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カンボジアのでん粉生産の状況

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最終更新日:2019年8月9日

カンボジアのでん粉生産の状況

2019年8月

調査情報部

【要約】

 カンボジアの主要産業の一つであるキャッサバ生産について、生産量は増加傾向にあるものの、国内のタピオカでん粉工場の処理能力が不足していることから、生産されたキャッサバの多くは隣国のタイやベトナムなどへそのまま輸出されている。このため、カンボジアのキャッサバ産業は、主な輸出先であるタイ国内の需要や価格に大きく左右されることなどから、カンボジア政府は外国資本などによる投資を募り、国内のキャッサバおよびタピオカでん粉産業の整備を進める意向を表明している。

はじめに

 カンボジアは、他の東南アジア諸国同様にキャッサバの生産が盛んである。ただし同国において、生産されたキャッサバは一部でん粉に加工されているものの、隣国のタイやベトナムのようなでん粉製造設備が整っておらず、ほとんどはそのまま輸出されている。
 
 カンボジア政府は、原料としてのキャッサバも重要な輸出品として捉えているものの、今後は海外企業などからの投資を呼び込み、キャッサバをでん粉に加工し、付加価値を持たせた商品を作ることを目指している。
 
 現時点で、日本向けに同国産のキャッサバやタピオカでん粉は輸出されていないものの、前述の通り、東南アジアにおける主たるキャッサバ生産国・輸出国にも原料を多く輸出しているため、今後の動向を注視しておく必要があることから、本稿ではカンボジアのキャッサバおよびタピオカでん粉産業の動向について紹介する。

 なお、本稿中の為替レートは2019年6月末日のTTS相場の値であり、1米ドル=109円(108.79円)である。

1.原料用作物およびでん粉の需給動向

(1)原料作物の生産

 でん粉の原料となり得る農産物としては、キャッサバの他に、トウモロコシやかんしょが生産されている。世界的に最も多くでん粉用原料とされるトウモロコシについて、生産量は大幅に増加しているものの、でん粉への製造設備がないことからコーンスターチは生産されていない。トウモロコシは国内で一部飼料として消費されているが、多くはタイなど近隣国へ、飼料向けに輸出されているとみられる。かんしょについても、でん粉への加工は行われていない。また、でん粉用原料となり得る農作物を輸入し、でん粉を製造することも行われていない。


  国内で生産されるでん粉はキャッサバを原料としており、キャッサバ生産量は20152017年にかけて増加傾向にあった(図1)。キャッサバが2018年に減産となったのは、キャッサバよりも市場価格の良いトウモロコシに転作が進んだためとみられる(図2)。

 キャッサバは全土で生産されており、バッタンバン州、バンテイメンチェイ州、クラチエ州、パイリン州、ウドンメンチェイ州、コンポントム州、トボーンクモム州、モンドルキリ州が主要な生産州と言える(表1)。前述の通り、収穫したキャッサバをそのまま輸出し、隣国で加工されることが多いため、タイ国境のバッタンバン州、バンテイメンチェイ州が上位2位、ベトナム国境のクラチエ州が第3位の生産量となっている(図3)。なお、生産されているキャッサバは20品種が確認されているが、実際に広く栽培されているのはタイで開発された数品種である。

 キャッサバ生産は国内総生産(GDP)の4%を占め、輸出することで外貨を獲得できる主要産業の一つであり、今後、増産と国内外の投資を呼び込むことが期待される分野である。キャッサバの生産や供給を管轄するカンボジア農林水産省(Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries)は、キャッサバ供給の安定化のため、作付け前に契約を結んだ相手に生産したキャッサバを納める契約栽培モデルの導入を計画しているが、現時点では、収穫期に各生産者によって生産されたキャッサバをその日の買い取り価格によって、集荷業者や加工業者(現地では通称で「エージェント」と呼ばれる)、または直接、製造業者へ販売する方法が一般的である(詳細は後述)。


 主産地のバッタンバン州で約20年キャッサバ栽培を行っている小規模生産者(家族および季節労働者の8人で生産)の事例は以下の通りである。

 
 ・栽培面積 2ヘクタール(作付け:11月、収穫:3〜4月)

 ・キャッサバ販売先 集荷業者:70%、加工業者(エージェント):30%(契約栽培はしておらず、収穫後、集荷業者やエージェント  に販売する)

 ・出荷状態 生キャッサバ100%(乾燥などの加工は行っていない)

 ・キャッサバの品種 タイで開発された品種

 ・中央・地方などの政府(行政機関)による支援や指導 なし

 ・使用している農機 所有しているのはトラックのみ。収穫用の機械は借用(近隣の別の農家から借りてきた農機を使用。農機 は周辺の農家で共同利用している)。

(2)キャッサバの流通

 キャッサバの流通について、前述の通り、多くの生産者はでん粉製造業者との契約に基づきキャッサバ生産を行っているわけではなく、収穫したキャッサバの買い手(集荷業者、エージェントまたは製造業者)と数量や価格の条件交渉をして販売先を決定している(図4)。なお、エージェントや製造業者は、タイなどの外国企業が資本参加することも多い。生産者は、国内だけではなく、タイなど隣国に母体のある集荷業者やエージェントへ直接販売する場合も多く見られ、こういった点からも外国資本に依存したキャッサバ産業の構造が見て取れる。

 生産者は、基本的に小規模な家族経営の生産者であり、その多くは、収穫した生のキャッサバを、その時々の買い取り価格によって選択した集荷業者やエージェントへ販売している。エージェントや製造業者へキャッサバを販売する集荷業者は、生産者が兼業している場合もあり、生産規模が大きくなるにつれ、その傾向は強くなる。これは、でん粉工場への原料搬入に車両が必須であることも理由の一つである。集荷機能も担う生産者は、自ら収穫したキャッサバに加えて、周辺の生産者のものも集荷し、まとめてエージェントまたは製造業者へ販売する。


 バッタンバン州の生産者兼集荷業者(家族9人で生産)の一例は以下の通りである。
 

 ・栽培面積 5ヘクタール(作付け:1011月、収穫:3〜5月)

 ・キャッサバ販売先 製造業者:60%、エージェント:40%

 ・中央・地方などの政府(行政機関)による支援や指導 なし

 ・使用している農機 所有しているのは小型のカット機のみ(写真6)。大型のものは借用。
 ・周辺の農家からの集荷 1日当たり200〜300トン 
 

 でん粉製造工場が直接、生産者から生の状態のキャッサバを原料として購入し、自ら乾燥させる他、エージェントを通じて、乾燥処理済みのキャッサバを調達する例も多く見られる。

 
 キャッサバの収穫期になると、生産者または集荷業者がステーションと呼ばれるエージェントの原料中継場へ、乾燥前の生のキャッサバを持ち込む。ステーションの入口には日々更新される買い取り価格が表示されており、生産者や集荷業者はこれを見て、その日にエージェントへ販売するか否かを判断する(写真7、8)。エージェントは買い取ったキャッサバを敷地内でカットし、天日による乾燥を行った後、国内外のでん粉などの製造業者へ販売する(写真9〜11
)。

 

 バッタンバン州のエージェント、VAC NI DA Collecting Stationを一例として示す。

 ・設立年 2011

 ・資本はカンボジア51%、タイ49%。

 ・ステーション 州内に5カ所(総敷地面積195ヘクタール)

 ・従業員数 25人(各ステーション5人ずつ)


 ステーションでは、タイ向けの乾燥キャッサバを1日当たり200300トン生産している。またキャッサバチップは、5カ所のステーション合計で同400500トン生産されており、これも全量タイへ輸出される。輸出量は毎年1015%増加している。

 

(3)でん粉の生産および消費

 原料作物であるキャッサバについては農林水産省が管轄している一方、でん粉生産については工業工芸省(Ministry of Industry and Handicraft)が管轄している。ただし、でん粉生産量に関する統計については公表されておらず、今回同省からの情報は得られなかった。しかし、バッタンバン大学キャッサバ生産支援研究室が関係省庁や企業などにタピオカでん粉の販売状況について聞き取りを行い、タピオカでん粉生産量を推計している。これによると、2018年のタピオカでん粉の生産量は241122トンとみられる。


 でん粉製造は、主に9社によって行われている(表2)。この9社は、それぞれ1カ所ずつ製造拠点を持ち生産を行っている。最近、中国をはじめとする外国資本によるキャッサバ産業への投資は拡大しており、キャッサバ産業は変化の時を迎えている。 


  いずれも設立は2008年以降であり、この9社のうち1社が国内で唯一、天然でん粉に加え、化工でん粉の製造設備を持っているものの、現地聞き取りによると、現在、異性化糖の生産を停止しているとのことである。なお、同社の化工でん粉の製造能力も大きくないものとみられる。また、糖化製品については、国内で製造している企業はみられない。


 前述の通り、キャッサバは主要農産物として生産されているものの、国内で、でん粉などへ加工する製造設備や技術力が不足していることから、隣国のタイやベトナムへ、生かカット、乾燥といった単純な加工をしたのみで、でん粉用原料として輸出されている。このデメリットとして、キャッサバの価格が低く抑えられ、生産者が受け取れる利益が少ないことなどが挙げられる。政府としても、でん粉など付加価値を持たせた商品の製造、輸出を実現するため、外国企業による投資に期待している。


 生産されたでん粉について、国内の需要はわずかであることから、多くは輸出され、国外で原料として利用される。この背景として、でん粉を使用する国内の食品メーカーは外国企業であることが多いことが挙げられる。これらのメーカーは、複数の国で生産を行っているため、独自の調達ルートで一括して購入した原料をカンボジアへ輸入し利用するのが一般的であるとみられる。


 輸入品を含む一般的なでん粉の消費は多くはなく、プノンペンなど大都市においては、スーパーマーケットやショッピングモールの普及が進んでいるものの、数は限られる。さらにこれらの客層は、外国人や富裕層が主であり、外国産のでん粉や糖化製品が販売されているものの、カンボジアのでん粉消費のごく一部を占めるにすぎない。なお、カンボジアで広く食べられているタピオカでん粉を使った「サゴ」についてはコラムで詳しく述べる。

コラム タピオカでん粉を原料とするカンボジアの「サゴ」

 カンボジアでは、中小規模のでん粉製造業者によって生産される「サゴ」と呼ばれるタピオカでん粉を原料とした食品がある。なお、東南アジアの国々で見られるサゴやしを原料とするサゴでん粉とは異なるものである。

 でん粉と言えばこの「サゴ」というくらいカンボジアの人々にとって、身近な食品である。町の雑貨店や市場で簡単に手に入り、原材料、賞味期限や製造元の表示などはなく、ポリ袋に入れられた状態で量り売りされている(コラム−写真1)。白い粒状のものや色素でカラフルに着色された棒状のものなど形状はさまざまだが、一般的に、屋台などでココナッツミルクや砂糖、果物などと組み合わせてデザートとして食べられる(コラム−写真2)。一般的なカンボジアの人々にとって、粉末のタピオカでん粉よりもこのサゴの方が身近で販売量は多いと思われるものの、生産量や販売額などのデータは存在しない。
 


(4)原料作物およびでん粉の輸出

 世界的に見ると量はまだ少ないものの、キャッサバおよびキャッサバ加工品の輸出量は増加傾向にあり、2017年は前年比6.9%増の3864635トンとなった(図5)。このうち、乾燥キャッサバが7割超、生キャッサバが約2割を占める。輸出単価としては、生キャッサバが1トン当たり60ドル(6540円)である一方、乾燥キャッサバが同160ドル(1万7440円)と、大きな差が見られるため、輸出額ベースで見ると乾燥キャッサバが占める割合が大きく増える。なお、輸出の多くはタイ向けであり、タイ側にとってもカンボジアは最大のキャッサバ輸入元である(図6)。しかし、タイはキャッサバ生産量が3000万トン弱あることから、カンボジア産キャッサバがタピオカでん粉に利用されている量は一部にとどまるとみられる。

 2017年のタピオカでん粉の輸出量は7万8986トンとわずかであるが、2015年の3万トン台と比べると大きく増加していることが分かる(表3)。タピオカでん粉の輸出先としては、過半を中国が占め、インド、タイが続く。過去3年間の輸出先の推移を見ると、大半を占めるのが中国であるのは変わりがないが、インド向けが徐々に増加していることが分かる。なお、日本向けの輸出は行われていない。

 

2.今後の見通し

(1)キャッサバの生産および輸出振興

  カンボジア政府のみならず中国政府や国連開発計画(UNDP)の支援、外資系企業の投資によって、キャッサバの生産振興や輸出促進を目指す動きがある。

 2014年9月から、カンボジア・中国両政府およびUNDPによって、キャッサバ輸出に関する衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS)を満たすことなどを目標に、栽培および加工技術の向上のための研修や輸出に関するガイドライン策定などが実施されている。ガイドラインを満たした商品について、植物検疫証明書が輸出者に対して発行され、これをもって輸出が可能になる。
 
 2019年4月にタイ政府はカンボジアをはじめとする近隣諸国からの輸入農産物に対して新たな規制を設けた。キャッサバに関する規則の主な内容として、虫の混入やウイルスなどに感染していないことを示す植物検疫証明書や原産地証明書を添付すること、キャッサバを輸送する車両はキャッサバを積み込む前に洗浄すること、他の荷物を積み合せないことが設けられ、国境において、タイ政府によって問題が発見された場合は、カンボジア国内へ返送またはその場で廃棄処分されるという。これを受け、カンボジア農林水産省は、タイ向けキャッサバ(生、乾燥および粉状のもの)輸出を継続するため、国内の輸出業者に対して、タイ側の規則に応じることを通知した。生産者の中には、キャッサバと比べ買い取り価格の高いトウモロコシなど他の作物へ転作を進めている者も多く、この措置を受けて、キャッサバ生産量はさらに減少する可能性がある。一方、長期的に見ると、今回の規制を契機にキャッサバの品質が向上することで、タイやベトナム以外へも輸出先が広がることを期待する声もあるという。
 

(2)でん粉の生産振興

 キャッサバの生産振興の一方、国内のでん粉製造設備が不十分であることから、設備が整ったタイやベトナムへ生産されるキャッサバの大半が輸出されている。このためキャッサバの価格は、世界のキャッサバおよびタピオカでん粉の主要生産国かつ輸出国であるタイの価格に大きな影響を受けている。このことからも、政府としては、キャッサバを原料としてそのまま輸出するよりも、国内ででん粉に加工し、付加価値を持たせるため、製造設備を増やすことを目指している。政府としても、潤沢な原料を用いて製造したでん粉や化工でん粉を他のアジア諸国や欧州へ輸出することで、キャッサバやでん粉の国内価格の安定につなげたいと見られる。これが実現すれば、生産者の収入が安定すると期待が寄せられている。

 2018年に香港企業が最新鋭の工場の建設を開始したものの、悪天候や工事の遅れによって、稼働が遅延している。ただし、同社は今後、トボーンクモム州に第2工場、クラチエ州に第3工場の建設予定を発表するなど、国内でのタピオカでん粉の生産振興へも期待が高まっている。また、同社はUNDPやカンボジア農林水産省などの進める最低買い取り価格を保証し生産者と契約を交わす政策に賛同し、官民連携した計画を進めるという。

おわりに

  カンボジアは、アジアでも有数のキャッサバ生産国であり、その生産量は増加傾向にある。しかし、現時点ではキャッサバをでん粉などに加工する設備が不足しており、隣国のタイやベトナムへの輸出に依存している。このことから、生産したキャッサバの農家買い取り価格は、自国の作柄ではなく、タイやベトナムの価格に左右されるため、生産者は不利な状況に陥ることが多い。

 このような状況を打開するため、カンボジア政府は、今後、輸出向けのキャッサバを国際市場の求める品質に高めることや、国内にでん粉製造工場を建設し、タピオカでん粉に加工することで付加価値を持たせることを目指しており、国内外の協力を得ながら、それらの施策を推進する途上にある。

 今後、キャッサバの一大生産国としてだけではなく、タピオカでん粉の生産拠点となり得るカンボジアに引き続き注目したい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272