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加工でん粉の基礎知識

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最終更新日:2022年3月10日

2022年3月

松谷化学工業株式会社 研究所 副所長 岡崎 智一

はじめに

 1万数千年前に農耕を始めた人類は、小麦、米、トウモロコシ、芋類などの炭水化物であるでん粉からカロリーの多くを得てきた。でん粉は植物が光合成により生成したグルコースが重合したものであり、光エネルギーを変換したものと捉えることもできる。産業的に広く流通しているでん粉には、コーンスターチ、ばれいしょでん粉、タピオカでん粉などがある。でん粉は結晶構造を持っているが、水分の存在下で熱を加えると結晶構造が崩壊し、糊化こかするため粘稠ねんちゅう性を持つ。でん粉が糊化することをアルファ化ともいい、消化吸収がよくなり、人類は調理によりでん粉をアルファ化して食し効率的にエネルギーに変えてきた。  

 しかし、アルファ化(調理)した天然のでん粉は、図1のように時間とともに透明なのり液が白く濁り硬くなり、ぼそぼそとした食感になる老化という現象が生じたり、過加熱や酸により粘性が低下したりする欠点も伴う。これらを補うために、天然のでん粉を物理的もしくは化学的処理で加工したものが加工でん粉であり、欠点の克服だけでなく、食感の改良にも利用でき、広く食品に使用されている。本稿では主だった加工でん粉について加工方法や特徴、使用方法について解説していく。なお説明に用いた図は、理解を促すため、特徴が顕著に現れるばれいしょでん粉(ゲル・ゾル)とタピオカでん粉(粘度曲線)を用いた。
 図1

1.加工でん粉の種類

 加工でん粉には①化学的に処理したもの②熱や圧力を加え物理処理したもの③酸や酵素で分解したもの、またそれらを組み合わせたもの―がある(図2)。未加工でん粉と②の物理処理でん粉、③の酸・酵素による分解物は食品として流通しているが、①のうち表1に示す12種類の化学処理した加工でん粉は、日本食品衛生法で添加物に指定されており、製造方法や規格が定められている。食品に用いる場合の使用基準はなく、食品表示は物質名の他、簡略名である「加工でん粉」「加工デンプン」などと表示できる。

表1

2.でん粉誘導体

 でん粉はグルコースがα1-4結合で直鎖に重合したアミロースとα1-6結合で枝分かれ状に重合したアミロペクチンから構成された高分子物質で、図3のようにグルコース残基当たり3個の水酸基を持つ。その水酸基に官能基を導入した加工でん粉がでん粉誘導体である。でん粉誘導体は、上述した①の化学処理を行ったものに分類される。その代表的なものを以下に紹介する。
 図3

(1)酢酸デンプン・ヒドロキシプロピルデンプン

 図4のように無水酢酸もしくは酢酸ビニルを用いて酢酸基をエステル結合で導入したものが、酢酸デンプン(アセチル化でん粉)、図5のようにプロピレンオキサイドを作用させ、ヒドロキシプロピル基をエーテル結合で導入したものが、ヒドロキシプロピルデンプンである。
 




 一般に官能基の付加の程度を表すのに、グルコース残基あたりの置換基の数Degree of Substitutionの略「DS」を用いる。従って、すべての水酸基が置換されれば、DSは3となり、10個のグルコースに1個の官能基が導入されれば、DSは0.1となる。

 酢酸デンプンおよびヒドロキシプロピルデンプンはDSが高くなるにしたがい、糊化開始温度が低下し、糊液は透明で老化安定性に優れる。これはでん粉粒子の結晶構造が弱くなり、酢酸基やヒドロキシプロピル基により親水性が増すとともに、老化時のでん粉分子の再配列に立体障害が生じるためと考えられている1)。官能基の分子量が大きく、より立体障害が生じやすく、また高DSの設計が可能なため、ヒドロキシプロピルデンプンの方が、酢酸デンプンより老化安定性に優れている。

 図6は濃度6%のタピオカでん粉懸濁(けんだく)液をアミログラフで測定した粘度曲線である。アミログラフはでん粉懸濁液を通常1分当たり1.5度の一定の速度で加熱、冷却し、温度と粘度の関係を記録する測定器である。DSが高くなるほど、糊化温度が低くなり粘度も高くなることが示されている。

 また、図7は、ばれいしょでん粉の未加工でん粉とヒドロキシプロピルデンプンの冷解凍した25%濃度ゲルを比較したものである。未加工のゲルは老化が激しく白濁してぼそぼそとした状態であるのに対し、ヒドロキシプロピルデンプンは透明で軟らかくみずみずしさを保っている。

 主な用途は、でん粉の老化安定性が求められる冷凍うどん、冷凍かまぼこ、冷凍の和菓子類などがある。特に自然解凍で喫食する場合は、老化しやすい0度付近の温度領域をゆっくりと通過するため、高DSのヒドロキシプロピルデンプンが求められる。

 また、タピオカのヒドロキシプロピルデンプンをベーカリー食品に用いると、もちもちとした食感の生地を得ることができる。
 


(2)リン酸架橋かきょうデンプン

 リン酸架橋デンプンは、前述の水酸基間にトリメタリン酸ナトリウムもしくはオキシ塩化リンを作用させ、ジエステル型の架橋構造を持つ(図8)。架橋構造によりでん粉粒の膨潤ぼうじゅんが抑制され、耐熱、耐酸、耐シェアー性(機械的せん断性)が付与される。架橋度を上げるに従いでん粉粒の膨潤度は抑制され、粘度が低くなっていき、曳糸えいし性の少ない糊液になる。さらに、架橋を強くすると、やがて通常調理では糊化しないでん粉ができる2)。この加工でん粉は、レジスタントスターチと呼ばれており、消化されにくく、食物繊維源として利用できる。
 図8
 図9はタピオカでん粉をリン酸架橋した時のアミログラフである。未加工のタピオカでん粉は加熱温度が高くなると、粘度が低下(ブレイクダウン)するのに対し、弱架橋のでん粉はブレイクダウンを起こさず耐熱性が示されている。また、強架橋のでん粉は、16%濃度で測定しているにもかかわらず、粘度が発現しておらず、糊化が抑えられている。  

 架橋でん粉は、製造時に耐熱性が要求されるたれ、ソース、スープの粘度付けに使用されている。中でも、pHが低い場合や、常圧加熱より高温高圧で処理されるレトルト殺菌を施す場合には、より強い架橋度のものが必要とされている。その他、弱架橋でん粉は、硬く締まった食感にするために麺や水産練り製品に用いられ、一方で強架橋でん粉は、サクサクとした食感にするためにフライの衣やクッキーに使用されている。    

 また、前項の加工と組み合わせたヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、架橋剤を変えたアセチル化アジピン酸架橋デンプンは、耐熱、耐酸、耐シェアー性および耐老化性両方の機能を備えた優れた加工でん粉である。両方の機能が要求されるレトルト食品、冷凍食品、チルド食品などに使用される他、麺、パン、和菓子、デザートに至るまで多様な食品の食感改良としても利用でき、その用途は幅広い。
図9

(3)オクテニルコハク酸デンプンナトリウム

 オクテニルコハク酸をエステル結合で付加・導入したオクテニルコハク酸デンプンナトリウムは、疎水基と親水基を持ち乳化機能を持つ。さらに加水分解により低分子化、低粘度化したものなどがあり、用途は、粉末飲料や菓子類に使われる油脂系香料の乳化、ドレッシングやマヨネーズの乳化、カレーやシチューの油脂のドリップ防止などがある。なお、乳化用途の場合は、一括表示の「乳化剤」を用いることもできる。

3.酸化デンプン

 酸化デンプンは酸化剤(日本食品衛生法では次亜塩素酸ナトリウム)を用いて酸化した加工でん粉であり、分子内にカルボキシ基を生成するとともに分子の解重合が起こっていると推察されている。その特性を図10に列記する3)。  

 主な用途は、潮解ちょうかい性の強い食品(みそやしょう油など)の粉末化基剤、米菓のつや出し、麺類の打粉などがある。天ぷらの衣、餃子の羽、パイ生地に配合すると、パリッとしたクリスピー感を強めることができる。また、中がとろりとしたたこ焼きやシューマイの肉汁感付与など、食感の改良にも効果的である。
図10

4.その他

 食品として流通している加工でん粉には、酸で分解した酸処理でん粉、糊化しない程度の水分下で加熱(100〜120度)処理し、耐熱性を持たせた湿熱処理でん粉の他、アルカリ処理でん粉、酵素処理でん粉などがあるが、最後にアルファ化でん粉について少し説明を加える。

 アルファ化でん粉は、でん粉を水と加熱し、糊化後、急速に乾燥・粉末化したものである。冷水で糊液が再現でき、粘性、保水性、粘着性、保型性などの物性を加熱することなく得られる。生産には、ドラムドライヤー、スプレードライヤー、エクストルダーなどが使用されている。冷水で容易に糊液が得られ、保水性にも優れることから、インスタントスープの増粘剤、総菜食品の結着剤・保形剤、バッター液の増粘剤、ベーカリーやケーキ類の食感改良剤などの目的で使用されている。また用途に応じて、生でん粉だけでなく、加工でん粉や穀粉をアルファ化して使用することも多い。

おわりに

 産業界には、ばれいしょ、かんしょ、タピオカ、トウモロコシ、小麦、米、サゴ、えんどう豆など多品種のでん粉が流通している。それぞれを原料に、加工方法とその加工度を変え、さらに化学処理と物理処理を組み合わせると、無数に加工でん粉を作ることができる。また、添加物指定されている加工でん粉も、長い食経験があり安全性に関しても十分担保されているため4、広く加工食品に使用されている。加工でん粉はさまざまな食感を作れることから、食に楽しみを与えたり、レジスタントスターチのように健康を意識した食品を作ることができる素材として今後も期待されている。紙面の関係上一部のご紹介に留まったが、少しでも加工でん粉に対する理解を深めていただければ幸いである。

参考文献
1)不破英次、小巻利章、檜作進、貝沼圭二(2010)『澱粉科学の事典』朝倉書店 396pp
2)高橋禮治、高橋幸資編(2016)『でん粉製品の知識』幸書房 pp141-142.
3)高橋禮治、高橋幸資編(2016)『でん粉製品の知識』幸書房 pp127-128.
4)食品安全委員会(2007年11月)「添加物評価書(加工デンプン)」
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