でん粉原料用かんしょで経営安定!〜種子島のかんしょ生産支援と複合経営モデル事例〜
最終更新日:2025年6月10日
でん粉原料用かんしょで経営安定!
〜種子島のかんしょ生産支援と複合経営モデル事例〜
2025年6月
【要約】
鹿児島県では、ここ数年、サツマイモ基腐病による被害が拡大した影響などにより、でん粉原料用を含むかんしょ全体の生産量は大きく落ち込んだ。行政をはじめ、生産者、農業協同組合、でん粉製造事業者や試験研究機関による対策により、感染は減少しているものの、作付面積、生産量ともに減少傾向にある。
こうした状況の中、労働力確保が難しい離島という条件不利地域の種子島において、生産者のM脇氏は複合経営ででん粉原料用かんしょを活用した省力化、低コスト化に取り組み、島内のでん粉の生産維持・拡大に努めている。リスク分散のため、複数の品目・品種を適切に選定して作付けするとともに、定植、収穫などの繁忙期を分散することで、限られた人的資源や機械を活用し、作業の効率化と安定的な収入の確保を実現している。
はじめに
鹿児島県は、かんしょの生産量全国第一位を誇る一大生産地である。鹿児島県内で生産されるかんしょは、青果用や加工用、でん粉・焼酎の原料用など幅広く利用されており、基幹作物として重要な役割を担っている。
しかし、サツマイモ基腐病(以下「基腐病」という)が平成30年度に初めて確認されて以降、県内各地で被害が拡大したことから、ここ数年かんしょの生産量は大きく落ち込んだ。農業従事者の高齢化や後継者不足などの問題がある中で発生した基腐病は、でん粉原料用かんしょの作付面積や生産量の減少を招き、かんしょでん粉製造事業者や、かんしょでん粉を使用して春雨、あめなどの加工食品を製造・販売する事業者にとって、原料の安定確保を揺るがす事態となった。かんしょでん粉を使用して作られる食品は、独特な食感や風味があることから、容易に他のでん粉で代替できるものではない。
一方で、近年は行政をはじめ、生産者、農業協同組合(以下「JA」という)、でん粉製造事業者や試験研究機関により、薬剤散布や基腐病発生状況の確認のための育苗床・圃場の定期的な巡回、巡回調査時の発病株の抜き取りによるまん延防止、基腐病抵抗性品種の開発・導入や土壌還元消毒などの対策が行われ、感染は減少している。
本稿では、鹿児島県内の主要なかんしょ生産地である種子島において、でん粉原料用かんしょの生産を維持していくために、関係者が行っている対策を紹介するとともに、県内、島内ともに作付面積が減少している中でも、かんしょ生産を維持している生産者の取り組みについて紹介する。
1 種子島の概要
種子島は、九州本土最南端の佐多岬から南東方向約40キロメートル、鹿児島市から約115キロメートルの海上に位置し、
西之表市、
中種子町および
南種子町の一市二町で構成されている(図1)。人口は約2万7000人、面積は4万5245ヘクタール(県全体の5%)で、丘陵性の山地が連なる比較的平坦な島であるため農耕地に恵まれており、耕地面積は8350ヘクタールと島全体の19%を占めている。亜熱帯性気候であり、温暖な気候、基盤整備の進んだ畑地など、地域の特性を生かし、サトウキビ、かんしょなどの基幹作物や肉用牛の生産、酪農も行われている。また、ばれいしょなどの野菜、米および茶の早出し農産物に加え、レザーリーフファンなどの特産化も進んでいる(写真1)。
2 でん粉原料用かんしょの用途と生産の現状
(1)でん粉原料用かんしょの用途
でん粉原料用かんしょから作られるかんしょでん粉は、主に清涼飲料に使われる糖化製品や菓子類、麺類などに使用されている。
近年は、かんしょでん粉特有のぷるぷる・モチモチ食感を生かし、食品への利用が進められている。かんしょでん粉を使用した春雨や麺は、味のなじみが良く、モチモチとしたソフトな弾力がある。さらに、せんべいに使用すると、サクサクとした軽い食感を楽しむことができるなど、他のでん粉とは異なる特性がある。かんしょでん粉を使用して菓子や春雨などを製造するメーカーにとっては、他のでん粉と代替の利かない重要な原材料であり、安定した供給が求められている。
(2)でん粉原料用かんしょの生産の現状
ア 鹿児島県
鹿児島県におけるかんしょの作付面積は、平成27年度は1万2400ヘクタールと全国第一位で、日本全体のかんしょの作付面積3万6600ヘクタールに占める割合は34%であった。しかし、基腐病の影響などにより平成30年度から減少傾向となり、令和6年度には1万ヘクタールを割り込み9490ヘクタール、日本全体のかんしょの作付面積3万1800ヘクタールに占める割合は30%まで減少した。
生産量は、平成27年度は29万5100トンであったが、作付面積と同様に基腐病の影響などにより平成30年度以降大きく減少し、令和3年度には19万600トンまで落ち込んだ。基腐病抵抗性品種への切り替えや防除対策により被害が減少したことなどから、令和6年度には21万8300トンまで回復した。
かんしょの作付面積のうち、でん粉原料用かんしょの作付面積は、平成27年度は4710ヘクタールであったが、令和6年度には1600ヘクタールまで減少した。鹿児島県全体のかんしょ作付面積に占めるでん粉原料用かんしょの割合は、平成27年度では38%だったものが、令和6年度には17%まで減少した。かんしょの生産量は令和4年度以降は回復傾向にあるが、でん粉原料用の生産量は依然として減少が続いており、青果用や焼酎用に仕向けられるかんしょの生産量の減少度合いに比べ、でん粉原料用かんしょの減少度合いがより大きいことがわかる(図2)。
イ 種子島
種子島および屋久島を含む熊毛地域におけるかんしょの作付面積は、平成27年度は1914ヘクタールで、鹿児島県全体のかんしょ作付面積1万2400ヘクタールに占める割合は15%であったが、前述の通り基腐病の影響などにより、平成30年度から減少傾向となった。この間にサトウキビなど他作物の作付けが推奨されたことなどから、令和5年度には945ヘクタールと、県全体に占める割合は10%まで減少した。
生産量は、平成27年度は3万9729トンであったが、特に基腐病による被害の発生が多かった令和3年度以降に大きく減少した。抵抗性品種への切り替えや防除対策により、基腐病の被害は減少しているものの、5年度には1万5331トンと、県全体に占める割合は7%まで減少した。
鹿児島県全体の傾向以上に、熊毛地域においてかんしょの作付面積および生産量が減少している。
かんしょの作付面積のうち、でん粉原料用かんしょの作付面積は、令和5年度は538ヘクタールとなり、熊毛地域全体のかんしょ作付面積に占めるでん粉原料用かんしょの作付面積は57%であった。鹿児島県平均と比較して、かんしょの作付面積に占めるでん粉原料用かんしょの作付面積の割合が多いと言える(図3)。

コラム かんしょでん粉かすの主な利用形態
でん粉工場において、かんしょでん粉を製造する過程で副産物として発生するのが「かんしょでん粉かす」である(コラム−写真1)。このかんしょでん粉かすは、でん粉工場の操業期間である9月から11月ごろにかけて発生する(コラム−写真2)。
鹿児島県は、生物由来の有機性資源であるバイオマスを最大限に利活用するため、県内に豊富に存在する家畜排せつ物や焼酎かす、かんしょでん粉かすなどを中心に、堆肥や飼料の原材料、あるいは発電用や発熱用のエネルギー源としてバイオマス活用の拡大を図ることを目的に、平成24年1月に「鹿児島県バイオマス活用推進計画」を策定した。
同計画によると、県内で発生したかんしょでん粉かすの主な利用形態は、家畜飼料、農地還元、クエン酸原料、堆肥原料などとなっている。種子島においては、主に家畜飼料や農地還元に利用されており、3割程度が農地還元用である。
かんしょでん粉かすは、かんしょ収穫後の土壌に混ぜることで、有機資材として次期作に向けた土づくりができ、資材費や肥料価格が高騰する中で、島内の身近なバイオマスとして有効利用されている。
種子島では、9月から12月にかけて、収穫を終えた圃場にかんしょでん粉かすが還元されている様子を見ることができる(コラム−写真3)。
|
3 かんしょ生産への関係機関の取り組み
(1)鹿児島県
鹿児島県において、かんしょは基幹作物として重要な役割を担っている。このことから同県では、基腐病対策の基本である圃場に基腐病菌を「持ち込まない」「増やさない」「残さない」対策の総合的な取り組みをさらに推進するため、令和4年1月に「鹿児島県サツマイモ基腐病対策アクションプログラム」を策定した。
その中では、令和7年産までに健全苗および健全圃場1万ヘクタールの確保を目標とするとともに、関係機関・団体の役割を定めている。このアクションプログラムを受けて、関係機関などは県内各地域において取り組みを実施している。
(2)鹿児島県熊毛支庁
種子島や屋久島を含む熊毛地域を所管する鹿児島県熊毛支庁では、1)市町、JAなどで構成する地域プロジェクトチームの設置、2)地域プロジェクトチームとして取り組むべき事項の実践、3)かんしょ生産者に対する対策周知の実施、4)サツマイモ基腐病対策の新技術の普及−に取り組んでいる(写真2、3)。
管内の市町ごとに研修会や巡回指導を実施しており、県、JA、生産者、でん粉製造事業者などの関係機関・団体による育苗床・
本圃巡回で、健全苗の確保や異常株の早期抜き取り、薬剤散布の実践などを支援している。これらの取り組みが功を奏し、熊毛地域で葉やつるに一株でも基腐病の症状が確認された圃場面積は、令和3年度の59%から、6年度には4%程度と大きく減少した。
(3)種子屋久農業協同組合
種子屋久農業協同組合(以下「JA種子屋久」という)では、1)茎頂培養苗(植物の茎の頂端部を無菌状態で培養して得た苗)による健全苗の供給、2)市町などが設定した推進地区における推進活動への積極的な協力、3)かんしょ生産者に対する周知活動−などを実施している。
また、かんしょ苗の植え付けは腰を曲げての作業となり、非常に重労働であるため、高齢農家の離農に拍車をかけている。こうした負担の大きい作業は労働力確保の障壁となり、結果として作付面積の減少につながっている。そこで、鹿児島県農業開発総合センターは、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)や農機大手メーカーとの共同開発により、かんしょ苗の自動植え付け機の改良機を開発した。これまでの植え付け機では、かんしょ苗を定植しても場所によっては十分に活着せず、人手による植え直しが必要になるなど問題があった。このことから改良版が開発され、令和7年4月に、JA種子屋久も構成員となっている中種子町さつまいも生産対策協議会(主催:中種子町)により、生産者を集めた場での実演が行われた。
4 種子島におけるでん粉原料用かんしょの生産を担う生産者の事例
(1)生産者の概要
中種子町ででん粉原料用かんしょを生産するM脇嘉則氏は、就農から45年目を迎えるベテラン生産者である。鹿児島県内の農業大学校で園芸を専攻し、卒業後は故郷の種子島に帰島して、祖父の代から続く農家の三代目として親元で就農した(写真4)。当時は主に葉タバコや水稲の他に、サトウキビ、かんしょの生産を行っていた。その後、葉タバコの生産量減少に伴い、かんしょやサトウキビの生産割合を増やし、現在の作付面積は、でん粉原料用かんしょ2.5ヘクタール、サトウキビ4.5ヘクタール、葉タバコ2.8ヘクタール、水稲1.3ヘクタールとなっている。
これだけの面積を、以前は先代である両親とともに、現在は主に夫婦で維持管理している。繁忙期には親戚や近隣の農家などに依頼し、年間延べ日数で400〜500日ほど臨時雇用を行っている。主に葉タバコ(5〜7月)とかんしょ(10月)の収穫時期は、多くの作業が重複して人手が足りなくなるという。
(2)複合経営の品目構成
M脇氏のサトウキビの作付面積は4.5ヘクタールで、同じ圃場において、サトウキビを4作(新植+株出し3回)した後に、かんしょを2作するというサイクルで6年2品目の輪作を行っている。各品目の作業ボリュームを踏まえ、作付面積の品目構成は現状がベストと考えているという。でん粉原料用かんしょの売渡価格と交付金を合わせた収支を考慮した利益率を考えると、作業受託組織に収穫作業の委託料を支払う必要があるサトウキビの比率を増やすより、自らが収穫作業をすることができるでん粉原料用かんしょを組み込んだ輪作のほうが、品目ごとのリスクを分散しつつ、安定した経営ができるとM脇氏は考えている。
サトウキビは、鹿児島県全体では採用率の低い秋植えを行っている。この理由として、比較的一般的な春植えではM脇氏が栽培する他の品目の作業と重複してしまうこと、夏植えでは炎天下での作業となってしまう上に、圃場をサトウキビが占拠する期間が長いことがある。秋植えであれば、かんしょの収穫後にサトウキビを植え付けることができるため、効率よく圃場を活用することができる。サトウキビだけであれば、夫婦の労働力で現在の約2倍となる6〜7ヘクタールの栽培が可能であるという。
この他に作付けしている水稲1.3ヘクタール、葉タバコ2.8ヘクタールのうち、葉タバコは先代から受け継いだ品目ではあるが、労働力不足のため、今後は作付面積を減らしていく方向だという。葉タバコの作付面積の減少分については、サトウキビとかんしょの輪作に加える予定である。
(3)栽培するかんしょの用途選定
種子島で栽培されるかんしょ品種といえば安納いもが有名であり、近年では、「種子島安納いも」として地理的表示(GI)
(注)の登録産品となり、全国的な人気を博している。安納いもは高値で取引されるため、作付けする生産者も多いが、こうした安納いもを代表とする青果用かんしょは、でん粉原料用かんしょと比較して収穫作業に手間がかかるというデメリットがある。商品そのものが売り物となるため、収穫時や運搬時に傷をつけないよう細心の注意を払う必要があり、収穫後の青果用かんしょは、サイズごとに細かな規格に応じた選別も求められる。
(注)その地域ならではの特性を持つ産品の名称のこと。地理的表示(GI)保護制度により、GIは生産地・特性・生産方法などの基準とともに登録され、保護されている。
また、種子島では、でん粉原料用、青果用の他に、焼酎原料用のかんしょも作付けされている。焼酎原料用かんしょは、青果用ほど厳しくはないものの、各焼酎会社が規格を定めており、1)規格外のサイズのかんしょは出荷できない、2)つるを切ることを求められる−など、でん粉原料用かんしょと比べ煩雑な面がある。かんしょ生産の中で最も労働力を必要とする収穫時期において、でん粉原料用かんしょは他用途向けに比べ、出荷調整作業に要する労力を削減することができると言える(写真5、6)。
こうした労働力の面に加えて、近年では、でん粉原料用かんしょの工場買取価格や交付金単価が上昇している。M脇氏は、青果用、焼酎原料用かんしょとでん粉原料用かんしょの価格差は依然として存在するものの、労力と価格のバランスを考えると、でん粉原料用かんしょの収益性は高いと感じているという。
また、でん粉原料用かんしょは、以前は工場から出荷日を指定されていたが、現在はこうした指定がなくなったことから、自身の作業スケジュールを工場に合わせる必要がなくなり、より出荷しやすい環境となっている。
サトウキビとかんしょの生産コストなどを比較すると、サトウキビは収穫などの作業を委託するため、委託料として支払う費用が多くなってしまう一方で、M脇氏の場合、自身でかんしょの収穫作業を行う上に、所有するかんしょ関係機械は減価償却期間を経過しているため、かんしょの方が利益率が良いとのことである。
さらに、M脇氏は、でん粉原料用かんしょやサトウキビは、でん粉工場や製糖工場が種子島の中にあることが、他の品目にはない強みだと考えている。青果などは、離島から都市部へ遠距離輸送を要することから、輸送コストの面で他産地と比べ不利となる。また、天候などの要因で船が止まるリスクもあり、価格が安定しない面がある。島内に工場があり、交付金により収入の見通しが立てやすいでん粉原料用かんしょやサトウキビは、計画的な生産に向いており、安定した経営の支えになっているという。
(4)でん粉原料用かんしょの作付け
M脇氏のでん粉原料用かんしょの作付け品種は、鹿児島県の奨励品種である「こないしん」と「シロユタカ」で、それぞれほぼ半々の割合となっている。こないしんは基腐病に強く、害虫にも強い一方で、シロユタカは基腐病や害虫にはこないしんほど強くないものの、早く生育するという特性を持ち、バランスを取って現在の作付け割合に落ち着いたそうだ。
苗については、JA種子屋久が販売するバイオ苗を購入し、その苗を基に採苗したものを定植している。まずバイオ苗をJAから5〜6月に購入し、7月下旬に早場米の水稲の収穫後の水田に植え付ける。種いも生産圃場は、前作で病害発生がなく、排水が良好な水田や、かんしょを数年栽培していない圃場で行うことを県でも推奨しており、実際、水田として使用していた圃場で育成した苗を定植することで、基腐病が出にくいという。12月下旬に種いもを収穫し、翌1月に育苗用の畑に伏せ込む。これを4月中旬ごろに採苗して植え付け、10月ごろに収穫するというスケジュールとなる(図4、写真7)。
(5)定植作業の工夫
苗の植え付けは手作業で行っている。植え付け機は、採苗・調苗に時間がかかるなど、手間を要するというデメリットがあるが、手作業であれば苗が多少変形していても柔軟に対応しながら作業することができる。また、植え付け機を使用した場合には、うまく活着できなかった箇所などに後から人の手で補植をする作業が発生し、二度手間になる。こうした背景から、M脇氏は、植え付け機の精度の向上に期待しつつ、現在は手作業により植え付けを行っている。
しかし、定植作業は作業全体の中でも重労働であり、かがんだ姿勢で行う必要があるため、長時間続けることは難しい。そのため、農家同士で作付けや収穫作業などの繁忙期に労働力を提供し合う労働慣行である「結い方式」で近隣の農家などの協力を得て、一気に植え付けを行う。身体への負担を考慮し、午後3時〜5時ごろに集中して行う場合が多い。このときの作業のスピード感は、1回2〜3時間で3〜5人が作業を行い、10〜20アールほど定植できるという。
また、作業に当たっては、M脇氏の長年の経験による工夫がされている。種子島は西からの季節風が強く、定植後の苗の生育に大きな影響を与える。このため、苗を東から西に向かって斜めに差して植えることで、西風が吹いても苗が東方向に傾いて抜けにくいように定植している。これとは逆に、西から東方向に定植すると、西風を受けた際に苗が起き上がってしまい、抜けたり、茎が折れたりするなどの被害が発生するという(図5)。
(6)今後の展望
M脇氏は、今後の展望について、適切な品目や品種、作型の選定、効率的な生産を行うことで、現在の経営規模を引き続き維持していきたいという。種子島では、近隣に位置する馬毛島での自衛隊基地建設の影響で、多くの人材が基地へと流出しており、島内の労働力が不足している。こうした厳しい状況下において、現在の経営規模を維持していくためには、人手が必要となる時期に相互に労働力を提供し合うなどの協力が必要不可欠であるとM脇氏は考えている。
おわりに
日本の農業は、生産年齢人口の減少による労働力不足、農業従事者の高齢化や後継者不足のほか、資材費や輸送費の高騰など多くの問題が生じている。種子島においては、基本的に島内の近隣の地域において労働力を確保しなければならないという離島特有の課題に加え、同島で農作業の機械オペレーターとして従事していた人材が、より良い待遇を求め、馬毛島の自衛隊基地建設に流出しているという切実な問題も併せ持つ。
令和7年4月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」では、かんしょの生産に関して「まずは、サツマイモ基腐病の克服や、安定生産に向けた品種転換を図る必要がある。また、生産者の減少・高齢化に対応した機械化等による労働負荷の低減、規模拡大を図りながら、加工食品用等の各用途について、需要に応じた生産を拡大する必要がある。でん粉原料用については、需要に応じた原料の安定供給とでん粉工場の持続的な操業が必要である。」と明記されており、今後の品種開発・普及や労働時間・労働負荷の低減を図る方針となっている。
県や農研機構などで開発が進むかんしょ苗の自動植え付け機は、現場の実態に即し改良を重ねるなど、機械化に向けた取り組みが進められている。今後さらに改良が進み、労働負荷の軽減に資することが期待される。
多くの課題を抱えた種子島の農業において、今回、取材を受けていただいたM脇氏は、作付け品目や品種、作型を、経験に基づく工夫により適切に選定することで、限られた人的資源や所有する農業機械を活用し、コストを低減しつつ、作業効率を上げていた。中でも、でん粉原料用かんしょは、他品目よりも労働力やコストをかけずに広大な農地を有効利用できる上、一定の農業収入を確保できることから、安定的な経営の一助となっているとM脇氏は語る。
基腐病の発生件数の減少に伴い、複合経営を行う農家が、安定的な農業収入を得るためにでん粉原料用かんしょの作付けを行い、生産の維持、拡大が図られることが、ひいては、島内の農業生産およびかんしょでん粉製造事業者の原料調達の安定化につながるものと思われる。
さらに、かんしょでん粉の生産量を拡大することで、かんしょでん粉を使用して加工食品を製造・販売する事業者にとって安定的な原料調達が可能となり、かんしょでん粉を原料として使用する根強いユーザーにとっても明るい話題となるのではないだろうか。
農林水産省の施策により、宮崎県および鹿児島県で生産されるでん粉原料用かんしょには、一定の要件を満たすことにより、法制度として生産者にはでん粉原料用いも交付金が、製造事業者には国内産いもでん粉交付金が交付され、当機構は、両交付金の交付業務を担っているところである。
種子島など離島の条件不利地域において農業生産を維持するための課題は多い中、同法制度が十分に活用されるとともに、島内の農業生産の持続的な発展、でん粉原料用かんしょの生産量の回復に向け、関係各所の取り組みが期待される。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272