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国内産いもでん粉の安定供給に向けて

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最終更新日:2014年3月10日

国内産いもでん粉の安定供給に向けて

2014年3月

一般財団法人いも類振興会 理事長 狩谷 昭男

はじめに

 国内産いもでん粉のうち、ばれいしょでん粉は北海道、かんしょでん粉は鹿児島県で生産され、それぞれ地域農業の振興に重要な役割を果たしている。

 しかし、でん粉原料用いも作農家の現状、いもでん粉の生産・消費動向などを勘案すると、将来にわたって国内産いもでん粉を安定供給していくためには、相当な改善、努力を要しよう。加えて、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉は継続中(2月末現在)であり、その交渉結果を踏まえた施策の方向も定まっていないので、国内産いもでん粉の行方を展望することは難しい状況にある。

 このような状況ではあるが、今後における国内産いもでん粉の安定供給に向け、どのような視点での対応が重要となるのかについて、若干考察してみたい。

1.国内産いもでん粉のたどった道

 わが国でかんしょでん粉を初めて作ったのは、千葉県蘇我町の十左衛門で、1834(天保5)年のことであったと言われている。1897(明治30)年には、かんしょでん粉の機械化による製造が始まる。1911(明治44)年ごろに至り、「重要物産同業組合法」に基づき最初に結成された組合は、千葉県澱粉同業組合、銚子澱粉同業組合などである。このように明治期後半から、かんしょでん粉製造業、そのでん粉を原料として水あめなどの農産加工業が発展していった。

 太平洋戦争の戦中・戦後において、米・麦、かんしょ、ばれいしょなどの主要食糧と同様に、いもでん粉も1944(昭和19)年9月1日から1950(昭和25)年3月31日までの間、厳しい配給統制下に置かれた。しかし、皮肉なことに食糧危機をようやく脱した昭和25年以降もいも類の大増産が続き、農林省はかんしょなどの生産過剰対策の一環として、1953(昭和28)年に「農産物価格安定法」を制定し、安い価格に苦しむいも作農家の救済にあたった。さらに農林省は1958(昭和33)年に、いも類の主な消費用途としてでん粉にその活路を求め、「結晶ぶどう糖工業育成要領」を制定してその需要拡大を図った。こうした一連の施策によって、国内産いもでん粉の需要は一時的に増加したのである。

 一方この間、輸入トウモロコシを原料として製造されるコーンスターチが、1962(昭和37)年には8万トンまで急増し、国内産いもでん粉を苦境に追い込んでいった。翌昭和38年産の国内産いもでん粉の生産量は、かんしょでん粉74万トン、ばれいしょでん粉15万トン、合計89万トンで史上最高を記録した。この時、コーンスターチは既に14万トンに達していた。そしてついに、昭和44でん粉年度では、でん粉総供給量105万トンのうち、コーンスターチが54万トンで51パーセントを占め、かんしょでん粉の26万トン、ばれいしょでん粉の25万トンを上回った。このでん粉年度以降、でん粉業界は次第にコーンスターチの独壇場に向かって進み今日に至る。その結果、国産いも類の用途別消費におけるでん粉用の占める地位が次第に低下していった。

2.国内産いもでん粉の安定供給を図る視点

 平成24でん粉年度における総供給量262万3000トンのうち、国内産いもでん粉は22万7000トン(ばれいしょでん粉18万9000トンで83パーセント、かんしょでん粉3万8000トンで17パーセント)で全体の9パーセントを、コーンスターチが225万8000トンで86パーセントをそれぞれ占めている。

 でん粉総供給量の9パーセントを占めるにすぎない国内産いもでん粉を、これ以上減少させることなく安定供給を確保していくためには、価格が安く、品質面でも汎用性の高いコーンスターチとの比較優位性を念頭に置き、次の三つの視点から対策を講じていく必要があろう。

(1)価格競争力の強化

 国内産いもでん粉とコーンスターチとの価格差解消の壁は、とても厚い。しかし、その価格差縮小に向けて、たゆみない取り組みを怠ってはなるまい。その方策としては、いも類生産における経営規模の拡大、多収品種の育成、機械化一貫体系による栽培管理の徹底、でん粉製造の合理化などを図るため、問題点を一つずつ点検し、改善を進めていくことに尽きる。

 例えば、畑作農家の高齢化、離農の進行によって経営規模拡大の条件が整いつつある。大規模畑作経営での輪作体系確立によって、いも作における経営改善への途も開けるであろう。一方近年、ばれいしょ、かんしょとも単収の伸びが停滞している。その主な要因として毎年“天候不順”に起因すると分析されてきたが、いも類における生産構造の弱体化を含め、栽培管理などにも問題点はないかを総合的に検証し、所要の対策を講じていく必要がある。また、多収で優れた特性を有する新しいでん粉用品種の育成にも期待したい。

 でん粉の価格競争力強化のためには、いも作農家、でん粉製造業者が共に、今年の東京箱根間往復大学駅伝で優勝した東洋大学の選手たちが挑んだ“一秒を刻む”の精神を見習い、創意工夫を重ねていくことが肝要だろう。

(2)品質面における優位性の確保

 でん粉は、清涼飲料、菓子類、めん類などの食品から製紙、医薬品に至るまで、幅広い製品に使われている。それ故、でん粉は適正な価格とともに、品質面からみてもさまざまな優れた特性を備えていなければならない。

 品質面についてこれまでは、新品種の育成者、でん粉製造業者の視点から、消費拡大へのアピールが強かったように思われる。今後はそれと同時に、でん粉からさまざまな製品を作り出す加工製造業者、それらの製品を利用する消費者の目線からも、でん粉の品質に対する優位性の評価を確認し、製品ごとにそれにふさわしい特性を持つでん粉を安定供給していくことが大切となろう。その意味で、かんしょ新品種「こなみずき」でん粉を使用した和菓子などの加工食品における消費拡大戦略は、大いに参考となる。

(3)関連施策の充実

 今後、いも作農家、でん粉製造業者が、価格競争力の強化、品質面における優位性の確保を目指して積極的に改善努力を重ねたとしてもおのずと限界があり、そのことだけでは、国内産いもでん粉の安定供給に結びついていくとは言い難い。従って、前述したいもでん粉のたどった歴史を顧みるまでもなく、政府がいもでん粉に係る必要な関連施策を用意することは不可欠と言える。TPP交渉妥結の暁には、いも類の生産、いもでん粉の製造・価格・消費にわたる関連施策が的確に講じられることを期待したい。

3.国内産いもでん粉安定供給の展望

 仮に、TPP交渉の妥結後においても、国内産いもでん粉への対応が現状の水準にとどまれば、その将来は明るいとは言えない。いもでん粉の自給率が約1割まで低下した今日、いもでん粉の安定供給を通じての食料自給力の向上、いも作を含めた地域農業の振興および畑地の有効利用による環境保全を図る上からも、国内産いもでん粉の減少に歯止め措置が必要と考える。

 政府、いも作農家、でん粉製造業者、でん粉加工業者、消費者が、このような国内産いもでん粉の持つ社会・経済面における重要な役割について、理解を共有していくことが何よりも大切である。その上で、前述した三つのいもでん粉安定供給の視点を踏まえて有効な活動を積み重ねていけば、国内産いもでん粉にも新たな展望が開けてくるにちがいない。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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