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希少糖の特性と利用

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最終更新日:2014年9月10日

希少糖の特性と利用

2014年9月

松谷化学工業株式会社 研究所 木村 友紀

【要約】

 希少糖は、国際希少糖学会において「自然界にその存在量が少ない単糖とその誘導体」と定義され、50種類以上あると言われている。

 希少糖の研究は、香川県を中心とした産官学連携の研究開発支援事業として発展してきている。その研究成果として、生活習慣病を克服する希少糖が見いだされるとともに、新製法の開発とも相まって、希少糖を含む液糖「希少糖含有シロップ(商品名:レアシュガースウィート)」が全国販売された。抗肥満効果があり、砂糖と併用することで血糖値上昇を抑制するため、新規機能性甘味料として期待されている。また、このシロップを使用した製品は、全国で600種類以上にも及ぶ。

はじめに

 糖質は、砂糖やでん粉、これらを原料にして作られるぶどう糖などのように、エネルギーとして主に利用され、脳や身体に必須の栄養素である。近年の健康需要の拡大により、これら糖本来の機能に加えて、生体機能を調節する機能性糖質が注目されている。

 和三盆などの糖で19世紀後半の国内糖需要を十分に賄ってきた香川県では、産官学連携によって新たに希少糖が開発された。希少糖は、生活習慣病を克服するさまざまな生理機能が認められている。特に、希少糖の中でもプシコースによる糖代謝および脂質代謝の改善効果が多く報告されている。

 本稿では、まず幾つかの希少糖の紹介を行う。次に、戦後の国内砂糖不足の状況下で日本発の甘味料として開発された異性化糖を原料とする“希少糖含有シロップ“ (商品名:「レアシュガースウィート」(Rare Sugar Sweet;RSS))の特徴について紹介する。

1. 甘味料の特性

 甘味料市場の約6割を占める砂糖は、良好な甘味を有し、嗜好性や食生活の潤いなどをもたらしてきた。砂糖は、小腸で粘膜二糖類分解酵素(スクラーゼ)によってぶどう糖と果糖に分解・吸収後、血糖値上昇およびインスリン分泌が生じる。砂糖そのものを摂取することは問題ではないが、過剰摂取によって高血糖・高インスリン分泌状態が続くと糖尿病や肥満につながる可能性がある1〜3)という報告がある。そこで、スクラーゼを阻害し砂糖の吸収を抑制するなど、砂糖に対して生理効果を有する新規甘味料の開発が健康増進に貢献すると考えられる。しかし、砂糖は優れた味質に加え、親水性(保水性・脱水性)を有しており、防腐効果や泡立ちの保持、タンパク質の凝固抑制、でん粉の老化防止、発酵促進作用などの食品加工上の特徴がある。そのため、砂糖の全てを置き換えるのではなく、一部を置き換える、あるいは砂糖に添加する甘味料が必要である。

 砂糖の代替甘味料として、これまで異性化糖や高甘味度甘味料などが普及してきた。異性化糖は、戦後の日本で国産砂糖が不足し、甘味料を自給する必要性に迫られた中で開発された。異性化糖は、かんしょでん粉をグルコアミラーゼ処理することで生産されるぶどう糖を、アルカリ法あるいは酵素法によって果糖に異性化することで製造される。アルカリ法は、1960年代に農林省食糧研究所(現 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構食品総合研究所)の貝沼圭二先生らによって開発された。一方、酵素法は、1961年に香川大学農学部の山中啓先生によって乳酸菌からグルコースイソメラーゼが発見され、さらに1965年に通産省微生物工業研究所(現 独立行政法人産業技術総合研究所)の高崎義幸先生によって放線菌から類似酵素が見いだされ、工業化されるに至った。砂糖よりも低価格な甘味料として市場を拡大してきたが、異性化糖に含まれる果糖が肥満や糖尿病などの原因の一つになる可能性がある1)という報告がある。

 一方、高甘味度甘味料は、低カロリーの甘味料として普及してきたが、高甘味度甘味料を使用した食品の摂取では、身体が食事による満足感を得られず、結果としてエネルギーの過剰摂取につながる4、5)という報告もある。

 これらの現状から、今後の甘味料を使用した商品開発を行う上で、おいしさ・カロリーバランス・機能性を併せ持った商品設計が、消費者満足につながると考えられる。

2. 希少糖とは

 近年、甘味料として新たに注目されている希少糖は、「自然界にその存在量が少ない単糖とその誘導体」と国際希少糖学会で定義されている。自然界に多く存在する、ぶどう糖をはじめとする糖は、細胞構成成分やエネルギーなどとして働き、生命活動に欠かせないものである。一方、自然界に存在量が少ない希少糖は、その存在量に反して種類は非常に多く、約50種類(中でも六炭糖は約30種類)もある。1991年に香川大学農学部の何森(いずもり)健先生が、希少糖の一つD−タガトースに作用する酵素(D−タガトース 3−エピメラーゼ;DTE)を発見してから、希少糖の生産研究が世界に先駆けて開花した。また、何森先生によって公表された、酵素反応を主要な経路にした全六炭糖の生産工程「イズモリング」6)(図1)は、安価なぶどう糖や果糖を出発原料として全六炭糖を生産できる方法を示しており、全ての希少糖の大量生産、工業化への道を開くこととなった。このような経緯で、香川県域隣接企業、国や香川県、大学の産官学連携として希少糖の研究開発が行われ、数多くの有用な生理機能が発見されている。

 これら希少糖は、さまざまな生理活性を有するだけでなく、代謝経路に入りにくいため、エネルギーとして利用されにくいものが多いことも魅力である。これらの点を利用して、エリスリトールやキシリトールなどの希少糖は既に実用化されている。
 

3. 代表的な希少糖の特徴

(1)プシコース

 プシコースは、希少糖の中で最も開発が進んでおり、果糖を加熱処理することなどにより生じるため、果糖を含む一般的な食品に含まれている7)。また、自然界では食用植物ズイナの葉に含まれることから、天然の糖でもある。物性は果糖様で、砂糖の7割程度の甘味があり、キレと清涼感のある良質な味質を特徴とする。ゼロカロリー8)の糖であり、非虫歯・抗虫歯効果だけでなく、食後血糖値上昇抑制作用9)・抗糖尿病作用(膵β細胞変性抑制作用)10)・内臓脂肪蓄積抑制効果11)を示すことが報告されている。なお、食後血糖値上昇抑制作用に関しては、特定保健用食品に申請中であり、1日当たり5gの摂取量である。このように、プシコースはこれまで知られている糖質とは異なり、生体に対して多くの作用点を持つことから、メタボリックシンドロームの予防・改善が期待できる新規甘味料として注目されている。

(2)アロース

 アロースは、臍帯(さいたい)血中12)やインドの薬用の海藻13)に含まれており、プシコース同様に天然の糖である。エネルギーゼロ14)で、味質が砂糖に近く甘味度も砂糖の8割程度である。酸化ストレス軽減機能を持つが、カテキンやビタミンCなど還元力を機序とする抗酸化剤とは異なった作用を示す。種々のストレス時に血管内皮など多種多様な細胞から発生する活性酸素を抑制15)し、活性酸素による細胞障害を防御する。この防御機構によって、血圧上昇抑制16)、心筋梗塞・脳梗塞などの予防17)、寿命延長効果18)などが確認されている。さらに、癌細胞や破骨細胞の分化増殖抑制効果19)も認められている。そのため、甘味料だけでなく、生活習慣病の予防・改善作用のある医薬品や医療用食品への応用展開も期待されている。

(3)ソルボース

 ソルボースは、甘味度は砂糖の7割程度である。小腸でのスクラーゼ阻害によって砂糖の分解を抑える効果が強いため、食後血糖値上昇抑制作用を有しており20)、糖尿病の予防・改善に向けて期待されている甘味料である。

4. 希少糖含有シロップ

 これまでは砂糖や異性化糖、高甘味度甘味料を併用することで、「おいしさ」や「カロリーバランス」が追求されてきた。しかし、肥満や生活習慣病などの健康問題が生じている昨今、さらに「糖質の質」(機能性)に着目して、これらの改善効果のある希少糖を使用した商品設計が可能であると考えられる。

 これを満たす理想的なバランス甘味料として、経済産業省の「地域イノベーション創出研究開発事業」を通して「希少糖含有シロップ(商品名:レアシュガースウィート)」が開発され、全国販売されている。文部科学省の「知的クラスター創成事業」による希少糖の生産法の開発は、主に酵素を使用して、その後にクロマト分離を行って希少糖単品を得るものであった。それに対して、希少糖含有シロップは、酵素を用いずに糖をアルカリ処理することで、希少糖をその中に生じさせており、もともと混合糖を利用するために開発された製法である。

 希少糖含有シロップは、異性化糖を異性化することで製造される天然由来の甘味料である。ぶどう糖や果糖を主成分に、プシコースやアロース、ソルボースをはじめとする希少糖が13〜15%(固形分)程度含まれる。砂糖の7割(固形分で9割)程度の甘味度で、味質も砂糖に似た良質な甘さを持つが、後味が甘過ぎず、コクのあるスッキリとした甘味である。エネルギー値は栄養成分表示上1g当たり3kcal(固形分で同4kcal)であるが、実験からの推定値では同2.5kcal(固形分で同3.3kcal)程度である。物性面は異性化糖と同様である(図2)。また、高甘味度甘味料と組み合わせることで、カロリーを低減させつつ、高甘味度甘味料特有の苦味などをマスキングして良質な甘みとなる。これらの特性以外にも、希少糖含有シロップは、総菜、菓子、デザート、ベーカリー、酒類や飲料など、多種多様な食品のカテゴリーにおいてさまざまな特徴を持たせることができる(図3)。
 

5. 希少糖含有シロップの生理機能

(1) 抗肥満効果

 希少糖含有シロップは、ヒトでは内臓脂肪蓄積抑制効果があることが確認されている。軽度肥満を含む健常成人34名(平均BMI25kg/u以上30kg/u未満)を対象に、2群間並行比較のダブルブラインド法で12週間の摂取試験を行った。試験食は希少糖含有シロップを30g(固形分)含むゼリー飲料200g、対照食は同カロリーで果糖ぶどう糖液糖 (異性化糖)を28g(固形分)含むゼリー飲料200gで、1日1回、朝食前に摂取させた。その結果、希少糖含有シロップ摂取群では、体重、BMI、体脂肪率に有意な減少が認められた(図4)。また、希少糖含有シロップ連続摂取による肝機能、腎機能、血液性状などで異常な所見は認められなかった。以上より、希少糖含有シロップは、ヒトにおいて体脂肪低減作用を有するだけでなく、30gを12週間継続摂取しても安全であることが確認された。
 

(2)砂糖併用による食後血糖値上昇抑制およびインスリン分泌の節約

 希少糖含有シロップは、ヒトにおいて砂糖と併用することで食後血糖値上昇やインスリン分泌を抑制する効果も認められている。健常成人男女6名(平均年齢34.5歳、平均空腹時血糖値93.0mg/dL)を対象に、シングルブラインド・クロスオーバー法にて試験を行った。摂取の前日21時以降12時間以上絶食後、砂糖75gを対照食として、希少糖含有シロップを約3割あるいは約5割(固形分)置き換えた溶液(甘味度およびぶどう糖量同等)200mLのいずれかを摂取させた。溶液摂取後2時間の血糖値およびインスリン値を経時的に測定し、AUC(area under curve:血中濃度−時間曲線下面積)を算出した。

 その結果、希少糖含有シロップを併用することで血糖値やインスリン値の有意な低下が認められた(図5)。また、希少糖含有シロップの置き換え量が増加するにつれて、より効果が大きくなった。これらのことから、希少糖含有シロップは、砂糖の一部を置き換えることで、砂糖の過剰摂取が原因で起こる可能性のある肥満や糖尿病の予防に役立つことを示唆している。

 また、このメカニズムとして、希少糖含有シロップに含まれるプシコースやソルボースによるスクラーゼ効果20、21)が考えられる。実際、in vitro(試験管内)の試験では、希少糖含有シロップを添加することにより砂糖の分解が減少し、有意なスクラーゼ阻害効果が認められている。
 

おわりに

 希少糖含有シロップは、ヒトにおいて、抗肥満効果があるだけでなく、砂糖と併用することで食後血糖値上昇抑制作用およびインスリン分泌節約作用を有するため、肥満や生活習慣病を予防・改善する新たな機能性甘味料としての期待が高い。また、良好な甘味や優れた特徴から多種多様な食品への使用も期待できる。

参考文献
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