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食品メーカーにおける天然でん粉および化工でん粉の利用形態

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最終更新日:2020年1月10日

食品メーカーにおける天然でん粉および化工でん粉の利用形態
〜平成30年度甘味料およびでん粉の仕入動向等調査の概要〜

2020年1月

調査情報部

【要約】

 平成30年度の天然でん粉および化工でん粉の仕入量は総じて安定しているが、天然でん粉は前年度と比較すると減少傾向が見られた。仕入価格は総じて安定しているが、タピオカでん粉、化工でん粉では上昇とする企業が一定数存在した。令和元年度の仕入量は横ばいと見込む企業が多い。

はじめに

 わが国で流通するでん粉は、輸入トウモロコシを原料とするコーンスターチが9割弱、国内産いもでん粉が1割弱を占め、その他輸入でん粉(タピオカでん粉、サゴでん粉など)、小麦でん粉などが供給されている(図1)。

 その用途は、異性化糖や水あめなどの糖化製品向けが最も多く、次いで化工でん粉(注)、繊維・製紙・段ボールとなっており、食品分野を中心に、工業や医療分野など幅広い用途で活用されている。このようにでん粉は、私たちの生活や社会と密接に関係していることから、安定的に供給していくことが欠かせない(図2)。

 そこで当機構では、実需者のでん粉に対するニーズを把握し、でん粉の需給動向の判断に資す基礎的な情報を収集するため、主要なでん粉について食品製造事業者を対象としたアンケート調査を毎年実施している。

 本稿では、平成30年度を対象に実施した「甘味料およびでん粉の仕入動向等調査」のうち、天然でん粉(ばれいしょでん粉、かんしょでん粉、コーンスターチ、タピオカでん粉)および化工でん粉(デキストリン類、加工でん粉)の調査結果について報告する。なお、砂糖類および人工甘味料の調査結果については本誌2019年11月号を、加糖調製品およびその他甘味料については同12月号を参照されたい。

 (注)天然でん粉を酸や熱、化学薬品などで処理することで、でん粉本来の特性を改良したり(接着力の強化、粘度の調整など)、新しい性質を加えたり(冷水による可溶性など)したもの。天然でん粉を原料として国内で製造されているものと、タイやEUなどから輸入された化工でん粉そのものの2種類が流通している。




1.調査の方法

 (1)調査時期

令和元年7〜8月

 (2)調査対象

でん粉を使用する食品製造事業者

 (3)調査項目

平成30年度(4月〜翌3月)のでん粉の用途、仕入れ状況などに関する事項

 (4)調査方法

郵送による調査票の発送および回収を実施

 (5)回収状況

配布企業数     206社
回収企業数     100社
調査票回収率   48.5%

 (6)集計区分
 


 (7)集計結果についての留意事項

ア.図中の「n」は有効回答数を表す。

イ.端数処理の関係により、図中の内訳の合計が100%にならないことがある。

ウ.「不明・無回答」は比較対象から除外する

2.調査企業の概要

 でん粉を使用する企業100社の資本金の額と業種のそれぞれの構成比は、図3の通り。このうち、天然でん粉を使用する企業は83社、化工でん粉を使用する企業は74社であった(複数のでん粉を使用する企業があるため、回収企業数と内訳の合計は一致しない)。

 

3.集計結果

(1)天然でん粉

ア.天然でん粉の用途

 天然でん粉の用途を見ると、「スナック菓子・米菓・油菓子・ビスケット類」が27件と最も多く、「水産練り製品」「和生菓子・洋生菓子」がともに24件と続く。前年度の調査でもこの3用途が上位3位までを占めており、同様の傾向となった。(図4)。

 また、種類別に見ると、コーンスターチが14種類と最も多くの用途で使用されており、次いでばれいしょでん粉が11種類、タピオカでん粉が9種類、かんしょでん粉が6種類となっている。その他に分類される用途には総菜などの他、ラムネ菓子などの錠菓や冷凍食品が挙げられ、天然でん粉の用途は多岐にわたる。


  

イ.天然でん粉を用いた商品の数

 天然でん粉を使用する商品の数は、1企業当たり「5点以下」が最も多かった(図5)。

 前年度同様、ばれいしょでん粉およびコーンスターチを101点以上の商品に用いる企業が一定数見られた。また、前年度の調査ではタピオカでん粉を11点以上の商品に用いる企業はいなかったが、今年度は「11〜50点」の商品に用いる企業が2割程度存在した。




ウ.天然でん粉を使用する理由

 天然でん粉を使用する理由は、「食感を良くする」が61件と最も多く、次いで「商品特性上、他のでん粉に代替できない」が45件と、前年度と同様の傾向であった(図6)。天然でん粉の使用に当たっては、それぞれのでん粉の特性が持つ食感の良さなどの製品への付加価値が、価格などの調達面より重視されていることがうかがえる。一方、「製造原価(製造コスト)を抑える」「価格が安定している」という理由も一定数あり、種類別ではコーンスターチの割合が最も多かった。また、ばれいしょでん粉では「原材料に対する安心感を訴求する」とした回答が一定数あった他、「その他」として「地元の食材を使いたい」とする意見もあった。


エ.仕入量の動向

(ア)直近1年間の仕入量


 平成30年度(4月〜翌3月、以下同じ)の仕入量は、「10トン以上100トン未満」が17%と最も多く、100トン未満が過半を占めた(図7)。

 種類別の割合で見ると、ばれいしょでん粉およびコーンスターチは「10トン以上100トン未満」が最も多く、比較的仕入れ量が多い傾向にあったが、すべての天然でん粉で「1300トン以上」仕入れる企業が存在し、業種は穀粉や菓子などの製造業であった(図8)。








(イ)前年度と比較した仕入量の動向

 平成29年度と比較した30年度の仕入量の動向は、いずれの天然でん粉も「横ばい」が最も多かったものの、「やや減少」または「大幅に減少」とする企業が1〜4割存在し、減少傾向がうかがえた(図9)。減少の理由としては、いずれの天然でん粉でも「需要の減少により商品の出荷数量が減った」とした意見が多かったが、ばれいしょでん粉およびかんしょでん粉では「原料の不作」を要因とする企業が存在した。一方、ばれいしょでん粉、コーンスターチの「やや増加」「大幅に増加」の理由としては、「需要の増加」「新商品の開発」「アイテム数の増加」が多く、業種としては菓子、パン、麺類などの製造業であった。また、「大幅に減少」「やや減少」とした企業については、菓子の他、水産錬り製品の製造業などがあった。




(ウ)今後の仕入量の見込み

 令和元年度の仕入量の見込みは、いずれの天然でん粉も「横ばい」が9割程度と最も多く、安定した需要と供給を見込む傾向がうかがえた(図10)。平成30年度の仕入量を「やや減少」または「減少」とした企業でも、「横ばい」とする回答が最も多く、ばれいしょでん粉およびタピオカでん粉では「やや増加」とする企業も存在し、その理由としては「原料の回復への期待」や「需要の増加」などの意見が挙げられた。タピオカでん粉では減少見込みとする回答はなかったが、ばれいしょでん粉およびコーンスターチでは「原料の他品目への切り替え」「商品の生産中止」などを理由に「大幅に減少」とする企業も存在し、業種は菓子、水産練り製品などの製造業であった。


オ.仕入価格の動向

(ア)直近の仕入価格

 1キログラム当たりの仕入価格(平成31年3月時点)は、「80円以上120円未満」が15%で最も多く、80円以上〜200円未満の価格帯が4割と大宗を占めた(図11)。

 種類別に見ると、すべての天然でん粉で仕入価格にばらつきがあるものの、コーンスターチでは120円未満の価格帯の割合が最も高く、他の天然でん粉よりも低価格の傾向にあった(図12)。


 



 
(イ)前年度と比較した仕入価格

 平成29年度と比べた30年度の仕入価格の動向は、ばれいしょでん粉、かんしょでん粉、コーンスターチでは「横ばい」が最も多く6〜7割を占めたものの、タピオカでん粉では「やや上昇」「大幅に上昇」の割合の合計が約4割と「横ばい」に並んだ(図13)。下落とする企業はコーンスターチの1社のみであり、全体として上昇傾向がうかがえる。タピオカでん粉の上昇の理由として「原料作物の市場相場の変動による」「原料作物の生産量の変動による」が多くを占めた。タピオカでん粉の主な輸入先であるタイの国内価格は、干ばつや洪水などによるでん粉原料用キャッサバの供給不足などを背景に29年末から急上昇し、30年を通して高い水準で推移した(図14)。30年後半にはタイでの天候回復や、収益性の劣るサトウキビからキャッサバへの転作などによって作付面積が増加し、タイの国内価格は下落したが、依然として高い水準で推移している。

 その他の天然でん粉の仕入価格の上昇理由としては、「仕入先の価格改定による」との意見が多かったが、コーンスターチで「物流費の高騰」を挙げる企業もあった。








 

カ.天然でん粉の調達面に対する評価

 天然でん粉の調達面の5段階評価において、ばれいしょでん粉およびかんしょでん粉は「満足」「やや満足」の割合の合計が過半を占めたが、「不満」「やや不満」とする企業も1〜2割存在した(図15)。「不満」「やや不満」とする理由については、「原料作物の安定生産に不安がある」と「原料の安定的な供給に不安がある」が大半を占め、でん粉原料用いもの安定生産を望む声が挙がった。コーンスターチは「満足」「やや満足」の割合の合計は過半には届かないものの、「不満」「やや不満」の割合は1割に満たない。コーンスターチで「不満」「やや不満」「普通」とした理由として「仕入れ先の価格の上昇」が最も多く、その他「物流コストの上昇」「リードタイム(発注から納品までの時間)が長い」といった意見も見られた。タピオカでん粉については、「満足」「やや満足」の割合が4割強となった一方、「やや不満」とする割合も3割弱を占め、その理由として「仕入れ先の価格の上昇」「原料の安定的な供給に不安がある」とする声が多く、前述のタイにおけるキャッサバの不作による輸入価格の上昇が背景にあるとみられる。

(2)化工でん粉

ア.化工でん粉の用途


 化工でん粉の用途を見ると、「スナック菓子・米菓・油菓子・ビスケット類」が26件と最も多く、次いで「和生菓子・洋生菓子」(13件)、「水産練り製品」(12件)となった(図16)。上位4位までは天然でん粉と同じであるが、天然でん粉で1件であった「ソース・たれ・つゆ類」が9件で4位に並んでいる。

 種類別に見ると、デキストリンは「スナック菓子・米菓・油菓子・ビスケット類」の用途が最も多く、次いで「アイスクリーム類」、「和生菓子・洋生菓子」となっており、「清涼飲料」はデキストリンのみであった。一方、加工でん粉では「スナック菓子・米菓・油菓子・ビスケット類」は同じで最も多いが、次いで「水産練り製品」、「和菓子・洋生菓子」の順となっている。その他にはいずれも「清涼菓子」や「冷凍食品」が挙げられた。




イ.化工でん粉を使用する商品の数

 化工でん粉を使用する1企業当たりの商品数は、デキストリン、加工でん粉ともに「11〜50点」が最も多かった(図17)。101点以上の商品に使用する企業も1〜2割存在し、いずれも幅広い用途に使用されていることが分かる。




 


ウ.化工でん粉を使用する理由

 化工でん粉を使用する理由は、「品質が安定している」が25件と最も多く、次いで「商品の付加価値を高める」(19件)、「天然でん粉の欠点を補う」(17件)となっている(図18)。

 種類別に見ると、「品質が安定している」「商品の付加価値を高める」「天然でん粉の欠点を補う」「製造原価(製造コスト)を抑える」「価格が安定している」は加工でん粉が7割以上を占め、安定した品質と価格が評価されていることが分かる。一方、「商品の特性上、他のでん粉では代替できない」「食感を良くする」「色つやを良くする」などはデキストリンのみの回答となっており、商品を特徴付ける用途に多く使われていた。なお、「商品中のカロリーを抑える」はデキストリンのみで、清涼飲料や即席麺などに使用されていた。
 


エ.仕入量の動向

(ア)直近1年間の仕入量


 平成30年度の仕入量は、「5トン以上100トン未満」が31%と最も多く、100トン未満の仕入量が多いのは前年度と同様の傾向である(図19)。

 種類別に見ると、どちらの種類も「5トン以上100トン未満」が最も多く、仕入量ごとの割合も大きくは変わらず、「900トン以上」とする企業もそれぞれ1割程度存在した(図20)。

 







 
(イ)前年度と比較した仕入量の動向

 平成29年度と比較した30年度の仕入量の動向は、どちらの種類も「横ばい」が6割程度と最も多いが、「増加」と「減少」とする企業も一定数見られた(図21)。「増加」と「減少」の要因は「需要の増減」「商品数の増減」が主であり、化工でん粉を用いた商品は入れ替わりが激しい食品群であることがうかがえる。

 


(ウ)今後の仕入量の見込み

 今後の仕入量の見込みは、どちらも「横ばい」が8割程度と最も多く、安定した需要と供給を見込む傾向がうかがえた(図22)。増加するとした業種は、デキストリンが清涼飲料や乳飲料など、加工でん粉は菓子や水産練り製品などの製造業となっており、要因として「需要の増減」「商品数の増減」以外に「他の甘味料から切り替えるため」とした企業もあった。


オ.仕入価格の動向

(ア)直近の仕入価格


 1キログラム当たりの仕入価格(平成31年3月時点)は、「280円以上」が19%と最も多く、次いで「120円以上160円未満」(13%)、「160円以上200円未満」(11%)となっている(図23)。種類別に見ると、デキストリン、加工でん粉ともに価格帯が分散している傾向にあり、これは前年度と同様である(図24)。化工でん粉にはその加工処理工程に応じてさまざまな種類があることから、その特性や機能性に応じて価格帯が分散するものと推測される。








 

(イ)前年度と比較した仕入価格

 平成29年度と比べた30年度の仕入価格の動向は、いずれの種類も「横ばい」が約6割と最も多く、おおむね安定的に推移していると言えるが、前年度は見られなかった「大幅に上昇」とする企業も存在した(図25)。上昇の理由としては「仕入先の価格改定」が最も多いが、一部「原料作物の市場相場の変動」という意見も見られる。加工でん粉については輸入先をタイとする企業の3割程度が上昇と回答しており、29年末から続くタイの加工でん粉の輸出価格の上昇傾向が仕入価格に影響したものと推察される。




 

カ.化工でん粉の調達面に対する評価

 化工でん粉の調達面の5段階評価において、デキストリンおよび加工でん粉のいずれも「満足」「やや満足」の割合の合計が過半を占め、「不満」「やや不満」とする企業は1割弱にとどまった(図26)。「不満」「やや不満」とする理由について、「仕入れ先の価格の上昇」の他、「物流コストの上昇」「為替の変動」などが挙げられ、「普通」とする理由の中でも「リードタイム(発注から納品までの時間)が長い」という意見もあり、物流面での改善を求める意見もいくつか見られた。



 

おわりに

 平成30年度を対象とした今回の調査では、天然でん粉および化工でん粉の仕入量の動向は、おおむね横ばいが最も多く総じて安定していると言える。しかしながら、天然でん粉の仕入量は前年度と比較すると減少傾向が見られ、商品の需要の減少以外の理由として、原料作物の不作を挙げる企業が存在した。国内産でん粉原料用ばれいしょ・かんしょは、天候不順や、病害などの影響により減産となっており、一部企業においてでん粉の十分な確保が難しかったものとみられる。

 仕入価格については、タピオカでん粉、化工でん粉では上昇とする企業が一定数存在した。これは、国際的なでん粉需要の高まりや輸入先国における原料作物の不作による輸入でん粉価格の上昇が背景にあるとみられる。この他、コーンスターチや化工でん粉の調達面の評価において、物流コストの上昇を懸念する声もあり、でん粉の価格変動要因として今後も注視が必要である。

 農林水産省によると、でん粉の需要は東京オリンピック・パラリンピックの開催などを背景に、清涼飲料などに用いられる糖化製品を中心に今後も堅調に推移するものと見込まれている。また、昨今のタピオカドリンクのブームは、加工食品にも波及し、タピオカミルクティーを表現した菓子なども登場していることから、これが次年度以降の調査結果にどのような変化をもたらすのか注目されるところである。それぞれのでん粉において需要に見合った供給が安定的になされることを期待したい。

 最後にお忙しい中、本調査にご協力いただいた企業の皆さまに、改めて厚く御礼申し上げます。


【参考文献】

 ・農林水産省『でん粉の需給見通しについて』
 ・農林水産省『砂糖及びでん粉をめぐる現状と課題について』
 ・調査情報部(2019)「世界のでん粉需給動向」『砂糖類・でん粉情報』(2019年12月号)独立行政法人農畜産業振興機構
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272