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かまぼことでん粉

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最終更新日:2014年11月10日

かまぼことでん粉

2014年11月

全国蒲鉾水産加工業協同組合連合会
参与 石内 幸典

1. かまぼこの歴史

 かまぼこが初めて文献に登場したのは、平安時代後期に版行された「類聚雑要抄(るいじゅうざつようしょう)」という、貴族階級に必要な宮廷の儀礼などに関する知識についてまとめた書物で、饗宴の際の饗饌(きょうせん)(もてなしの膳)や寝殿の内部などを、彩色によって詳細に描いている。永久三年(西暦1115年)に、関白右大臣の新任による移御(いぎょ)の祝宴の膳に供されており、「蒲鉾」という文字が記載されている。この頃の蒲鉾は、図1に示したとおり、魚のすり身を板の上に載せた、現在かまぼこと呼ばれている板付けかまぼこではなく、魚のすり身を棒に巻きつけて焼いたもので、現在のちくわの形をしており、この姿が植物の蒲の花穂に似ていたことから、これがなまって「蒲鉾」と呼ばれるようになったと伝えられている。
 
 かまぼこ業界では、この永久三年の西暦である1115年にちなんで、11月15日を「かまぼこの日」として昭和58年に制定した。来年、2015年は1115年から数えてちょうど900年の節目となる。余談になるが、日本の伝統食品として大いに胸を張ることができると自負しており、和食が世界遺産となったことから、和食の粋を集めたかまぼこをもっとアピールしていかなければならないと考えている。

 話を戻して、現在、一般的に「蒲鉾」と呼ばれている板付けかまぼこは、室町時代中期以降に登場したといわれ、これまで「蒲鉾」と呼ばれていたものは、その切り口が竹を切った時の形に似ていることから、「ちくわ(竹輪)」と呼ばれるようになった。また、板付けかまぼこが登場した頃には、「蒸す」という加熱技術が出現しておらず、もっぱら直火であぶり焼いていたと伝えられている。このため、板の形も現在のような長方形ではなく、あぶり焼く際の支えとするために、図2のとおり羽子板を縦に半分に割ったような形をしていた。江戸時代になって蒸す技術が導入されてから、持ち手の付かない現在の形となったと考えられている。
 
 江戸時代に出版された、江戸の風俗について記述した「守貞謾稿(もりさだまんこう)」によると、関東では蒸したままの製品が、関西では蒸した後、表面に焼き目を付けた製品が好まれたようで、現在もその流れは続いている。かまぼこは“白い”が定番で、この白さは白身の魚が原料として多く使われているからである。古くは、前浜で漁獲された魚を原料としたので、地域により特徴のあるかまぼこが作られてきた。前出の「守貞謾稿」によると、「京阪や江戸ともにタイ、ヒラメをもっぱら使い、京阪ではハモを良とし、江戸ではトラギスを良とし、三都とも並品にはサメを用いた」と記されている。

 現在は、スケトウダラ、イトヨリダイの冷凍すり身が主に使用されている。この冷凍すり身は、スケトウダラを原料として昭和35年に開発された。昭和40年以降は、洋上で加工される高品質の冷凍すり身が開発されたことから、かまぼこの計画生産が可能となり機械化が急速に進み、大規模生産工場も出現した。

2. かまぼこの製造方法

 かまぼこは、魚肉に食塩を加えて擂(す)り潰(つぶ)し、弾力のもとである塩溶性タンパク質(ミオシンなど)を溶解させ、さまざまな形に成形し、種々の加熱法によりタンパク質を変性させることによって、弾力の強い特有の食感を持つ食品となる。この弾力のことを、業界では「足(あし)」と呼んでいる。一般的な製造方法を図3に示す。まずは、伝統的な手法による蒲鉾の製造方法について説明する。生鮮魚から正肉だけを分離し、水さらしを行って余分なものを取り除いた魚肉に、食塩を加えて丹念に擂り潰す方法である。

 現在かまぼこに使用されている主な原料魚は、グチ、エソ、ハモ、スケトウダラ、イトヨリ、マイワシおよびサバなど、白身魚を中心として30種以上が使用されている。

 図3の 1)から 7)の工程により生すり身を調製する。 3)の水洗工程はすり身の品質を左右する重要な工程の一つとなる。 5)の水さらし工程は、魚肉を真水でさらすことにより、血液などの汚れや不要なものを除去し、塩溶性タンパク質を濃縮する工程である。 7)の段階までのすり身は生すり身と呼ばれ、伝統的な手法ではこの後、擂り潰し工程に移行する。冷凍すり身の製法は、生すり身に凍結変性を防止するための糖類や、すり身の保存中の品質安定のためのリン酸塩類を添加・混合する。その後、コンタクトフリーザーなどにより急速凍結される。

 冷凍すり身の保管については、通常、−25℃以下で冷凍保存され、18〜24カ月は品質の変化なく原料として使用される。擂り潰し工程からは、伝統的な手法も機械化による方法も、かまぼこの成形を手作業でするか、成形機を用いてするかの違いで、ほぼ同様の工程をたどる。

図3を大きく表示
 

3. かまぼこの種類

 一般の方はかまぼこというと板付きのかまぼこを連想すると思うが、業界では、かまぼこというと魚を原料とした練り製品すべてを指す。それではかまぼこの種類にはどのようなものがあるのだろうか。一般的にかまぼこの分類は加熱方法によることが多い。かまぼこの加熱は、「蒸す」「焼く」「煮る(茹でる)」「揚げる」の4種類がある。表1にはかまぼこの加熱法の種類と代表的な製品を示す。
 

4. かまぼことでん粉

 かまぼことでん粉は切っても切れない関係にある。でん粉は、かまぼこの足の補強、増量材として最も広く使われている副原料である。低品質の原料へ5〜15%程度添加することによって、弾力の改善効果があり、ある程度弾力の強いかまぼこができる。また、でん粉自体は3〜5倍の水を吸収することができ、大きな増量効果を持っている。以前は、西は小麦、東はばれいしょと、生産されるでん粉原料の違い、かまぼこの加熱法の違いや好まれる食感の違いから、使用されるでん粉の種類は異なっていた。例えば、小麦でん粉は関西以西を中心に、ばれいしょでん粉は関東以北を中心に使用されていたが、今では地域色もなくなり、いずれも広く使われている。また、でん粉の輸入自由化により、単価の安いトウモロコシでん粉やタピオカでん粉などの輸入でん粉も多く使われている。さらに、食品添加物としての指定はあるが、吸水力、糊化温度や物性を調製した化工でん粉の使用も増えている。

 でん粉がなぜ、かまぼこの副原料として最適なのかというと、 1)弾力補強効果がある 2)でん粉そのものの特徴がかまぼこに最適である−ということである。

 かまぼこの弾力補強効果は、でん粉自身が糊化する際に伴う吸水力によると考えられている。かまぼこ製造時の加熱の際に、かまぼこに添加したでん粉は、魚肉タンパク質から遊離してくる水分を吸収しながら糊化し、でん粉粒は膨潤するとともに魚肉タンパク質は水分を離し濃縮されるからである。かまぼこの弾力はタンパク質濃度に依存するため、弾力が強くなると考えられている。表2に示したとおり、山澤らは、吸水力の異なるでん粉類を同量加えたかまぼこの物性変化から、でん粉の吸水力と弾力との関係を示し、吸水力の大きいでん粉を添加したかまぼこほど弾力が強くなることを報告している。

 かまぼこ製品の多くは、艶があり、白く、魚の風味が好ましく、異臭の少ないものが好まれる傾向にあり、でん粉は、白色、無味無臭の粉末で、かまぼこ製品の色調や風味を損なうことがないことから、広く手軽に使える品質改良剤である。
 

おわりに

 かまぼこ製品の生産量は、昭和50年、103万トンに達したのをピークに年々減少し、平成21年の農林水産物流通統計年報によると、かまぼこ製品の生産量(魚肉ハム・ソーセージを除く。)は44万トンと、全盛時の半分以下になったが、業界による、かまぼこ製品の健康機能性に関する研究助成事業などのキャンペーン事業が功を奏し、平成24年には47万5000トンに回復している。また、時期悪しく東日本大震災により、かまぼこの最大生産地である東北地方が被災するという不運があったものの大幅な落ち込みはなく、現在も減少傾向に歯止めがかかった状況である。

 世界に目を向けると、欧米諸国の魚食ブームにより、海外では、日本国内で生産されるかまぼこ製品の倍以上の量のかまぼこ製品が生産されている。さらに和食が世界遺産に登録されたことからも、練り製品を取り巻く環境はまだまだ期待できるものといえる。

 植物性タンパク質、増粘多糖類やかまぼこの品質改良剤が乱立する中、でん粉が綿々と使われ続けているということは、魚肉タンパク質とでん粉の好適性にほかならないと考えられる。

参考文献
「かまぼこ−その科学と技術−」山澤正勝・関伸夫・福田裕編集、恒星社厚生閣発行(2003)
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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