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台湾におけるツマジロクサヨトウ防除の現況

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最終更新日:2020年6月10日

台湾におけるツマジロクサヨトウ防除の現況

2020年6月

台湾行政院 農業委員会 動植物防疫検疫局 植物防疫組
林俊耀(Jiunn-Yaw Lin) 欧陽瑋(Wei Ou Yang)
顔辰鳳(Chern-Feng Yen) 陳宏伯(Hung-Po Chen)

【要約】

 ツマジロクサヨトウはアメリカ大陸原産の害虫であるが、その生物学的特性から、短期間でアメリカ大陸からアフリカ、アジアへと侵入している。台湾でも2019年6月に初めて確認され、こうりゃんや飼料用トウモロコシに被害が見られた。しかしながら、モニタリングや巡回調査により被害を早期に発見し、効果的な防除措置を実施したことが奏効したため、農業に対する損失は、予測されていたほど深刻にはならなかった。台湾は亜熱帯に位置しているため、今後も継続的にツマジロクサヨトウに対する対応戦略を研究する必要がある。

はじめに

 経済のグローバル化の急速な進展、物流ネットワークの発展や農産品取引の持続的な拡大により、有害動植物が地理的な隔たりや従来の生態系による垣根を突破し、国・地域を越えて移動する機会が急激に増加している。これらが被害を与える確率も激増し、農林業に重大な経済的損失をもたらすばかりではなく、環境および人類の健康にも悪影響を引き起こす事態となっている。

 ツマジロクサヨトウ Spodoptera frugiperda(英名:fall armyworm)はその代表的な例である。ツマジロクサヨトウはアメリカ大陸の熱帯および亜熱帯地域の原産で、2016年1月にナイジェリアで初めて発見された後、わずか2年でアフリカ大陸の44カ国にまで拡散した。国連食糧農業機関(FAO)は2018年8月に全世界に向けて警報を発し、モニタリングを強化するように注意を喚起したが、ツマジロクサヨトウの拡散は収まらず、2018年には軽々とインド洋を飛び越えてアジアに到達した。インド西南部のカルナータカ(Karnataka)がツマジロクサヨトウの被害が発生したアジアで最初の地域となり、同年、さらにスリランカや、タイおよびミャンマーなどのインドシナ半島の国々に広まった。翌2019年1月に初めて中国(雲南省)に侵入すると、わずか1年で26省・自治区・直轄市に拡散し、中国の華南および西南地区(注1)においては定着した。その後、台湾でも同年6月に初めて発見され、同じく6月に韓国、7月には日本でも次々と侵入が確認された(図1、2)。

 ツマジロクサヨトウは人を介して海洋を越え、アメリカ大陸からアフリカ、アジアへと侵入しており、物流の利便性が高まり貿易が活発化したことが、ツマジロクサヨトウが急速に拡散した主な要因の一つであると言える。

 このため、本稿では、台湾におけるツマジロクサヨトウの防除の現況について紹介する。なお、本稿中の為替レートは、1台湾ドル=3.6円(2020年4月末日TTS相場3.566円)を使用した。

(注1)中国の地理的区域区分では、華南地区は広東省、広西チワン族自治区、福建省、海南省の4省・自治区、西南地区は四川省、重慶市、貴州省、雲南省、チベット自治区の5省・自治区・直轄市が含まれる。

 

 

1.ツマジロクサヨトウの生物学的特性および被害の特性

(1)生物学的特性

 「State of the World’s Plants 2017」(注2)では、ツマジロクサヨトウは世界十大植物病害虫の一つであり、世界クラスの病害虫になり得ると評価している。その主な要因の一つは生活史(ライフサイクル)の特性において、1年で複数世代発生することが可能ということである。発育時間は温度に関連しており、夏季においては、卵は約2〜3日での孵化(ふか)が可能で、わずか10〜14日で幼虫から成虫へと成長するため、1世代を完了するのに必要な期間は30日足らずである。高温であれば、生活史はさらに短縮可能である。このように生活史が短く、かつ、1年に複数世代が発生することにより、ツマジロクサヨトウは侵入の初期に急速にその生息数を増加させることができる。

 また、ツマジロクサヨトウのメスは一生に最大2000個産卵するが、このうち大部分が羽化後4〜5日で、一つの卵塊当たり100〜200個を産卵することができる。強力な繁殖力も新たな生息地を増加させている要因の一つとなっている。

 さらに、ツマジロクサヨトウは驚くべき移動能力も有している。成虫は一晩に100キロメートル、気流に乗ると200キロメートル移動することが可能であるため、例えば北米において冬季の温度が0℃以下となりその群がすべて死滅したとしても(注3)、翌年には、南方の温暖な地域から再度侵入して被害を与えることとなる。

 台湾は亜熱帯に位置しているため、冬季には一時的に10℃以下の低温となることがあるが、ツマジロクサヨトウを完全に死滅させることは困難であることから、一部の群は台湾で越冬する可能性がある(注3)。さらに毎年夏季には西南季節風の気流により新たな群が侵入するため、外来群および現地群の個体数は毎年持続的に増大することとなる。

 病害虫が気候面の制限を突破して新たな地域まで拡散するためには、摂食する作物も鍵の一つである。CABI(科学文献の出版、研究、情報伝達に特化した非営利組織)のデータベースによれば、ツマジロクサヨトウの寄主植物(摂食可能な植物)は76科353種に達しており、特にイネ科が最も多く106種(約30%)である。水稲、こうりゃん、トウモロコシ、小麦などの重要な作物に食害をもたらすため、被害はその他の病害虫よりも重大である(写真1〜4)。

(注2)「State of the World’s Plants 2017(2017年世界植物現状報告)」は英国王立植物園が毎年公表している植物に関するレポート。2017年のレポートは下記を参照。
https://stateoftheworldsplants.org/2017/report/SOTWP_2017.pdf
(注3)ツマジロクサヨトウの卵から成虫までの発育限界温度は10.9℃である。また、本種は休眠せず、低温では活動と発達は休止し、気温が氷点近くなると通常すべてのステージで死滅するとされている。本種が越冬できるのは亜熱帯から熱帯地域のみで、米国においては本種が冬期に存在できることが知られているのは、テキサス州南西部とフロリダ南部のみであり、他の地域では生存できない。(日本の農林水産省「ツマジロクサヨトウ」防除マニュアル本編より)

 ツマジロクサヨトウの寄主植物の種類は広範であるが、摂食する植物により系統が区分される。アメリカ大陸のツマジロクサヨトウの幼虫はトウモロコシを好んで摂食していたが、その後好んで水稲に被害を与える群が出現したことが発見されたため、水稲型およびトウモロコシ型の二つの系統(亜型)に区分された。両者の摂食の好み、成虫の交尾行為などは異なるものの、形態にはほとんど差異はなく、遺伝子鑑定によってのみ類別可能である。

 台湾では二つの系統はいずれも発見されており、トウモロコシ型の系統は1例のみで、その他はいずれも水稲型系統である。しかしながら、いずれもトウモロコシ、こうりゃんに発生が集中し、一部でハトムギ、ギョウギシバおよびバミューダグラス上で発見されているものの、まだ水稲では発見されていない。現在、台湾において、ツマジロクサヨトウの被害を受けた寄主植物の種類は少なく、予測されていたほど被害は深刻ではなかったものの、このように、トウモロコシを主な寄主植物としているツマジロクサヨトウが台湾に飛来して来ている状況において、台湾に定着したツマジロクサヨトウが、その他の寄主植物に対しても被害を与える可能性が高い状況にあると言える。

(2)被害の特性

 ツマジロクサヨトウは主に幼虫期に被害を与えるが、その幼虫の生態および行動に特徴が見られる。トウモロコシを例に挙げると、1齢幼虫は葉面を摂食するが、2〜3齢の幼虫は分散して葉の付根の成長点まで穴を穿(うが)って摂食する(図3)。この葉の中への潜伏行動によって、作物が被害を受ける初期に発見することが困難となっている。それに加えて、幼虫時の共食いにより、トウモロコシ1株中にわずか1〜2匹しか存在しない状態になる。これにより、ツマジロクサヨトウにとっては十分な食物が確保される一方、生産者にとってはさらに発見が難しくなり、作物の被害が大きくなる。また、幼虫が寄主植物の成長点(発芽部分や節〈葉の根本部分〉など)を摂食することで、寄主植物の成長状況に影響が及ぶため、生産量に対する影響はより甚大となる。

 

2.台湾におけるツマジロクサヨトウの防除状況

(1)モニタリングによる動向分析と巡回調査の実施

 昆虫は性フェロモンを利用した情報伝達や繁殖を行っている。昆虫の性フェロモンは高い種特異性を有し、微量でも誘引効果を得られるため、病害虫の発生状況を把握するためによく利用されている。北米およびアフリカにおいても性フェロモンを広範に利用したツマジロクサヨトウ成虫のモニタリングや誘引殺虫が行われており、新しく病害虫が侵入した地域においても、性フェロモンのモニタリングポイントを設置し、成虫群の動態を定期的に分析することが、発生地域を把握する重要な手法となる。

 ツマジロクサヨトウの中国の東南沿岸への侵入を受け、台湾の防疫機関(注4)は直ちに、早期警報システムとして、福建省に隣接した島しょ地域や国際貿易港湾、トウモロコシや水稲などの重要作物生産地域など500カ所以上に性フェロモンモニタリングポイントを設置した。これにより、成虫の生息数および動態を把握し、その動向を分析することで防除を行っている。

 モニタリングポイント設置後、ツマジロクサヨトウの発生地域および発生事例は継続的に増加した(図4)。台湾で繁殖する新世代の出現が確認された後は、防疫機関は、発生した耕作地付近に速やかに性フェロモンモニタリングポイントを増設するとともに、分析結果に加えて農作物の生育ステージも加味し、ツマジロクサヨトウの卵および幼虫発生期の予測分析を行っている。

 また、耕作地における病虫害の発生状況を把握するため、防疫機関は、耕作地への巡回調査も実施している。高リスク作物の耕作地での全面的な巡回調査に加え、その他の農作物の被害の有無や、幼虫発生状況の把握にも努めるとともに、生産者が自主的な巡回調査も実施するように指導している。ツマジロクサヨトウは作物の苗期に被害を与え始めるため、被害発生の初期に早期に発見し、直ちに防除することで、リスクおよび損失を低減することが可能となる。

(注4)台湾では、行政院農業委員会動植物防疫検疫局のほか、各県や市役所の農業機関でツマジロクサヨトウの防疫を実施している。

 

(2)化学的防除

 化学的防除は従来ツマジロクサヨトウを予防する最も効果的な方法であるため、行政院農業委員会動植物防疫検疫局は、2019年6月のトウモロコシでの発生確認後、FAOや米国の報告(注5)に基づき、台湾で残留農薬許容量が設定・承認されている農薬の中から、トウモロコシで使用可能なスピネトラムなどを含む11種類の緊急防除薬を選択し、公告した。その中には9種類の化学農薬(5種の異なる殺虫作用メカニズム)、2種類の生物農薬が含まれている。公告と同時に、薬剤耐性が生じることを回避するため、異なる作用メカニズムの農薬を輪番で使用するように指導した。

 防疫機関は、学術研究機関(注6)に緊急防除薬の研究グループを立ち上げ、短期間で薬効試験を完了させた。試験の結果、ピレスロイド系の薬剤の防除効果が約70%であったが、その他の薬剤の防除効果はいずれも80%以上に達していた。

 また、ツマジロクサヨトウは植物の苗期を好んで摂食するという研究結果を生かし、最適時期に防除を行うことが効果的で、例えばトウモロコシでは高さ約10センチメートルに成長し、ツマジロクサヨトウのメス成虫が産卵し、孵化した幼虫が葉面を摂食する時期に薬剤を散布することで、薬剤を容易に虫体に接触させることができる。一方、トウモロコシの生育ステージが進むと、2〜3齢幼虫がトウモロコシの葉の付け根の成長点まで穴を穿って摂食するため、農薬を葉の付け根まで浸透させて幼虫に接触させる必要がある。このため、生産者は、農薬散布用具を慎重に選択する必要があるが、十分な量の農薬を速度を緩めて散布することで農薬の効果を確保することができ、防除効果を発揮することができる。

(注5)米国ではツマジロクサヨトウが有機リン系、カーバメート系、ピレスロイド系の薬剤に対して薬剤耐性が出現したことが報道されており、FAOの資料でも有機リン系およびピレスロイド系の薬剤はツマジロクサヨトウに対する予防効果が劣ることが示されている。
詳細は、Arthropod Pesticide Resistance Database(APRD)(https://www.pesticideresistance.org/)およびFAOのツマジロクサヨトウに関する協議会レポート(http://www.fao.org/3/ca4603en/ca4603en.pdf)を参照されたい。

(注6)台湾大学、
中興(ちゅうこう)大学、嘉義(かぎ))大学、屏東(へいとう))科学技術大学などの学術機関および行政院農業委員会に所属する各地域の研究機関による学術研究チーム。

(3)生物学的防除

 研究によれば、ツマジロクサヨトウの防除に応用することができる天敵の種類は少なくなく、寄生性の天敵として、タマゴバチ(Trichogramma sp.)、クロタマゴバチ(Telenomus sp.)など、捕食性の天敵として、カメムシ(Podisus spp.)、ヒメハナカメムシ(Orius spp.)、オオメナガカメムシ(Geocoris spp.)などが想定される。このような天敵を応用して予防する際は、作物の成長ステージに合わせるほか、病害虫の生態も考慮しなければ、防除効果を発揮することができない。例えば、ツマジロクサヨトウの卵塊がメス成虫の鱗毛(りんもう)に覆われて保護されている場合はタマゴバチの寄生率が低下し、ツマジロクサヨトウの幼虫が植物内に潜り込んでいる期間は、捕食性天敵の防除効果が制約されるなど、多くの影響を受けやすい。

 台湾において、天敵を応用したツマジロクサヨトウの予防には、土着性の天敵を優先的に利用しなければならないため、別途実証試験が必要となる。タマゴバチは複数種の鱗翅目(りんしもく(チョウやガが含まれる目)害虫のいずれに対しても防除効果があるため、台湾ではすでに量産や放飼などの技術が定着していた。かつてはサトウキビメイガおよびアワノメイガなどの害虫防除に大量に利用されていたこともあり、現在すでにツマジロクサヨトウに対する防除試験に着手している。初期の屋内試験の結果を見ると、全体の防除率は最少でも50〜70%に達していた。将来的には引き続き圃場(ほじょう)試験を実施し、タマゴバチを応用したツマジロクサヨトウの防除効果を見定めることとしている。

 また、微生物製剤には、BT剤、(はく)きょう病菌(Beauveria bassiana)などの多くの市販製品がある。有機栽培作物に直接使用することもできるが、ツマジロクサヨトウの防除に応用するためには、試験および調整が必要である。BT剤を例とすると、その作用メカニズムは中腸腺毒性であり、幼虫が摂食した後でなければ殺虫効果はない。幼虫が植物の中心まで穴を穿って侵入していると、容易には幼虫体内に取り込まれず、防除効果は低下する。

3.ツマジロクサヨトウ被害による損失

 台湾におけるツマジロクサヨトウの寄主植物の作付面積は、農産物作付面積の約45%を占めている。学術研究機関の試算によると、各農産物の作付面積や生産量から各農産品の生産額を算出した結果、ツマジロクサヨトウが引き起こす経済的な影響は、約24億台湾ドル(約86.4億円)(注7)に達すると見込まれている。幸いにも、2019年の侵入においては防疫機関が随時緊急防除措置を講じ、地方政府も生産者と協力していたため、農作物に対する損失は、予測されていたほど深刻ではなかった。

 ツマジロクサヨトウの被害を受けた地域として、福建省厦門(あもい)市に隣接する離島である金門を例にみてみる。同地域は台湾における主要なこうりゃん生産地域で、作付面積は約1700ヘクタールである。金門では過去に重大な病虫害が発生したことはなかったものの、2019年に中国でツマジロクサヨトウが流行し、FAOから警報が発表された後、防疫機関は、金門港および沿岸地域に直ちに性フェロモンモニタリングポイントを設置し、捕獲した成虫の生息密度を分析するとともに、生産者に注意するよう警報を発した。しかしながら、現地の生産者の理解不足や、ツマジロクサヨトウによるこうりゃんへの被害が不明であったことから、当時はまだ生産者による自主的なモニタリング率が低かった。その結果、生産者がこうりゃん苗木の被害を発見した時には、すでに耕作地の50%以上の植栽株が被害を受けていた(写真5)。

(注7)台湾の2018年の農業総生産額は2867億台湾ドル(約1兆321億円)

 

 防疫機関は、ツマジロクサヨトウの防除措置のため、最初に作業員および防疫資材を投入したが、被害面積があまりに広大であったため、成長初期の最適な防除時期を逃さないよう地域共同で防除措置を実施することとした。これにより、現地の農業生産販売班などの生産者組織(注8)と連携して、害虫が穴を穿って植物内に侵入する特性に基づき、農薬散布器具や散布方法を改良した。改良した器具や手法を用いた防除措置(注9)を、生産者団体と共同で短期間で完了させることで、防除率は8割以上に達した。この結果、こうりゃんは徐々に回復し、順調に成長した(写真6、7)。

 2019年当初のこうりゃんの作付面積は1773ヘクタールであったが、同年末の出穂(しゅっすい)時に干ばつがあり、445ヘクタールの耕作地で収穫することができなかったため、収穫面積は約1328ヘクタールとなった。一方、生産量は2210トンで、従来の年間生産量に相当する量を確保した。金門における直近5年間の平均生産量は約2100トンであるため、2019年はこれよりも5%増加していたことになる。これは、以前は比較的粗放的に栽培されていたが、2019年はツマジロクサヨトウの防除措置として全耕作地で農薬散布が行われたため、他の病害虫も防除することができたためであると考えられる。

 これまでは、台湾で青刈りトウモロコシを含む飼料用トウモロコシを生産するときに害虫駆除を行うことはほとんど無かったが、今後は、ツマジロクサヨトウの被害が毎年継続的に発生することが考えられるため、経済的損失を減らすべく、栽培初期に巡回や農薬散布などの適切な管理が必要である。

(注8)農業生産販売班(原語:農業?銷班)とは、台湾の各県や市の農会(日本でいう農業協同組合)とは別に、地域ごとに設立された最も基本的な生産者グループ。金門の各町や村にも農業生産販売班があり、同じ種類の作物を栽培している10人以上の地元生産者で構成されている。今回、ツマジロクサヨトウの共同防除は、地元の農会と農業生産販売班が協力して実施した。
(注9)台湾では通常、無人航空機で農薬を散布しているが、この方法では水滴が小さく、農薬は作物の表面に
(とど)まってしまうため、作物中の幼虫に接触することが困難であり、殺虫効果は期待できない。このため、金門のこうりゃん耕作地では無人機は推奨されておらず、大型農機具で農薬を散布している。大型農機具の利用においては、より大きな水滴になるようスプレーヘッドを調整し、移動速度を遅くすることで、農薬が作物の内部まで浸透し、殺虫効果を得ることが可能である。

 

 

 このような状況は、台湾本島の中南部でも見られる。2019年9月、台湾雲嘉(うんか)地区南部地域で作付けされた飼料用トウモロコシは、大区画の耕作地で粗放的に管理されていたため、ツマジロクサヨトウの被害は食用とうもろこしよりも甚大であった。この時は、作付時期に沿う形で、ツマジロクサヨトウも中部の雲林から徐々に南へ移動し、雲嘉地区では手順に基づき農薬散布を実施していたためツマジロクサヨトウの拡散も制御されたものの、台南地区の大区画耕作地では4700ヘクタール以上が被害を受けた。この際、これら地域でも金門と同様に、生産者と政府防疫機関との共同で被害初期に緊急防除措置を実施した結果、ツマジロクサヨトウの発生は徐々に抑制されていった。この初動防除措置の結果、ツマジロクサヨトウの発生によって飼料用トウモロコシが大きな損失を受けることはなかった。

 以上のこうりゃんや飼料用トウモロコシの事例から、栽培初期のモニタリングを強化し、適時的確に防除措置を施すことで、ツマジロクサヨトウの発生は制御可能であり、被害を限定的にすることができることが明らかとなった。

4.総合的病害虫管理技術の開発

 新たに侵入したツマジロクサヨトウに対して、現在も依然として化学的防除が主である。しかし、長期的にみると、現在は唯一の防除方法として考えられる化学的製剤に依存するのではなく、生物学的防除や、育種、輪作、浸水、すき込みおよび日光照射などの耕作方法の変更や、物理的防除方法を折り込んだ総合的病害虫管理技術(IPM)の開発を促進していかなければ、ツマジロクサヨトウの被害に対して今後も継続的に防除していくことは難しい。

おわりに

 亜熱帯に位置する台湾では、引き続き、ツマジロクサヨトウの発生メカニズム、台湾で繁殖するツマジロクサヨトウの生活史および発生世代数、実際に被害を受ける作物の種類、分布地域および被害地域などについて継続的に研究を深め、長期にわたる対応を研究する必要がある。また、モニタリング技術(作物種、部位ごとのサンプリング技術など)を開発し、モニタリング警報マニュアルを策定することで正確に被害を予測する一方で、早期防除に向けた情報を提供し、また、化学的製剤以外の防除資材や天敵を開発しなければならない。

 「我々はツマジロクサヨトウとの戦いに勝ったのか?」

 今回の台湾におけるツマジロクサヨトウの防除について、その過程で学んだ経験は、防除の成果よりも貴重なものである。ツマジロクサヨトウは、世界的な気候変動により、常態的に地域をまたいで飛来する害虫であるため、モニタリング予測メカニズムを確立し、併せて動植物疾病の緊急予防システムを速やかに発動して、即時かつ効果的に防除することは、極めて重要であり、かつ、努力すべきことでもある。また、ツマジロクサヨトウの強力かつ国境を越えた拡散能力に対応するため、防除情報交流の強化を促進する必要がある。アジア太平洋地域の国際的な協力を通じ、同地域における共通防除方法を推進することで、より防除効果を高めることができるものである。

(関連情報)
農林水産省消費・安全局植物防疫課
「ツマジロクサヨトウ」に注意
〜さとうきびほ場で増加傾向〜
https://www.alic.go.jp/content/001178150.pdf
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272