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でん粉から酵素の力でつくる新しい水溶性食物繊維「イソマルトデキストリン」

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最終更新日:2016年2月10日

でん粉から酵素の力でつくる新しい水溶性食物繊維「イソマルトデキストリン」

2016年2月

株式会社林原 研究開発本部
新規糖質プロジェクト・チーム 渡邊 光

【要約】

 イソマルトデキストリンは、でん粉から酵素の作用によって製造される、新しい水溶性食物繊維である。食品への配合に対する高い汎用性と優れた生理機能を併せ持つイソマルトデキストリンは、食物繊維補給や健康機能訴求での利用が期待される。

はじめに

 食物繊維は第6の栄養素とも呼ばれ、生活習慣病の予防に重要な役割を果たすことが知られている。一方で、推奨される量を摂取することは容易ではなく、慢性的な食物繊維不足となっていることも事実である1)2)。イソマルトデキストリンは、株式会社林原が開発した新しい水溶性食物繊維であり、さまざまな食品に配合できるため、慢性的な食物繊維不足を無理なく解消することができる。本稿では、イソマルトデキストリンの基本情報、諸物性および生理機能について紹介する。

1. イソマルトデキストリンとは

 イソマルトデキストリンは、コーンスターチなどのでん粉から酵素の作用によって製造される。製造には土壌から分離した細菌Paenibacillus alginolyticus(旧Bacillus circulans)が菌体外に産生する2種類の酵素(α-グルコシルトランスフェラーゼおよびα-アミラーゼ)を用いる3)。イソマルトデキストリン(商品名:ファイバリクサTM)は、一般的な酵素水飴の製造方法と同様の工程(でん粉液化、酵素糖化、脱色、ろ過、脱塩、脱臭および濃縮)に噴霧乾燥工程を組み合わせることによって製造される。

 イソマルトデキストリンはα結合のグルコースのみから構成され、原料であるでん粉に比べて枝分かれが多いことから、多分岐α-グルカンの一種とされる。重量平均分子量は約5000、数平均分子量は約2500である。グルコース重合度が1〜約62の成分を含み、平均重合度は30、グルコース当量(DE)は約7である。結合の種類は非還元末端が約17%、α-1,3結合が約3%、α-1,4結合が約19%、α-1,6結合が約49%、α-1,3,6結合が約7%、α-1,4,6結合が約5%である(図14) 。酵素-HPLC法による分析では、食物繊維を固形分当たり80%以上含有することが確認されている。

 イソマルトデキストリンはすでに米国内の有識者によって一般に安全と認められる「Generally Recognized As Safe(GRAS)」食品として評価され、「Self Affirmed GRAS」の認証を得ている。一方で、外部安全性評価機関による各種安全性試験も実施されており、変異原性:陰性、遺伝毒性:陰性、急性毒性:1キログラム当たり2000ミリグラムで有害事象なし、90日反復毒性:1キログラム当たり1000ミリグラムで有害事象なし、と評価されている。ヒトの下痢に対する最大無作用量は体重1キログラム当たり0.8グラムであり、糖アルコールやオリゴ糖に比べて高い値となっている。
 

2. イソマルトデキストリンの諸物性

 イソマルトデキストリンの製造工程には、酸触媒存在下での高温加熱工程が存在しない。そのため、最終的な製品粉末の白度は高い。また、甘さはほとんどなく(砂糖の20分の1程度)、無臭で、デキストリン特有の後味もない。粉末の吸湿性については、低湿度ではマルトデキストリン(DE8)と同程度であり、高湿度ではやや高いが、総じて低く、潮解しにくい。

 水への溶解性は高く、20℃の水100グラムに対して70グラム以上溶解する。また、マルトデキストリン(DE8)に比べ、溶解速度が速く(特に低温の場合に差が大きい)、ダマになりにくい(図2)。水溶液の粘度はアラビアガムのような増粘多糖類に比べて顕著に低く、マルトデキストリン(DE8)に比べても低い(図3)。

 加熱時の安定性については、10%(w/w)水溶液をpH2.4、5.0、7.0の各条件で、100℃、60分の処理を行っても分解は見られなかった。さらに、120℃、10分のレトルト処理においても同様に分解は見られなかった。

 冷蔵・冷凍時の安定性も高く、DEの低いデキストリンでは問題となる老化現象(濁りの発生や沈殿の析出)も全く見られなかった。

 粉末自体が白く、着色がないため、水溶液も無色澄明(ちょうめい)となる。10%(w/w)水溶液をpH7.0、40℃で5週間保存しても着色度は変化せず、さらに、pH7.0、100℃で60分加熱した場合でも着色度はほとんど変化しなかった。また、10%(w/w)水溶液を用いてタンパク質(ポリペプトン)とのメイラード反応性を検討したところ、マルトデキストリン(DE8)と同程度に着色性が低かった。
 

3. イソマルトデキストリンの生理作用

 イソマルトデキストリンは新しい水溶性食物繊維であり、既存の水溶性食物繊維と同様に種々の生理機能が期待されたため、検討を行った。以下、確認できている生理作用を紹介する。

 まず、腸内細菌叢へ与える影響について、イソマルトデキストリンの摂取がビフィズス菌を増やし、主要細菌2門間の比率を効率的に変化させることが確認されている5)。ラットにイソマルトデキストリンを3.3%、6.7%、10.0%含む飼料を与えて2週間飼育し、盲腸内容物中のビフィズス菌、ファーミキューテス門、バクテロイデス門の細菌数を測定した。その結果、イソマルトデキストリン6.7%以上の群で、善玉菌の代表であるビフィズス菌数が対照群(イソマルトデキストリン0%)と比較して約100倍増加した。また肥満に関連すると報告されている、ファーミキューテス門細菌数(F)とバクテロイデス門細菌数(B)の比率(F/B比率)は、イソマルトデキストリン3.3%以上の群で対照群よりも有意に低下し、6.6%群ではおよそ10分の1となった。F/B比率の低下と肥満度の低下には正の相関があることが報告されており6)7)、イソマルトデキストリンの腸内細菌叢改善作用を起点とした抗肥満作用が期待される。

 第2に、便通に与える影響について、イソマルトデキストリンの摂取が便秘傾向のヒトにおいて、便通を改善させる作用を有することが確認されている。1週間の排便回数が2〜4回の成人女性10名にイソマルトデキストリンを4週間、毎食時10グラム摂取させたところ、排便日数および排便量は摂取前と比較して有意に増加し、腸内のビフィズス菌占有率は対照群(マルトデキストリン摂取群)と比較して有意に増加した(図4)。
 
 第3に、下痢に与える影響について、イソマルトデキストリンの摂取が下痢症状を軽減することが確認されている。マウスに通常飼料を与え、飲料として水(対照群)あるいは2%イソマルトデキストリン水溶液を2週間前投与した。その後、2%デキストラン硫酸ナトリウム水溶液(対照群)あるいは2%イソマルトデキストリン+2%デキストラン硫酸ナトリウム水溶液を10日間投与したところ、5日目以降、下痢症状が対照群に比べて低く推移し、10日目では有意に低下した。

 第4に、免疫に与える影響について、イソマルトデキストリンの摂取が腸管内で病原菌などを排除する抗体(IgA)の分泌を促進したり、アレルギーのもととなる抗体(IgE)の分泌を抑制することが確認されている。マウスに通常飼料を与え、飲料として水(対照群)、あるいはイソマルトデキストリン水溶液(2%、5%)を与えて4週間飼育した。糞便中のIgA抗体量を測定したところ、飼育3、4週目のイソマルトデキストリン5%群において、IgA量が対照群に比較して有意に増加した。一方で、マウスに通常飼料を与え、飲料には水(対照群)、あるいはイソマルトデキストリン水溶液(2%、5%)を与えて5週間飼育した試験において、飼育1週間後および3週間後に、卵白アルブミン(OVA)を腹腔内投与してIgEを誘導し、飼育5週後に血清中の抗体(IgE)量を測定したところイソマルトデキストリン5%群において血清中のOVAに対するIgE量が対照群に比較して有意に低下した。

 第5に、脂質代謝に与える影響について、イソマルトデキストリンの摂取が食後高脂血症や肝臓への脂肪蓄積を抑制することが確認されている。マウスに通常食と水、高脂肪食と水(対照群)、または高脂肪食と2%イソマルトデキストリン水溶液を与え、3週間飼育した。3週間後にオリーブ油を経口投与し、投与前後での血中中性脂肪を測定した。高脂肪食と水を与えた群では、通常食と水を与えた群と比較して、オリーブ油投与2時間後の血中中性脂肪量が2倍以上になった(食後高脂血症)。一方で、高脂肪食と2%イソマルトデキストリン水溶液を与えた群では血中中性脂肪量が有意に低下し、通常食を与えた群と同レベルに維持された。一方で、マウスに8週間の高脂肪食を与える肥満誘導実験を行った。高脂肪食と水を与えたマウス(対照群)は、肝臓脂肪の蓄積が誘導されたが、高脂肪食と2%イソマルトデキストリン水溶液を与えた群では、肝臓重量および肝臓脂肪量が対照群よりも有意に低下した。

 最後に、血糖に与える影響について、イソマルトデキストリンを砂糖やマルトデキストリンなどの糖質と同時摂取した場合、摂取後の血糖上昇を抑制することが確認されている。砂糖(100グラム)もしくはマルトデキストリン(50グラム)のみを摂取させたときに血糖値が上がりやすかったヒトを対象にイソマルトデキストリン(10グラム)を添加した砂糖(100グラム)もしくはマルトデキストリン(50グラム)を摂取させたところ、イソマルトデキストリンなしのときに比べて血糖値の上昇が抑制された(図5)。
 

4. イソマルトデキストリンの食品への利用

 イソマルトデキストリンの食品への配合目的としては、主に食物繊維の補給が挙げられる。イソマルトデキストリンは固形分当たり80%以上の食物繊維を含有するため、国が定める食品表示基準を満たす量を食品に配合することにより、食物繊維の栄養強調表示が可能となる。具体的にはイソマルトデキストリンを食品100グラム当たり3.8 グラム以上、飲料の場合は100 ミリリットル当たり1.9 グラム以上配合することにより、「食物繊維入」など食物繊維を含む旨の表示が可能となる。

 イソマルトデキストリンは独自の製法により、色がない、においがない、甘味がほとんどない、といった特徴を有しており、また水溶性も高いことから、飲料、製菓、乳製品、主食、調理加工品などのあらゆる食品に配合可能である。色がない(白い)ことを利用すれば、米飯やヨーグルトなど、もともと色が白い食品への配合時にメリットがでてくる。また、においがない、甘味がほとんどないことを利用すれば、緑茶や紅茶などの風味を大切にする飲料への配合時にメリットがでてくる(表1)。
 
 食物繊維補給以外の目的としては、生理作用を利用した健康訴求の食品への配合が考えられる。上述したように、イソマルトデキストリンにはさまざまな生理作用が確認されている。これらの生理作用について、動物でエビデンスが得られている作用に関してはヒトでの検証を、ヒトでエビデンスが得られている作用に関しては論文化を進めていき、2015年4月から始まった新しい機能性表示食品制度への展開を視野に入れたい。

おわりに

 イソマルトデキストリンは林原が独自に開発した新しい水溶性食物繊維であり、色・におい・味の観点から食品配合への汎用性が高く、また食品加工上のさまざまな処理にも安定な食品素材となっている。また、腸内細菌叢を改善することでさまざまな健康機能を発揮するポテンシャルも有しており、食物繊維補給用途や健康機能訴求用途での利用が期待される。

【参考文献】
1)平成25年国民健康・栄養調査結果の概要
2)日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要
3)Tsusaki K, Watanabe H, Yamamoto T, Nishimoto T, Chaen H, Fukuda S: Biosci. Biotechnol. Biochem. ,76,721-731(2012)
4)Tsusaki K, Watanabe H, Nishimoto T, Yamamoto T, Kubota M, Chaen H, Fukuda S. : Carbohydrate Research,344,2151-2156 (2009)
5)Nishimura N, Tanabe H, Yamamoto T: Biosci. Biotechnol. Biochem. , 80, 554-563(2016)
6)Ley RE, Turnbaugh PJ, Klein S, Gordon JI: Nature,444,1022-1023(2006)
7)Verdam FJ, Fuentes S, Jonge C, Zoetendal EG, Erbil R, Greve JW, Buurman WA, de Vos WM, Rensen SS: Obesity,21,E607-E615 (2013)
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