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ばれいしょでん粉かすサイレージの利用に向けて

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最終更新日:2017年3月15日

でん粉情報

[2009年12月]

【話題】

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 
北海道農業研究センター 自給飼料酪農研究チーム 大下 友子


1.はじめに

 ばれいしょからでん粉を抽出した後の残さである「ばれいしょでん粉かす」は道内で年間約10万トンが排出されている。栄養価が高いものの、水分が高くそのままでは腐りやすいこと、また、物理的な形状が粘土質(練りあん状)で取扱いにくいこともあり、飼料としての利用は進まなかった。しかしながら、昨今の配合飼料の価格高騰を背景に、栄養価の高いでん粉かすを飼料利用する機運が高まっている。

 本稿では、道内の研究機関と協力して取り組んだでん粉かすの飼料化の研究成果(図1)を紹介するとともに、でん粉かすを飼料利用する上でのポイントを、でん粉かすの保存法や泌乳牛への給与法の観点から整理した。


図1 でん粉かす利用による地域内資源循環型酪農技術の構築

2.でん粉かすの保存法 〜サイレージとして密封・貯蔵して利用する〜

 でん粉かすは水分が約80%と高く、そのままでは腐りやすく、また産出時期が8月から11月に集中するため、飼料として安定的に利用するには保存の必要がある。牧草類はサイレージにする際、原料水分が70%以上あると、発酵品質が劣化しやすい。同様に、でん粉かすも水分が高いため、添加物を用いないと良質サイレージの調製が困難かと思われたが、密封貯蔵(注1)すれば、乳酸菌製剤などを添加しなくても、乳酸発酵した良質なサイレージとなる(図2、図3)ことが確認された。


図2 機密性が高いドラム缶に貯蔵した無添加でん粉かすサイレージ

図3 でん粉かすサイレージの有機酸組成

 でん粉かすを貯蔵するサイロとしては、スタック、バンカー(注2)を中心に、トランスバックなどの利用が考えられるが、いずれの場合も空気の侵入を防ぐことが重要である。でん粉かすサイレージは高水分で粘土質(あんこ状)のため、牧草やコーンのように、サイレージ内部に空気が残存することは少なく、踏圧の必要性は小さいが、サイレージの表面とビニールシートやバックとのすき間は極力なくすようにすべきである。表面からのカビの侵入がひどい場合の対策としては、尿素を0.5%程度でん粉かすの表面上に散布した後、密封する方法もあるが、まずは密封を徹底すべきである。


3.でん粉かすサイレージの凍結対策

 でん粉かすサイレージの保存上の問題点として指摘されているのは、高水分で粘土質といった物理性のために、冬期に凍結してしまい、機械でも取り出せないことである。でん粉かす利用農家が行っている凍結防止の対策方法としては、①でん粉かすサイレージの利用期間を限定し、冬は利用せず、春先からとうもろこしサイレージの代替として利用する②バンカーサイロやスタックサイロの上部30センチ程度を乾草、麦桿などで保温する③バンカーやスタックといった水平型のサイロでは、水分吸着剤としてふすまやビートパルプなどを原物で1割程度混合してサイレージを調製するなど−がある。

 さらに別の混合資材としては、乾物率が70%のしょうゆかすがあげられる。しょうゆかすは、副産物であることから価格も安い上、粗タンパク質(CP)含量が約25%と高く、低タンパク質のでん粉かすに混合して給与することによって、CP含量を16%程度に高めることができた。このように、でん粉かすに乾物率が70%のしょうゆかすを混合(乾物比44%)して密封貯蔵してサイレージ化することによって、凍結を防ぐとともにタンパク質を補給の効果も期待できる。


4.でん粉かすの栄養特性

 でん粉かすサイレージの栄養成分を圧片とうもろこしと比較すると(図4)、粗タンパク質含量は約4%で圧片とうもろこしの半分程度と低く、繊維含量は約3倍含み、特徴の一つとして、牧草類にはあまり含まれないペクチンが豊富に含まれた。このため、でん粉かすサイレージは第一胃(ルーメン)内で急速に分解・発酵し、消化速度は約10%/時間以上と、圧片とうもろこしや圧片小麦などの穀類よりも大きかった(図5)。

 

図4 でん粉かすサイレージの栄養特性

図5 でん粉かすサイレージの第一胃での分解速度

 近年、泌乳牛のカリウム過剰摂取の弊害が指摘されている。でん粉かすの原料であるばれいしょにはカリウムが豊富に含まれることから、でん粉かすサイレージを給与する場合、カリウムの過剰摂取が懸念される。そこで、でん粉かすサイレージの含量を測定したところ、乾物中0.5%程度であり、圧片とうもろこしなどの穀類よりは高いものの、粗飼料である牧草サイレージ(約1―3%)や、とうもろこしサイレージ(約1%)に比べ低かった。

 でん粉かす中のでん粉含量は、でん粉圧搾率の影響を受け、製造工場によって異なるが、大規模工場から産出されるでん粉かす中に残存するでん粉含量は、25%程度であった。これは、圧片とうもろこしの半分以下で、とうもろこしサイレージに近い値であった。このため、でん粉かすサイレージの可消化養分総量(TDN)は75%程度であり、乳酸菌や尿素を添加しても、栄養価が大きく変わることはなかった。このように、でん粉かすサイレージのエネルギー価は、圧片とうもろこしの92%には及ばないものの、配合飼料やビートパルプと同程度であり、粗飼料よりも高く、かつルーメン内での消失が非常に速いことからみると、濃厚飼料に近い性格の飼料であり、エネルギー源としての利用方法が妥当と考えられた。


5.泌乳牛への給与法

 でん粉かすサイレージは、栄養価が高く、上手に利用すれば濃厚飼料の削減効果が期待できる。そこで、泌乳牛に対する給与限界について検討する試験を行った。その結果、飼料中のでん粉かすサイレージの乾物あたり混合割合が8%では、泌乳牛の摂取量、乳量への影響はないこと、16%混合すると採食量、乳量とも低下することが明らかとなった(表1)。この結果は、泌乳牛の飼料中の1割程度(乾物当たり)はでん粉かすを混合できること、すなわち、日乳量が35キログラム程度の泌乳牛に対しては、圧片とうもろこし2キログラム(原物)の代替として、でん粉かす10キログラム(原物)程度を給与しても、乳生産には影響がないことを示している。


表1 でんぷんかすサイレージ摂取牛の乳量、乳成分
1)でんぷん粕サイレージの混合割合(乾物中%)
2)ab異符号間に有意差あり(P<0.05)

 ただし、でん粉かすサイレージは、ルーメン内で急速に発酵する炭水化物が豊富であるという特徴があることから、組み合わせて給与する飼料によっては、アシドーシス(注3)になる恐れがある。アシドーシスを防止する意味からもとうもろこしサイレージを多給している時での給与は避けるべきであろう。


6.おわりに 〜でん粉かすサイレージの利用に向けて〜

 以上、道内の未利用資源であるでん粉かすをサイレージとして密封貯蔵し、泌乳牛に給与することによって、1日1頭当たりの飼料代を80円程度(圧片とうもろこし2キログラム分)節約できると考えられる。また、でん粉かすをサイレージ化して飼料利用することは、ばれいしょの主要な土壌病害であるそうか病防除に対しても有効であることが、道立畜産試験場の成績から明らかにされている。

 このように、今まで利用されずに、直接、ほ場散布されていたでん粉かすをサイレージ化し、飼料として泌乳牛に給与し、そのたい肥をほ場に還元することによって、地域循環型酪農の一つのモデルとして、飼料自給率の向上、資源の有効活用(産業廃棄物の減少)などに貢献できると考えられる。一昨年から昨年にかけての穀物価格の急騰時には、道内のでん粉かすの需要が一気に高まり、利用に向けた普及活動も活発に行われている。

 一方で、2006年度に道内で初めて発生が確認された、ばれいしょの塊茎褐色輪紋病のまん延を防ぐ意味で、現在のところ、でん粉かすを給飼した牛のふん尿たい肥は、ばれいしょを栽培していない草地に還元し、畑地への還元を避けることとなっている。地域資源であるでん粉かすの有効利用に向けて、本病発生のメカニズムの解明や防除法の開発などの対策が望まれる。

注1:サイレージは約1カ月経過すると発酵が安定した状態になると考えられており,一般的にサイレージの密封貯蔵期間は1カ月以上と考えられている。
注2:水平型サイロの種類
注3:ルーメン・アシドーシス:牛が穀物など急激に発酵する炭水化物を大量に摂取した場合に、第一胃内に乳酸などの酸が蓄積し、酸性に傾いた状態のこと。アシドーシスによる病例としては、急性症状では疼痛、下痢など、慢性症状としては乳量、乳脂肪の低下、ケトン尿、蹄病などが挙げられる。


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