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近年の国内産ばれいしょでん粉の生産および販売状況について

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最終更新日:2015年2月10日

近年の国内産ばれいしょでん粉の生産および販売状況について

2015年2月

全国農業協同組合連合会麦類農産部

【要約】

 でん粉は多種多様な用途で使用されている。その中で国内産ばれいしょでん粉は、食品用途を中心に欠くことのできない素材として位置付けられている。

 平成22、23年産の北海道産原料ばれいしょの不作により供給量は激減し、それに伴い需要は大幅に縮小した。また、安定供給に対する不安を市場に抱かせたことから、外国産でん粉への切り替えが進行した。

 平成24年産以降、依然低水準ではあるものの、生産量が回復傾向にあるが、需要の回帰は遅れており、供給量に応じた需要の確保のためには、実需者に対して安定供給を保証する供給体制の確立と、的確な市場分析に基づく販売推進が必要となっている。

1. でん粉の用途

 でん粉は飼料・工業用から医薬・食品用まで、幅広い用途で使用されており、それぞれの分野で欠くことのできない素材となっている。用途により求められる品質・特性が異なるため、実需者は、流通しているさまざまなでん粉の中から用途に合ったでん粉を選択し、使用している。

(1) 糖化用
 でん粉を加水分解することにより、異性化糖、水あめ、ブドウ糖を製造し、清涼飲料水の甘味料などに利用している。でん粉の種類により適性の違いはあるが、理論的にはすべてのでん粉が利用可能である。

(2) 化工でん粉用
 でん粉を物理的・化学的に化工することにより、でん粉が本来持つ粘性や保水性を改良したもので、さまざまな用途で利用されている。例えば、未化工のでん粉では、でん粉をアルファ化することにより、加熱して得られる粘性を冷水で発現させ、養殖魚の餌の結着剤としたり、化学的化工により耐冷凍性を付与し、冷凍食品に利用したりしている。

 化工でん粉の性質(機能)には、原料でん粉の性質が大きく関係するため、化工メーカーは用途によって原料でん粉を使い分けている。

(3) 繊維、製紙、段ボール用
 でん粉に加水し加熱すると糊化する性質を利用し、接着剤やコーティング剤として使用されている。

(4) 医薬・工業用
 医薬用では、錠剤のコーティングやオブラートの原料として使用されている。

 工業用では、板紙(紙パックなど)の接着剤として使用されるほか、変わったところでは、自動車の塗料や、でん粉の粒子を利用し、精密機械部品の研磨剤として使用されるケースもある。

(5)食品用
 でん粉の粘性・保水性などを利用した食品は多岐にわたり、使われる食品により、でん粉に求められる品質・特性もさまざまである。ばれいしょでん粉が使われている用途には以下のようなものがある。

ア. 片栗粉
 でん粉の直接利用として代表的な用途である。料理のとろみ付けに使用するため、比較的低温で糊化し、また、最高粘度が高いばれいしょでん粉が最適といわれている。

イ. 菓子
 水を含んで加熱すると膨化するでん粉の性質を利用して、ボーロ、えびせんべいなどに食感改善や成形を目的として使用されている。

ウ. 水産・畜産練製品
 かまぼこやハム・ソーセージに結着・保水剤として使用されている。でん粉の種類により使用した商品の食感が異なるため、食感改善の目的でも使用されている。主原料の品質を保つため、比較的低温で加工される製品については、一般的に菌数が少ないでん粉が好まれる傾向にある。

エ. 麺類
 即席麺では、麺質の改善や調理性向上のためにでん粉を使用している。かつてはばれいしょでん粉が多く使われていたが、近年ではより安価な輸入のタピオカ化工でん粉を使用する商品や、小麦の品質および製粉技術の向上により、でん粉を使用しない生麺タイプの商品が増えている。

 また、主に西日本地区で鍋料理などの食材として欠かせない春雨・葛きりは、ばれいしょでん粉やかんしょでん粉、緑豆でん粉を主原料として製造されている。

オ. その他食用
 でん粉は、他にもから揚げ粉などのミックス粉用や、粉末スープ・調味料の副原料としても利用されている。また、冷凍食品やレトルト食品には増粘・保水を目的に使用されている。

2. 国内のでん粉の需要と供給

 平成24でん粉年度(平成24年10月〜25年9月)の国内のでん粉の需要は、約260万トン(輸入化工でん粉を除く)であり、その9割近くを輸入トウモロコシから製造されるコーンスターチが占めている(図1)。

 国内産でん粉は、北海道で製造されるばれいしょでん粉(17万トン・シェア6.4%)と鹿児島県で製造されるかんしょでん粉(4万トン・同1.4%)の合計21万トン(同7.8%)が流通している。
 
 供給に対する需要は、その7割を糖化製品が占め、次いで化工でん粉、繊維・製紙・段ボールとなっている(図2)。
 

3. 国内産ばれいしょでん粉の需要

 平成25でん粉年度(平成25年10月〜26年9月)の国内産ばれいしょでん粉(農協系統)の需要は、16万4000トンであり、糖化用、化工用がそれぞれ、3万トン程度を占め、残り6割の10万トン程度が食品用などで使用されている(図3)。

 この用途の大部分は、ばれいしょでん粉特有の性質を利用しており、他のでん粉への切り替えが比較的困難であることから、ばれいしょでん粉の「固有用途」と表現される。

 ばれいしょでん粉の固有用途のうち、最も量が多く、また、その適性が評価されている用途は片栗粉である。逆に冷凍食品、レトルト食品については、耐冷凍・耐熱性が求められるため、そのような機能を化学的に付加した化工でん粉の需要が拡大している。

 また、菓子、水産・畜産練製品や即席麺の分野でも、EU産の化工ばれいしょでん粉だけではなく、より安価な化工タピオカでん粉の需要が拡大している。
 

4. 国内産ばれいしょでん粉(農協系統)の生産量および販売量の推移

 平成19年産で、22万5000トンの生産量があった国内産ばれいしょでん粉(農協系統工場)の生産量は、天候要因などにより平成22年産で15万5000トンまで減少し、需要に対して供給量が下回る状況となった(図4)。

 でん粉は商品の副原料として使用されることが多く、実需者に対する安定供給は販売上の絶対条件であるため、産地に対しては早期製造を依頼する一方で、実需者に対しては、生産状況に関する情報の周知を早くから進め、糖化用向け販売の縮小(平成19でん粉年度9万2000トン→平成23でん粉年度3万2000トン)や固有用途向け販売についても、平成22〜23でん粉年度において、販売数量の制限を実施した。これに対しメーカーは、商品の少量化や輸入化工でん粉への切り替えにより対応した。

 でん粉を切り替えることにより、商品の食感などが変わるのはもちろんだが、原材料表示の変更も必要となるため、長年、国内産ばれいしょでん粉を使用してきたメーカーに多大な労力をかけさせ、また、国内産ばれいしょでん粉の安定供給に対する不信感が市場に定着することとなった。

 そのため、新商品開発の際、国内産ばれいしょでん粉の起用は敬遠されるようになり、平成23、24年産の生産量は増加に転じたにもかかわらず、需要は減少を続け、平成25でん粉年度でようやく回復がみられた。
 
 財務省「貿易統計」からは、国内産ばれいしょでん粉の生産量の減少に伴い、EUからのでん粉誘導体(原料の大部分が、ばれいしょでん粉と推定される)の輸入が増加しているのが見て取れる(図5)。

 このことからも、国内産ばれいしょでん粉の供給不足により、メーカーが輸入化工でん粉に切り替えを進め、国内産ばれいしょでん粉の需要が減少したことが分かる。
 

5. 国内産ばれいしょでん粉の生産回復と需要確保に向けた販売上の取り組み

 平成19年産以降の国内産ばれいしょでん粉の生産量の減少には、天候要因だけではなく、北海道産原料ばれいしょの作付面積の減少もその要因として大きいと判断されたため、生産者手取り額の拡大のために全農は、固有用途向け販売価格の引き上げを段階的に行った。

 市場においては、デフレが長期化していたが、国内産ばれいしょでん粉の生産量回復のため必要であるとし、販売先・ユーザーの協力を得て、販売価格の引き上げを実施し、現在でもその水準の維持に努めている。

 また、需要確保対策として、ユーザー別に供給量に基づく販売計画を立て、その計画数量をユーザーと共有化することにより、ユーザーの国内産ばれいしょでん粉に対する供給不安の払拭に努めている。

6. 平成25でん粉年度の国内産ばれいしょでん粉の需要と供給

 平成25でん粉年度は、同年産の国内産ばれいしょでん粉の生産量がほぼ前年並みであった反面、過去の供給不足により失った需要の回復が進まず、平成24でん粉年度同様、需給が逆転した状態が続いた(表)。
 
 販売実績が低迷した背景には、ユーザーの国内産ばれいしょでん粉の安定供給に対する不安感がある。また、近年では食品の原材料表示が厳格化されていることから、国内産ばれいしょでん粉(食品)と輸入化工でん粉(食品添加物)との置き換えは、商品の包材や規格書の変更を伴うため、メーカーとしても一層慎重にならざるを得ないという事情もある。

 そのため、失った需要の回復には、北海道産原料ばれいしょの生産量を維持・拡大する取り組みとともに、一定量の繰越在庫を持ち、複数年にわたる安定供給を担保し、ユーザーの不安感を払拭することが必要である。

7. 国内産ばれいしょでん粉の需要見通し

 平成19年産の水準には及ばないものの、平成24でん粉年度末において、繰越在庫がプラスに転じたこともあり、市場においては国内産ばれいしょでん粉への回帰の動きが徐々にではあるが見られ始めている。

 平成25でん粉年度の販売実績は16万4000トンであり、前年と比較して9000トンの増加(対前年比106%)の水準となっている(図6)。固有用途は、9万8000トンであり、前年と比較して6000トン増加(同105%)した。
 
 固有用途について平成25でん粉年度の用途別販売数量を見ると、片栗粉用途で前年度と比較して2400トンの増加(同108%)となるなど、国内産ばれいしょでん粉が不足した際に輸入化工でん粉などに切り替えられた用途向けの販売数量が増加している(図7)。これは、国内産ばれいしょでん粉の供給が安定したことにより増加したものと推察される。

 平成25でん粉年度の固有用途向け販売実績は、2年前の平成23でん粉年度との比較では、99%の水準まで回復した。
 
 国内産ばれいしょでん粉の減少により、その多くは輸入化工でん粉に切り替えられたが、EU産ばれいしょでん粉の生産量は、EUの政策変更により、減少傾向にある。また、平成26年産のEU産原料ばれいしょは豊作であるとの情報があるものの、円安の影響によりでん粉誘導体の輸入価格は高値で推移しており、当面、この傾向は継続すると想定される(図8)。

 そのため、国内産ばれいしょでん粉への期待が高まっているが、需要拡大のためには、でん粉使用メーカーに対して安定供給を担保できる供給量(生産量+繰越在庫)を確保することが、絶対条件となっている。
 

おわりに

 国内産ばれいしょでん粉は、古くから食品用途を含め、さまざまな用途に欠くことができない原料として使用されており、全国的に広く認知されている。

 しかしながら、国内産ばれいしょでん粉の需要は、平成21年産以降の生産量の減少により縮小し、外国産でん粉の使用が一部固定化した。また、末端消費の低迷もあり、国内産ばれいしょでん粉の需要回復には、安定供給可能な数量の把握と計画的な販売推進が必要な状況となっている。

 全農としては、引き続き供給量に応じた調整販売を実施し、国内産ばれいしょでん粉の需要の確保に努めてまいりたい。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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