たり111万リットルとなった。

 その後、政府は「15カ年エタノール開発計画:2008-2022(The 15 Year Ethanol Development Plan:2008-2022)」を公表し、糖蜜およびキャッサバを原料とするエタノール生産目標を、2022年までに少なくとも1日当たり900万リットルとした(表1)。
 
 さらに政府は、2011年12月に新たな「再生可能・代替エネルギー開発計画2012-21(The Renewable and Alternative Energy Development Plan for 25 Percent in 10 Years(AEDP2012-21))」を公表し、エネルギー使用総量に対する再生可能・代替エネルギーの比率を、2021年までに20パーセントから25パーセントに引き上げることを目標とした。このうち、エタノールの生産目標については、前の目標の1日当たり900万リットルが据え置かれ、バイオディーゼルの生産目標は、同450万リットルから597万リットルに引き上げられた(図2)。エタノール生産目標の据え置きは、2011年の生産量が同141万リットルに過ぎなかったことによるものである(表2)。
 
 一方、油ヤシを原料とするバイオディーゼルは、2008年1月にB2(ディーゼルオイル(軽油)におけるパーム油の混合割合が2%)、2011年1月にB5(同混合割合5%)が義務付けられ(表3)、バイオディーゼルの消費量が増加した。油ヤシの作付面積は、作付面積の85パーセントを占める南部地域のみならず(2008/09年度547,411ヘクタール→2012/13年度586,581ヘクタール)、北部(同1,342ヘクタール→同4,691ヘクタール)、東北(同7,677ヘクタール→同16,444ヘクタール)、中央地域(同65,912ヘクタール→同82,799ヘクタール)でも大きく増加している。
 

2.エタノール生産動向

 エタノールは、糖蜜やキャッサバを主な原料として生産されている。一部、ケーンジュースを原料として生産されているが、これは、土壌のカドミウム汚染地域で栽培される非食用サトウキビを用いたものである。エネルギー省によれば、輸出余力があり、また、生産変動をリスクヘッジするため、二つの作物(サトウキビとキャッサバ)が原料作物として採用された。

 エタノールの生産量は、増加傾向で推移しており、2012年の年間生産量は6億5554万リットルと、前年から26.0パーセント増加した(表4)。この大幅な増産は、同年のサトウキビおよび砂糖生産量が豊作となり、糖蜜生産量が増加した影響とみられる。

 2012年エタノール生産量のうち、糖蜜からの生産量は5億3180万リットル、キャッサバからの生産量は7469万リットル(11.4%)、ケーンジュースからの生産量は4905万リットル(7.5%)と、糖蜜からの生産量が全体の81.1パーセントを占めた(表5)。

 サトウキビ・砂糖委員会(OCSB)によれば、2012年のエタノール企業数は20社、年間生産能力は11億9200万リットルであるが、2012年の生産量は、生産能力を大幅に下回っている。この主な要因は、当初2012年10月までに実施とされていたレギュラーガソリンへのエタノール10パーセント混合義務が、延期されたことによる。
 
 なお、2013年3月時点で稼働しているエタノール工場は21工場で、1日当たりの生産能力は389万リットルとなっている(表6)。このうち、糖蜜およびケーンジュースを主要な原料とするのは15工場(261万リットル)、主にキャッサバを利用するのは6工場(128万リットル)である。2012年12月以降新たに操業を開始した2工場は、ともにキャッサバを原料としている。さらに、2013年中に操業開始を予定している4工場についても、キャッサバを主原料とする計画であり(表7)、これらの工場が稼働を開始すれば、キャッサバを原料とする工場の生産能力は合計で265万リットルとなる。

 現在、糖蜜からエタノール生産を行っている工場は、そのほとんどが大手製糖企業のグループ傘下であり、グループ内の製糖工場で生産される糖蜜を原料として使用している。一方、キャッサバを原料として使用する工場は、従来からタピオカチップの生産や集荷事業を行っている。
 
 エネルギー省によれば、糖蜜は、酒、グルタミン酸ナトリウムなどの原料向け需要があり、エタノール原料向け供給量は限られている。それに対しキャッサバは、輸出量が生産量の65パーセントとなっており、エタノール原料として余力がある。このため、キャッサバからの供給がないと、前出の開発計画は達成されないと判断している模様である。

 2021年のエタノール生産目標として掲げる1日当たり900万リットルのうち、サトウキビ由来とキャッサバ由来のエタノール生産の各割合は、サトウキビ由来62パーセント、キャッサバ由来38パーセントとしている。2012年のエタノール生産量では、サトウキビ由来89パーセント、キャッサバ由来11パーセントであったことから、キャッサバ由来のエタノール生産の大幅な増加を見込むものとなっている(タイ石油公社によれば、サトウキビ由来62パーセント、キャッサバ由来38パーセントは、2013年におけるエタノール工場の生産能力の比率に基づき設定したとされる)。

 今後の見通しとしては、糖蜜は生産量の既に半分がエタノールに仕向けられており、また、その他の用途の引き合いもあるため、キャッサバ利用が増えていくとみられている。しかしながら、キャッサバを原料とするエタノールは、担保融資制度(『でん粉情報』2009年12月号「タイのキャッサバをめぐる事情〜担保融資制度から価格保証制度へ〜」を参照:2011年7月の政権交代により、現在は価格保証制度から2008/09年度まで実施されていた担保融資制度に戻されている。)によるキャッサバ価格の引き上げで、糖蜜由来に比べ生産コストが1リットル当たり2バーツ弱高くなっており(表8)、キャッサバを原料とするエタノール工場の稼働率は低迷している。これに対し政府は、石油企業各社に対し、エタノールを生産工場から買い取る割合(Quota)について、2021年のエタノール生産目標の割合であるサトウキビ由来62パーセント、キャッサバ由来38パーセントとすることを求めている。また、キャッサバを原料とするエタノール工場に対しては、Quota内で販売するエタノールについて、担保融資制度で買い上げられたキャッサバを原料とすることを求めている。
 

3.エタノール消費動向

(1)ガソホール販売量の動向

 タイでは、「再生可能・代替エネルギー開発計画2012-2021」の一環として、2013年1月1日からレギュラーガソリンの販売が停止された。レギュラーガソリンの販売停止決定を受け、レギュラーガソホールE10の販売量は2012年11月以降急増し、2013年6月には1日当たり918万リットルに達した(図3)。これは、1年前の水準から1.6倍増加したことになる。
 
 ハイオクガソホールE10の販売量も同様に増加しており、同年6月の販売量は同848万リットルに増加した。ハイオクガソホールE20の販売量は、取り扱いガソリンスタンドの増加や対応車両の普及を受け堅調に増加しており、同年6月には同255万リットルとなった。一方、ハイオクガソホールE85については、依然としてガソリンスタンドでの取り扱いが遅れており、対応車両の普及も進んでいないことから小幅な増加にとどまっており、同年6月時点で同37万リットルとなった(図4)。ハイオクガソリンの販売量は、原油価格の高騰による小売価格上昇や政府によるガソホール消費促進策の影響などを受けて減少し、ここ数年間は1日当たり10万リットル程度で推移していた。ところが、2013年1月の販売量は、1日当たり102万リットルに急増し、その後も同水準を維持している。エタノール生産者協会によると、この現象はレギュラーガソリンの販売停止後、所得に余裕のある一部の消費者層がガソホールによるエンジンへの影響を懸念し、ハイオクガソリンを購入するようになったためとされている。ハイオクガソリンは、ガソホールに対応していない古い車両、バイク、農業機器に必要なため、当面、販売が停止されることはないとみられている。
 
 エネルギー省によると、E10を販売しているガソリンスタンドは全国で約5,000カ所と、ほぼ国内を網羅している。E20の取り扱いガソリンスタンドは、2012年8月以降に急増し、2013年初めには約1,600カ所に達した。E20の取り扱いガソリンスタンドは、1年前と比べて700カ所以上も増加したことになる。一方、E85については、2013年初めの時点で約70カ所と、E10やE20と比べ大幅に少なく、1年前からの増加数も30カ所にとどまった。

 通常のガソリン車にアルコール混合ガソリンを使用した場合、金属の腐食など燃料系統の材料劣化のトラブルを伴う可能性がある。現在、タイ国内には300万台のガソリン車(7人乗り以下)があるが、このうち250万台はE10に対応可能とされる。1995年以前に製造された車両50万台については、E10使用に関するメーカーの保証がない。また、E20の対応可能車は、150万台とされる。E85の対応車両はまだ少数であるものの、2013年に複数の自動車メーカーがE85対応車の発売を予定しており、政府としても普及を図る意向である。財務省は、E85対応車に対する物品税の引き下げを行っており、排気量1,781CC以上2,000CC以下の車両は物品税が従来の25パーセントから22パーセントに、2,001CC以上2,500CC以下は従来の30パーセントから27パーセントに、排気量2,501CC以上3,000CC以下は従来の35パーセントから32パーセントに、それぞれ引き下げられている。また、2012年12月には、二酸化炭素排出量をもとに物品税率を定める新制度も閣議決定された。この新制度は2016年から適用される予定であり、E85対応車に対する物品税はさらに引き下げられる。
 
(2)ガソホール価格の動向

 タイ政府は、ガソリンとガソホールの価格調整により、両者間の価格差を作ることでガソホールの消費拡大を図っている(図5)。ガソリン、ガソホールの価格は、原価+物品税+地方税(物品税の10%)+石油基金(Oil Fund)積立金(注)+エネルギー保護基金(Conservation Fund)積立金+付加価値税(VAT)+マージンで構成されている。政府は石油基金への積立金をエタノール混合割合に応じて設定することにより、ガソホールがガソリンよりも安くなるように調整している。

 具体例として2013年7月末時点の価格をみると(表9)、ハイオクガソリンの石油基金への積立金は1リットル当たり9.7バーツに設定されている。一方で、ハイオクガソホールE10は同3.5バーツ、レギュラーガソホールE10は同1.4バーツと、ハイオクガソリンより低い。さらに、エタノール混合割合の高いハイオクガソホールE20、E85については基金への積立が義務付けられていない上、逆に基金から補助金(E20が同0.9バーツ、E85が同11.4バーツ)が交付される。

 このような価格調整により、7月末現在の小売価格(エネルギー省調べ)は、ハイオクガソリンが1リットル当たり47.45バーツ(152円)であるのに対し、ハイオクガソホールE10は同39.93バーツ(128円)、レギュラーガソホールE10は37.48バーツ(120円)、ハイオクガソホールE20は同34.98バーツ(112円)、E85は同23.48バーツ(75円)となっている。なお、ハイオクガソリンに対するハイオクガソホールの燃費は、E10が97パーセント、E20が94パーセント、E85が75パーセントとされる。

(注)石油基金とは、輸入ガソリンを含む燃料の価格変動に対するセーフティネットのために設置されている基金。
 
(3)今後のエタノール消費拡大政策

 エタノール消費の拡大政策としては、流通段階では物品税の引き下げ、消費段階では1) E20、E85に対する価格インセンティブ(E10、E20の価格差3バーツ(8%の価格差、このうち3%は熱量、5%はインセンティブ))2) E20、E85取り扱いガソリンスタンドの増設(3)税制におけるE85対応車への優遇措置−がある。2016年には、E85対応車は物品税などがさらに減税される計画(E10、E20対応車より5%安くなる見込み)である。バイオディーゼルにおいては、B7の導入による消費拡大が検討されている。

4.エタノール需給動向

 前述のとおり、2012年までのエタノールの需給は、生産量が消費量を大幅に上回り過剰在庫を抱える状況にあった。このため、2012年の年間エタノール輸出量は、3億387万リットルと前年(1億3900万リットル)から大幅に増加した(表10)。主な輸出先はフィリピンと日本である。輸出増加の背景には、フィリピンでガソリンへのエタノール混合が義務付けられ、フィリピン向け2012年輸出量は1億6155万リットル(2007年の227倍)と大幅に増加していることがある。また、日本向け同年輸出量は7167万リットルと2010年以降増加傾向にある。しかし、2013年1月のレギュラーガソリンの販売停止などによりタイの国内消費量は大幅に増加し、需給はひっ迫する状況に大きく転換した。

 エタノール生産者協会によれば、「2013年6月現在の需要量は、1日当たり250万リットルであり、年間換算では9億リットルに達している。一方、糖蜜由来のエタノール生産量は6億リットルで、このうち、1億リットルは輸出に向けられることから、実質5億リットルとなる。そのため、残り4億リットルについては、キャッサバを原料としなければならないが、土壌劣化の問題があるため、需要に対応できるかどうか不透明な状態」としている。このため、エネルギー省は2013年7月24日、エタノール混合割合を、E10は10パーセントから8パーセント、E20は20パーセントから15パーセントに引き下げ、燃料用エタノールの輸入は行わないとする政策の中で、エタノール生産用糖蜜の臨時輸入を公表した。

 輸出についても、タイでは、エタノールを輸出する際には事前に物品税局およびエネルギー省へ申請しなければならない。これまでは、エタノール供給が潤沢であったため、輸出が止められることはなかったが、エネルギー省は国内供給を優先する方針であり、また、国内消費量も増加していることから、状況によっては、今後輸出が停止されることもあり得るとのことであった。
 

5.バイオエタノール政策が砂糖産業およびでん粉産業に与える影響

「再生可能・代替エネルギー開発計画2012-21」では、2021/22年度の目標として、サトウキビおよびキャッサバの作付面積をそれぞれ112万ヘクタール、単収についてはサトウキビで1ヘクタール当たり93.8トン、キャッサバで1ヘクタール当たり31.3トンに高め、エタノール原料の供給を確保する方針である(表11)。

 農業協同組合省は、キャッサバ、サトウキビなど6品目について、土壌の適合性などを考慮し、栽培地域を指定するゾーニング制度に基づき1) 土壌に適した品種の選定2) 土壌分析と施肥の推進3) 灌がいの推進4) 土壌改善(有機肥料)の撤底5) 害虫対策による単収の向上−を図ることとしている。

 サトウキビおよびキャッサバの作付面積は、すでに2021/22年度の目標を達成しているものの、低い単収が問題とされており、ゾーニング制度に基づく単収の向上が重要な政策目標となっている。
 
 サトウキビ生産では、2012/13年度に生産コストの上昇を緩和するため、1トン当たり160バーツが生産者に支給され、国際砂糖価格が下落傾向となる中でも生産者の生産意欲は維持されており、収穫面積も緩やかではあるが増加傾向にある。サトウキビ・糖蜜の生産は、前月号(2013年8月号)で報告したバイオディーゼル政策によるサトウキビから油ヤシへの転換の懸念があるものの、燃料用エタノール政策に基づく単収の向上、コメ担保融資制度によるコメ価格の引下げで、コメからサトウキビへの転換予測など、増加が期待できる状況である。

 一方、キャッサバでは、担保融資制度によりキャッサバ価格が引上げられ、生産者の生産意欲は維持されているものの、エタノール生産コストを見ると、糖蜜を原料とした場合より1リットル当たり2バーツ弱コストが高くなってしまう問題がある。このため、2012年のキャッサバ由来のエタノール生産量は減少した(図6)。

 エネルギー省によれば、エタノール生産量から換算すると、2012年にエタノール生産に使用された糖蜜は、221万7606トンと、糖蜜生産量全体(438万トン)の半分がエタノールに仕向けられたことになる。一方、キャッサバについては、47万トンがエタノール生産に利用された。2012年のキャッサバ生産量は2485万トンであることから、全生産量のうち、エタノールに使用されたのはわずか1.9%にとどまっている。同省によると、エタノール工場では、糖蜜からのエタノール生産が限界に達しつつあるとされ、2012年以降、キャッサバ由来のエタノール工場が増えている。しかし、キャッサバ由来のエタノール工場は、担保融資制度によるキャッサバ価格の上昇により収益性の低下が問題となっており、キャッサバ由来のエタノール工場は増加傾向にあるものの、2012年の登録工場数24工場に対し操業工場が6工場と少ないのが現状である。これらのことから、短期的にキャッサバからのエタノール生産が急増することは考えにくい。

おわりに

 タイでは、レギュラーガソリンの販売停止によりエタノール需給が供給過剰からひっ迫に転じた。主な原料の糖蜜は、飲料向け需要の拡大などにより、エタノール向けの供給は上限に達しつつあるとされる。ただ、国際砂糖価格が下落するなかでも、政府支援によりサトウキビ生産者の生産意欲は維持されており、サトウキビ・糖蜜の増産は期待できる状況にある。政府は、石油企業のエタノール工場からの買取り割合(Quota)制の導入により、キャッサバ由来のエタノール供給を促進しているものの、キャッサバ由来のエタノール工場は低い収益性から工場の稼働率が低く、生産能力が過剰となっている。石油企業が買い取るエタノール価格が1リットル当たり23バーツと決められている中、担保融資制度による原料価格高でキャッサバ由来のエタノールの増産は難しい状況にある。このため、エタノール生産は当面、糖蜜に依存するとみられ、エネルギー省によれば、糖蜜が不足する場合には、ケーンジュースからのエタノール生産も検討され得る。エタノール需給が一転してひっ迫に転換したことで、ガソリンへのエタノール混合率や原料作物の単収向上計画、貿易政策など、エタノールに関連する政策が砂糖およびでん粉産業に与える影響は、ますます大きくなると推察される。
 
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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