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ばれいしょの生産・流通における基盤強化の取り組み

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最終更新日:2020年4月10日

ばれいしょの生産・流通における基盤強化の取り組み
〜士幌馬鈴薯施設運営協議会におけるばれいしょ安定供給体制の確立〜

2020年4月

札幌事務所 小峯 厚

【要約】

 ()(ほろ)馬鈴薯施設運営協議会では、ばれいしょの収穫に使用するポテトハーベスタなどの生産者を支援する機械を導入し、貯蔵庫の整備や洗浄選別機など流通環境を整備するとともに、メッシュコンテナなどの導入、不測の事態への対応など、生産・流通における基盤強化の取り組みを実施することで、少人数で効率的に運営できるばれいしょの安定供給体制を確立している。

はじめに

 北海道のばれいしょは、生食用・加工用・でん粉原料用などさまざまな用途で使われており、全国の出荷量の大半を占めていることから、原料の安定的な供給が求められている。

 一方、道内のばれいしょの生産状況は、ばれいしょ栽培農家戸数の減少に伴い、平成16年の作付面積が5万5400ヘクタールであったものが、30年には5万800ヘクタールへと減少し、生産量も223万5000トンから174万2000トンへと減少している(図1)。流通面においてもばれいしょの集出荷施設などで働く人員やトラックの運転手など人手不足が進む中で、量販店や食品加工工場などの実需者の要望に応えるためには、機械設備などを利用して少人数で効率的な作業体制を整える必要がある。

 本稿では、士幌馬鈴薯施設運営協議会(以下「運営協議会」という)における生産・流通の基盤強化を通じたばれいしょの安定供給体制の確立に向けた取り組み事例を紹介する。
 

1.運営協議会におけるばれいしょ生産の概況

(1)運営協議会の概況

 運営協議会は、北海道十勝地方北部近隣の4町5農協(士幌町農業協同組合〈士幌町〉、上士幌町農業協同組合〈上士幌町〉、音更(おとふけ)町農業協同組合〈音更町〉、木野(きの)農業協同組合〈音更町〉、鹿追(しかおい)町農業協同組合〈鹿追町〉)で構成され、昭和30年に士幌町農業協同組合が「大規模連続式合理化澱粉工場」を建設し、農村工業、農民工場の成功を旗印として改革を行ったことをきっかけとして、ばれいしょを一元的に集荷し販売することで過剰投資を避け、生産者の利益を守る体制を構築することを目的に、35年7月に発足した士幌澱粉工場運営協議会を前身とした組織である。

 なお、平成13年のでん粉工場の再編に伴い、()(むろ)町農業協同組合、()(かち)()(みず)町農業協同組合および新得(しんとく)町農業協同組合で生産されたでん粉原料用ばれいしょについても運営協議会のばれいしょでん粉工場に出荷されている(図2)。

(2)運営協議会管内のばれいしょ生産の概要

ア ばれいしょ作付面積の推移

 運営協議会管内の令和元年度のばれいしょの栽培農家戸数は、生食用と加工用ばれいしょの栽培農家戸数が587戸、でん粉原料用ばれいしょの栽培農家戸数が38戸と合計625戸となっている。

 また、元年産の作付面積は、生食用と加工用ばれいしょが4962ヘクタール、でん粉原料用ばれいしょが224ヘクタールの合計5186ヘクタールとなっており、平成27年には5100ヘクタールを下回るなど、低迷していた作付面積は、近年、やや増加傾向にある(図3)。元年産の集荷数量は、生食用と加工用ばれいしょが17万1418トン、でん粉原料用ばれいしょが4万1985トンの合計21万3403トンとなっている。

 なお、でん粉原料用ばれいしょについては、運営協議会管内の集荷数量以外にも、芽室町農業協同組合、十勝清水町農業協同組合および新得町農業協同組合で生産されたものが3万544トン集荷されている。



イ ばれいしょの品種

 運営協議会管内におけるばれいしょの生食用品種は、「男爵薯」「メークイン」を中心に「キタアカリ」「ひかる」などが栽培されている。加工用品種は、ポテトチップス用として「ワセシロ」「トヨシロ」「きたひめ」「スノーデン」「オホーツクチップ」など、冷凍食品用として「ホッカイコガネ」「さやか」などが栽培されている。でん粉原料用品種は、「コナフブキ」「コナヒメ」といった品種が栽培されているが、近年は、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種の「コナヒメ」の栽培が主体となっている。

ウ ばれいしょの用途

 運営協議会の貯蔵庫に集荷されたばれいしょは、品種、用途、出荷時期を勘案して貯蔵され、生食用は市場へ出荷される。加工用ばれいしょは、士幌町内のばれいしょ加工処理施設や大手メーカーの製造工場などに出荷し、ポテトチップスやフレンチフライ、コロッケ、ポテトサラダなどの商品に加工され販売される。でん粉原料用ばれいしょは、でん粉工場ででん粉に加工され、カップスープや即席めん、インスタントラーメン、はるさめ、かまぼこ、糖化用などの原料の一つとして販売される。

 なお、生食用や加工用ばれいしょの規格外品は、廃棄されることなく、でん粉工場の原料として利用できるため、ばれいしょを一元的に管理していることが運営協議会の大きな強みとなっている。

2.ばれいしょ安定供給体制の確立の取り組み

 運営協議会では、平成28年度および29年度に農林水産省の補助事業である「産地パワーアップ事業」を活用し、ばれいしょの収穫に使用するポテトハーベスタ(写真1)などの機械を導入するとともに、貯蔵庫の整備や洗浄選別機、メッシュコンテナを導入することで、ばれいしょの安定供給に向けた生産・流通の基盤強化を図った。具体的な取り組み内容は次の通り。
 

(1)生産支援対策

 北海道におけるばれいしょの栽培農家戸数は減少傾向にあり、1戸当たりの作付面積が拡大する中で、省力的・集約的な作業体系が求められている。これに対応するため、GPS(全地球測位システム)ガイダンスシステムや自動操舵システムの導入が進んでおり、これらの機械を導入することで、熟練者でなくともトラクターの操作が容易になるとともに、作付け精度などが上がることで、収量が増加し収穫物の歩留まりが向上する効果がある。

 北海道生産振興局技術普及課が公表している「農業用GPSガイダンスシステム等の出荷台数の推移」によると、平成20年度は100台であったGPSガイダンスシステムの道内出荷台数は、30年度には累計1万1530台、自動操舵装置は、21年度の出荷台数が10台であったものが、30年度には累計6120台と年々増加しており、道内において積極的にスマート農業技術の導入が進んでいることが分かる(図4)。

 これらの機械は、運営協議会管内のばれいしょ栽培農家においても導入が進んでいるものの、導入費用が高額であり、個人で投資することが困難な場合もあることから、運営協議会の下部組織が「産地パワーアップ事業」を活用し、高性能ポテトハーベスタ26台、GPS自動操舵装置122台などを導入し、管内農協に貸し付けることで生産を支援する体制を整備した。

 なお、令和元年度、ポテトハーベスタ26台は、336.13ヘクタール、GPS自動操舵装置122台は、1931.88ヘクタールのほ場で使用され、生産量は前年を30.6%上回るなど、ばれいしょの生産に大きな役割を果たした。
 

(2)物流環境対策

 実需者へ安定的にばれいしょを供給するためには、生産を支援する体制を整えるだけでなく、物流環境も整備する必要がある。道内の有効求人倍率は、平成20年度は0.43倍であったものが、28年度は1.04倍と1倍を超え、令和元年12月には1.28倍となるなどあらゆる業種で人手不足が深刻化しており、農産物の集出荷施設においても少人数で管理できる体制づくりが急務となっている(図5)。

 また、元年12月の自動車運転手の有効求人倍率は2.76倍と、深刻化するトラック運転手不足を背景に、長時間の荷待ちや手作業による大量の貨物の積み込み作業などを解消する対策が求められている。
 
ア 食用馬鈴薯貯蔵庫遠隔監視システムの導入

 運営協議会は、士幌町、鹿追町、埼玉県の熊谷市に合わせて17棟の貯蔵庫を保有し、約16万トンのばれいしょを貯蔵できる能力を保有している。これらの貯蔵庫を管理するため、平成15年に「馬鈴薯管理システム」を導入し、23年には「生食馬鈴薯出荷管理システム」を導入するなど積極的にシステム化に取り組んできた。

 これらのシステムを導入した結果、個別のバーコード付き荷札によって、ばれいしょの生産情報や集出荷情報、品質情報など約200項目にわたる情報が集約され、ばれいしょを一元的に管理することができるようになった。また、情報を集約することで、集荷されたばれいしょに傷や打撲が多い場合には生産者に収穫作業を丁寧に行うように注意喚起するなど、品質情報をタイムリーに伝えることで、ばれいしょの品質が向上するという効果もあった。

 さらに、30年には「産地パワーアップ事業」を活用し、「遠隔監視システム」を導入したことで、士幌町内にある管理事務所内のパソコンやスマートフォンによって、遠隔地にある貯蔵庫を含めたすべての貯蔵庫の機械の動き、貯蔵庫内の温度および湿度を監視することができるようになった。これによって、品質低下のリスク低減を図るだけでなく、少人数で貯蔵庫を管理できるようになった。

イ ばれいしょの貯蔵庫の整備および洗浄選別機の導入

 従来、集荷したばれいしょは土砂が付いたままコンテナで輸送していたが、「産地パワーアップ事業」を活用し、ばれいしょの貯蔵庫を整備するとともに、整備した貯蔵庫内に洗浄選別機(写真2)を導入したことで、土砂を取り除き、規格外品を減らすことができた。これによって、輸送重量は土砂を取り除いた効果で3.5%、規格外品を減らすことができた効果で6.5%と合計10%程度の貨物の減量化を図ることができた。

 また、ばれいしょの選別は、洗浄を行い、ばれいしょの色や形が明確になることで、カメラを使用して自動選別を行うことができるようになっており、日量120トンの原料の選別作業を3〜4人と少人数の作業人員で対応できる体制となっている。

 なお、殺菌処理を施した土砂は、町内の飼料用作物作付けほ場などの客土として有効活用することで、地域の畜産経営にも役立つとともに、処理費用の削減にもつながった。
 
ウ メッシュコンテナの導入

 運営協議会では、ばれいしょを貯蔵庫から市場などへ輸送するに当たって、トラックや鉄道などさまざまな手段を用いている。生食用ばれいしょは、トラック運転手の手作業による荷物の積み込みなどを無くし、全作業にフォークリフトを使用することで、作業負担や時間短縮を図ることを目的に、レンタルパレットを利用した一貫パレチゼーション輸送体制を平成15年に確立した。また、19年からは、ばれいしょを輸送する車両として規制緩和車両(写真3)を積極的に導入し、積載量を増やすなど輸送体系の効率化を図った。



 
 運営協議会では、さらなる輸送体系の効率化を図るため、「産地パワーアップ事業」を活用し、ばれいしょの保管や輸送に使用しているばれいしょ用のコンテナとしてメッシュコンテナを新たに開発し導入した。新しいメッシュコンテナは、従来のものと外側の大きさは変わらないものの、薄い素材を使用して作られており、素材に弾力があり膨らむという特性があることから容積が大きくなり、従来のコンテナと比べ15%多く輸送することができるようになった。

 また、従来のコンテナは、組立解体作業に3人の人員が必要であり、組立、解体に多くの時間を要していたのに対し、メッシュコンテナは、折り畳み式となっているため、1人の人員で作業することができるとともに、従来の約3分の1の時間で組立、折り畳みができるようになった。さらに、素材が薄くコンパクトに折り畳めることで、コンテナ返送時の車両積載数は、従来のコンテナがトラックに100基しか積み込めなかったものが、144基と約1.5倍となった。これにより、使用するトラックの台数削減につながっている(写真4)。
 

3.不測の事態への対応

 自然災害や事故、機械の操作ミスなどさまざまな予期せぬ事態に備え、運営協議会は、被害を最小限に抑えるための事業継続計画(BCP)への取り組みを進めている。

 北海道では、平成28年8月、台風7号、9号、11号が相次いで上陸し、河川の氾濫によりほ場が浸水するなど、農作物に多大な被害が発生した。とりわけ、全国の流通量の大半を占めるばれいしょは、翌29年には、ポテトチップス製造各社が商品を休売・終売するなど、いわゆる「ポテトショック」が発生し、国内のばれいしょの需給に大きな影響を与えた。

 運営協議会のでん粉工場においても、台風発生に伴い(ぬか)(びら)ダムの大量放水が行われたことにより、でん粉工場の取水設備が大きな被害を受けたことで、でん粉工場の復旧工事が必要となり、再稼働まで時間を要した。これにより、収穫されたばれいしょを工場へ搬入することができなくなり、原料の品質が悪化するという被害を受けた。このため、取水設備を明渠(めいきょ)型から導水管型へ変更して整備することで、大量放水による被害を軽減し、迅速に再稼働できる体制を整備した(写真5)。

 このように、生産支援対策や物流環境対策、不測の事態への対応などの取り組みを行ってきた結果、80億〜90億円台で推移してきた売上げは、平成28年には約119億円を記録し、30年は約107億円と100億円を上回って推移している。
 

おわりに

 北海道では従来、農産物の集出荷施設はもとより、冷凍食品工場や製糖工場、でん粉工場などの食品加工処理施設に至るまで、農産物を効率的に加工できる産地に近いところに立地している。しかし、少子高齢化が進み労働者の確保に苦慮する中、現場では、必要なトラックの運転手が確保できないため、工場の稼働期間を延ばしたり、1日当たりの必要なトラックの台数を抑制したりすることで対応するなど、人手不足は切実な問題となっている。

 運営協議会では、馬鈴薯管理システムや遠隔監視システムなどを導入することで、少人数で貯蔵庫を管理できる体制を整えることができた。また、ばれいしょに付着している土砂や規格外品を除くことで、輸送する荷物の重量を減らし、一貫パレチゼーション体制を取り入れることで、長時間の荷待ちや手作業によるトラックへの荷物の積み込みなどをなくし、少人数で輸送できる体制を整備することができた。さらに、メッシュコンテナや規制緩和車両を導入し、より多くの荷物を輸送することを可能とすることで、必要最低限のトラックで輸送することができるようになった。

 近年、労働者の確保が難しくなっている中で、運営協議会の行っているさまざまな取り組みは、生産者にとって、安心してばれいしょを栽培できる環境を整え、実需者にとっても、原料の安定的な供給が期待できることで、取引拡大につながっており、これらの取り組みは、労働力不足を解消し農産物を実需者へ安定的に供給する体制づくりの一つの答えとなるのではないだろうか。
最後になりますが、お忙しい中、本取材にご協力いただきました士幌町農業協同組合農工部部長の久保武美さまに厚くお礼申し上げます。

〈参考文献〉

・JA士幌町HP
・JA士幌町農工部作成資料「士幌馬鈴薯施設運営協議会の取り組みについて」
・JA士幌町農工部作成資料「士幌馬鈴薯施設運営協議会説明資料」
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272