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でん粉などを原料とするとろみ調整食品の利用について

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最終更新日:2019年3月11日

でん粉などを原料とするとろみ調整食品の利用について

2019年3月

実践女子大学 生活科学部食生活科学科 教授 白尾 美佳

はじめに

 食べ物や飲み物を飲み込むことを「嚥下(えんげ)」、上手に飲みこむことができない状態のことを「嚥下障害」といいます。嚥下機能が低下した場合に、唾液や食べ物、逆流した胃液が細菌とともに気管に入ると、炎症を引き起こして誤嚥性肺炎になる場合があります。この誤嚥性肺炎を引き起こす原因は、脳血管障害、脳腫瘍、筋疾患、呼吸器疾患、認知症、薬の後遺症、加齢などさまざまですが、高齢者で肺炎になった方々の多くが、誤嚥性肺炎であるといわれています1〜2)

 誤嚥性肺炎の予防は、口の中の細菌や食べかすなどを少なくするなど口腔ケアをすること、そして高齢者の方々にとっては、低栄養にならないように体力を維持することが大切です。低栄養にならないためには、充分な食事を取ることが必要になってきます。嚥下機能が低下している方々が誤嚥しないように適切な食事を取るために、とろみ調整食品や嚥下困難者用食品が使用される機会が多くなってきました。これらの食品はでん紛を利用している場合があることから、ここでは、これらの食品がどのように使用されているかを紹介したいと思います。

○食品の物性と誤嚥
 誤嚥を引き起こしやすい食事として、食品の物性が大きく関わります。例えば、水やお茶などさらさらとした液体、肉類や種実類などのかたいもの、かまぼこやこんにゃくなど弾力が強いもの、餅などの粘りが強いもの、のりやウエハースなどの口腔内などに貼りつきすいもの、口の中でばらばらとまとまりにくいもの、水分が少なくぱさつきやすいもの、つるつるとし過ぎるものなどは、上手に食道に入らず、気管に入ってしまうことがあります。

○嚥下障害を持つ方の食事
 昔から和食においてはとろみを付ける際に、片栗粉などがよく利用されてきました。特に、とろみ付けは、食べ物が口の中で適度にまとまりやすくなり、飲み込みやすくなることから誤嚥の防止につながります。また、ゼリー状、豆腐状の食品は嚥下しやすい食品です。一方、片栗粉などによるとろみは加熱することによってとろみがでるため、低温食品に利用できないことから、低温でもとろみ付けが可能なとろみ調整食品が開発され、病院の病棟などでお茶のとろみ付けや薬を飲用する際などにも広く利用されています。

○とろみ調整食品の原料1)
 とろみ調整食品の原料は、でん粉、カラギーナン、グアーガム、キサンタンガム(注)があります。これらは、食べ物や飲み物に混ぜるだけで、とろみを付けることができます。でん粉では、α化させて溶解しやすいように加工したものが利用されている場合が多く、使用時には多量に使用する必要性があります。そのため、味、風味、物性に影響を及ぼしやすいといわれています。濃くとろみを付ける場合は、べたつき、付着性が強くなります。カラギーナンは、たんぱく質に作用することによってとろみが付くことから、乳製品や流動食のとろみ付けに利用されることが多く、グアーガムは少量でとろみが付きますが、粘性を付けるために時間がかかります。また、白濁し、不透明になることが多く、特有の臭いが残ることがあることから、他の原材料で作られたものと組み合わせて使用されている場合が多くみられます。キサンタンガムは、味や臭いがなく、透明で付着性が低いことから、さまざまな飲食物へのとろみ付けに利用されています。特に、飲料水などへのとろみ付けに向いています。しかし、溶けにくくだまになりやすいことが短所です。これらの原料は、長所や短所があることから、組み合わせて使用することで、問題点について改善されてきています。現在では、多くのメーカーよりとろみ調整食品が販売されていますが、それぞれに特徴があるために使用量や使用方法、時間経過による変化については留意が必要です。

(注)カラギーナン  :紅藻類の海藻より抽出される多糖類を主成分としたもので、増粘安定剤として利用される。
    グアーガム  :インドなどで栽培されるグアーという植物から得られた多糖類を主成分としたもので、増粘安定剤として利用される。   
   キサンタンガム:キサントモナス属菌の培養液から得られた多糖類を主成分としたもので、増粘安定剤として利用される。


○嚥下困難者用食品ならびにとろみ調整食品の基準
 咀嚼(そしゃく)機能や嚥下障害の人に対する食形態の基準や分類においては、消費者庁の「えん下困難者用食品」の基準、日本介護食品協議会による日常食品から介護食まで使用できるかたさや粘度の規格による四つの区分に分類された「ユニバーサルデザインフード」、農林水産省の「スマイルケア食」、一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会による、「嚥下調整食分類2013」(学会分類2013)などがあります。ここでは、学会分類2013についてご紹介いたします。

○日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013(学会分類2013)について
 学会分類2013では、嚥下調整食品としての「食事」と「とろみ」がその形態などに応じて分類されています。は学会分類2013(食事)をピラミッド式に図式化したもの、表1はその早見表、表2は学会分類2013(とろみ)早見表です。では食品の形態や咀嚼能力によってコード0から4の5段階の分類とされており、ピラミッドの頂点に近づくほど咀嚼能力が低い人に対応した食事となります。コード0は、重度の嚥下機能に障害がある方に対応するもので、j(jelly)のゼリー状、t(thickness)のとろみ状が設定されており、嚥下訓練食品として舌や口腔周囲をほとんど動かさなくても、少量をそのまま丸のみすることができる食形態です。0jは均質で付着性・凝集性・かたさに配慮したゼリーで、次の段階の1jは、咀嚼に関連した能力は不要で、嚥下調整食のゼリー・プリン・ムース状の食品になります。一方、0tは均質で付着性・凝集性・かたさに配慮したとろみ水です。コード2は、ペースト・ミキサー状の食品で、2-1はなめらかで均質なもの、2-2はやわらかい粒などを含む不均質なものです。コード3はソフト食、やわらかい食で、形はあるが、歯などがなくても押しつぶしが可能で食塊形成が容易であり、咽頭通過時のばらけやすさがないもの、コード4は咀嚼や嚥下機能に軽度の機能低下がある人を想定し、軟飯や全粥、煮込み料理などがこの段階となります。

 表2の学会分類2013(とろみ)では、段階1のスプーンを傾けるとすっと流れ落ちる程度の「薄いとろみ」、とろとろと流れる程度の「中間のとろみ」、形状がある程度保たれ、流れにくい「濃いとろみ」の3段階に設定されています。

図 嚥下食ピラミッド

表1 学会分類2013(食事)

表2 学会分類2013(とろみ)

おわりに

 今日では、高齢者の誤嚥が多いことから、とろみ調整食品や嚥下困難者用食品は、病院、高齢者福祉施設などさまざまな施設で使用されています。しかし、嚥下が少々困難な方々の場合には、自宅での対応が必要となってきます。自宅での食事では、ばらばらとなりやすいものは、片栗粉でとろみを付けたり、粘り気の強い餅などの代わりに白玉粉を利用するなど、昔から使用されてきたでん粉を使用した食事を工夫することによって対応することがある程度可能です。一方、とろみ調整食品や嚥下困難者用食品も利用しやすくなってきたことから、一般の家庭でも広く使用されるようになってきました。なお、高齢者だけではなく、発達期の子どもにおいても摂食嚥下障害が見られる場合があることから、「発達期摂食嚥下障害児(者)のための嚥下調整食分類2018」が昨年度発表されました。どの世代の人々にとっても、口から食べ物を食べることができるということは生活の質を向上させることにつながります。すべての人々が食事を楽しく取ることができるよう、今後もでん粉やその他の原料を利用したとろみ調整食品や嚥下困難者用食品のさらなる開発が期待されます。
参考文献
1)藤谷順子、小城明子 編(2016)『臨床栄養別冊 摂食嚥下障害の栄養食事指導マニュアル』医歯薬出版株式会社
2)厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000135467.pdf (2019/1/20アクセス)
3)日本摂食・嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会(2013)『日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌17(3)』pp255–267.
4)江頭文江、栢下淳 編(2016)『嚥下食ピラミッドによる嚥下食レシピ125』医歯薬出版株式会社
5)食品化学新聞社 編(2014)『食品添加物総覧 2011-2014』株式会社食品化学新聞社
6)早川幸男、小林昭一 監修、社団法人菓子・新素材技術センター 食品新素材事業部幹事会(2010)『良くわかる食品新素材』株式会社食品化学新聞社
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