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“おいしく食べて、ごみをゼロにする”可食トレー

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最終更新日:2020年10月9日

“おいしく食べて、ごみをゼロにする”可食トレー

2020年10月

株式会社丸繁製菓 特別研究員 村瀬 博重

はじめに

 でん粉は製紙、繊維産業や段ボール製造フィルムシートのブロッキング防止材、石こうボード製造、塗料、PVAスポンジ、製鉄産業など多くの工業用途で幅広く使用される再生産可能で有用な資源です。また、炭水化物(糖質)という三大栄養素の一つとして私たちの生活に欠くことのできない主要なエネルギー源であることも忘れてはなりません。近年では、生分解性プラスチックの原料として、またアルコールの原料としても使用が増加しています。当社では、このでん粉を原料として、器まで食べることのできるトレー「イートレー®」を開発しました。本稿では、このイートレーの開発のきっかけや特徴、活用事例について紹介します。

1.開発の経緯

 当社では、創業以来、主原料に小麦粉、コーンスターチを使用したアイスコーンを製造してきましたが、イートレーの開発は、十数年前当社代表取締役専務の榊原が大規模イベントに参加したことがきっかけでした。そこで目にした多量に廃棄された屋台で提供されるプラスチックトレーの山に衝撃を受け、アイスコーンの製造技術を応用して可食容器ができないかと思いつき、帰宅後すぐに試作に取り掛かりました。

 プロトタイプは早い段階で完成しました。イベントなどへサンプル展開し感想を聞くと、耐水性能を上げてほしいとの声を多く頂きました。処方を見直し試行錯誤を繰り返しているときに、愛知県西三河の特産品である「海老せんべい」の製造処方を教えていただき、これをヒントに試作を行ったところ、イベントなどでの短時間の使用に耐えられる食べられる器(e-tray/イ−トレー)が8年前に完成しました。

2.製品の特徴

 イートレーは当地域(愛知県西三河)に生産拠点を設ける業者が提供する「ばれいしょでん粉」(北海道産)と小麦粉をブレンドした粉を主原料として製造しています。金型(実用新案登録)を工夫しでん粉に膨潤度の高いばれいしょでん粉を使うことで容器の表面が緻密になり強度と耐水性能を発揮しています。もし捨てられてしまった場合でも、時間の経過に伴ってでん粉が分解するため、環境への負荷を低減することができます。

 また、イ−トレーは食べられるだけでなく味もおいしいことが最大の特徴です。最初に開発したえびせんべい味のみならず、オニオン、紫いも、焼とうもろこし味など種類も増えてきており、乗せるものに合わせてさまざまな場面でご使用いただいています(写真1)。
 

3.活用事例

 現在は多数の入場者が見込まれるイベントなどでプラスチック容器の代替として、さらに一般店頭においても弱耐水を有することから、かき氷の器として使用されています(写真2)。近年では持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みに向けて多くの企業の皆さまからお声掛けいただいており、海外からの引き合いや問い合わせも増えてきています。2020年には、「独自の製造技術により耐水性などを備えたおいしく食べられる食器を開発し、使い捨てされるプラスチック製容器の使用量削減に取り組んだことは、環境負荷の低減と資源循環型社会の形成に大きく貢献する」と評価され、愛知環境賞(注)の優秀賞を受賞しました(写真3)。

(注)愛知環境賞は、2005年愛知万博の開催に合わせて、省資源や省エネルギー、リサイクルなどに関する優れた技術や活動などを表彰することで、資源循環型社会の形成を促進するとともに、広く全国に向けて、愛知の環境技術や環境活動のレベルの高さを発信する目的で愛知県が創設した(愛知環境賞ホームページより)。
 
 

おわりに

 現在はトレーのみならず、自社で長きにわたって培った製造技術を用いて食べられる箸、スプーン、コーヒーカップなどのアイテム数も増加中です(写真4)。今後の課題として強度と耐水性能をさらに向上させることでより多くの用途への展開を考えています。われわれは捨てることを前提とした容器の開発でなく、おいしく食べてエネルギーの補給源となることでごみを減らして笑顔創造が可能なエコ商品の開発を目指します。そのため、日本応用糖質学会などに参加し研究者の方や食に関連する多くの企業の皆さまにアドバイスやご提案を頂きながら、社会への貢献を目指していきます。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272