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タイのキャッサバをめぐる情勢〜生産量維持に向けた取り組みと課題〜(前編)

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最終更新日:2025年10月10日

タイのキャッサバをめぐる情勢
〜生産量維持に向けた取り組みと課題〜(前編)

2025年10月

調査情報部 峯岸 啓之、岡田 真希奈

【要約】

 タイの主要農産物であるキャッサバは、近年東南アジア諸国で感染が拡大するキャッサバモザイク病による被害や主要輸出先である中国での需要低下などにより生産量が減少傾向にある。そのような中、抵抗性品種の開発と導入によるキャッサバ生産量の回復を目指す取り組みが生産現場にも徐々に浸透してきており、今後の動向が注目される。

はじめに

 でん粉は、トウモロコシやいも類などの植物の光合成により生産され、植物体内に貯蔵される炭水化物であり、生産される植物によってでん粉の特性が異なることから、目的に合わせて使い分けられている。農林水産省によると、令和6でん粉年度(2024年10月〜25年9月)に供給されるでん粉は242万トン(前年度繰越し分を除く)と見込まれている。このうち、輸入トウモロコシから製造されるコーンスターチが209万トンと全体の大部分を占め、国産いもでん粉は17万トン、輸入でん粉は16万トンと見込まれている(図1)。近年、日本のでん粉の輸入量は、おおむね14〜15万トン台で推移している(図2)。







 財務省「貿易統計」によると、日本は24年(暦年)に天然でん粉の74%、化工でん粉の70%をタイから輸入した(図3、4)。タイから輸入される天然でん粉のすべてはタピオカでん粉であり、また化工でん粉についてもタピオカでん粉由来のものである。これらは、食品用や工業用などさまざまな用途で利用されており、日本のでん粉市場では重要な位置付けとなっている。

 しかし、近年、タイのキャッサバ製品の最大輸出先である中国での需要低下などにより、タイ国内ではタピオカでん粉の原料であるキャッサバの取引価格が大きく下落している(図5)。また、18年にタイ国内で初めての感染が報告されて以来、国内での感染が拡大しているキャッサバモザイク病(以下「CMD」という)や生産コストの上昇により、作付面積を減らす生産者や他作物への転作を行う生産者が増加するなど、でん粉生産への影響が懸念されている。
 









 このような中、タイのキャッサバおよびでん粉の生産・輸出動向を把握するため、25年6月に同国最大のキャッサバおよびでん粉の生産地であるナコンラチャシマ県を中心に現地調査を実施した。本稿は、前編と後編の2回にわたって掲載し、本編ではタイのキャッサバ生産の概要に加え、品種開発によるCMD対策を紹介し、11月号の後編ではタピオカでん粉生産や貿易の概要を示した上で、高付加価値化に向けた取り組みなどキャッサバ産業の今後の姿を考察する。

 なお、本文中の為替相場は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月中・月末平均の為替相場」2025年8月末日TTS相場の1タイバーツ=4.63円を使用した。

1 世界のキャッサバ生産におけるタイの立ち位置

 キャッサバは、高温や乾燥に強く、酸性土壌や低肥沃(ひよく)土壌でも生育可能な作物であり、熱帯および亜熱帯地域で広く栽培されている。国連食糧農業機関(FAO)によれば、2023年の生産量は全世界で3億3368万1193トンとされ、世界で生産される農産物のうち第8位の生産量となっている。地域別に見ると、全体の63.9%はアフリカ、27.8%はアジア、8.3%は中南米が占めている(図6)。アフリカや中南米の国々では、主に食用として国内消費に重点が置かれ、国内需要を満たせる国は輸出にも力を入れている。



 

 タイにおけるキャッサバは、サトウキビおよびコメに次いで多く生産されている主要農産物であり、生産量は世界第3位、アジアで第1位を誇る(図7)。23年の生産量は、3061万6586トン(前年度比10.1%減)である。同国では主食としての利用よりも、チップやペレットなどの一次加工品や、でん粉やエタノールなどの高付加価値商品向け原料に用いられている。キャッサバの国内需要は供給量の25〜30%であるため、残りの70%程度がキャッサバ製品として中国などのアジアを中心に世界各国へ輸出されている。
 
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2 世界のタピオカでん粉産業におけるタイの位置付け

 英国の調査会社であるGlobalData UK Ltd.によると、2023年に世界で生産されたでん粉は4595万トンであり、このうちコーンスターチが4割強、タピオカでん粉および化工でん粉がそれぞれ2割強を占め、これら上位3品目で全体の9割弱となっている(図8)。タイのタピオカでん粉は、世界の生産量(1015万トン)の3割強を占め世界第1位であり、化工でん粉の生産量は、同じく生産量(964万トン)の1割強を占め同第3位である。世界のタピオカでん粉の消費量は増加基調を示しており、28年には1150万トンが見込まれている(図9)。タイ産タピオカでん粉の大半は輸出に向けられることから、今後もタイのタピオカでん粉生産の動向が世界のでん粉需給に与える影響は大きいと予想される。



 
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3 タイのキャッサバ生産動向

(1)主産地

 タイ最大のキャッサバ産地は、東北部のナコンラチャシマ県である(図10)。タイ農業協同組合省農業経済局(OAE)によると、2024/25年度(10月〜翌9月)のキャッサバ作付面積は、同県が国内全体の12.4%に当たる18万4879ヘクタール(前年度比0.2%増)、次いで隣接するチャイヤプーム県が同9.0%の13万4139ヘクタール(同4.7%増)、カムペーンペット県が同7.2%の10万7264ヘクタール(同3.5%減)であった。作付け品種は主に生産者が選定しており、「Kasetsart 50」と「Rayong 72」とで全体の5割以上を占めている(図11)。品種の選定では、単収が最も重視されているが、近年は病虫害への抵抗性も選定の判断材料となっている。



 
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(2)タイの近年の生産動向

 2020/21年度のタイのキャッサバ生産量は、キャッサバ製品の最大の輸出先である中国での需要が増え、サトウキビや飼料用トウモロコシからの転作が増加したことで、3509万4000トンとなった(図12)。21/22年度はキャッサバの生育に適した気候条件により生産量は安定的に推移したが、22/23年度は天候不順による塊根や苗への被害や、病害を媒介する害虫の分布拡大による病害のまん延の影響により、3061万7000トン(前年度比10.1%減)と前年度からかなりの程度減少した。23/24年度は前年度の生産量減の影響を受け苗不足が生じ、天候不順やCMDの被害も続いたため生産量は減少した。直近の24/25年度は主要輸出先である中国市場での需要低下による取引価格の下落や、継続するCMD被害への懸念から、作付面積の減少や競合作物への転作を図る生産者の増加が予想されている。この結果、同年度の収穫面積は138万6400ヘクタール(同2.4%減)、生産量は2706万4000トン(同5.4%減)と、いずれも前年度を下回ると予測されている。農業協同組合省農業普及局(DOAE)によると、25年8月時点で、CMD被害は38県で15万9695ヘクタールに及ぶ(図13)。これは、24/25年度の収穫予測面積の約10%に当たる規模であるが、被害を行政機関に報告しない生産者が多くいるため、実際の被害は統計上の数値以上に大きいと考えられている。
 


 
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(3)ナコンラチャシマ県

 タイ最大のキャッサバ生産地であるナコンラチャシマ県の2024/25年度の収穫面積は18万4879ヘクタール(前年度比0.2%増)であり、生産量は318万1031トン(同13.1%減)と予測されている(図14)。同県ではタイ全国と同様に「Kasetsart 50」や「Rayong 72」が主流となっているが、全国と比較してその割合は高く、同2品種で全体の7割以上を占めている(図15)。CMD被害は25年8月時点で4万2306ヘクタールと、CMD感染が確認されている38県で最大となっている。






 

 同県には32の郡があり、その一つであるダーンクントット郡では、現在郡内に10グループ程度の生産者グループが形成されている。同郡の農業普及事務所によると、各生産者グループにはまとめ役がおり、委員会が形成されている。また、グループ内には苗生産を任される生産者がおり、その役は苗の生産能力と安全性の判別に優れる生産者が担っている。

 また、生産者は状況に応じて農産物(コメ、キャッサバ、サトウキビ、トウモロコシ)を変えるが、郡内ではコメの生産量が最も多いとされる。同普及事務所によると、キャッサバ買取価格の下落により、郡内ではサトウキビへの転作が増えている状況にある。そのような中、現場ではかつて生産者負債軽減のために実施された所得補償制度(注1)の再開を望む声もある。CMDについては、感染拡大を防止するための指導や注意喚起を実施している(写真1)。生育3〜4カ月以降でのCMD感染は、比較的被害は少なくて済むが、それまでに感染してしまった場合の被害は大きいとしている。以前は感染株を見つけ次第、生産者には廃棄してもらい、政策に基づく補償金を渡していたが、現在はその制度がない状況である。同普及事務所は生産者に対し、収量がいくらか減少するものの、CMDへの感受性が低い品種を作付けするよう指導しているが、依然として生産者の間では収量の多い品種に根強い人気がある。

 (注1)主要5農産物(コメ、アブラヤシ、天然ゴム、キャッサバ、飼料用トウモロコシ)の市場価格が保証価格を下回った場合に、政府が差額分を補償する制度。2019/20年度から実施されたが、23年9月の政権交代を機に廃止された。
 
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 同県のキャッサバ生産者(A氏、B氏)に直近の作付状況を聞いたところ、25年6月時点でA氏はキャッサバとサトウキビをそれぞれ24ヘクタールずつ作付けし、平均的なキャッサバの単収は1ヘクタール当たり25〜38トンである一方、B氏はキャッサバのみを16ヘクタール作付けしており、単収はA氏と同様である(表1)。両者は天候や土壌、キャッサバの状態を見ながら、経験を基に農産物を生産し生計を立てており、収穫したキャッサバは、近隣のタピオカでん粉工場であるRatchasima Green Starch Co., Ltd(以下「RGS社」という)に出荷している。RGS社は質の良い原料調達のために、日頃から近隣の生産者への営農指導や情報交換に力を注いでいる。同社は、CMDに比較的抵抗性がある「Kasetsart 50」の作付けを推奨しており、同品種のみを作付けするB氏の圃場(ほじょう)では、CMDの被害は生じていない。B氏はかつて他品種でCMDの被害を受けた経験があり、多少収量が減少してもCMDに感染しない品種の生産を望んでいる。一方、収量重視のA氏は、「Kasetsart 50」の他に「Kasetsart 80」を作付けしたところ、後者品種の圃場で3ヘクタールほどCMDの被害が生じた。「Kasetsart 80」は「Kasetsart 50」と比較すると、収量は多いがCMDへの感受性が高い特徴がある。A氏は周辺圃場でCMDの被害が発生していないことから、苗が感染していた可能性があると推測しており、次作は「Kasetsart 50」を作付けするつもりであるとしている。
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コラム 甘味種と苦味種

 キャッサバは、甘味種と苦味種の2種に分けられる。どちらも人体に有害なシアン化合物を含有するが、甘味種の毒性は低いため、食用として利用できる。タイの食文化はわが国と同様、コメを主食とするため、甘味種は菓子などの利用に限定される。一方、苦味種は毒性が高いが収量は多く、でん粉などの高付加価値商品の原料となることから、同国では甘味種よりも苦味種の方が多く生産されている。バンコクに隣接するパトゥムターニー県にあるタイ最大の卸売市場(タラートタイ)で甘味種を販売する業者によると、バンコク近郊では小規模ながら甘味種が生産されており、主に菓子など家庭用に利用されている(コラム−写真1)。タイで栽培される甘味種は、主に「Hanatee」、「Pirun 2」および「Rayong 2」の3品種であり、同業者はパトゥムターニー県の32ヘクタールの圃場で「Hanatee」を生産するほか、近隣の生産者から買い取りも行っている。同品種は、「Hanatee」が5分間を意味するタイ語である通り、短時間で調理することができる品種であり、ほろほろとした食感が特徴である。タイでは、伝統的に甘煮など菓子の材料として親しまれている。同業者が販売する同品種の販売価格は、1キログラム当たり18バーツ(83円)と、でん粉工場で買い取られる苦味種の10倍以上となっている。また、同市場では、実際にキャッサバの菓子やタピオカでん粉を購入することができる(コラム−写真2)。






 

4 CMD抵抗性品種(ITTHIシリーズ)の開発

 CMDは、ウイルス感染によりキャッサバの葉に黄化斑が発生する病気であり、光合成機能が低下し、枯死することもある(写真2)。特に生育初期の感染は影響が大きいとされ、収量は平均30〜40%減少し、でん粉含有率は感染していないキャッサバと比較して平均3〜4%減少する。CMDは、コナジラミによるウイルスの媒介や感染苗の植え付けで被害が広がるとされ、タイ・タピオカ貿易協会(TTTA)によると、1894年にアフリカ東部で初めて確認されて以来、東南アジアでは2016年にカンボジア、17年にベトナム、そして18年にタイで初めて感染が確認された。
 
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 タイのCMDは、18年以降、国際貿易量や旅行などによる出入国者の増加に伴い病害虫の侵入も増加した中で、CMD被害への不十分な対応や研究資金の不足により事態が悪化したと考えられる。全国に被害が広がった一因として、最大産地であるナコンラチャシマ県でのCMDウイルス感染苗管理不足が考えられている。CMDなどのウイルス感染苗は流通禁止の規制があったにもかかわらず、苗不足が生じた際、同県のCMDウイルス感染苗が全国に流通し急速に被害が広がった。コロンビアを拠点とする国際熱帯農業センター(CIAT)の協力により、タイの普及種に対するCMDウイルスの感受性が検査された。その結果、同国内で広く普及する「Kasetsart 50」などいくつかの普及種は、比較的CMDウイルスに対する感受性が低いことが判明した。被害拡大を緩和するため、同国ではそれら感受性の低い品種を栽培するよう生産者に奨励したが、一定程度の感染は見られるため、効果は限定的である。また、ウイルスを媒介するコナジラミは、薬剤を使用しても60〜70%程度しか防除することができない一方、急速に薬剤抵抗性を獲得するため、根絶は現実的でない。そこでアフリカやインドでの事例から、CMDの被害低減に最も費用対効果の高い方法として知られている抵抗性品種の導入が求められた。すでに研究を行っていたCIATやナイジェリアを拠点とする国際熱帯農業研究所(IITA)では、でん粉含有量の低い主食向けの品種が対象となっていたため、収量が多く、でん粉含有量の高い品種が求められるタイでは、独自に抵抗性品種を開発する必要があった。そのため、タイ・タピオカ開発機構(TTDI)は、国立カセサート大学と協力し、18年にIITAの支援のもと抵抗性品種を輸入し、23年にタイの気候に適したITTHIシリーズ3品種(ITTHI1、ITTHI2、ITTHI3)を開発した(表2)。ITTHI シリーズは、いずれも普及種と比較して感染率が低いことが場内試験で確認された。ITTHIシリーズの課題として、収量が普及種より低いことが挙げられ、収量増の研究が進められている。また、普及種のうち比較的CMDに強い「Kasetsart 50」のような品種は、CMDに感染してもITTHIシリーズと同等以上の収量が見込める場合があり、ITTHIシリーズは収量を重視する生産者には魅力的でないという課題もある。TTDIはCMDによる被害が深刻な地域では、これらの抵抗性品種を導入することを推奨しており、24年には周辺の工場や生産者に100万本の苗を提供している。また、25年にはタイ・タピオカでん粉協会(TTSA)を通じて72万本の苗が協会に加盟するでん粉工場に提供されており、抵抗性品種のさらなる普及拡大のため、26年には200万本が提供される予定である。前述したナコンラチャシマ県のA氏とB氏も24年にITTHIシリーズを受け取っており、今後の苗用に小規模ながら生産をしている。A氏はCMDへの感染リスクが少ないITTHIシリーズに理解はあるものの、収量の多さから「Kasetsart
50」の方が魅力的であるとする一方、B氏は収量が減少しても感染は望んでいないことから、今後ITTHIシリーズを増やしていきたいとしており、生産者によって考え方が異なる様子がうかがえた。全国に抵抗性品種を普及するためにはさらなる苗の増産が必要であり、後述の]20法や]80法による苗の増産が図られているほか、TTDIや普及局による工場や生産者に向けた抵抗性品種に関する講演などが定期的に実施されている。
 
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5 キャッサバ苗の増産方法(]20法と]80法)

 感染苗の移動に伴いCMDが国内に伝播する中、CMD未感染の健全苗が不足していることから、苗の増産方法はタイのキャッサバ生産において重要課題の一つとなっている。また、CMD抵抗性品種の研究開発や工場や生産者向けの配布用苗の生産に対しては、一度に大量の苗が必要となる。そこでTTDIは、キャッサバ苗の大量育苗技術であるX20法およびX80法を開発した。

 従来法では枝を落としたキャッサバの主茎(80〜100センチメートル程度)を50本程度に束ねたものを日陰に直立させ、定期的にかん水しながら土壌の上で保管する(写真3)。植え付け時期にそれらの主茎を5〜7の節が含まれるよう20〜25センチメートル程度に裁断することで苗を得る。苗は直接圃場に定植され、1週間程度で出芽および発根するが、この方法で得られる苗用の茎は主茎1本当たり4〜5本である。
 
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 ]20法は、主茎1本から得られる苗を20本に増産する技術である(図16)。2節が含まれるよう細かく裁断した茎を薬剤に10分程度浸漬し、乾燥させたのち、50穴(5×10)のセルトレイに挿していく(写真4)。セルトレイの培土は、もみ殻、ココナッツ繊維、フィルターケーキ(注2)を1:1:1の比率で混合したものが推奨されている。セルトレイは病虫害防止のため温室内に移動し、毎日かん水を実施すると1週間程度で出芽および発根し、1カ月後には根が十分に成長する。その後、野外で15日間の順化処理をした後、圃場に定植される。同方法は1カ月で20本の苗が得られることから、従来法と比較して苗生産の効率が飛躍的に向上する。

 (注2)製糖副産物でサトウキビの搾り汁をろ過した後に残る沈殿物。TTDIのあるナコンラチャシマ県ではサトウキビ生産も盛んであり、製糖工場も点在する。



 
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 ここで、主茎から裁断した2節苗を従来法のように直接圃場に植え付ければ、より苗生産を最適化できるのではないかという疑問が生じるが、TTDIによると、2節苗は従来法の苗に比べて茎が短いことから、苗に含まれる養分も少なくなり、その結果、植え付け後に生育不良が生じるとされている。そのため、]20法では上述のセルトレイ育苗が必須であることに加え、定植後は点滴かんがいシステムの導入が推奨される。

 ]80法は]20法を応用した技術であり、]20法で生産した苗の地上部をカットし、その地上部を別のセルトレイに挿し木して育苗する。カットしたところから新たに出芽する。これを4回繰り返すことで、20本×4回=80本の苗を効率よく生産することができる。

 ]20法や]80法は、資材の入手や生産方法が比較的簡易であり、従来法と比較しても短期間でより多くの苗を増産できることから、非常に効率的な苗の増産方法である。また、植え付け適期苗を生産できることから、CMDの感染拡大により不足する健全苗の生産を支える新しい技術であり、TTDIや農業普及局は同法での育苗を工場や生産者に推奨している。

おわりに

 CMDの感染拡大はタイでのキャッサバ生産に多大な影響を及ぼし、現在もその被害は続いている。そのような中、CMD抵抗性品種の開発と供給は、日々CMDの感染と隣り合わせにある生産現場に希望を与え、タイのキャッサバ生産を再び向上させる大きなきっかけになっていくとみられる。しかし、CMD抵抗性品種の生産メリットなど生産現場に一定の理解は得られているものの、キャッサバの生産コストの上昇や所得補償制度がない中で、単収が普及種と比較して少ないことは、今後の課題として残っている。生産者の生産意欲を刺激し、同品種の普及を実現していくためにも、官民連携での取り組みが求められる。

 輸出依存型のキャッサバ生産とその多くを中国への輸出に依存するタイのキャッサバ産業にとって、近年の中国の需要減少は痛手であるものの、CMDへの対応が軌道に乗ることで、キャッサバ生産が安定すれば、同国は今後もキャッサバ製品の主要輸出国としてあり続けると考えられる。

 後編(2025年11月号掲載予定)では、同国のキャッサバに関する貿易動向や付加価値の高いワキシータピオカでん粉の開発などについてその状況を報告し、今後のキャッサバ産業について考察する。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272