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ばれいしょ畑の土壌酸性管理

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最終更新日:2019年6月10日

ばれいしょ畑の土壌酸性管理

2019年6月

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業研究センター

土壌肥料研究領域 土壌診断グループ 上級研究員 久保寺 秀夫

はじめに

  ばれいしょのそうか病は放線菌による難防除性の土壌病害で、発病すると果皮表面に病斑が発生し商品価値を大きく損なう(写真1)。そうか病は酸性土壌で発生が抑制されるため、ばれいしょ畑(特に輪作を行っていない場合)の土壌は、石灰の不施用などによって酸性に傾いている場合が多い。しかし、ばれいしょ自体は酸性土壌を好む作物ではなく、土壌の酸性が強くなり過ぎると生育障害が発生する。そのためばれいしょ畑では病害抑制と生育障害回避のため、適正な土壌酸性の維持が重要である。

1.土壌の酸性とその評価

  土壌を構成する粘土や腐植は、基本的に負(マイナス)の荷電を持つ。カルシウムやマグネシウムが土壌中に多い状態では、これらの陽イオンが土壌の負荷電に保持されている。しかし、カルシウムなどが減少すると、その替わりに土壌中の鉱物から生成したアルミニウムイオンが負荷電に保持されるようになる。アルミニウムイオンは酸の性格を持ち、土壌の酸性の本質となる物質である。日本のように降雨が多くカルシウムなどが溶脱しやすい気候や、硫安など生理的酸性肥料が施用される場合には土壌の酸性化が進みやすい。
 

  そうか病対策のための土壌酸性の指標としては、アルミニウムイオンを主体とする酸性物質の量を滴定で測定する「交換酸度y1」が用いられてきた。アルミニウムイオンはそうか病の抑制や酸性障害発生の直接の原因物質であるため、y1はそうか病対策の上で優れた指標である。しかしy1の測定には化学分析の技術と器具、劇物、多大な時間と労力を要するため、現場で利用しにくいことが問題となっていた。
 

  著者らは、土壌に塩化カリウム(KCl)溶液を加えてpH計で測定する「pHKCl)」とy1の間には極めて密接な関係があることを明らかにした(図1)。これは、ばれいしょ畑の土壌酸性の指標として、y1の替わりにpHKCl)を使用できる可能性を示唆している。そこで、ばれいしょ産地の北海道、長崎県、鹿児島県の農業研究および普及支援機関と研究コンソーシアムを形成し、化学分析を専門としない者による測定や、畑での現場測定も行えるようにpHKCl)測定法の徹底的な簡易化▽pHKCl)とそうか病発病度の関係を解明し、pHKCl)基準値など、土壌酸性管理の考え方の提示−を行った。本稿ではこれらの成果の概要を紹介したい。

2.pH(KCl)測定法の徹底的な簡易化

(1)土壌診断におけるpH測定法

  pHは溶液の酸性の度合いを示す数値で7を中性とし、低いと酸性、高いとアルカリ性である。土壌のpHは、土と抽出液を12.5の割合で混合し、1時間以上おいた後の懸濁液で測定する。土壌診断で広く用いられるのは純水を抽出液に用いたpHH2O)で、ばれいしょでの診断基準値は5.56.0程度だが、後述のようにこれを下回る(酸性が強い)畑も多い。pHKCl)は抽出液に1 mol L1(約7.5%)のKCl溶液を使って測定する。土壌の負荷電に保持されているアルミニウムイオンがカリウムと交換されて液中に遊離し、酸として振る舞うためpHKCl)はpHH2O)に比べて0.5〜1程度低い(酸性側)値が出る。

(2)pH(KCl)簡易測定法の開発

  pHKCl)の測定はもともと化学分析としては簡単な方法だが、測定操作をさらに徹底的に簡易化した(アバウトに行った)場合の測定精度を調べた。その結果、土壌やKCl溶液の量、濃度、待ち時間などは正式な実験法から多少ずれても測定値にあまり影響せず、操作を大ざっぱに手早く行っても問題ないことが分かった(表1)。一方、KCl溶液の温度は測定値に比較的強く影響するため、1535度の範囲に保つ必要がある。これらの結果を踏まえた簡易測定法(図2)で得られる値は、実験室での精確な測定値±0.1以内に収まる(図3)。

  農業改良普及センターや土壌分析機関がこの方法を採用した場合、測定に要する時間と労力を大幅に軽減できる。また使用する器具や試薬はすべて通信販売などで購入でき、生産者が自らこの簡易法を用いて土壌の酸性を測定することも可能である。
 

 pH計は、精度や使いやすさの面で理化学用の携帯型(通信販売で2万数千円)が望ましいが、室内で丁寧に測定する場合は、熱帯魚飼育などの用途で販売されている一般向け機種(数千円)も使用できる。この場合は必ず、電極を液に浸して測るタイプで(地面に突き刺して測るタイプは不可)、かつ小数二桁までデジタル表示される機種を選ぶ。pH計さえ準備すれば、他の消耗品などに要する費用は測定1点当たり50円程度である。主な消耗品であるKCl溶液は、通信販売で500ml瓶2千円程度で販売されている比較電極用塩化カリウム溶液3.3mol L1を、薬局で500 ml当たり100円程度で販売されている精製水1150 mlで希釈して用いる。試料の(ひょう)(しゅ)に使う秤や紙皿、計量カップなどは台所用品でよく、抽出に使うねじぶた付き容器は焼酎の飲みきりペットボトルなどでも代用できる。

 

3.そうか病対策としての土壌酸性管理の考え方

  pHKCl)とそうか病の発病度には、密接な関係が見られた(写真2)。現地調査や栽培試験の結果を踏まえ、長崎県と鹿児島県のばれいしょ産地(後述の大隅(おおすみ)地域を除く)では、pHKCl)の基準値として3.8ないし4.0の値が示された。pHKCl)が基準値より低い(酸性が強い)場合は、石灰などアルカリ性の資材を施用し酸性を弱める対策が求められる。pHKCl)が基準値より高い(酸性が弱い)場合は、アルカリ資材の施用を控えてpHが自然に下がるのを待つことが基本だが、硫酸第一鉄など酸性の資材を使ってpHKCl)を下げる方法もある。

  北海道の十勝地域のように輪作にばれいしょを組み込んでいる産地では、後作への影響の面から土壌の酸性をあまり強めることはできない。また鹿児島県大隅地域などに分布する、火山灰を母材とし腐植に富むアロフェン質黒ボク土は一般に酸性があまり強くならず、pHH2O)が下がった場合でもアルミニウムイオンの増加(pHKCl)の低下、y1の上昇)は生じにくい。さらに、そうか病の病原菌の一種であるStreptomyces acidiscabiesは耐酸性を持ち、土壌酸性による抑制が難しい。これらの作型、土壌、菌種に対しては、耐病性品種の導入や生育初期のかん水など土壌酸性以外の対策が必要である。ただし、これらの場合も、土壌が極端な酸性またはアルカリ性に傾いていないかの判断にはpHKCl)簡易測定を利用できる。
 

  日本の農耕地は前述のように、降雨の多さや化学肥料の施用により土壌が酸性化しやすい条件にある。特に九州のばれいしょ産地では、そうか病を警戒して石灰や堆肥など土壌pHを上げる資材の使用が避けられることが多く、多雨気候の影響もありpHKCl)で3.0前後など極端に酸性化した土壌が散見される。このような強酸性化は作物の生育に悪影響を及ぼすだけでなく、土壌の骨格である粘土鉱物の変質につながる恐れがある。pHKCl)簡易測定法を適正な土壌酸性管理に活用し、ばれいしょの安定生産と土壌の健全性維持の一助としていただければ幸いである。

おわりに

  以上は、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業「バレイショのそうか病対策のための土壌酸度の簡易評価手法の確立と現場導入」の成果である。この研究課題は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下「農研機構」という)と北海道、長崎県、鹿児島県の公設農業試験研究機関、普及組織および十勝農業協同組合連合会が担当し、ばれいしょ産地の生産者や普及指導担当者など多くの方々の協力の下で実施された。
 

  測定や土壌管理についてさらに詳しく述べた技術マニュアルや、成果を簡潔にまとめた普及成果情報を農研機構のWebサイトに掲載している。技術マニュアルには、一筆の畑の中でのpHKCl)のばらつきの様子、pHKCl)とy1の精密な換算法などの参考情報も盛り込まれている。
 

  また、現場でのpHKCl)測定の様子を「ジャガイモそうか病pH測定法」の題で、YouTubeにて公開している(検索ワード:「youtubeばれいしょ pH」など)。
 

 これらのURLを下記に示したので参照されたい。

【参考文献】

1)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業研究センター 土壌肥料研究領域(2018)「バレイショ畑の土壌酸性管理のためのpHKCl)簡易測定法」〈http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/080431.html〉(2019/5/16アクセス)

2)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業研究センター 土壌肥料研究領域 土壌診断グループ「バレイショのそうか病対策のための土壌酸性の簡易迅速診断手法」〈http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/popular/result110/2017/17_086.html〉(2019/5/16アクセス)

3)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業研究センター 土壌肥料研究領域「ジャガイモそうか病pH測定法」〈https://www.youtube.com/watch?v=15r7gMEkSak〉(2019/5/14アクセス)

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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272



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