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サツマイモに関わる人と情報の交流プラットフォームづくり

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最終更新日:2022年10月11日

サツマイモに関わる人と情報の交流プラットフォームづくり

2022年10月

日本いも類研究会 事務局長補佐 橋本 亜友樹

1 日本いも類研究会について

 日本いも類研究会は、1993年の関税貿易一般協定(ガット・ウルグアイ・ラウンド)合意対応の国内対策などを推進する過程で、サツマイモ(かんしょ)などのいも類に関心のある消費者、実需者、生産者、研究者などが連携して意見交換できるネットワークを構築すべく、農林水産省(畑作振興課いも類班)が事務局となって設立した。その契機の一つは新品種の普及で、実需者と消費者の双方へのPRと評価、新品種種苗の迅速な提供が不可欠であることから、いも類の育種研究機関の実務担当者を幹事とする体制でスタートした。

 現在は、一般財団法人いも類振興会の中に事務局を置き、いも類の発展に貢献しようとする者の連携を図り、情報交流を増進することで、いも類の生産、流通、加工、消費の振興を図ることを目的として活動している。

 主な活動内容としては、ホームページ(JRTWeb〈https://jrt.gr.jp〉)による情報発信、サツマイモ産業振興セミナーの運営(写真1)、新品種などによるポテトチップス試食アンケート(写真2)、いも類に関する講演会の開催、会員間の情報交換を目的としたメーリングリストの運営を行っている。
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2 サツマイモを取り巻く状況

 国内では、第4次焼きいもブーム(注)を発端として、焼きいも以外にも干しいもやサツマイモを使ったスイーツ・菓子が次々と販売され、栽培や加工に新たに取り組む地域や企業が増加している。また、サツマイモの輸出は香港、シンガポール、タイ向けを中心に、2012年以降順調に成長を続けており、2021年の輸出額(量)は23億3000万円(5603トン)となっている。サツマイモの育種技術は日本が世界の中でもトップレベルといわれており、消費者ニーズの多様化や栽培上の課題(病害虫抵抗性や生産地拡大など)に合わせて、毎年新しい品種が育成・発表されている。

 その一方で、国内生産量は減少し続けており、消費の面では生食用の減少が大きい。生産現場では高齢化・人材不足などもあり簡単に増産することは難しく、今後生産者の大規模化・企業化も進むと思われる。気候変動による収量や品質のばらつき、病害虫の発生も悪影響を与えている。諸外国と比べると国内研究者は減少傾向にあるといわれており、研究開発の弱体化や技術力の低下が今後問題となる可能性が高い。

 このように良い面と悪い面が混在し、大きな変化が起きている状況下では、サツマイモに長年関わっている関係者でも、サツマイモ業界全体の実態が把握できないという声を聞く。

(注)2000年初頭より現在まで続いている。詳細は『野菜情報』2022年10月号「最近の焼きいもの動向」(https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/wadai/2210_wadai1.html)を参照されたい。

3 サツマイモに関わる人と情報の交流プラットフォームづくり

 筆者は以前より、サツマイモ栽培や加工に関する専門家・研究者の情報がまとまっていない、産地間の交流が少なく有用な情報の共有化が難しい、研究結果が現場で十分に生かせていないことが課題だと感じていた。また、今後のサツマイモ産業の振興や海外戦略にはオールジャパンでの取り組みが必要だと考えていた。

 そのため、前述のような状況を踏まえながら、サツマイモに関わる人と情報の交流プラットフォームづくりに2019年から取り組むことにした(図)
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 具体的には、サツマイモのバリューチェーン全体に対し、「サツマイモ情報センター」と「さつまいもアンバサダー協会」という二つの機関を設立し、ネットワークを構築してサポートするプラットフォームとすること、また、情報の発信や共有だけではなく人のつながりを横にも縦にも広げることを目指している。

(1)サツマイモ情報センター

 2020年以降、サツマイモ基腐病の発生が全国に拡大する傾向が見られ、さまざまな分野の関係者を交え、現場レベルでの取り組み状況や今後の対応について全国規模で情報交換を行う必要性があったことから、日本いも類研究会および一般財団法人いも類振興会、日本かんしょ輸出促進協議会の共催でサツマイモ基腐病に関する情報交換会を2021年8月30日に開催した。オンライン会議を活用し、全国から約160カ所よりおよそ300人と多数の参加申し込みがあり、非常に有意義な会となった。

 サツマイモ基腐病に関する情報交換会で実施したアンケートでは、サツマイモへの幅広い関心事項が示された(表)。また、情報交換について、今後も継続した取り組みや、地域や組織を超えたネットワーク構築を求める声があがっていた。そのため、サツマイモ基腐病に関する情報交換会の定期的な開催と、それを手始めとしたサツマイモ情報の発信、関係機関の連携を主目的としたサツマイモ情報センターの設立に向けた運営方針などの検討を開始し、2022年4月から日本いも類研究会内でサツマイモに特化・深化させる取り組みとして活動を開始したところである。
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 具体的な活動として、日本いも類研究会のホームページで発信してきた内容を強化する形で、研究会に所属する研究者/専門家のリスト、栽培技術/病害虫対策情報、国内サツマイモ活動一覧などを取りまとめて、新たに作成したセンターのホームページに加えていく予定である。また、会員内での勉強会やサツマイモ基腐病以外にも、サツマイモの栽培機械化や貯蔵技術などをテーマとしたセミナーの開催、国内のサツマイモに関する産地・業種横断的な場として「さつまいもシンポジウム」の開催を計画している。

(2)さつまいもアンバサダー協会

 サツマイモに関する正しい情報の発信、サツマイモの新しい価値創出を目指す企業・組織との共創活動、サツマイモの魅力を伝えるアンバサダー育成を通じて、サツマイモ産業の持続的な発展に貢献することを目的とし、2019年8月に筆者が代表理事となり、一般社団法人として設立した。協会では「さつまいもを好きからもっと知りたいへ」を重要なテーマの一つとしている。現在は、[1]メディア事業[2]コミュニティ事業[3]コラボレーション事業[4]アンバサダー認定事業[5]物販事業−の五つの事業を軸に活動を行っている。

 [1]メディア事業は、ホームページやSNS、Youtubeを活用して主に消費者向けの情報発信を行うとともに、テレビやラジオ、雑誌などのメディアの依頼に応じてサツマイモに関する情報の発信や監修を行っている(写真3)。[2]コミュニティ事業は、コロナ禍の影響もあり、オンラインで交流を目的としたイベントを企画・主催している。[3]コラボレーション事業は、サツマイモに関するイベント・商品などの企画や監修、プロモーション支援を行っている。[4]アンバサダー認定事業は、サツマイモに関する基礎知識を身につけ、その魅力や可能性を社会に広めることができるスペシャリストとして「さつまいもアンバサダー」を認定・育成することを目的としている。[5]物販事業は、川越に「さつまいも名品コーナー」を設置し、サツマイモグッズやサツマイモ加工食品を販売している。また、通販サイトでも珍しいサツマイモの販売を行っている。会員企業を中心に取り扱い商品の拡充やテスト販売につなげていきたいと考えている(写真4)
 
                 
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4 サツマイモの魅力と可能性

 サツマイモには数多くの品種が存在し、年々新しい品種が増えている。数十年に一度、全国規模で普及する定番品種が出てくる一方で、品種登録されたものの人知れず消えていく品種もたくさんある。その中でも特徴的な品種は、全国規模にならなくても、一部の地域で長く栽培され続けるケースもある。

 サツマイモは、生食用や加工食品用に加えて、でん粉やアルコール(焼酎)の原料として利用されている。ほんのわずかではあるが飼料用にも利用されている。加工食品も総菜、焼きいも、干しいも、大学いも、スイーツ・菓子など多岐にわたる。

 品種の多様性は他の作物にも当てはまるが、食べ方や利用法にも多様性があるのが、サツマイモの魅力である。そして、品種の多様性と食べ方の多様性の掛け合わせがサツマイモの可能性と考えている。

 一つ筆者自身が体験したことを事例としてあげてみたい。筆者は鹿児島県鹿屋市で行われた令和2年度スマート農業実証プロジェクトで、主にでん粉用サツマイモ栽培に対するスマート農業一貫体系の導入検証に関わっていた。その中で「シロユタカ」「こないしん」というでん粉用品種を実際に収穫する機会があり(写真5)、収穫直後に食べてみた時はまったく甘みがなくお世辞にもおいしいとは言えなかった。しかし、サツマイモは貯蔵することで甘みが増すとされているので、試しにしばらく事務所においておいた。数カ月後に食べてみると甘みが増しており、特に油で揚げると食感も含めて非常においしかったのである。また別の機会に、同じくでん粉用品種の「こなみずき」をふかしいもで食べたことがあるが、独特の食感と甘みで非常においしかった。「○○向け」とされている品種でも、貯蔵や調理法によって利用法や商品化の方向性が広がるのではないか、サツマイモはさまざまな可能性を秘めていると確信するきっかけとなった。
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 このような、サツマイモの品種と食べ方や利用法の掛け合わせは、事業者だけではなく、消費者に対して直接PRできる機会を作っていったほうが良いと考えている。前述の二つの機関で連携をはかりながら、そのような機会や場を作っていきたい。

5 さいごに

 サツマイモ情報センター、さつまいもアンバサダー協会という二つの機関を設立して、サツマイモのバリューチェーン全体をサポートするプラットフォームの構築を進めている。昨今、物理的な距離に関係なく全国規模での交流が簡単にできるようになった。横の広がりだけではなく、その関係性を強化し、縦に深くつながる仕組みを築いていきたい。

 焼きいもブームの影響もあり、サツマイモがメディアで取り上げられることが増え、関わる事業者(生産/加工/販売)も増えている。そのような状況下で、正確性に欠ける情報が散乱しているように感じる。そのような情報を検証し、まとめて、正しく発信することを行っていきたい。

 サツマイモの魅力と可能性は、まだまだ十分に消費者には届いていないし、関係者が気付いていないところも多いと感じている。このプラットフォームの中で、横の連携を生かしながら、新しいことに取り組んでいきたい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272