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おでん文化と今どきのおでん

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最終更新日:2017年9月11日

おでん文化と今どきのおでん

2017年9月

株式会社紀文食品

1.「おでん」の今昔

 「おでん」という名前の由来は諸説あるようですが、豆腐を竹串に刺し、みそを塗って焼く田楽にあるといわれ、宮中などに仕える女性たちが『お田楽』と呼んでいた言葉が変化したもの−という説が有力です。そのため、江戸時代では、現代で言うみそ田楽や、湯で煮て、みそだれを付けたものを「おでん」と称して売られ、江戸庶民にはファストフードのような感覚で広く親しまれていたそうです。現在のようなつゆも味わえるおでんが主流となるのは明治時代以降のことで、大根や玉子、練りものなどを煮込んだ料理をおでんと呼ぶようになったのは昭和期以降とされています。

 おでんは時代の流れに呼応して変化を遂げ、今も進化し続けています。当社広報部では、1994年から毎年、「紀文・鍋白書」を発行し、家庭での鍋料理の“今”を見つめてきました。そこで、この鍋白書に見る今どきのおでん・練りもの事情について紹介します。

2.おでんは国民食

 当社では、「紀文・鍋白書」の発行に合わせ、「紀文・家庭の鍋料理調査」を毎年実施しています。その中で、「昨年の秋冬に食べた鍋料理は何ですか」との問いに対し、最も多かった回答(第1位)は、1999年から17年連続で「おでん」という結果になりました(表1)。また、世代別の好きな鍋料理ランキングを見ても、「おでん」がほぼトップを独占しており、“国民食”と言っていいほど現代の食文化に深く定着しています。

 こうなると、気になるのが「好きなおでん種(種もの)」ではないでしょうか。トップ3は「大根」「玉子」「こんにゃく」の順で、ここ10年の不動の順位となっています(表2)。ちなみに、家庭で鍋をする時に加える種ものを地域別に見ると、上位4位以内に「ちくわ」がランクインする傾向にあり、このほか「はんぺん」「ごぼう巻」「さつま揚」といった練りものが定番の種ものであることが見て取れます(表3)。

表1 昨年の秋冬に食べた鍋料理は何ですか?

表2 好きなおでん種(種もの)は何ですか?

表3 家庭のおでんによく入れるおでん種(種もの)は何ですか?

3.おでんに欠かせない練りもの

(1)練りものの起源

 先述の通り、おでんの定番の種ものである「練りもの」。日本は海に囲まれ、水産資源に恵まれた国であり、練りものは本来その土地ごとの名産品でもあるため、おでんの中で地域色が最も表れやすい種ものであると言えます。

 そもそも練りものとは、魚肉をすりつぶし、塩などの調味料を加えてすり、成型したのち、加熱して凝固(ゲル化)させた水産加工品の総称です。その起源は古く、平安時代の宮中行事の際の調度などについて記録した『類聚雑要抄(るいじょうぞうようしょう)』には、すでに「蒲鉾」という文字が記されています。その練りものは、貴族階級の祝いの席で用いられ、現在のちくわの様な形状であったと考えられています。この「蒲鉾」が、その後、新たな調理法の伝来や調理技術の発達などにより、現在でも食されるようなさまざまな練りものへ派生していったことが多くの文献から読み解くことができます。

(2)練りものは栄養の宝庫

 練りものの原料である、魚のすり身の主成分はタンパク質です。タンパク質は、筋肉や骨、血液などを構成する成分となるほか、体のさまざまな調節機能や免疫機能の正常な働きに不可欠な栄養素です。タンパク質は体内でさまざまなアミノ酸に分解された後に吸収されますが、必須アミノ酸のバランスが理想的なアミノ酸バランスに近いほど吸収が良く、体内での利用効率も良くなります。しかし、1種類でも少ない必須アミノ酸があると、体内での吸収や利用効率が発揮しにくくなります。

 管理栄養士の杉本恵子先生によると、練りものに含まれる必須アミノ酸のバランスは理想的なアミノ酸バランスに近いので、体内での吸収や利用効率の良い食品と言えるそうです。また、練りものは全般的に低脂肪で、かまぼこは卵と変わらないほどのタンパク質が含まれ、つみれ(・・・)やさつま揚には日本人には不足しがちなカルシウムが豊富に含まれているそうです。

(3)独特な食感のヒミツ

 練りもののおいしさの特徴に「弾力」があります。当社をはじめ、かまぼこ業界では、練りものの弾力を「足(あし)」と表現し、麺類などに用いられる「コシ」に相当する意味を有します。練りものの弾力の強さ、歯切れの良さ、きめの細かさ、喉越しが、足の良し悪しを決定する重要な要素となります。

 この足は、塩と加熱の力によってタンパク質が凝固し、網のように絡み合うことで生み出されます (図1)。そのメカニズムは以下の通りです。

(1)まず「塩」です。塩は、練りものの食感に大きく影響を与えます。魚肉に塩を加えてすりつぶすことで、筋原繊維タンパク質が溶けだして、それらが複雑に絡み合います。

(2)次に「熱」です。塩を加えてすりつぶした塩ずり身に熱をかけると、それがほぐれない構造となって、独特の弾力を持つ練りものになります。

図1 足が生み出されるメカニズム

 このプロセスを細かく見てみます。
 まず、魚の筋細胞は、主に筋原繊維タンパク質が集まった筋繊維からできており、筋原繊維は太いミオシンフィラメントと細いアクチンフィラメントから成り立っています(図2)。

図2 魚の筋細胞と筋原繊維

 このような構造をした魚肉に塩を加えてすりつぶすと、塩のナトリウムイオンや塩素イオンが筋原繊維タンパク質に浸透します。すると、太いミオシンフィラメントはミオシン単量体という形となり、アクチン粒子が糸のように並んでいるアクチンフィラメントも、塩が浸透して長い糸がバラバラになります。

 やがて、アクチンの長い糸と、たくさんのミオシン単量体が結合して、大きなアクトミオシンが生成され、粘性のある塩ずり身ができます(図3)。

図3 塩を加えることによる変化

 塩ずり身に熱をかけると、アクトミオシンのミオシンの頭同士や尻尾が絡まり合ってきます。そして、網のように絡み合うことにより弾力が生まれます(図4)。つまり、練りものの弾力は、魚肉のタンパク質(筋原繊維タンパク質)に由来するものなのです。

図4 加熱による変化

 この弾力を補強する原料として、でん粉が広く用いられています。理由は、でん粉には魚肉タンパク質から遊離する水分を吸収しながら膨潤・糊化していく作用があるため、結果、魚肉のタンパク質の塩の浸透を促し、弾力を強める効果が得られると考えられているからです。よって、弾力を調整したい時などにでん粉を利用します。

 練りものに使う魚の種類は時季によってさまざまであることから、でん粉は製品を均一に仕上げるために不可欠な原料の一つと言えます。

4.日本のおでんいろいろ

 地域の食文化を映すように、ご当地ならではのおでんが全国各地にあります(表4)。例えば、関東圏はかつおだしを効かせ、濃口しょうゆで味付けするのが特徴ですが、名古屋圏はみそで煮込んだおでんが親しまれています。また、大阪圏は、かつおだしの関東風のおでんが関西に伝わった際、新たに昆布だしを加えるなどして独自に発展させながらも、「関東煮」という名で定着しています。このほか、近年では地域振興の一環として、地域の名産を使った新たなおでんが考案されるケースも各地に見られます。

 その一方で、ボーダレス化・ノンジャンル化とも言える現象も進んでいます。関東の「ちくわぶ」や、関西の「牛すじ」などその地域だけでしか消費・流通されていなかった種ものが全国的に販売されるようになったほか、ソーセージ、チーズ入り巾着などの洋風の具材や、丸ごとのトマトやばれいしょを種ものとして取り入れる料理店・家庭が増えています。

 また、夏に食べる“冷やしおでん”や、「豆乳」 「カレー」「トマトベース」などのバラエティ豊かな鍋つゆの登場によって、今までのおでんの概念が大きく変わりつつあります。しかし、これがおでんの最大の魅力であり、国民に愛される理由なのではないかと考えています。おのおのが思い思いの種もの、味付けで楽しむことができる自由度の高さ、懐の深さは、他の料理にはない特徴と言え、おでんの進化を支えています。
 皆さんも、家庭ならでは味つけや入れる種もの、食べ方の工夫があるのではないでしょうか。

表4 全国各地のおでん

5.秋冬に食べたい!おすすめおでん

ジャンボロールキャベツおでん

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