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〜三和ベルディ株式会社のバイオ苗の生産と導入生産者の事例〜

鹿児島県におけるサツマイモ基腐病の「持ち込まない」対策
〜三和ベルディ株式会社のバイオ苗の生産と導入生産者の事例〜

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最終更新日:2023年2月10日

鹿児島県におけるサツマイモ基腐病の「持ち込まない」対策
〜三和ベルディ株式会社のバイオ苗の生産と導入生産者の事例〜

2023年2月

鹿児島事務所 山北 淳一

【要約】

 鹿児島県では、平成30年以降、サツマイモ基腐病(もとぐされびょう)の影響を受けているが、県では「鹿児島県サツマイモ基腐病対策アクションプログラム」を策定するなど、基腐病対策を推進しており、近年、生産者の防疫意識は高まりを見せている。本稿では、サツマイモ基腐病のまん延防止対策の「持ち込まない」「増やさない」「残さない」の三つの対策のうち「持ち込まない」対策の一つである健全苗の確保について、苗生産業者から導入生産者までの状況を報告する。

1 かんしょをめぐる状況

(1)全国的な第4次焼きいもブーム

 昨今は、2003年から続く第4次焼きいもブーム1)の絶頂期といっても過言でないほど、焼きいもが流行しており、かんしょのペーストを利用したスイーツ類も注目を浴びている。各地で焼き芋専門店が開業し焼きいもフェスが開催されると来場者が数万人に上るほか、コンビニエンスストアでは、レジ横の保温機やデザートコーナーにも個装された焼きいもが陳列され、かんしょを手に取り食すことが手軽な状況となっている。

 また、健康志向の影響から2)焼きいもブームは海外にも波及しており、過去10年間の日本のかんしょ輸出量は平成24年の584トンから、令和3年の5603トンへと約10倍となっている(図1)。香港や東南アジアといったアジア地域への輸出が中心ではあるが、カナダやアメリカなどの北米地域への輸出も徐々に数量を伸ばしており、スポットながら中東地域への輸出を行った年もあるなど、かんしょの需要は国内外問わず、増加基調で推移している。

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(2)用途の違いから見た地域的特色

 国内の生産量に目を向けると、令和3年産の全国のかんしょ生産量は、約67万2000トンとなっており、生産量が多い県から、鹿児島県が19万1000トン、茨城県が18万9000トン、千葉県が8万7000トン、宮崎県が7万1000トンとなっている。この上位4県で全体の8割を占めている。この4県の生産量を生食用、加工食品用、焼酎用、でん粉原料用、その他の五つに分けて見てみると構成が大きく異なることが分かる。

 茨城県と千葉県は、大消費地に近いことなどから生食用の割合が最も高く、千葉県では、全体の9割以上が生食用となっている。

 一方、鹿児島県および宮崎県(以下「南九州地方」という)では、生食用は、全体の約1割程度と低く、原料用に仕向けられる割合が多くなっている。両県とも焼酎用への仕向けが最も多く、宮崎県では全体の66%を鹿児島県では全体の43%を占めている。このほか、鹿児島県では、でん粉原料用が全体の34%と割合が大きい(図2)。

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(3)南九州地方のかんしょ生産、かんしょでん粉生産の状況

 南九州地方の令和3年産のでん粉原料用かんしょ作付面積は、4230ヘクタール(前年産比1.2%増)、同じく収穫量は、7万5900トン(同0.5%減)となっており、10年前の平成23年産と比較すると作付面積が5610ヘクタールから4230ヘクタールと約25%の大幅な減少となり、収穫量は15万2900トンから7万5900トンとほぼ半減している(図3)。

 10アール当たりの収穫量も平成29年産以降、減少傾向で推移している。令和3年産は1.79トンとなり、過去10年間で最も低い値となっている(図4)。

 かんしょでん粉は、南九州地方で収穫されたかんしょを鹿児島県内のでん粉製造事業者へ輸送して製造しており、鹿児島県内のでん粉工場は現在13工場となっている。

 令和3年産のかんしょでん粉の年間製造量は、2万1000トン(概算値、前年産比3.2%減)とやや減少した。10年前の平成23年産と比較すると、原料の減少に伴い、生産量も減少傾向で推移し、10年間で4万5000トンから2万1000トンとほぼ半減となっている。



 

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2 サツマイモ基腐病とその対策

(1)サツマイモ基腐病とは

 かんしょ生産において、近年大きな問題となっているのが、サツマイモ基腐病(以下「基腐病」という)のまん延である(写真1、2)。ヒルガオ科のかんしょに寄生する糸状菌を原因とする植物病害であり、日本国内では、平成30年度に沖縄県および南九州地方で初めて確認された。

 鹿児島県内では、令和3年度、葉やつるが枯れるなどの基腐病の症状が確認された圃場(ほじょう)の面積が、かんしょの作付面積の約75%にのぼるなど被害が広がった。令和4年度は約35%となっており、後述する各種対策を徹底したことなどから、昨年度と比較して発生圃場の面積が半減している。

 しかしながら、基腐病は水を媒介して拡大し、台風後に被害の広がりがみられたことなどから、引き続き、令和5年産に向けて油断することなく、対策を講じる必要がある。
 

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(2)鹿児島県の基腐病対策

ア 三つの対策の総合的な取り組み
 基腐病の被害が発生して以来、産地では大きな危機感をもって基腐病対策に取り組んでおり、圃場に基腐病菌を「持ち込まない」「増やさない」「残さない」の三つの対策に基づいて実施している(図5)。「持ち込まない」対策としては、種いも専用圃場の設置や健全苗の利用、「増やさない」対策としては、基腐病に比較的強いとされる品種である「こないしん」などの栽培、発病株の抜き取り、排水対策、適期防除、早期収穫などを、「残さない」対策としては、収穫残()の持ち出し、土壌消毒など、基本技術の徹底した励行が進められている。

 これら三つの対策は、いずれか一つを行うだけでは、基腐病のまん延を防ぐことが難しいことから、三つの対策を総合的に取り組むことが必要である。
 

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イ サツマイモ基腐病対策アクションプログラム
 かんしょ生産が全国第1位を誇る鹿児島県では、青果用や加工用、でん粉・焼酎の原料用など幅広く利用されており、関連産業を含め、かんしょが地域内の基幹作物として重要な役割を担っており、基腐病のまん延防止は喫緊の課題となっている。

 このため、県では、基腐病対策を着実に推進していくため、令和4年1月に鹿児島県サツマイモ基腐病対策プロジェクトチームを立ち上げ、同日付で「鹿児島県サツマイモ基腐病対策アクションプログラム」(以下「アクションプログラム」という)を策定3)し、三つの対策を関係機関・団体と一体となり総合的に推進している。

 また、ここで言う健全苗とは、基腐病に侵されていない苗全般を指しており、健全苗を確保する手段は、消毒された種いもから採苗する方法、ウイルスフリー苗の導入やウイルスフリー苗から育てられた種いもから採苗する方法がある。

 かんしょ生産者にとって、健全苗の導入は、圃場への苗を介した基腐病の侵入を防ぐことにつながることから、「持ち込まない」対策の有効手段の一つとされている。

 既に、かんしょの生食用品種ではウイルスフリー苗の利用が一般化している4)ことなどから、生食用品種の生産が盛んな茨城県や千葉県では基腐病の多発例は報告されていない。

3 健全苗の供給

 前述したアクションプログラムの達成には、健全苗の安定的な供給が大きな課題となる。本章では、三和ベルディ株式会社および株式会社三和グリーンのウイルスフリー苗の生産、販売の取り組みを紹介する。

(1)三和ベルディ株式会社および株式会社三和グリーンの概要

 三和ベルディ株式会社(以下「三和ベルディ」という)および株式会社三和グリーン(以下「三和グリーン」という)は、三和物産株式会社のグループ企業である。

 三和物産株式会社は、昭和30年に創業し、鹿児島県の東部、大隅半島の中心部にある鹿屋市に本社を置いており、かんしょ産業を支えるべく「地域社会の発展へ貢献する」という理念の下、かんしょでん粉工場を有するほか、落花生やスイートコーンなどの生産を行うアグリ事業部や公共工事や庭づくりを手掛ける造園工事部などを有している。

 同社グループ傘下の企業には、バイオ苗を生産している三和ベルディ、胡蝶蘭などの栽培および販売を行う三和グリーン、ねぎおよびかんしょなどの農作物を生産している有限会社三和ファームのほか、システム開発業、商品の卸売業、太陽光発電所なども含まれている。

 三和ベルディおよび三和グリーンでは、「鹿児島でしか生産されないかんしょでん粉を大切にしていきたい」という両社代表取締役和田彰氏の熱い意志に基づき、生産者に負担と手間がかかる作業を三和ベルディが担うなど生産者の負担軽減につなげたいと考えている(写真3)。

 三和ベルディの創業は平成2年で、バイオ苗の生産は、かんしょの苗から開始したものの、かんしょだけでは、工場の稼働期間に季節的な偏りが生じたことから、現在では花()商品などの生産も行っている。
 

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(2)バイオ苗の生産の流れ

 三和ベルディおよび三和グリーンでは、2社を通して(けい)(ちょう)培養を用いたバイオ苗の生産、販売を行っている。実際に行っているバイオ苗の生産の流れを下記で説明する。

ア 茎頂培養の概要
 三和ベルディで行われている茎頂培養とは、植物の茎の先端(茎頂)にある生長点の頂端分裂組織を利用した繁殖方法である(図6)。増殖された苗はメリクロン(mericlone)と呼ばれ、分裂組織(meristem)由来の栄養系(clone)を意味している5)。一般的には、ウイルスフリー苗、バイオ苗、メリクロン苗などとも呼ばれている。

 無菌状態の生長点の移植、培養を行うことで、作出した苗の無菌状態を確保するという仕組みであり、花卉類をはじめ農業分野で幅広く普及している技術となっている。

イ 親株の確保
 茎頂培養には生長点を採取する親株が必要となる(写真4)。三和ベルディでは、この親株を国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センターから購入している。

 このほか、生産者などから親株の提供を受ける形で受託培養も行っており、生産者は、今季収穫のかんしょの中から、自らの理想に近い性質のかんしょを親株として提供することができる。
 

 

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ウ 生長点の移植と活着
 生長点の頂端分裂組織は非常に小さく、50〜200マイクロメートル程度とされている4)。生長点は、頂芽と呼ばれる若い葉の集合体の中心部に位置していることから、頂芽を構成する葉を外側から剥ぎ取り、最後に残った茎軸の頂点部分から組織を摘出し、試験管の中の培地に植え付ける(写真5)。

 作業は、無菌状態を維持できるバイオクリーンベンチ内で行っている。入室の際は、微生物などの侵入を防ぐためにエアシャワーを浴び、キャップと白衣、内履きの着用を行っている(写真6)。バイオクリーンベンチは11台ある。

 移植の作業は社員2人、アルバイト職員8人の計10人で行っており、社員は培地の生成も行っている。培地生成は、過去からのデータに基づいた基本のレシピを軸に、品目や品種などに合わせた調合を行っている。

 生長点の摘出は顕微鏡を使用するほどの大変細かな作業であり難易度が高く、生長点の採取の際に菌などの付着があると、培養の過程でカビが発生することなどから、現在の活着率は約6割程度に留まっているという。

 生長点は、別々の試験管に植え付けて管理している(写真7)。このことにより、カビ発生時の他株への伝染リスクを回避でき、採取可能な生長点の数が限られている場合においても、損失を最小限に抑えられている。

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エ 増殖
 活着が無事に成功した場合、増殖の工程に入る。

 前述した試験管は、保管室に移され、空調設備による徹底した温度管理の下で保管されている。光度の管理も行う。かんしょの生育環境は、温度が27度前後、湿度が40%前後、照度が2000〜3000ルクス(12〜16時間/日)となっている。

 生長が進むと、1本の苗を節ごとにカットする。1株から2〜3本分のカットが可能で、四角いプラントボックスの培地に植え替える(写真8)。一つのプラントボックスにはカットした株を12本植え、再度、保管室で管理を行う。プラントボックスは品目や品種のコンタミ防止のため一目で判別できるようにカラーテープで封をしており、植え替えごとに洗浄、消毒を行うことで、無菌状態を維持している(写真9)。

 それぞれの株が生長すると、同様に節毎にカットして新しいプラントボックスに植え替える。この植え替え作業を繰り返すことで、株数が2倍、4倍と増えて、目標数量に近づいていく。バイオ苗を増殖する場合、季節により前後するものの、100本で約3カ月間かかり、200本だと約4カ月間、400本だと約5カ月間、1万本だと約10カ月間が必要となる。納品には、後述する順化作業を行うことから、追加で約1カ月が追加される。

 バイオ苗の納品は、例年10月頃からとなっているが、目標数量が増えるほど、増殖過程の期間が増加するため、必要な期間を逆算して増殖を行っている(写真10)。

 この植え替えの際に菌が侵入し、カビが発生した場合は、プラントボックス内の苗はすべて廃棄となる。製造数量のロスにつながることから、植え替えの際に使用するハサミやカッターなどは、バイオクリーンベンチ内で作業の都度消毒し、作業机も作業の都度、アルコールで消毒している。
 
オ 順化・納品
 三和ベルディで培養・増殖させた苗は、三和グリーンの管理下に移され、外部環境にならす順化を行いながら育苗し、生産者へ納品される(写真11)。

 三和グリーンでは、培地上で発根した苗を培地から1株ずつ取り出し、消毒を行った培養土が入れられたポットに植え付ける。このポットは、自然崩壊するフィルムで用土を包んだものとなっており、輸送管理などが容易となっている。

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(3)バイオ苗の販売

 かんしょのバイオ苗の販売ポット数は、平成29年産の9万本から令和4年産の16万本まで増加しており、令和5年産の販売目標は18万本としている。基腐病のまん延以降、生産者の防疫意識の高まりから、受注が伸び続けており、青果向け、焼酎向け、でん粉原料向けの用途を問わず、新規受注が増えてきている。

 令和4年産の苗の販売先は、南九州地方が約9割を占めているものの、北は関東地方、東海地方にも出荷している。販売先の業態は、生産者が約7割を占め、うち47%が法人向けとなっている。残りの3割は卸売りとして、農協系や同業他社向けに販売されている。

 ポット苗の価格は、通常の苗の販売価格とそれほど変わらないが、三和ベルディでは、バイオ苗の導入は基腐病の侵入リスクを低く抑えられ、かつ、収量の増加や形も良いことから、生産者には十分な収益性があると見込んでいるとのことであった。

4 バイオ苗導入生産者の事例

 今回、バイオ苗を購入している()(かや)昌俊氏にバイオ苗からのかんしょ生産の手順などを伺った。

(1)生産者概要

 眞茅氏は、かんしょの専業農家であり、鹿児島県の本土南西部にある枕崎市周辺でかんしょ生産を行っている(写真12)。

 作業は、眞茅氏の妻と母親の3人体制で行っており、栽培品種は、コガネセンガン、シロユタカ、こないしん、アケムラサキとなっている。圃場面積は全体で8ヘクタールを有し、そのうち、でん粉原料用かんしょの栽培は1ヘクタールほどとなっている。令和4年度のでん粉工場への出荷量は、約52トンとなっている。
 

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(2)バイオ苗からの採苗

 眞茅氏は、バイオ苗を10年前から導入しており、毎年、新規で苗を購入している。現在は2200〜2300本ほどを購入している。

 バイオ苗と種いも利用の採苗のそれぞれの栽培暦は図7のとおりとなる。
 
ア 苗床の整備
 発注したバイオ苗は、三和グリーンから10月末頃に納品される(写真13)。納品時は防水加工が施された段ボールに100本の苗が収められている。段ボールのため、圃場への持ち運びも容易である。

 苗床の消毒などは納品までに終わらせており、増殖・採苗は、施設栽培で行われる。納品されたバイオ苗は、1棟のハウスに植え付けられ、増殖が進むにつれて、最大でハウス6棟まで拡大される手順となっている。

 ハウス内は、壁際と出入口周辺の温度が低くなることから、苗の伸長が遅れる傾向があり、採苗期間に差が生じ、栽培管理が煩雑になることがある。眞茅氏のハウスでは、効率的な管理のために、あらかじめ壁際や出入口周辺に1メートルほどの隙間を設け、伸長の差を最小限にとどめるよう工夫している(写真14)。

 

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イ バイオ苗の植え付け
 苗床は1棟につき2(うね)ずつ設け、1畝の長さは38メートルあり、前後左右に12〜13センチメートルの間隔をあけ、横1列に8株の苗を植え付ける。この1列8株の間隔は、父親の時代からの試行錯誤の結果となっており、苗を植え付ける場所のマーキングには、父親の代から引き継いだ手製の用具を利用している(写真15、16)。

マーキングされた場所に、バイオ苗の用土の直径に合わせた塩ビパイプを刺すことで、バイオ苗が丁度よく収まる穴をあけることができる。バイオ苗の納品状態が前述した自然崩壊するフィルムで用土を包んである状態のため、数はあるものの、植え付け作業は大変手際よく進めることができる。

ウ 苗の増殖
 当該地域では、増殖のための苗切りができる長さに伸長するまでに栽培前期で約1週間程度、気温が下がる栽培後期で約10日前後が必要となる。なお、苗切りを行い植え付けた苗の伸長に必要な期間は、上記の期間より1.5倍ほど伸びる。そのため、苗が単純に同じ期間で倍々と増えることはなく、苗が多くなると異なる生育状況の苗を多数管理する必要がある。

エ ハウスの温度管理
 かんしょの育苗に適した気温は、昼間が20〜25度、夜間は15度とされているが6)、眞茅氏がかんしょを栽培している南薩地域の気温は、図8の通り、育苗を行う秋から冬場にかけて気温が適温を上回る環境となっている。年明け1月までは、高温障害への注意を払う必要があり、曇天時も日差しが出るたびにハウスまで状況を確認しに戻るなど、ハウスの温度管理に大変な苦労をされていた。また、栽培後期は暖房器具の利用までは不要であるものの低温障害への対応にも注意が必要となる。

 眞茅氏によると、「かんしょ専業農家であるため、ここまで種苗管理に専念できる。兼業農家や多品目栽培の生産者は、ここまで繊細なケアは難しいのではないだろうか」とのことだった。

オ 健全苗(ウイルスフリー苗)導入の効果
 健全苗の導入に際して目立ったデメリットは少ないものの、苗の購入費用が導入をためらう要因の一つと考えられる。

 苗を毎年購入している真茅氏は「見方を変えれば、種いもから採苗する場合であっても、収穫したかんしょの一部を翌年の種いもとして残す必要があり、その分の収入が減ってしまうジレンマがある」と考えており、生産者側からみると、費用の増加も収入の減少も、共に利益に影響する点では同じだと捉えることもできる。

 また、三和グリーンのバイオ苗は、その納品形態により、輸送や植え付け作業も容易であることから、生産者の作業効率化にもつながっている。

 健全苗の導入は、苗を介した基腐病の侵入を回避できるほか、「持ち込まない」対策として有効であり、かつ、抜本的な解決方法の一つである。また、茎頂培養で増殖させた苗は、ウイルスフリーであるとともに、遺伝子的に親株と同じ特性を持つことから、親株の特長を生かした増収にも期待が持てる。

 

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おわりに

 かんしょ生産者の収量維持、増加がなければ、南九州地方のでん粉製造事業者などを含むかんしょ業界の維持にはつながらない。各種防除対策への原動力である生産者の防疫意識が高まる中、国や県による各種支援なども受けつつ、今後も継続した総合的な防除が必要となるだろう。

 最後に、本稿の作成に当たり、ご多忙の中にも関わらず取材にご対応いただいた三和ベルディ株式会社代表取締役和田彰氏、株式会社三和グリーン園芸事業部部長岩元博仁氏、同園芸事業部有馬葉月氏、松本惇之介氏、他、三和グループの皆さま、眞茅昌俊氏にこの場を借りて深く御礼申し上げます。

【参考資料】
1)狩谷昭男(2015)「焼きいもブームの歴史とその背景」『野菜情報』(2015年11月号)
2)矢野哲男(2022)「最近の焼きいもの動向」『野菜情報』(2022年10月号)pp.2-6.
3)鹿児島県庁「鹿児島県サツマイモ基腐病対策アクションプログラム」<https://www.pref.kagoshima.jp/ag06/sangyo-rodo/nogyo/nosanbutu/satumaimo/actionprogram.html>(2022/11/14アクセス)
4)財団法人いも類振興会編集(2010)『サツマイモ事典』全国農村教育協会 352pp.
5)農学大事典編集委員会、久保祐雄(1987)『農学大事典(第2次増訂改版)』養賢堂 2120pp.
6)農文協(2017)『農家が教えるジャガイモ・サツマイモつくり』一般社団法人農山漁村文化協会 175pp.
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272