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でん粉原料用ばれいしょ新品種「コナユタカ」の特性

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最終更新日:2016年7月11日

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でん粉原料用ばれいしょ新品種「コナユタカ」の特性

2016年7月

地方独立行政法人北海道立総合研究機構 北見農業試験場
作物育種グループ 主査 大波 正寿

 

【要約】

 北見農業試験場が育成したでん粉原料用ばれいしょ「コナユタカ」は、現在の主力品種である「コナフブキ」より多収で、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つ点が優れる。塊茎の早期肥大性およびでん粉特性は「コナフブキ」並で、「コナフブキ」と同様にYモザイク病抵抗性を持つ。
 

はじめに

 北海道は国内産ばれいしょでん粉の主産地として、重要な役割を果たしている。しかし、ここ数年でん粉生産量が平年を下回ったことから、ばれいしょでん粉ユーザーから安定供給への懸念が指摘されていた。

 でん粉原料用の主力品種である「コナフブキ」は、平成26年には北海道東部を中心に、1万3460ヘクタール栽培されている。しかし、発生面積が拡大し続けているジャガイモシストセンチュウに対して抵抗性がないため、安定生産上の大きな問題となっていた。

 近年、「コナフブキ」より優れた農業特性を備えたジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種が複数育成され、それぞれの長所を生かして「コナフブキ」に置き換えることが予定されている。このうち本稿では、地方独立行政法人北海道立総合研究機構北見農業試験場で育成した「コナユタカ」の特性を紹介する。
 

1. 来歴および選抜経過

 「コナユタカ」の母は、多収で高でん粉価の「根育38号」、父はでん粉品質が良い「K99009-4」である。北見農業試験場において、平成15年に人工交配を行い、16年に播種した1000個体の集団から選抜した。「北育20号」の試験番号で、21年から北海道内の試験研究機関、24年から普及見込み地域の農業改良普及センターにおいて適応性を検討し、26年1月に北海道の優良品種に認定された。
 

2.「コナユタカ」の特性

(1)草姿および塊茎
 「コナユタカ」の枯ちょう期は「コナフブキ」より約1週間遅い晩生である(表1)。葉色は「コナフブキ」と同様に濃く、終花期の茎長はやや長いが、倒伏は「コナフブキ」より少ない傾向がある(写真1)。「コナフブキ」と異なる特徴として、「コナユタカ」は茎に赤い着色がある点(「コナフブキ」は着色がない)、果実の着生が少ない点(「コナフブキ」は果実が多い)がある。

 塊茎の形は、「コナフブキ」の短卵形に対し、円形である。塊茎の皮色は黄で、目周辺の着色はない。塊茎の肉色は淡黄である(写真2)。塊茎の特徴は「コナユタカ」の母の母に当たる「ムサマル」に似ている。
 
(2)収量特性
 「コナユタカ」の収穫期における上いも収量は「コナフブキ」よりかなり多く、でん粉収量は上回る(表1)。早期肥大性は「コナフブキ」並で、上いもの平均重は「コナフブキ」並か上回って推移する(図1)。でん粉価は「コナフブキ」より1%程度下回って推移する(図2)。9月中旬におけるでん粉収量は「コナフブキ」とほぼ同等である。
 
 
 
(3)病虫害抵抗性
 「コナユタカ」は、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性とYモザイク病に対して抵抗性を持つ(表2)。疫病とそうか病は「コナフブキ」と同様に弱く、疫病菌による塊茎腐敗抵抗性は“ごく弱”で「コナフブキ」より劣る。

 
 
(4)でん粉特性
 でん粉の白度は「コナフブキ」並で、でん粉粒子の大きさは「コナフブキ」を上回る(表3)。水産練製品の品質に影響を与えるでん粉の離水率は、「コナフブキ」並である。リン含量は「コナフブキ」よりやや低い、最高粘度は「コナフブキ」並であり、でん粉特性は総じて「コナフブキ」並である。
 
 

3.普及性・栽培上の注意

 ジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種の栽培は、減収を回避できる上に、土壌中のジャガイモシストセンチュウの密度を低下させる効果がある。

 「コナユタカ」は、「コナフブキ」より多収なジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種で、「コナフブキ」と同様にジャガイモYモザイク病抵抗性を持つ。また、塊茎の早期肥大性およびでん粉特性は「コナフブキ」並である。栽培上の注意として、疫病による塊茎腐敗に対する抵抗性が「コナフブキ」より弱いため、疫病防除を適切に行うとともに、塊茎腐敗に効果のある薬剤の使用、排水不良ほ場での栽培を避けるなどの対策を講じる必要がある。

 北見農業試験場では、現在、網走農業改良普及センターおよび斜網地区のJAと連携して、栽培法試験および10〜20アール規模の実証試験を実施している((公社)北海道馬鈴しょ生産安定基金協会の公募型研究による)。「コナユタカ」は平成29年から一般栽培が始まることから、この試験を通じて「コナユタカ」の安定栽培法確立および栽培適地の見極めを行い、北海道産ばれいしょの安定生産に寄与したいと考えている。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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