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こないしん(でん粉原料用)

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最終更新日:2020年8月11日

こないしん(でん粉原料用)〜「シロユタカ」よりも多収で、つる割病に強いでん粉原料用かんしょ新品種〜

2020年8月

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
九州沖縄農業研究センター サツマイモ育種グループ グループ長 ()(ばやし) (あきら)

【要約】

 「こないしん」は、でん粉原料用の主力品種「シロユタカ」よりも多収のでん粉原料用かんしょ新品種である。上いも収量およびでん粉収量が「シロユタカ」よりも高く、でん粉の白度は「シロユタカ」並に高い。サツマイモつる割病やサツマイモネコブセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウに強く、いもの貯蔵性も優れる。安定多収生産可能な品種として、つる割病に弱い「シロユタカ」からの置き換えが可能である。

はじめに

 かんしょは日本全国で栽培されており、令和元年の生産量は75万トンである。県別に見ると、生産量1位は鹿児島県の26万トン、2位は茨城県の17万トン、3位は千葉県の9万トン、4位は宮崎県の8万トンと続き、生産量の約半分を南九州が占めている。また、かんしょの用途としては生食用、食品加工用、でん粉用、焼酎用などがあるが、日本で生産されているかんしょの49%が生食用として消費されており、次いで焼酎用が24%、でん粉用が13%を占めている(平成29年産、農林水産省「平成30年度いも・でん粉に関する資料」)。茨城県、千葉県ではそのほとんどが生食用、加工食品用として消費されているのに対して、鹿児島県では生食用、加工食品用は少なく、焼酎用とでん粉用が8割以上を占め、特にでん粉用は35%と高い特徴があり、日本で作られるかんしょでん粉のほとんどが鹿児島県産かんしょを原料としている(図1)。
 
 かんしょでん粉は糊化特性がばれいしょでん粉とコーンスターチのほぼ中間で特筆すべき特徴がなく、糊化温度、粘度、白度の点などから食品としての品質面でばれいしょでん粉に劣る。そのため、ばれいしょでん粉には片栗粉や水産練り製品用という固有用途があるが、かんしょでん粉には、一部に菓子類、春雨などの用途があるものの、用途の多くは水あめ、ブドウ糖、異性化糖などの糖化製品用であり、価格差の大きいコーンスターチと競合している。そのため、でん粉原料用かんしょ生産者および国産でん粉製造事業者の経営安定を目的に、価格調整制度が運用されている。また、でん粉工場への設備投資、でん粉製造技術の改善、耐老化性に優れる低温糊化性のでん粉を持った品種「こなみずき」の育成など、かんしょでん粉の食品固有用途を広げるさまざまな取り組みも行われ、糖化製品用に販売されるでん粉以外の加工食品用の用途も少しずつ拡大している。

 日本においてかんしょでん粉の生産量が最も多かった昭和38年には、かんしょ全体の47%、実に313万トンのいもがでん粉原料用として消費され、74万トンのかんしょでん粉が生産されていた。その時と比べると、令和元年の南九州におけるでん粉原料用品種の作付けは4500ヘクタール、収穫量は9万8000トンと、かなり減少してはいるものの、でん粉原料用かんしょは南九州の基幹作物としてのみならず、地域経済の振興にとっても重要な役割を果たしていることに何ら変わりはない。一方で、かんしょの生産現場においては、高齢化による農家数の減少に伴い、でん粉原料用品種の作付けが年々減少しており、でん粉工場は慢性的な原料不足に悩まされている。そんなところに、さらなる追い打ちをかけるかのように、近年はサツマイモつる割病の多発により、原料の安定生産も脅かされるようになった。でん粉原料用主力品種「シロユタカ」はサツマイモつる割病に弱いといった欠点があるため、本病の被害拡大が深刻化したのである。そのため、栽培面積の減少や単収の低下に伴う原料不足を解消し、でん粉の安定生産に寄与できる安定多収生産可能なでん粉原料用品種の開発が喫緊の課題であった。

 今回紹介する品種「こないしん」は、主力品種「シロユタカ」よりも多収で、でん粉歩留、でん粉白度は「シロユタカ」並、つる割病にも抵抗性があり、「シロユタカ」からの置き換えが期待されている新品種である。
 

1.育成の経過

 「こないしん」は、高でん粉・多収の「九州162号」を母、多収系統の「九系04136−16」を父とする交配組み合わせから選抜した品種である(図2)。

 平成21年に育成地である国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センターで交配採種を行い、翌年以降、選抜を進めた。でん粉収量ならびに線虫抵抗性が優れていたことから、平成26年に「九系320」の系統名にて鹿児島県、宮崎県、長崎県、徳島県の農業試験場に配布し、系統適応性検定試験、黒斑病抵抗性検定試験、立枯病抵抗性検定試験を行った。育成地に加え普及見込み地域での評価も高かったことから、同年12月に「九州181号」の九州番号を付し、翌年以降、鹿児島県、宮崎県の奨励品種決定試験に供試した。いもの収量ならびにでん粉収量が「シロユタカ」よりも優れ、つる割病に強く、でん粉の白度も高かったことから、平成31年に「こないしん」として品種登録出願を行った。
 

2.特性の概要

 「シロユタカ」「コガネセンガン」と比較した「こないしん」の主要特性を表1に示した。
 

(1)形態的特性

 草姿は開張で、茎長および節間長は中程度で「シロユタカ」よりやや長い。茎の太さは中程度で「シロユタカ」よりやや細い。茎および節のアントシアニンの着色は無または極弱である。頂葉色は淡緑、葉色は緑、葉脈および蜜腺にアントシアニンの着色は無く、葉の大きさは中程度で、形は心臓形である(表1、写真1)。塊根の形状は楕円形で、やや大きく、皮色は(ちゃ)(とう)、肉色は黄白、皮層は厚く、目は浅い(写真2)。条溝、皮脈はわずかに発生し、裂開は見られない。しょ梗の強さはやや強である。

 
 







  

(2)生態的特性

 (ほう)()の遅速は“中”、萌芽(そろ)いの整否は“中”、萌芽伸長の遅速は“中”、萌芽の多少は“中”である(表2)。萌芽性の総合評価は「シロユタカ」の“やや良”に対して、「こないしん」は“中”であり、「コガネセンガン」と同等の評価である。


 4月植え長期透明マルチ栽培、5月植え標準無マルチ栽培では、「シロユタカ」および「コガネセンガン」よりも上いも1個重が大きく、株当たり上いも個数は同等か、やや多いため、「シロユタカ」や「コガネセンガン」よりも上いも収量は高い(表1)。でん粉歩留は「コガネセンガン」よりやや高く、「シロユタカ」並である。でん粉収量は「シロユタカ」および「コガネセンガン」よりも高い。6月植え晩植無マルチ栽培における上いも収量は「シロユタカ」や「コガネセンガン」よりも高く、でん粉歩留は「コガネセンガン」よりも高く、「シロユタカ」並である。でん粉収量は「シロユタカ」や「コガネセンガン」よりも高い。早掘透明マルチ栽培における上いも収量は「シロユタカ」や「コガネセンガン」よりも高く、でん粉歩留は「コガネセンガン」よりもやや高く、「シロユタカ」並である。でん粉収量は「シロユタカ」や「コガネセンガン」よりも高い。

 普及見込み地帯である鹿児島県における上いも収量およびでん粉収量は、4月植えマルチ栽培で「シロユタカ」よりも2割ほど、5月植え無マルチ栽培で2〜3割ほど高い(図3)。また、在ほ期間はほぼ同じであっても、4月植えマルチ栽培の方が5月植え無マルチ栽培よりも多収となる。

 
 サツマイモネコブセンチュウにはかんしょ品種に対する寄生性の違いからレース(生理的変異)が存在し、熊本県ではレースSP1、鹿児島県と宮崎県ではSP2が優占し、沖縄県と種子島にはSP4が広く分布していることが知られているが、「こないしん」はSP1、2、4いずれのレースに対しても強い抵抗性を示す(表3)。ミナミネグサレセンチュウ抵抗性はやや強である。近年、「シロユタカ」でつる割病が多発し問題となっているが、「こないしん」のつる割病抵抗性はやや強である。立枯病抵抗性は中、黒斑病抵抗性はやや弱である。貯蔵性は易で、「シロユタカ」や「コガネセンガン」よりも優れる(表1)。
  

(3)品質特性

 でん粉の白度は、「コガネセンガン」よりもやや高く、「シロユタカ」並に優れる(表4)。糊化開始温度は「コガネセンガン」よりも1.6度ほど高く、「シロユタカ」と同程度である。最高粘度、ブレークダウン、セットバックは、「こないしん」「シロユタカ」「コガネセンガン」の間で顕著な差はないが、「こないしん」の最高粘度は「シロユタカ」よりもやや低い傾向がある。蒸しいもの肉質は粉質で、食味はやや下である。

3.適地および栽培上の留意点

 南九州のかんしょ作地帯に適する。栽培に当たっては、次の点に留意する必要がある。育苗時の苗床での萌芽数が「シロユタカ」の半分ほどなので、種いもの伏せ込み間隔を狭くし(20〜25センチメートル)、伏せ込み数を多くするなどして、苗の確保に努める必要がある。また、黒斑病にやや弱いため、種いも消毒や苗消毒を行う、収穫後速やかにキュアリング処理(注)を行う、などの対策を行う。しょ梗が強いため、収穫時にいもが離れにくく、また、いもの尾部の根(しっぽ)も手でちぎり難い特性がある。

(注)収穫したかんしょを貯蔵前に3〜4日高温多湿の条件下(温度30〜33度、湿度90〜95%)に保つと、収穫時にできる傷口にコルク層(傷を治す組織)ができ、貯蔵中に病原菌の侵入が少なくなる。この処理のことをキュアリングという。

おわりに

 「こないしん」という品種名は、でん粉を意味する“こな(粉)”と変革を意味する“いしん(維新)”とを組み合わせ、かんしょでん粉をめぐる現状を変革する品種となることを願って命名したものである。「こないしん」は普及見込み地域である鹿児島県における試験において、「シロユタカ」より多収で、でん粉の白度も高いことが確認されたことから、平成31年に原料用かんしょの奨励品種として鹿児島県で採用された。「こないしん」の注目度は高く、すでに、鹿児島県内の多くのでん粉製造事業者による栽培が始まっている。平成30年秋に鹿児島県、宮崎県で相次いでサツマイモ
(もと)
(ぐされ)病の発生が確認され、立枯れ・塊根腐敗症状による収量の低下が大きな問題となった。つる割病に加え、基腐病の発生により、でん粉原料用かんしょの安定供給はより一層深刻な状況となっている。「こないしん」の普及は始まったばかりであるが、でん粉原料用かんしょの生産者、でん粉製造事業者にとって「こないしん」が希望の品種となることを切に願っている。本品種の育成にあたり、ご協力いただいた全ての関係諸氏に感謝の意を表する。なお、本品種の育成の一部は農研機構生研支援センターイノベーション創出強化研究推進事業「高品質・多収なでん粉原料用カンショ品種の育成」の支援を受けたものである。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272



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