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世界のでん粉需給動向

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最終更新日:2019年12月10日

世界のでん粉需給動向

2019年12月

調査情報部

【要約】

 2018年の世界のでん粉生産量は、前年からわずかに増加した。種類別にみると、タピオカでん粉が前年をわずかに下回ったが、その他で前年を上回り、特に小麦でん粉は市場規模としては小さいものの、最も高い増加率を示した。消費量は、2018年にタピオカでん粉が一時的にマイナス成長になったものの、2019、2020年といずれのでん粉においても堅調に推移するものと見込まれている。

はじめに

 本稿では、世界の主な天然でん粉(コーンスターチ、タピオカでん粉、ばれいしょでん粉、小麦でん粉)および化工でん粉の2018年の生産・消費動向および2020年までの消費見通しについて、英国の調査会社LMC Internationalの調査結果を中心に報告する。

本稿に関する注意点

○でん粉は、基本的に需要に応じた量が生産・供給される体制であることから、世界全体において、一部を除き生産量≒消費量であり、在庫については考察していない。
○本稿における調査対象は、天然でん粉、化工でん粉のみであり、糖化製品は、含まれていない。
○数値については、すべて製品重量ベースである。
○本稿中の為替レートは10月末日TTS相場の値であり、1ユーロ=123円(122.96円)である。

1.生産概況

 2018年の世界のでん粉生産量は、4193万トン(前年比2.0%増)とわずかに増加した(図1)。生産量のうち、コーンスターチが全体の約45%と最も多く、次いで、化工でん粉が約22%、タピオカでん粉が約21%、ばれいしょでん粉および小麦でん粉がともに約5%となっている。

 増減の推移を見ると、でん粉全体では、2000年の調査以降、一貫して増加傾向にある。タピオカでん粉は前年比2.1%減とわずかに減少したものの、その他のでん粉が前年を上回り、特に小麦でん粉は、市場規模としては小さいものの、同4.6%増と最も高い増加率を示した(表1)。

 でん粉価格は、需給バランスよりも原料価格の変動による影響を大きく受ける。2018年の各種でん粉の輸出単価(注)を見ると、すべてのでん粉で前年を上回った(図2)。昨年までは下落傾向となっていたタピオカでん粉は一転急騰し、コーンスターチを上回った。これは、主要輸出国のタイやカンボジア、ベトナムといったキャッサバの主産地で天候不順やキャッサバモザイク病などの流行によって生産量が減少し、原料価格が高騰しているためであるとみられる。これを受け、東南アジアの多くの国々では、価格が上昇したタピオカでん粉から価格が比較的安定しているコーンスターチへ輸入の転換が図られている。

(注)便宜上、輸出単価(世界平均)を用いる。

 

表1 種類別でん粉生産量および消費量の推移

図1 2018年の種類別でん粉生産量

図2 種類別でん粉の輸出単価の推移

2.種類別動向

(1)コーンスターチ

 コーンスターチの生産は、アジアが生産量全体の約7割を占め、次いで北米、欧州などとなっている(表2)。2018年の地域別生産量を見ると、北米以外のすべての地域で前年を上回った。消費量を見ても、生産と同様、アジアを中心に北米、欧州が主要地域であり、2018年は中米・カリブ海以外のすべての地域で前年を上回った。消費量は、2019年は前年と同じく中米・カリブ海のみ前年を下回るとされているものの、2020年にはすべての地域で前年を上回る見込みである。

 コーンスターチの最大の生産国であり、世界需要のうち3分の2を占める中国では、食品産業および工業分野からの需要の高まりにより、生産量が堅調に伸びている。また、消費については、配送の際に使われる包装や製紙向けが今後も堅調に推移するものとみられている。

 中国におけるトウモロコシ価格は、2008年から行っていた臨時備蓄制度により在庫が積み上がり、低下していた。2016年に同制度を廃止したが低下は続き、2017年末から持ち直したものの、依然として低水準で推移している。また、2018年はASF(アフリカ豚コレラ)の発生によって、養豚飼料向けのトウモロコシの消費が減少した。さらに、トウモロコシから補助金額のより高い大豆へ転作が進んでいることから、2019年のトウモロコシ作付面積は減少するものとみられている。

表2 コーンスターチ生産量および消費量の推移

(2)タピオカでん粉

 タピオカでん粉の生産は、アジアが生産量全体の9割弱を占め、次いで南米、アフリカなどとなっている(表3)。2018年の地域別生産量を見ると、主産地であるアジアおよび南米で前年を下回ったものの、それ以外の生産地域ではやや増加している。消費地域も、アジアが消費量全体の約9割を占め最も多く、次いで南米、アフリカなどとなっている。同年の消費量は、主要地域であるアジアの減少によって、全体でも前年に比べ減少している。2019年以降の消費量は再び、いずれの地域も前年を上回るとされている。

 世界最大のタピオカでん粉の生産・輸出国であるタイでは、2017年6月から2018年3月の9カ月で、キャッサバ価格が1トン当たり50ドルから同100ドルと2倍になった。これは、干ばつが発生した上に洪水が起こり、天候が生育に悪影響を及ぼしたためである。また、タイに次ぐ主産地であるカンボジアやベトナムでは、キャッサバモザイク病の流行によって減産となった。ただし、2018年後半から2019年初めにかけて、タイでの天候回復や、収益性の劣るサトウキビからのキャッサバへの転作などによって作付面積が増加しており、原料価格は下落傾向にある。

表3 タピオカでん粉生産量および消費量の推移

 

コラム1 キャッサバの原産地、
南米ブラジルの「タピオカ」



 タピオカでん粉の原料であるキャッサバは、南米が原産地である。キャッサバはタピオカでん粉に加工されるほか、食事や菓子の原料として利用されている。ブラジルのポンデケージョは日本でもよく見られるようになったが、これ以外にもブラジルにはタピオカでん粉を利用した伝統的な食べ物があり、現地ではこれらを「タピオカ(tapioca)」と呼んでいる。なお、タピオカという言葉はブラジル先住民の言葉が由来とされる。

 ブラジルのタピオカは、すりおろしたキャッサバを水にさらし残った物質(でん粉)を熱したフライパンに薄く広げ、焼いたもちもちとした食感のクレープのようなものである。(日本では粒状のタピオカパールが入ったドリンクのほうが有名なため、「タピオカクレープ」と呼んでいる場合がある。)これだけだと味がないため、コンデンスミルクやチーズなどを挟んで半月状にして、手に持って食べられる軽食とする。甘いものではコンデンスミルクとココナツファイン(乾燥させた繊維状のココナツ)やミルクキャラメル、ジャムなど、塩味のものではチーズや鶏肉や牛干し肉をほぐしたものを挟むなど、小麦粉のクレープのようにさまざまな味で楽しめる。

 このタピオカは、ブラジルでも北部・北東部でもともと食べられていたもので、場所によってはタピオカにバターを塗っただけのものが朝食として食べられており、現地の生活に根付いたものであることがうかがえる。リオデジャネイロやサンパウロなど南東部の大都市では、以前、北東部出身者の屋台で売られているタピオカをたまに見かける程度だったが、ここ数年で小ぎれいなカフェなどでも販売されるようになっている。この背景として、キャッサバやタピオカでん粉にはグルテンが含まれておらず、欧州などのグルテンフリー食のブームがブラジルでも起こっていることなどが挙げられる。

 
 
 
 
 

(3)ばれいしょでん粉

 ばれいしょでん粉の生産は、欧州が生産量全体の約6割を占め、次いでアジア、北米などとなっている(表4)。2018年の地域別生産量を見ると、アジアは前年を上回ったものの、欧州と北米は前年を下回った。消費量を見ると、アジアが最大の消費地域で、その他、欧州、北米が主要地域となっており、2018年は、これら主要消費地域を中心に前年を上回った一方、消費量が少ない中米・カリブ海は前年を下回った。2019年の消費量は一部地域で減少するものの、2020年はいずれの地域も前年を上回るとされている。

 主産地である欧州では、2018年の干ばつによって、でん粉用ばれいしょが減産となった。原料の不足などによってでん粉用ばれいしょの価格が高騰し、これはでん粉の価格へ転嫁された。これによって、2019年のでん粉価格は1.5倍に高騰しているケースもみられる。

表4 ばれいしょでん粉生産量および消費量の推移

(4)小麦でん粉

 小麦でん粉の生産は、欧州が生産量全体の約5割を占め、次いでアジア、大洋州などが主産地となっている(表5)。また、2018年の地域別生産量を見ると、南米、欧州で減少したものの、その他の地域では軒並み増加した。消費量を見ても、欧州、アジアが主要地域であり、2018年は消費量が比較的少ない中米・カリブ海、南米を除いて、前年を上回った。2019年の消費量は中米・カリブ海、南米、アフリカでの減少が見込まれるものの、2020年にはこれらすべての地域で回復することが予測されている。

 小麦でん粉は、コーンスターチやタピオカでん粉に比べて生産量が少ないが、植物性たんぱく質需要の高まりにより、副産物として生産されるグルテンの収益性が良いことから、小麦でん粉は価格競争力が高い(注)。欧州ではトウモロコシから小麦にでん粉原料を切り替えたり、新たな製造工場への投資が行われたりするなど、今後の成長が期待されている。

注:小麦グルテンは、食品のほか、ペットフードや水産養殖用飼料などさまざまな用途に利用されている。

表5 小麦でん粉生産量および消費量の推移

(5)化工でん粉

 化工でん粉の生産は、アジアが生産量全体の約4割を占め、次いで欧州、北米などとなっている(表6)。2018年の地域別生産量を見ると、南米、北米、アフリカを除いた地域で増加した。消費量を見ると、生産地域と同様、アジア、北米、欧米が主要消費地域であり、2018年はすべての地域で前年を上回った。アジアでの増加が目立つ背景には、中国における需要の増加がある。消費量は、2019年、2020年とも、いずれの地域も前年を上回ると予測されている。

 化工でん粉は、全でん粉の中で、コーンスターチに次いで大きな市場であり、消費量増加率は前年比3.0%と、前年に引き続き増加傾向にある。欧米では、政府によって安全性が確認されているものであっても化学的な添加物を避ける傾向にある消費者の増加によって、食品製造企業はクリーンラベル(添加物を含まず、消費者に分かりやすく食品成分を表示すること)への対応が求められている。こういった状況下で、特に化工でん粉の中でも化学変性を加えず、加熱などの物理的な変性を加えたものは、機能性を持ちつつも自然な食品原料とみなされることから、需要が高まる傾向にある。

表6 化工でん粉生産量および消費量の推移

コラム2 タピオカドリンクに含まれる「タピオカ調製品」



 日本でブームとなっているタピオカドリンクに使われるパール(粒)状のタピオカは、タピオカでん粉から作られ、タピオカパールと呼ばれている。ただし、日本へ輸入される際、多くのものは、輸入統計品目番号1903.00-000「タピオカ及びでん粉から製造したタピオカ代用物(フレーク状、粒状、真珠形、ふるいかす状その他これらに類する形状のものに限る。)」に分類されるとみられる。タピオカドリンクに使われているものの多くが、海外でタピオカでん粉を粒状に成型、着色し、ゆでればすぐに使えるように加工された調製品として輸入されているためである。なお、タピオカでん粉自体は白く、ゆでると半透明になるため、黒いものはカラメル色素などで着色されている。タピオカでん粉に限らず、原料に調味料が添加されているものなどは「調製品」と呼ばれる。

 なお、タピオカドリンク発祥の地とされる台湾では、2016年時点でキャッサバはほとんど作られておらず、タピオカでん粉を東南アジアから輸入し、台湾で調製品に加工しているものとみられる。

 一方、当機構で「タピオカでん粉」として取り上げているものは、粉末状で菓子や加工食品などの食品産業用や製紙や段ボールなどの工業用に使われるものが主であり、輸入統計品目番号は1108.14の「マニオカ(カッサバ)でん粉」(注)に分類される。先述のタピオカパールの輸入量は増加しているものの、2018年のタピオカでん粉の輸入量はタピオカ調製品の40倍以上多く、圧倒的に数量が異なる(コラムー図)。なお、2018年のでん粉が1トン当たり5万3310円であることに対して、調製品は同29万3079円と価格にも大きな差がある。なお、2019年9月時点で、タピオカ調製品の輸入量の増加と単価の上昇が目立つ。

 食品・非食品とさまざまな用途があるタピオカでん粉は、タピオカドリンクブームよりも前から、われわれの生活に欠かせないものだったのである。

 注:キャッサバはマニオカ、カッサバなどとも表記される。
 

おわりに

 世界のでん粉消費量は2018年以降、年約3%の割合で増加し、2023年には4800万トンに迫る勢いであると予測される(図3)。コーンスターチで約9%、その他のでん粉で15%前後増加すると見込まれており、特にタピオカでん粉の増加率は高く、また副産物のグルテン需要の高まりによって、価格が安定している小麦でん粉についても拡大すると見込まれている。また、化工でん粉は経済情勢の影響を大きく受けるため正確な見通しを立てづらいものの、今後も消費量は堅調に推移すると見込まれる。

 世界的なでん粉需要の高まりの一方で、干ばつによって2018年のタイのタピオカでん粉は減産した。欧州も同様に干ばつの影響によって、2018年のでん粉用ばれいしょが不足し、それに伴いばれいしょでん粉の価格が高騰した。世界的にでん粉の需要は増加傾向にあるものの、供給側にはこういったマイナス要因も発生しており、今後の生産についても注視する必要がある。

図3 種類別でん粉消費量見通し

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272