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世界のでん粉需給動向

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最終更新日:2016年1月8日

世界のでん粉需給動向

2016年1月

調査情報部

【要約】

 2014年の世界のでん粉生産量は、全体で3815万トンであり、主なでん粉の種類ごとの生産量は、コーンスターチ1649万トン、タピオカでん粉931万トン、化工でん粉793万トン、ばれいしょでん粉161万トン、小麦でん粉155万トンであった。
 コーンスターチは中国の景気減速などにより、安価なタピオカでん粉に置き換わっている。また、でん粉の中でも価格競争力のある小麦でん粉は、着実に生産が増えている。 

はじめに

 2014年の世界のでん粉生産量は、全体で3815万トン(前年比0.9%増)と前年よりわずかに増加した。これを種類別に見ると、最も多いのがコーンスターチ(1649万トン(同1.6%減)、全体の43%)、次いでタピオカでん粉(931万トン(同4.1%増)、同24%)、デキストリンおよびその他の化工でん粉(以下「化工でん粉」という。793万トン(同0.2%増)、同21%)、ばれいしょでん粉(161万トン(同3.6%増)、同4%)、小麦でん粉(155万トン(同6.8%増)、同4%)であり、最大のシェアを占めるコーンスターチの生産量が減少した一方、その他のでん粉については増加となり、特に小麦でん粉が顕著に増加した(図12)。
 
 本稿では、世界の主要な天然でん粉(コーンスターチ、タピオカでん粉、ばれいしょでん粉および小麦でん粉)と化工でん粉について、2014年の生産状況と今後の消費見通しを、英国の調査会社LMC社の報告に基づき紹介する。

《本稿に関する注意点》
○ 基本的には、でん粉は需要に応じた量が生産される供給体制であることから、一部を除いて生産量=消費量であり、在庫については考察していない。
○ 本稿における調査対象は、天然でん粉、化工でん粉のみであり、糖化製品については、数字に含まれていない。
○ 数値については、すべて製品重量ベースであり、増減率については、それぞれトン単位の値を比較したものである。
○ 本文中の日本円換算には、11月末日TTS相場の値(1ユーロ=131.38円)を用いた。

1 生産概況

 2014年のでん粉の生産は、コーンスターチは減少したものの、他の天然でん粉や、2013年に落ち込みを見せた化工でん粉なども増加し、全体としてはわずかに増加した。特に、小麦でん粉は市場規模としては小さいが、6%を上回る高い増加率を示した(図2図3)。
 
 でん粉価格は、需給バランスよりも原料価格に大きく影響を受け、また、米国やEUでは、でん粉製造企業と大口需要者の間で、年末に向けて翌年の価格交渉が行われるため、秋以降の穀物価格が翌年のでん粉価格に影響を与えている。

 2014年の各種でん粉の輸出単価(注1)を見ると、コーンスターチやタピオカでん粉、小麦でん粉は、原料価格が下がったことから下落した一方、ばれいしょでん粉は上昇し、二極化されている(図4)。

(注1) 種類別でん粉価格を比較するため、便宜上、輸出単価を用いる。
 

2 品目別需給動向

(1)コーンスターチ
 2014年の地域別生産量は、アジアが1134万トン(前年比2.1%減)、北アメリカが246万トン(同3.7%減)、ヨーロッパが173万トン(同1.9%増)であり、全体の生産量の約7割を占めるアジアでわずかに減少したほか、北アメリカでもやや減少した(表1)。

 2014年の地域別消費量は、アジアが1138万トン(前年比1.8%減)、北アメリカが238万トン(同4.2%減)、ヨーロッパが158万トン(同0.3%減)であり、生産と同様、アジアが最大であるが、主要3地域全てで減少となった。一方、アフリカ、中央アメリカなどで増加した。
 
 世界最大の生産および消費国である中国において、コーンスターチに対する需要が落ち込んでいる。これは、中国国内のトウモロコシ価格が高水準にあり、国内で製造されたコーンスターチとタイからの輸入タピオカでん粉に価格差が生じないため、コーンスターチが輸入タピオカでん粉に置き換わっているためと言われている。つまり、消費されるでん粉の種類が変わっただけで、でん粉の消費総量には変化ないと考えられている。しかし、でん粉消費は景気に左右されるため、中国の経済成長の減速が指摘されている昨今、でん粉消費への影響を注視する必要がある。

 北アメリカ、特に世界第2位のコーンスターチ市場である米国は、すでに市場として成熟しているため、今後の消費の伸びは極めて緩やかと考えられる。輸出は、GMOを含む製品に対して寛容なNAFTA地域向けが半数を占めており、輸出量は今後も比較的安定的に推移すると予測される。

 EUでは、コーンスターチの原料となるトウモロコシはほとんど域内から調達され、スペインやEU最大のコーンスターチ輸出国であるフランスなどの南部の国が製造し、ドイツ、オランダ、英国といったコーンスターチのユーザー企業が多い北部の国が輸入して利用するといった域内貿易が大半を占めている。これは、域外からの輸入については高関税(注2)が課されていることに加え、EUを含むヨーロッパでは、GMO製品に対する厳しい規制(注3)が存在するためである。

 今後は、中東(注4)や北アフリカ諸国など中所得層の国々におけるでん粉市場が拡大することが予想されており、投資対象としての関心も高まっている。

(注2)EUへのコーンスターチの輸入に関しては、1トン当たり166ユーロ(2万1809円)の関税が課されている。
(注3)EUでは、混入率0.9%以上のGMO由来商品全てに表示が義務付けられるなど、他国に比べ厳しい規制がGMO製品に対して課されている。
(注4)本稿では統計上、中東地域はアジアに含まれている。


(2)タピオカでん粉
 2014年の地域別生産量は、アジアが全体の9割となる857万トン(前年比4.5%増)である他、南アメリカ(60万トン(同1.0%減))やアフリカ(14万トン(同2.2%増))でもわずかに生産されている(表2)。

 2014年の地域別消費量は、アジアが837万トン(前年比4.3%増)、南アメリカが63万トン(同1.8%増)、アフリカが17万トン(同2.5%増)であり、生産と同様、消費についてもアジアが最大で9割を占めている。
 
 タピオカでん粉の8割以上は、東南アジアにおいて生産されており、その多くが輸出向けである。主要生産国であるタイでは、コナカイガラムシの被害により2010年、2011年に生産量が大きく落ち込んだが、2012年以降は回復し生産量は増加傾向で推移している。しかし、単収は伸び悩んでおり、完全な回復とは言い難い状況にある。

 消費については、アジアのうちでも、特に、中国での需要の伸びが著しく、2014年の輸入量は、前年に比べ40万トン増加している。タピオカでん粉はコーンスターチより価格競争力があり、さらに、その特性から他のでん粉では代替できないと考える実需者もいることなどから、中国経済に減速感が見られる状況下においても、需要は伸びると予測される。

 なお、2015年は、タイにおいて複数の工場が閉鎖されたため生産量は減少し、価格は上昇すると予測されている。

(3)ばれいしょでん粉
 2014年の地域別生産量は、ヨーロッパが99万トン(前年比7.8%減)、アジアが53万トン(同35.0%増)、北アメリカが9万トン(同5.9%増)であり、ヨーロッパでの生産量が落ち込む一方、アジアで大幅な増加が見られた(表3)。

 2014年の地域別消費量は、アジアが78万トン(前年比20.5%増)、ヨーロッパが58万トン(同11.4%減)、北アメリカが19万トン(同1.6%減)であり、生産量同様、アジアで大幅に増加した一方、ヨーロッパで減少した。
 
 EUのばれいしょでん粉に係るCAP改革(注5)は2015年で3年目となったが、現在のところ、業界は廃業もなく変化に順応しているように見える。しかし、ばれいしょでん粉はそもそも生産コストが高い上に、EUと競合するような生産地域が他になかったことなどから、一層のコスト高を招いてきた。このため、長期的に見れば、生産コストの高い工場などは、整理・合理化が避けられないであろうから、CAP改革の影響を判断するのは時期尚早である。

 米国では、EUから年間7万トン程度のばれいしょでん粉が輸入されているが、イングレディオン社(注6)が2015年3月にペンフォード社(注7)を買収し、ばれいしょでん粉生産へ注力することが計画されている。このため、将来的にはEUから米国への輸出も変化を受ける可能性がある。

 今後の需要は、中国がけん引すると予想されている。中国国内のばれいしょでん粉の製造能力は年1万トン以上と公表されているものの、原料不足や設備の老朽化によって、実際の生産量はかなり少ない。そのため、中国は生産量を伸ばそうとしているものの、EUを凌駕するような兆候は今のところ見当たらず、依然として、ばれいしょでん粉生産の主産地はEUに他ならない。

 しかし、EUとタイやベトナムとのFTAにより、EUへのタピオカでん粉の輸入関税が軽減されることがあれば、EUのばれいしょでん粉に深刻な脅威をもたらすこととなり得る。ばれいしょでん粉は他の天然でん粉と比較して割高であるため、大口需要者がより安価な選択肢を選ぶことは十分考えられることから、今後のEUのばれいしょでん粉の動向には注視する必要がある。

(注5)ばれいしょでん粉の生産量は、各国ごとに割当数量が設定され、ばれいしょ生産者およびでん粉製造事業者は、割当数量内で生産されたばれいしょおよびばれいしょでん粉に対する補助金を受けることができたが、2012年に廃止された。
(注6)イリノイ州に本社を置く。でん粉製品等製造企業。
(注7)コロラド州に本社を置く。でん粉製品等製造企業。


(4)小麦でん粉
 2014年の地域別生産量は、ヨーロッパが84万トン(前年比8.0%増)、アジアが48万トン(同6.9%増)、北アメリカが10万トン(同1.0%増)、オセアニアが9万トン(同6.3%減)であり、全体の半分以上をヨーロッパが占めている(表4)。

 2014年の地域別消費量は、ヨーロッパが82万トン(前年比7.9%増)、アジアが55万トン(同6.8%増)、北アメリカが9万トン(同2.2%減)であり、生産量と同様に最大のシェアを占めるヨーロッパが最大の伸びを示した。
 
 小麦でん粉は他のでん粉に比べて生産量は少ないが、原料である小麦が手に入りやすい地域では、その価格の安さ(注8)から重宝されており、特にEUでは、主に、異性化糖(イソグルコース)原料として用いられている。また、近年、小麦は豊作であったため十分な余剰があり、小麦でん粉工場の生産能力の拡大に投資されることが可能であった。例えば、Suedzucker社(注9)は、2016年初旬にドイツ北東部のツァイツで小麦でん粉製造を開始するとしているほか、ロシア西部のエフレーモフではカーギル社(注10)が2014年に小麦でん粉工場の拡大を発表している。

 なお、小麦でん粉は生産コストの安さがその利点であるため、生産コストに対して輸送コストが高額となる遠方への輸出は少なく、ほとんどが生産地域からあまり遠くない地域へ運搬、消費されている。EUにおける小麦でん粉の製造は北部と東部地域に集中しており、主に、フランス、ポーランド、リトアニアで製造されている。

(注8)小麦でん粉は、でん粉製造過程で作られる副産物の小麦グルテンやふすまなどから得られる収益が大きいため、正味の生産コストが抑えられ、価格競争力が高い。なお、小麦グルテンは食品のほか、植物性タンパク質としてペットフードや水産養殖用飼料などさまざまな用途に使われ、需要が高い。
(注9)ドイツの製糖企業。
(注10)米国に本社を置く穀物メジャー企業。


(5)化工でん粉
 2014年の地域別生産量は、アジアが325万トン(前年比2.0%増)、北アメリカが225万トン(同5.1%減)、ヨーロッパが201万トン(同3.6%増)となり、北アメリカでやや減少した(表5)。

 2014年の地域別消費量は、アジアが343万トン(前年比2.0%増)、北アメリカが207万トン(同5.3%減)、ヨーロッパが185万トン(同2.5%増)となった。
 
 2014年の中国の消費量は、ほぼ前年並みであり、2013年に見られた食品偽装問題により加工食品を敬遠する傾向から完全に市場が回復したようには見えないものの、年間およそ7%成長しているとされる中国市場の需要は今後も増大すると予測される。

 先進国では消費者が添加物のない食品を求める傾向があることなどから、化工でん粉に対する需要の伸びは鈍化する一方、新興国での加工食品向け需要は増加すると予想される。このため、今後は中期的には3.2%程度増加すると見込まれているが、天然でん粉以上に景気に大きく左右されるため、需給動向の把握には景気動向にも注視する必要がある。

おわりに

 でん粉は、景気の動向や価格の変動などにより需要量は増減するが、中期的には、世界のでん粉消費量は年2.5〜3.5%の割合で増加し、2019年までに天然、化工でん粉合わせた全体では550万トン増加することが予測される(図5)。
 原料であるトウモロコシが豊富に入手できる限り、コーンスターチは、でん粉市場においてこれまでと同様に優位を占めると思われる。
 また、化工でん粉は、発展途上国や新興国の経済成長によって影響を受けるが、東南アジア(主にタイ)におけるタピオカでん粉と並んで、コーンスターチに続くシェアを占めることに変わりはないだろう。

 EUでは、2017年に砂糖および異性化糖の生産割当制度(注11)は廃止されることが決まっており、これにより、EUのでん粉市場に大きな変化が生じることが予想されている。
 現行の生産割当制度によって、東欧諸国などでは異性化糖生産が抑制されていることから、生産割当廃止後は、砂糖価格の動向にもよるだろうが、低コストで生産された異性化糖がEUの甘味市場でシェアを伸ばすと考えられている。
 EUのでん粉および糖化製品製造企業の中には、製造能力の増強を行うなどして、生産割当撤廃後の準備を進めているところもある。将来、異性化糖生産が増加し、原料である小麦でん粉やコーンスターチが不足することになれば、でん粉全体のバランスが変化するだろう。

(注11)EUでは、砂糖および異性化糖などの生産割当が行われ、国別に生産できる量を定めているが、2017年にこれらの割当制度は廃止され、EU域内の砂糖市場が自由化される。
 
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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