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日本−タイ国間におけるサトウキビおよび農業機械を通じた研究交流

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最終更新日:2020年11月10日

日本−タイ国間におけるサトウキビおよび農業機械を通じた研究交流

2020年11月

琉球大学農学部 渡邉 健太、寳川 拓生
NPO法人 亜熱帯総合研究センター・琉球大学協力研究員 新里 良章

【要約】

 タイ中部でのサトウキビ生産および農業機械の知見を深めるため、2019年8月に大学や農機会社などの関連施設を訪問し、現地の作業機の視察やそれに関するディスカッションをさせていただいた。一方、2020年2月にはタイでお世話になった研究者を日本へと招待し、筆者らが携わるスマート農業プロジェクトの視察や株出し管理機の実演を通して国内のサトウキビ情勢について知っていただき、日本とタイ国間の親睦を深めた。

はじめに

 タイでは、特に収穫作業を中心に、国を挙げてサトウキビの機械化を推進している。日本と気象条件や土壌条件が大きく異なるタイでは、日本では見られない独自に考案された栽培方法や作業機が多く見られる。その中には、日本で利用されているものより省力的で、なおかつ国内で製作したとしても類似する従来機種より安価に製造できそうな作業機もある。

 筆者らは2019年7〜8月にタイ国チョンブリ県パタヤシティ(図1)で開催された第1回国際糖・甘しゃ会議1)に参加した折に、現地の農業機械関連施設を訪問する機会を得た。カセサート大学とのディスカッション、農機具会社の訪問と作業機の実演視察および大規模農家の農業機械利用状況の調査を通して、タイで利用されている作業機が沖縄県のサトウキビ栽培に適応可能か、導入に際してサトウキビ生産法人や作業受託組織の経営向上にメリットはあるかといった検討を行った。一方で、2020年2月にはその際にお世話になったタイの農業機械研究者に沖縄県を訪問していただいた。筆者らと共に県内の関連施設を訪問する中で、現在行っているスマート農業プロジェクト2)や日本のサトウキビ・製糖業、機械化の現状について知っていただくなど有益な情報交換を行うことができたので本稿で紹介する。

1.タイ中部の農業機械関連施設訪問

 筆者らは2019年3月にもタイを訪れているが、その際は主に東北部の農業機械研究施設と大規模農家の視察を行った3)。東北部と比較すると中部では灌漑(かんがい)設備が普及しており、また植え付け時期などの栽培様式も異なっている。今回のタイ訪問の主目的は前述した国際会議に参加することであったが、これを機にタイ中部におけるサトウキビ生産や農業機械についての知見を深めたいと思ったのが本視察に至った経緯である。訪れたのはバンコクより西に位置するナコーンパトム県カムペーンセーン郡およびカンチャナブリ県ターマカー郡である(図1)。なお、訪問先への案内について、カセサート大学内の国立農業機械トレーニングセンターに勤務するThanankorn Jaiphong(TJ)博士とTitinai Thienyaem技術員に大変お世話になった。お二人にはこの場を借りて感謝申し上げたい。

 

(1)カセサート大学工学部農業機械学研究室

 カセサート大学は1943年に創立された国立大学であり、同国における最初の農業大学かつ3番目に古い大学である。国内に四つのキャンパスを有し、タイで最も規模の大きい大学の一つである。国際会議終了後の翌日、早朝よりバンコクの北西に位置するナコーンパトム県にあるカムペーンセーンキャンパスを訪れた。この地域はメコン川を水源として肥沃(ひよく)な土壌が広がっており、12平方キロメートルという広大なキャンパスの中にさまざまな作物を栽培できる農場を有している。TJ博士の案内により、同キャンパス工学部農業工学科のPratuang Usaborisut准教授の研究室を訪問した。Pratuang准教授は学生時代に日本の筑波大学に留学し、土壌力学分野の研究を行った経験もある。現在は、サトウキビ()(じょう)の土壌踏圧の研究やタイの土壌に適応する心土破砕機の開発に取り組んでいる(写真1)。また、早期株出し管理を可能にして不意の火災を防ぎ、グリーンハーベスタの導入を促進するため研究室ではトラッシュ鋤込(すきこみ)機も開発中である4)(写真2)。開発した作業機を前に、詳細に説明をしていただいた。

 心土破砕機は、形状を変えたシャンク(爪)を用いて牽引(けんいん)力、施工後の土壌貫入抵抗や(うね)形状のプロフィールの測定などを行い、燃料消費量や作業効率などが最適となる作業条件について研究開発しているとのことである5)。トラッシュ鋤込機はPTO駆動により回転する花形ディスクで畝間のトラッシュを鋤込む装置である。進行方向に対するディスクの角度や深さ、回転数などを変化させ、牽引力や鋤込精度などが適正となる条件について現地での研究を積み重ねたとのことであった。

 

 

〜タイにおける収穫時の火入れとトラッシュの扱いについて〜

 タイのサトウキビ栽培では、長年にわたって圃場への火入れが行われてきた。収穫前の火入れはトラッシュを除去し人力収穫を容易にするためであるが(写真3)、収穫後の火入れも一般的で、株出し栽培における不意の火災から出芽茎を保護したり圃場を更新する際の耕起や砕土など、植え付け準備作業を容易にしたりするためにも行われている(写真4)。サトウキビ圃場の約77%で火入れが行われているが、そのうち82%が収穫前の火入れで、18%が収穫後の火入れである。現在、タイ国内で火入れを行う収穫(バーンハーベスト)は64%、火入れを行わない収穫(グリーンハーベスト)は35%となっている。

 

 

 世界的には1930年代からバーンハーベストが主に採用されていたが、1970年代以降土壌や大気など環境面を考慮し、グリーンハーベストが、専用のハーベスタの開発とともに急速に普及した。日本でも、ハーベスタ導入の先駆けとなった沖縄県南北大東島(以下「南北大東島」という)でバーンハーベストタイプが導入されていたが(写真5、6)、土壌の劣化などが問題となりグリーンハーベストタイプが普及したという経緯がある(写真7)。グリーンハーベストの普及に伴い浮上した問題のひとつが、トラッシュの取り扱いである。製糖業界におけるトラッシュとは、(しょう)(とう)()や土砂など原料茎以外の夾雑物を指す。圧搾されるトラッシュの増加は製糖効率を低下させるため、その除去や除去後の廃棄処理など製糖工場側の負担が増加する。そのため、1995年より導入された日本の品質取引制度では、トラッシュを含む搬入原料はグロスケーン、除いた場合はクリーンケーンとされ、トラッシュは収量から差し引かれて取引される。トラッシュの除去設備は、鹿児島県では沖永良部島、沖縄県では伊是名島や石垣島を先駆けとして多くの地域で導入されている。

 一方で、世界的にはトラッシュごとグロスケーンとして圧搾されるケースが多く、タイも例外ではない。タイにおいてもトラッシュの概念はあるものの、現状ではシステム化に至っていない。国内生産や輸入された細断式のハーベスタの普及は拡大しているが、依然として手刈り収穫も多く、全茎式のハーベスタも普及している。収穫原料の移動やトラックへの積載時にケーンローダを用いるため、焼却後の灰や泥、土砂などが多く混入することが問題となっており、工場も頭を抱えている。こういった現状を踏まえ、タイでは将来的なトラッシュ測定・除去・利用システム導入の構想がある。具体的には、搬入原料を目視で、枯葉除去無しの全茎、梢頭部付きの全茎、グリーンハーベスタ収穫茎、焼却有り手刈り全茎などに分類し、トラッシュに関する負担金という形で各収穫茎に係数を設け搬入伝票から差し引くとのことである。これに関連し、各トラックの積載収穫茎を画像解析で分類する、日本の品質取引の要領でトラックごとにトラッシュ率を推定する、ハーベスタに取り付けたカメラによりトラッシュ率を推定するなど、国全体で研究に取り組んでいる。圧搾前の工場でのトラッシュ除去に関しては、日本のように小規模ではないため施設導入に積極的ではないとする声がある中で、日本の除去施設に対する関心も強く、技術提供が期待される。

 現状では収穫前の焼却がトラッシュ除去の有力な手段であるが、環境面を配慮するとバーンハーベストは好ましいとは言えない。火入れだけではなく製糖工場からの排煙、収穫・搬送時の砂埃・排ガスなどの影響で、タイでは首都バンコクを中心にスモッグが社会問題となっている(写真8)。バーンハーベストの是非についてはタイ国内でも議論が盛んになっており、業界は解決策を迫られている。こういった点からも発展途上国ではなく、特に製糖に関しては先進国として扱われることが国際関係の中で求められているのかもしれない。圧搾前に除去された梱包トラッシュの利活用に関して、日本では堆肥化や耕土流出防止用の土留め、牛舎の敷料、露地およびハウスの野菜栽培の敷き草として利用されるなど、用途は多様で、タイでも参考になると思われる。現状の対策として、タイ政府はサトウキビ圃場の火入れを抑制するために、グリーンハーベスタやその他の機械化収穫を奨励しており、ハーベスタや運搬トラック、搬出用機械などの導入に低金利の貸し付けを行っている6)。収穫時に湿潤な沖縄県とは違い、乾季の影響で腐熟の進まないトラッシュの厚い被覆に阻まれて、ロータリやディスクカルチは、収穫後1〜2カ月後まで稼働できないなどの問題がある。そのため、少数ではあるが圃場トラッシュを集積してバイオマスとして利用するためロールベーラや小型ベーラを活用する農家もいる。

 

 

 

 

(2)農機具会社「SKS Farm Implement」

 SKS Farm Implementはカセサート大学カムペーンセーンキャンパス近くに位置する農機具製造会社である。ディスクプラウやディスクハロー、プランタや施肥機などを製造販売しており、販売部長のSrisukajorn氏から詳しく説明をしていただいた(写真9)。彼の父親が社長であるが、実質的には主要な運営は彼に任されている。父親は会社経営の傍ら、サトウキビ栽培や製糖について、タイ国内の法整備に尽力したとのことである。祖父は近隣のサトウキビ農場のオーナーとして活躍し、当初からサトウキビの機械化を推進していたようだ。その農場を引き継ぎ、現在でも約240ヘクタールのサトウキビ圃場を自社で経営している。

 タイ東北部の農家でも見られたパワーハロー(写真10)も店頭販売しており、主な使用法はタイ東北部の農家と同じくサトウキビ植え付け部の部分耕うんを行うとのことである。60馬力以上のトラクタ対応で、作業速度は時速2〜3キロメートルとのことである。また、会社が大学から近いこともあって、Srisukajorn氏はPratuang准教授と心土破砕機の共同開発も行っている。




 ヤードにはディスクプラウ、ディスクハローや全茎式プランタが数多く陳列されており、タイ中央部のサトウキビ栽培で特徴的に製造される2種類のプランタについて説明をしていただいた。豊富な水源を利用して畝間灌漑を施す圃場では、溝を狭く深く掘り、条間を狭く植え付けるため、投入口幅15センチメートル、条間20センチメートルの2条植えプランタが利用される(写真11)。一方で、畝間灌漑を行わない圃場では、植溝が浅く、条間が広く植え付けられる投入口幅30センチメートル、条間40センチメートルの2条植えプランタが利用される(写真12)。プランタはいずれも80〜95馬力のトラクタで牽引される。

 雨期が終わって11〜12月に新植を行う場合、ディスクプラウとディスクハロー(写真13)による1回の耕起・耕うん作業で次の植え付け作業が可能とのことである。乾季の3〜4月に植え付けを行う場合は、緻密に凝固した圃場での植え付け準備となるためディスクプラウとディスクハローで2回の耕起・耕うんが必要で、さらにパワーハローを使うと土壌を細かく仕上げることができるとのことであった。

 

 

 

(3)Korsaengyont Lukkae-Kanchanaburi Company

 カセサート大学から西へ30キロメートルほど進んだカンチャナブリ県ターマカー郡に位置するKorsaengyont社は、琉球大学で博士号を取得し、現在コーンケーン大学で教職に就いているKhwantri准教授の兄であるMontree氏が経営する会社である。今回の視察ではKhwantri准教授の協力もあり、特別に彼の会社を訪問させていただいた。同社では株式会社クボタ(以下「クボタ」という)のディーラーとして主にサトウキビ、水稲、キャッサバの作業機を扱っているが、彼らが独自に開発した自社製品の販売も行っているという。会社概要をスライドで拝見した後、工場、ヤードを見学した。工場では従業員が、溶接機や工作機械を操作して農作業機を製作しているところであった。ハーベスタ以外のさまざまな管理機を製造しており、20〜50馬力程度のトラクタ用の作業機が多く作られている。会社は、日本のクボタの代理店も兼ねており、クボタトラクタがヤードに多く展示されていた。国際会議の会場で見られたリーフカッタ(写真14)1)も製造中で、ここでもグリーンハーベストへの移行が重要課題と考えていると感じられた。牽引型小型施肥機は25馬力程度の小型トラクタに装着して新植や株出し圃場の畝間を走行し、深さ20センチメートル程度で土層を破砕しながら爪のすぐ後方に取付けたホースで施肥を行う(写真15)。施肥機はPTOにより駆動される。牽引型小型中耕除草機は株をまたいでトラクタが走行する(写真16)。10本のスプリングで株間を除草しながら、両側に取り付けられたディスクで中耕し、新植圃場の管理に使われる。作業速度が速く効率的で、除草剤などのように使用回数に制限がなく、除草剤散布の回数や量を減少させて散布時間が低減できるなどのメリットがある。
 

 

 

 

 次に工場の近くにある圃場へと案内され、サトウキビ作業機のデモンストレーションを行っていただいた。作業機の試運転や顧客への演示に利用しているとのことで、作業機保管ヤードも含めて30アール程度の広さである。タイの農機具会社と聞いて、小規模なイメージであったが、製造工場とヤード、保管ヤードそして会社独自で試運転用の圃場まで備えていることに感心させられた。小型ディスクカルチは1列に並ぶ3枚の小型ディスクを2列装着し、畝間を走行して砕土・中耕・施肥を行う牽引型作業機である(写真17)。施肥機はPTOにより駆動される。24馬力のトラクタに装着し、デモンストレーション時は時速約3.6キロメートルで作業を行った。沖縄県では20馬力程度のトラクタを用いて、ロータリで中耕を行うが、速度は時速1.2キロメートル程度なので、小型ディスクカルチはその3倍の作業能率である。小型ブームスプレーヤは200リットルの薬液タンクを装着し24馬力のトラクタで5畝を一度に散布できる(写真18)。沖縄県でも大型ブームスプレーヤは南北大東島の大規模圃場などで利用されているが、小型ブームスプレーヤは本島地域の中規模農家で威力を発揮しそうである。牽引型小型畝間管理機は類似の作業機がすでに沖縄県内でも販売されており、新植圃場で平均培土に利用されている(写真19)。タイの作業機に倣い、施肥機や農薬の粒剤タンクを装着して高培土まで可能な複合作業機への機能向上は容易にできそうである。

 

 

 

(4)大規模農家視察

 最後にカセサート大学の近くで320ヘクタールの圃場を経営する大規模農家Rawut氏の農業機械ヤードと圃場を視察した。タイ製の350馬力のハーベスタを装備し、60%はバーンハーベストで40%はグリーンハーベストとのことである。人力収穫用のケーンローダも所有している。ヤードには25馬力トラクタ用の小型管理機から80馬力トラクタ用の大型機械までさまざまな農作業機が並んでいた。牽引型の小型施肥機(写真20)および2条用施肥機(写真21)は施肥機構がPTO駆動ではなく、接地輪に連動して駆動する。接地輪に連動するので畝端の枕地でPTOレバーのオン・オフの面倒な動作が省ける。また、PTOレバーをオフにすることを忘れ、枕地に肥料を撒いてしまうというようなことがない。ただし、接地輪を装着するので構造上、多少大きくなる。

 タイ中部の農家は東北部とは違った様相である。ダムや貯水池が近くにあって運河が造成され、圃場のすぐそばまで水路が整備されている。簡易なポンプで圃場に水を引き、畝間灌漑が行えるようになっており(写真22)、肥沃な沖積土壌(注)が分布していた(写真23)。サトウキビにとって灌水の効果は大きく、4回目の株出しでも10アール当たり10トンを実現している圃場もあるとのことであった。Rawut氏は若く、トウモロコシ用の施肥機をサトウキビ栽培に応用したり、ハーベスタの伴走トラックを改造したり、さまざまな工夫を凝らして機械化に取り組んでいた。それは南北大東島の若いサトウキビ生産農家と同じ雰囲気であった。

(注)比較的新しい時代に生成された河川の運搬堆積物から成る沖積平野の土壌。

 

 

 

 

2.タイ人研究者の沖縄県訪問

 タイでは政府が2015年に提示した「Thailand 4.0」という長期経済開発計画に基づき、最終年に当たる2036年までに高所得国入りすることを目標としている(図2)。この計画の中で、農業分野では先進的な技術革新により農家の年収をこれまでの7倍(5万6450バーツ〈約19万2000円〉から39万バーツ〈約133万円〉(注))に増加させることが求められており、日本のスマート農業プロジェクトが大いに参考になると考えたようだ。先のタイ訪問で案内役を務めてくださったTJ博士とTitinai氏は「A Study and Development on the Logistics of Agricultural Machinery Production under the Policy of Thailand 4.0(『Thailand 4.0』政策下での農業機械生産ロジスティックスに関する研究開発)」のプロジェクトメンバーとして沖縄県の視察を行うに至った。さらにカセサート大学訪問時に農業機械を見せてくださったPratuang准教授も本視察に参加した。

(注)1バーツ = 3.41円(2020年10月10日時点)

 

(1)南大東スマート農業プロジェクト視察

 筆者らは現在沖縄県南大東島(以下「南大東島」という)において「UFSMA(ウフスマ)・プロジェクト」と呼ばれるスマート農業技術の開発・実証プロジェクトを行っている2)。南大東島は国内の他の生産地域と比べ経営規模が大きいのが特徴であり、1970年代から大型機械の導入を積極的に進めた結果、現在では作業効率の極めて高い機械化一貫体系が確立されている。一方で生産者の高齢化や担い手不足により熟練オペレータが急減するなど島のサトウキビ生産は危機を迎えつつあり、新たな生産システム設立の機運が高まっている。このような背景からウフスマ・プロジェクトでは農業機械の自動操縦技術などを柱として、南大東島におけるスマート農業体系の構築に着手した。

 南大東島到着後、大東糖業株式会社および島内で大規模に生産および作業受託を行っている農業生産法人アグリサポート南大東株式会社(以下「アグリサポート」という)にお邪魔させていただいた。ここではタイ人チームが同国におけるスマート農業の取り組みや課題についてプレゼンテーションを交えて発表した後に、日本人チームに向けてあらかじめ用意していた質問を行うという形式のディスカッションをとった(写真24)。タイ人チームからの主な質問内容としては(1)スマート農業に対する政府の方針(2)大学など研究機関における研究の方向性(3)民間企業におけるスマート農業機器の製造と販売(4)スマート農業における産学官の連携および農家へのスマート農業技術の移転ーである。タイでは農業・協同組合省、工業省、商務省が「Thailand 4.0」政策に関与しているものの、どの省にスマート農業推進の責任があるのかははっきりしておらず、研究開発の資金や施設も足りていないという。そのため、タイでスマート農業を進めていくに当たって産学官がそれぞれどのような役割を果たしており、そしてどのように連携しているのかということを特に知りたがっていた。これに対して、まず農家がスマート農業を受け入れる準備が必要であり、そのためのシステム構築が最優先との意見をアグリサポートからいただいた。また、同国における農業機械の位置付けについて、農家の農業機械に対する購入意欲が低いのであれば農業機械の輸出に焦点を当てるのも一策だというアドバイスもあった。

 ディスカッションの後には、アグリサポートの所有圃場で植え付け作業を見学する機会を得た。この圃場では2台のビレットプランタが同時に動いており、熟練オペレータによる通常の手動操舵植え付けとGPS搭載プランタを使用した自動操舵植え付けの比較試験を行っていた(写真25)。自動操舵システムを利用すれば走行時のハンドル操作を行う必要がなく他の作業に集中できるため、オペレータの作業負担が軽減する。また、経験の浅いオペレータでも精度の高い植え付けができるので、導入するメリットは大きい。実際に畑で動く自動操舵プランタを見てタイ人研究者たちも興奮した様子だったが、システムそのものだけでなく作業速度や植溝の深さにも関心があるようだった(写真26)。

 

 

 

(2)県内関連施設の訪問、イベントへの参加

 沖縄県農業研究センターでは、近年沖縄県の植え付け・栽培面積の減少に対処するため、中型ビレットプランタを導入し栽培や育種の面から研究を行っている。タイでは植え付け機は全茎式のものが多く、ビレットプランタはほとんど見られないので構造機能などを注意深く聞いていた。システム班では、サトウキビ栽培に関する機械化一貫体系の各種作業機の説明を聞いた。心土破砕機を研究するPratuang准教授にとってプラソイラが特に興味のある作業機ということであった。

 ゆがふ製糖株式会社では国内の糖業事情や品質取引システムに関する説明を行った。タイではトラッシュもまとめて圧搾された最初汁の一部を用いて糖度の測定が行われ、日本とはシステムが大きく異なるため、トラックからコアサンプラーを通じてサンプルを採取する風景やトラッシュの選別を行う従業員の姿を新鮮な目で見つめていた。また、品質評価に近赤外線分光装置を導入した経緯を説明し、実際に装置を使用して甘しゃ糖度の測定を行う様子を観察してもらった。迅速かつ簡便に、国内の全分蜜糖工場で同じシステムを用いて品質評価が行えることに強く感銘を受けていた。

 さらに、南城市で開催された南部地区株出し推進大会にも参加し、現地の実演会では実演複合株出し管理機による株(ぞろ)え、中耕培土機による枯葉鋤込みや農薬散粒機を見学してもらった。タイではハーベスタ収穫後の株出し管理において畝間の心土破砕はほとんど実施されないので、ハーフソイラによる実演を興味深く見学していた。牽引型小型施肥機は沖縄県内にある株式会社くみきから販売されている。タイの農業機械を輸入販売しており、現地の会社で見られたものと同じく施肥機構はPTO駆動である。さまざまな面で違いのあるタイと日本の株出し管理であるが、その議論については現在も両者でメールなどを通じて情報交換している。

おわりに

 本稿で紹介したように、幸いにも筆者らの周りにはタイ人研究者の知り合いが多く、同国とのつながりは非常に強い。そのようなコネクションを利用し、タイを訪問した際にさまざまな農業機械関連施設を視察することができた。タイでは、PTO駆動型と比較して燃料費も作業時間も大幅に低減可能な牽引型の小型作業機が広く普及しており、今後日本への導入を検討するにあたり、大変参考になった。反対にタイ人チームが日本を訪ねた際には、日本でのスマート農業の取り組みや、同国ではないがしろにされがちな株出し管理について、心土破砕や培土作業など株出しサトウキビの増収へとつなげられる技術を見学していただいた。このように、日本とタイではサトウキビ生産の規模も様式も大きく異なるものの、互いにとって有益な技術や情報を交換し、良好な友好関係を築くことができた。今後もサトウキビ栽培や機械化技術の情報交流や各国の現地調査を通じてより一層親睦を深めあい、両国のサトウキビ産業の発展へと貢献できるよう願っている。

謝辞

 タイ人研究者たちの訪問を快く受け入れ、懇切丁寧に案内や説明をしてくださった大東糖業株式会社、農業生産法人アグリサポート南大東株式会社、沖縄県農業研究センター、ゆがふ製糖株式会社の皆さまに心よりお礼申し上げます。

参考文献

1)渡邉健太、平良英三、新里良章(2020)「タイから世界へ発信するサトウキビ・製糖産業における技術革新〜第1回国際糖・甘しゃ会議参加報告〜」『砂糖類・でん粉情報』(2020年8月号)独立行政法人農畜産業振興機構
2)南大東スマート農業実証コンソーシアム(2019)「ウフスマ・プロジェクトが始動〜南大東村におけるスマート農業技術の開発・実証に向けて〜」『砂糖類・でん粉情報』(2019年9月号)独立行政法人農畜産業振興機構
3)新里良章、寳川拓生、渡邉健太、小橋川隆一(2019)「タイにおけるサトウキビ栽培機械化の研究最前線と日本の栽培体系の再考」『砂糖類・でん粉情報』(2019年12月号)独立行政法人農畜産業振興機構
4)Choedkiatphon et al.(2016)「Preliminary performance test of trash incorporator using powered disc tiller」『Proceeding of International Society of Sugar Cane Technologists』29:pp.1735–1738.
5)Usaborisut et al.(2016)「Performance and efficiency tests of an auto-trip subsoiler with different shank shapes」『Proceeding of International Society of Sugar Cane Technologists』29:pp.1726–1723.
6)Usaborisut(2018)「Progress in Mechanization of Sugarcane Farms in Thailand」『SugarTech』20(2):pp.116–121.
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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