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植物防疫法に基づくジャガイモシロシストセンチュウの防除対策の実施

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最終更新日:2018年5月10日

植物防疫法に基づくジャガイモシロシストセンチュウの防除対策の実施

2018年5月

農林水産省 消費・安全局 植物防疫課国内防除第1班 課長補佐 阿部 清文

はじめに

 平成27年8月に北海道網走市の2大字(おおあざ)において、国内で初めてジャガイモシロシストセンチュウ (Globodera pallida〈Gp〉、図1)が確認された。ジャガイモシロシストセンチュウは、生活史の中にシストという段階を持つ植物寄生性線虫であり、ばれいしょなどのナス科植物の根から養分を吸収し、寄主した植物の生育を阻害することで、植物を枯らすこともあるため、ばれいしょなどの生産に大きな被害を与える。

 このため、28年11月から植物防疫法に基づく防除対策を開始し、ジャガイモシロシストセンチュウのまん延防止や土壌消毒などの防除対策を講じている。なお、本線虫が付着したばれいしょを食べても、人体への影響はない。
図1 ジャガイモシロシストセンチュウの形態

1.これまでの調査の結果

 農林水産省では、北海道や地元関係者の協力の下、ジャガイモシロシストセンチュウの発生している範囲を確定するため、平成28年度までに網走市内の圃場(ほじょう)において、土壌検診を行うとともに、網走市周辺7市町(北見市、大空町、置戸町、清里町、訓子府町、小清水町および斜里町)においては、栽培中のばれいしょを抜き取り、植物検診を行った。その結果、網走市内において、9大字での発生を確認した。

 平成29年3月に開催された対策検討会議において、網走市内の発生状況や地形や過去の営農形態などを踏まえ、大空町2大字において土壌検診の実施することとなった。この土壌検診の結果、大空町1大字において発生を確認した。27年の発生確認以降の調査により、網走市の11大字および大空町1 大字の163圃場682ヘクタール(図2)でジャガイモシロシストセンチュウの発生を確認した。
図2 ジャガイモシロシストセンチュウの防除区域の状況

2.植物防疫法に基づく防除対策について

 ジャガイモシロシストセンチュウは、寄主となるばれいしょなどナス科植物の栽培により、急激に増殖し、農業機械や収穫物の出荷に伴う土壌の移動により発生範囲が拡大する。このため、ジャガイモシロシストセンチュウの根絶と他地域へのまん延を防止するため、平成28年10月から植物防疫法に基づく防除対策を開始した。その内容は、発生圃場を含む大字を防除区域に指定する▽発生圃場におけるばれいしょなどのナス科植物の栽培を禁止▽発生圃場における対抗植物および土壌くん蒸剤を用いた防除対策(図3)の実施▽防除区域内で生産されたナス科植物の地下部(ばれいしょ)やその他植物の地下部であって土の付着したもの(てん菜、根菜類など)の移動を制限(移動させる場合は、植物防疫官が土壌のまん延防止措置が講じられていることを確認)−である。
図3 防除機器および対抗植物

3.現在の対応状況

(1)防除の状況

 発生圃場では、D−D剤による土壌消毒2回と対抗植物の植栽1回などによる防除対策を植物防疫法に基づく防除対策実施期間中に実施することとしている。本格的な防除は平成29年度から開始され、土壌消毒は39圃場189ヘクタール、対抗植物の栽培が92圃場319ヘクタールで実施された。このうち、土壌消毒2回と対抗植物の植栽1回による防除対策がすでに終了した圃場の一部については、実証試験(「安全な農林水産物安定供給のためのレギュラトリーサイエンス研究」委託事業)においてカップ検診法(注)写真)による検出限界以下(以下「検出限界以下」という)となったことが確認された。

(注)圃場から採取した土壌をばれいしょの塊茎とともに培養し、ジャガイモシロシストセンチュウの有無を確認する。
写真 カップ検診法

(2)侵入原因の特定調査

 ジャガイモシロシストセンチュウは世界50カ国以上で発生が確認されており、網走市などで確認されているジャガイモシロシストセンチュウは、ヨーロッパや北米で発生しているグループと近いことが、これまでの研究により明らかになっている。このため、わが国への侵入原因を特定するため、網走市内の関係機関などに圃場で使用している肥料や農業機械の導入状況などの聞き取り調査を実施した。また、海外からの侵入に関与した要因として、ジャガイモシロシストセンチュウ発生国から不正に持ち込まれたばれいしょなどが考えられたが、本調査の結果や輸入検疫における検査実績などを検討した結果、その特定には至らなかった。

(3)防除の解除

 植物防疫法に基づく防除対策により、発生圃場におけるばれいしょなどの作付け禁止や発生圃場におけるD−D剤による土壌消毒と対抗植物の植栽による防除対策を実施することとしている。平成30年3月に開催した対策検討会議において、防除対策が完了した発生圃場については、土壌検診を行い、ジャガイモシロシストセンチュウが検出限界以下となったことが確認されれば、防除の解除をすることが、専門家から妥当とされた。

(4)今後の予定

 平成30年度以降も防除対策を進め、対策検討会議において、各圃場における防除効果を検討するとともに、防除を終了した圃場については、ばれいしょの植栽を再開することとした。ただし、植物防疫法に基づく防除対策において実施している移動制限と土壌検診については、引き続き継続し、まん延防止や防除などの対策の効果を検証することとした。

おわりに

 植物防疫法に基づくジャガイモシロシストセンチュウの防除対策の円滑な実施には、関係者の方々の協力が不可欠である。今後、ジャガイモシロシストセンチュウを適切に防除し、日本のばれいしょの安定生産が図られるよう、植物防疫法に基づく防除対策の実施にご理解とご協力をいただくようお願いしたい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272