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いもの復権と地域との関係性重視

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最終更新日:2017年3月15日

でん粉情報

[2009年7月]

【話題】

株式会社農林中金総合研究所
特別理事 蔦谷 栄一


遅れた「水田フル活用」

 減反問題が遠からず予想される総選挙の争点の一つに浮上しつつある。米の生産需給のバランスを保つため、1970年から米生産調整が続けられてきているが、米消費量の減少などを背景に米生産の過剰圧力は強まる一方であることから、米生産調整割合は現在では約4割にも達している。生産調整水田では、小麦、大豆、飼料作物などへの転作が推進されてきたものの、定着度合いは低いといわざるをえない。それが一昨年夏場以降のアメリカにおけるエタノール原料としてのとうもろこし需要の発生をきっかけに穀物相場は急騰し、輸出規制に走る国が相次いだことも手伝って、にわかに食料安全保障論議は活発化し、食料自給率向上が大きな政策課題として浮上することとなった。その目玉が生産調整水田を活用しての飼料米、飼料イネ、米粉原料米の生産、すなわち水田のフル活用である。飼料米などの非主食用米生産については1970年前後から議論なり現場での試行錯誤が積み重ねられ、いったん下火にはなったものの90年代後半以降あらためて国レベルでの議論が行われるようになり、2000年度からは飼料イネが転作奨励金の対象とされるようになった。しかしながら非主食用米生産についての取り組みは特定の地域を除けば広がりに欠け、国をあげての本格的な取り組みにはなりきれずにきたと言わざるをえない。このように基本的には米・稲作は主食用として人間だけが、しかも粒で食べる農産物としてのみ発展してきたわけで、今、生産調整水田を主に飼料用、米粉原料用としての米の非主食用向け生産、米・イネの多角的利用への転換が切実に求められる状況にある。


いもの多様な利用と基礎食料としての役割

 これに対していもの用途別消費量を見ると、ばれいしょで、でん粉用35.9%(06年度。以下同じ)、生食用30.4%、加工食品用17.1%、種子用6.3%、飼料用0.4%となっている。またかんしょでは、生食用47.3%、アルコール用21.1%、でん粉用18.2%、加工食品用8.9%、種子用1.7%、飼料用1.1%となっている。いもについては、生食用に限らずでん粉用、アルコール用、加工食品用などと、米に先行して消費用途の多様化を進行させてきた。米は主食であると同時に、“瑞穂の国”の文化・伝統の基層をなしてきたことを勘案すれば、いもを米と同列に置いての議論は適切ではないかもしれない。しかしながら縄文末期にわが国に稲作が伝播してくるまでは、いも(注)や雑穀などの畑作(焼畑)農業が基本であり、米が腹いっぱい食べられるようになったのは戦後になってからである。その後、消費用途の多様化がすすみながらも、生食用でかんしょが47.3%、ばれいしょでも30.4%を占めていることは大いに注目されていい。主食の座を米に譲り、また特にかんしょの場合には生産量を激減させてきたとはいえ、いまでもいもは重要な基礎食料としての地位を保ち続けていると同時に、畑地の維持に大いに貢献しているといえる。
 ここでいもの熱量と収穫量を米などと比較してみる。農林水産省資料によれば、「じゃがいもやさつまいもは、100グラム当たりの熱量が、それぞれ76キロカロリーと132キロカロリーで、米(356キロカロリー、精白米)や小麦(368キロカロリー、薄力粉)に比べて低いのですが、10アール当たりの収穫量(じゃがいも3,290kg、さつまいも2,380kg)が水稲(522kg)や小麦(434kg)(いずれも19年産)に比べて多く、単位面積当たりの供給熱量が大きい」とされており、食料安全保障上、いもはきわめて重要な役割を占めることになる。


いも文化の見直し・再評価を

 農林水産省は、国内生産のみで2,020キロカロリーを供給する場合の1日の食事メニューの例を発表している。朝食はご飯を茶碗1杯、蒸かしいも2個、ぬか漬け1皿。昼食は焼きいも2本、蒸かしいも1個、果物(りんご4分の1相当分)。夕食がご飯を茶碗1杯、焼きいも1本、焼き魚1切。これにうどんが2日に1杯、みそ汁が2日に1杯、納豆が3日に2パック、牛乳が6日にコップ1杯、たまごが7日に1個、食肉が9日に1食加わるというものである。
 ここで頭にすぐ浮かぶのが、フィリピンの農家を訪問したときにいただいたおやつである。二種類の生果用バナナに、バナナの蒸したものと油で揚げたもの。さつまいもを蒸したものに、油で揚げて蜜をからませたもの。そしてタロイモのケーキと、野菜などを入れて炒めたビーフン。特別の歓待にあずかったわけであるが、でん粉質の多いバナナやさつまいもなどの多彩な調理方法といもなどの持つ食文化の豊かさに驚かされたものである。大変美味であったことは勿論である。そして海外の事例を持ち出すまでもなく、わが国でもとろろ汁は全国にあり、山形のいも煮、北海道のいももち、熊本のいきなり団子等々、いもを使った郷土料理も多い。要は食料安全保障も含めて戦中・戦後の食料難の時代の影響が大きく、いもは貧しさ、ひもじさを象徴する農産物としての誤解と偏見から抜け出せずにいるように思われる。あらためていもについての正当な評価を獲得すべきであり、あわせていもに関連する食文化の見直しと創造、そしてその振興が必要であるように思う。なにしろ稲作文化の前にはいもをはじめとする畑作(焼畑)文化があり、日本の食文化の底流に今も脈々と流れていることは間違いないのだから。


いもと地域の関係性構築

 米は非主食用向け生産について生産者の理解獲得自体が大課題であるが、いもの場合にはすでに多様化に対する心理的抵抗は希薄となっており、食文化の見直し・再評価による食用としての消費を維持していくとともに、ニーズの変化や技術革新などに応じて用途を広げていくことが期待される。でん粉などの工業的用途では、価格圧力はどこまでいっても弱まることはないであろうが、料理の食材や加工食品、焼酎などのアルコールについては地域性を前面に出しての差別化が可能である。畑地を維持し営農を持続させていくためには、いもと地域の関係性を大事にしながら、でん粉など向け生産と、生食用やアルコールなどの原料としての生産とのバランスをとりつつ、地域性を強調していくことが大事と考える。

(注)サトイモ、ながいも、えびいもなど。

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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