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世界のでん粉需給動向(2020年度)

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最終更新日:2022年1月11日

世界のでん粉需給動向(2020年度)

2022年1月

調査情報部

【要約】

 2020年の世界のでん粉生産量は、コロナ禍に各国で実施された都市封鎖による巣ごもり需要の増大などの影響で電子商取引が拡大し、配送の際に使用される包装資材や製紙などの原料として工業向けのでん粉需要が増加したことで、前年を3.2%上回った。種類別に見ると、全種類のでん粉が前年の生産量を上回り、特に市場規模が2番目に大きいタピオカでん粉が最も高い増加率を示した。消費量は生産量と同様、増加傾向にあり、2020年は全種類のでん粉で増加し、今後も堅調に推移するものと見込まれる。

はじめに

 本稿では、世界の主要な天然でん粉(コーンスターチ、タピオカでん粉、ばれいしょでん粉、小麦でん粉)および化工でん粉の2020年の生産・消費動向および2022年までの消費見通しについて、農産物の需給などを調査する英国の調査会社LMC Internationalの調査結果を中心に報告する。

〇本稿に関する留意点
 ・でん粉は、需要に応じ生産・供給される状況にあり、世界全体で見るとおおむね生産量≒消費量であることから、本稿においては、在庫については考慮していない。
 ・重量は、すべて製品ベースである。

1.需給概況など

 2020年は、世界的な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生による感染拡大防止のため、各国で都市封鎖など市民の外出を厳しく制限する対策が講じられた。飲食店や宿泊施設などのホスピタリティ産業の多くの施設が休業し、その影響を受けて、食品を中心にでん粉の需要は減少した。一方、電子商取引が拡大したことにより、配送の際に使用される包装資材や製紙などの原料として、工業向けのでん粉需要は大幅に増加した。

 その結果、世界のでん粉生産量は4537万トン(前年比3.2%増)と前年をやや上回った。このうち、コーンスターチが全体の43%強と最も多く、次いで、化工でん粉とタピオカでん粉がともに約21%、小麦でん粉が約7%、ばれいしょでん粉が約4%となっている(図1)。

 また、世界のでん粉消費は、生産された量とほぼ同量が消費されており、4497万トン(同3.0%増)となっている。

 生産量の増減の推移を見ると、でん粉全体では、2002年の調査以降、一貫して増加傾向にある。種類別に見ると、2020年は全種類のでん粉で前年を上回り、特にコーンスターチに次いで市場規模が大きいタピオカでん粉は、前年比6.3%増と最も高い増加率を示した(表1)。

 でん粉は、需要に応じ生産・供給される状況にあることから、その価格は需給バランスよりも原料価格の変動による影響を大きく受ける傾向にある。2020年の各種でん粉の輸出単価(世界平均:米ドル換算)を見ると、化工でん粉のみ前年をわずかに上回った(前年比0.4%高)。しかし、その他の種類では前年を下回り、中でもばれいしょでん粉は、主産地である欧州での都市封鎖などにより外食向け需要が減少したことで同6.4%安、タピオカでん粉は、安定した原料供給を背景に同5.3%安となった(図2)。

  

 

 

2.天然でん粉および化工でん粉の動向

(1)コーンスターチ

 コーンスターチの生産は、アジアが生産量全体の7割強を占め、次いで北米と欧州がそれぞれ1割強となっている(表2)。2020年の地域別生産量を見ると、欧州以外の地域で前年を上回った。

 世界最大のコーンスターチ生産・消費国である中国では、生産量が堅調に推移しており、2020年は世界の生産量の5割を超える約1070万トン(前年比1.9%増)に達した。しかし、COVID-19の影響により国内、輸出需要ともに減少したことで、増加率は例年と比べ鈍化した。

 また、同国では2019年第4四半期以降、トウモロコシ価格が大幅に上昇している。これは、アフリカ豚熱からの回復により豚飼養頭数が増加する中で、飼料に仕向けられる国内のトウモロコシ在庫量が不足していることが要因とされている。2021年12月9日の米国農務省世界農業観測ボード(USDA/WAOB)の発表によると、2020/21年度(10月から翌9月)の中国のトウモロコシ輸入量は2951万トン(前年比3.9倍)と推計されており、翌年度も引き続き高水準での推移が見込まれている。

 消費量は生産と同様、アジアが主要消費地域であり、2020年は欧州と中米・カリブ海を除く全ての地域で前年を上回った。2021年以降は、外食や旅行など経済活動が徐々に再開されることにより消費も回復することが予想され、全ての地域で前年を上回る見込みである。

 中国に次ぐ消費国である米国では、コロナ禍でも電子商取引が拡大したことにより、配送の際に使用される包装資材や製紙などの原料として、工業向けのコーンスターチ需要は安定して推移した。一方、EUでは、コーンスターチは、EUが主産地となる小麦でん粉と比べ高価であり、アレルギー物質を含まないことから主に薬品や離乳食など高付加価値商品に用いられている。2020年は当該分野での工場が新設されるなど、需要は堅調であった。

 

(2)タピオカでん粉

 タピオカでん粉の生産は、アジアが生産量全体の9割弱を占めている(表3)。2020年の地域別生産量を見ると、欧州、北米および大洋州では生産されていないものの、その他の全ての生産地域で前年を上回った。

 世界最大のタピオカでん粉の生産・輸出国であるタイでは、2019/20年度(10月〜翌9月)、原料作物であるキャッサバの生産量は干ばつやキャッサバモザイク病(注1)の被害により減少した(写真)。翌年度は、キャッサバ製品の最大の輸出先である中国国内のトウモロコシ価格上昇から、コーンスターチの代替としてタピオカでん粉、また、エタノール生産の代替原料としてタピオカチップの引き合いがそれぞれ強まり、輸出は堅調に推移した。

 消費量は生産と同様、アジアが消費量全体の9割弱を占めている。同年の消費量は、主要消費地域であるアジアを中心に増加した。2021年以降は、経済活動の再開により徐々に回復し、全ての地域で前年を上回る見込みである。

(注1)ウイルスの感染によって葉に黄化斑ができる病気で、光合成が十分に行われず、最悪の場合には作物自体が枯れてしまうことから、収穫量が大幅に減少する。タイのほかに、近隣国のタイやカンボジアでも流行が確認されている。

 


コラム1 でん粉を使用した世界の伝統料理


 2020年はCOVID-19の発生により、全世界で混乱やさまざまな制約が生じた。現在も変異株の出現などにより、依然として困難な状況は続いているものの、今回は、海外渡航が可能となった際に、また、国内の飲食店やご家庭でも身近に楽しんでいただくため、でん粉を使用した3カ国の伝統的な料理をご紹介したい。

 まずは、タピオカでん粉を主原料とする、インドネシアの揚げせんべい「クルプック」である(コラム1-写真1)。定番はエビ風味のもので、国内の飲食店でも比較的目にする機会が多く、日本人にも馴染み深い味となっている。作り方は、タピオカでん粉に、すり潰したエビや調味料、水などを加えて混ぜ合わせ、薄く形を整え乾燥させる。その後、油で揚げると大きく膨らみ、サクサクのせんべいになる。

 クルプックは、ナシゴレン(焼き飯)やサテ(串焼き)など料理の付け合わせとして提供されることが多い。また、現地の商店では、袋詰めにされた乾燥クルプックが家庭用に販売されている光景もよく見られ、安価であることから、日常食として広く国民に親しまれている。

 続いて、中東欧・ロシアの家庭で作られるデザート「キッセル」を紹介する(コラム1-写真2)。原料は、ベリー(中東欧ではイチゴ、ブルーベリー、ラズベリーなど、ロシアではクランベリー、サクランボ、レッドカラントなどが人気)、砂糖、水、でん粉(ばれいしょでん粉)であり、加えるでん粉の分量を調整することで、パンケーキのソースや日本のくず湯のようなとろみのある飲料、ゼリーなどになる。温製でも冷製でもおいしく、汎用性が高い。家庭のおやつとして長年親しまれており、現在では、お湯を加えるだけで簡単に調理が可能な粉末タイプのものも販売されている。

 最後は、幻の中華スイーツ「三不粘(サンプーチャン)」である(コラム1-写真3)。三不粘は、皿、箸、歯の3カ所にくっつかないとされる、もちもちとした弾力性の高いスイーツで、清朝時代に宮廷料理として出されたのが始まりとされている。原料はでん粉(タピオカでん粉やばれいしょでん粉)、水、砂糖、卵黄、油と非常にシンプルである。作り方は、水に溶いたでん粉を砂糖、卵黄と混ぜ合わせ、火にかけた鍋に流し入れた後、油をかけながら7〜10分間お玉でひたすらたたき続ける。一見すると、原料も作り方もシンプルに見えるものの、実は火加減などが大変難しく、現地でも三不粘を調理できる料理人はごく限られることから、「幻のスイーツ」として取り扱われている。でん粉や砂糖、卵黄など、身近で安価な材料となっているので、ぜひおうち時間に挑戦していただきたい一品である。

(3)小麦でん粉

 小麦でん粉の生産は、欧州が生産量全体の4割強を占め、次いでアジアが3割強、北米が2割弱となっている(表4)。2020年の地域別生産量を見ると、欧州およびアジアで増加したものの、その他の地域は減少した。

 消費量を見ても、欧州とアジアが主要消費地域であり、2020年は消費量が比較的少ないアフリカ、中米・カリブ海、北米、南米を除いた地域で前年を上回った。2021年以降は経済活動の再開により徐々に回復し、全ての地域で前年を上回ると見込まれる。

 小麦でん粉はコーンスターチと同様、配送の際に使用される包装資材や印刷用紙など製紙の原料として、工業向けで主に使用されている。2020年は、COVID-19の拡大により多くのオフィスや学校が閉鎖した影響で、印刷用紙の需要は大きく減少したものの、電子商取引の拡大により段ボールなどの包装需要は大きく増加した。

 また、植物性たんぱく質の需要の高まりにより、副産物として生産されるグルテンがさまざまな用途に利用できることから収益性が良いとされている(注2)。この流れを受けて、欧州ではでん粉原料をトウモロコシから小麦に切り替えたり、小麦でん粉製造工場の新設への投資が行われたりするなど、近年、小麦でん粉は増産傾向にある(注3)

(注2)小麦グルテンは、ボリュームが出にくい米粉パンに入れて膨らみを助けるなど、食品のほかペットフードや水産養殖用飼料などさまざまな用途に利用されている。
(注3)2013年以降、増加基調が持続し、2020年は2013年比で57.3%の増産となった。

 

(4)ばれいしょでん粉

 ばれいしょでん粉の生産は、欧州が生産量全体の7割弱を占め、次ぐアジアが3割強となっている(表5)。2020年の地域別生産量を見ると、北米のみ前年を下回り、その他の生産地域で前年を上回った。

 主産地である欧州では、2019年末に収穫されたばれいしょが豊作であったものの、COVID-19の影響で主に外食向けのでん粉需要が減少したことで、ばれいしょでん粉市場は飽和状態となった。

 一方、消費量を見ると、アジアが最大の消費地域で全体の5割弱を占め、その他、欧州、北米が主要消費地域となっている。2020年は、アジアなどの主要消費地域を中心に前年を上回った。2021年以降は経済活動の再開により徐々に回復し、全ての地域で前年を上回ると見込まれる。

 近年は消費者の健康志向や安全性などへの高い関心を背景に、小麦でん粉と同様に、植物性たんぱく質の需要が高まり、副産物であるばれいしょたんぱく質の抽出技術の開発や投資が積極的に行われている。この動きはコロナ禍で一時的には減速したものの、今後、薬品や離乳食など高付加価値商品への活用と成長が期待されている。

 


コラム2 世界のバイオプラスチック生産動向


 2015年9月、国連サミットにおいて「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、2030年を年限とする「持続可能な開発目標(SDGs)」が定められた。本コラムでは、SDGsへの取り組みの一つとして、欧州をはじめ世界各国で関心が寄せられているバイオプラスチック(コラム2-写真、図1)について、近年の生産動向を紹介する。

 欧州のバイオプラスチック業界団体であるEuropean Bioplasticsによると、バイオプラスチックは「バイオベース(注1)もしくは生分解性(注2)またはその両方の特性を有するプラスチック」と定義されており、コラム2-表のとおり分類されている。

(注1)バイオベースとは、素材や製品(の一部)がバイオマス(再生可能な、生物由来の有機資源で化石資源を除いたもの)から製造されていることを指す。バイオプラスチックに使用されるバイオマスは、主にトウモロコシやサトウキビなどである。
(注2)生分解性とは、物質が微生物により、水、二酸化炭素、堆肥などの自然物質に分解される過程である。

 




 バイオベースのものは従来のプラスチック原料である石油の使用削減、生分解性を有するものは使用後の廃棄物削減により、環境負荷の低減へ寄与するものとして注目されている。2020年の世界のバイオプラスチック製造能力は211万トン(前年比8.1%増、内訳は生分解性が58%、非生分解性が42%)であり、2025年に287万トン(内訳は同63%、同37%)まで増加すると予測されている(コラム2-図2)。また、2020年のバイオプラスチックの原料を見ると、ビニール袋など一般消費者向け商品に主に用いられているでん粉と、包装容器などに用いられているPLA(ポリ乳酸)がともに約19%と最大の割合を占め、次いで農業用マルチフィルムなどに用いられているPBAT(ポリブチレンアジペートテレフタレート)が約14%であった(コラム2-図3)。PLAやPBATは近年、その割合が増加している原料である。
 



 バイオプラスチックは、環境問題への効果的な対策として注目を集める一方、生分解性を有するものについては、管理された特定の条件下で使用した場合にのみ有効であるため、(1)堆肥化にかかる時間が長く、土壌や海洋に残留物が流出する恐れがある(2)良好な堆肥として取り扱うには、分別収集が必須である(3)効率的に堆肥化するには、適切な施設と温度管理が必要である―などといった課題も指摘されている。
 

(5)化工でん粉

 化工でん粉の生産は、アジアが生産量全体の5割弱を占め、次いで欧州と北米がそれぞれ2割強となっている(表6)。2020年の地域別生産量を見ると、アジア、北米および南米で増加したものの、その他の地域は減少した。

 消費量を見ると、生産と同様、アジア、北米、欧州が主要消費地域であり、2020年は中米・カリブ海および欧州を除いた全ての地域で前年を上回った。2021年以降は経済活動の再開により徐々に回復し、全ての地域で前年を上回ると予測されている。

 化工でん粉は、全てのでん粉の中で、コーンスターチとタピオカでん粉に次いで大きな市場である。欧米では、政府によって安全性が確認されているものであっても、化学的な添加物を避けようとする消費者が増加する傾向にあり、食品製造企業はクリーンラベル(化学的な添加物を含まず、消費者に分かりやすく食品成分を表示すること)への対応が求められている(注4)。このような状況下で、特に化工でん粉の中でも化学変性を加えず、加熱などの物理的な変性を加えたものは、機能性を持ちつつも自然な食品原料とみなされることから、近年、需要が高まる傾向にある。

(注4)化工でん粉は食品添加物の一つであり、日本では、食品の原材料表示欄において、食品が記された後に、食品添加物の境を示す「/」の後に表記されている。


コラム3 でん粉由来の糖化製品の動向


 でん粉由来の糖化製品の中で最も生産量が多いのはブドウ糖であり、アジアが生産量全体の5割弱を占め、次いで北米が3割、欧州が2割弱となっている(コラム3-表)。2020年の地域別生産量を見ると、アフリカ、南米、欧州以外の生産地域で増加した。

 消費量を見ると、生産と同様、アジア、北米、欧州が主要消費地域であり、2020年は中米・カリブ海、欧州を除いた全ての地域で前年を上回った。2021年以降は経済活動の再開により徐々に回復し、全ての地域で前年を上回ると予測されている。

 ブドウ糖は中国および米国を二大市場としており、米国では主にアルコール飲料の発酵に用いられ、過去10年間で消費量は増加傾向にある。しかし、2020年、欧米では都市封鎖などの影響で外食などでの菓子消費量が減少し、それに伴いブドウ糖消費量は食品向けで減少した。
 

 ブドウ糖に次いで生産量が多いのは異性化糖であり、米国、中国およびメキシコを主要消費国としている。米国では、炭酸飲料の需要の減少に伴い、過去10年間で異性化糖の消費量は減少しており、また、米国を主要輸出国とするメキシコも消費量は減少傾向にある。2020年は、都市封鎖などの影響を受けて両国での消費量はさらに減少したと見られている。一方、炭酸飲料の消費量が増加傾向にある中国では、異性化糖の需要は増加した。

 続く果糖は、北米が生産量全体の5割を占め、次いでアジアと欧州がそれぞれ2割となっている。主要消費地域は生産と同様、北米、アジア、欧州であり、飲料向けで広く用いられているものの、2020年は都市封鎖などの影響を受けて需要は減少した。
 

おわりに

 世界のでん粉消費量は、ウィズコロナとして人々の生活様式の変化を経て、外食や旅行など経済活動の再開により、全ての地域で徐々に回復すると見込まれる。また、今後の世界人口や所得の増加などを考慮すると、2020年以降、毎年約3%の割合で増加し、2025年には5142万トン(2020年比14%増)と、5000万トンの大台に達すると予測される(図3)。種類別では、特にグルテン需要の高まりによって、価格が安定している小麦でん粉が20%増加するほか、タピオカでん粉が18%と、それぞれ平均増加率を上回る増加が見込まれる。また、化工でん粉は、経済情勢の影響を受けやすい傾向にあるため正確な見通しを立てづらいものの、17%と平均増加率を上回る増加が見込まれ、2021年以降の消費量は堅調に推移すると見込まれる。

 COVID-19については、変異株の出現などにより状況が不透明であり、世界各国においてさまざまな対策が執られるなど、その動静を見据える必要はあるものの、長期的にはでん粉の需要は増加傾向にあると見られる。

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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