かんしょ生産を省力化!「改良型サツマイモ挿苗機」の開発
最終更新日:2026年2月10日
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かんしょ生産を省力化!「改良型サツマイモ挿苗機」の開発
2026年2月
【要約】
鹿児島県のかんしょ栽培は、農家戸数の急減やサツマイモ基腐病(以下「基腐病」という)被害の拡大を背景に縮小傾向にあり、特に植え付け作業の省力化が課題となっている。そこで、植え付け精度と操作性を改善した改良型挿苗機を開発し、その性能を検証した。その結果、作業時間の大幅短縮、苗形状のばらつきに対する高い植え付け精度、収量性の向上が確認された。本機は、かんしょ栽培における省力・軽労化技術として有効である。
はじめに
鹿児島県のかんしょは収穫量が全国一位であり、青果用、加工用、原料用(焼酎、でん粉用)など幅広い用途に利用され、地域産業を支える重要な作物である。栽培面積は、平成22年産の1万4300ヘクタールから令和6年産には9490ヘクタールへと、14年間で約34%減少した。一方、栽培農家戸数は、平成22年産には約1万6000戸であったものが、令和6年産には約6300戸に減少しており、約60%の下げ幅で栽培面積以上に急速に減少している。栽培農家戸数の減少が加速度的であるのに比べ、栽培面積の減少は緩やかであることから、担い手農家への集約による農家1戸当たりの規模拡大が進んでいることが示唆される(図1)。
1 かんしょ栽培の現状
(1)かんしょ栽培の労働時間
青果用かんしょと比較して労働負担が小さいとされる原料用かんしょにおける10アール当たりの労働時間を見ると、合計で56.9時間を要している。その内訳は、収穫作業が20.5時間と最も多く、全体の36%を占めている。次いで植え付け作業が15.3時間で27%を占めており、この両作業だけで労働時間の6割以上を占有している。すなわち、原料用かんしょ生産における労働負担は、収穫および植え付けという特定の工程に集中している(図2)。
(2)かんしょ栽培の機械化
かんしょ栽培における機械化は、これまで生産現場において、重労働作業となる畝立てを中心に進展しており、乗用トラクタに装着可能な畝立機や、複数タイプの収穫機の実用化により、これらの作業工程における労働負担は大幅に軽減された。
一方で、植え付け作業については、現在においても手作業に依存する割合が高く、機械化の遅れが顕著である(写真1)。また、かんしょ栽培全体の作業体系を見ると、植え付け工程が省力化および規模拡大を阻害する要因として残されており、労働力不足が深刻化する中、経営規模の拡大に対応していくためには、植え付け作業を中心としたさらなる機械化の推進が不可欠である。
2 改良型サツマイモ挿苗機の開発経緯
かんしょの植え付け機はこれまでも開発されており、平成15年に販売が開始された既存のかんしょ挿苗機(以下「現行型挿苗機」という)は、約600台が現地へ導入されたが、その多くは数年間使用され、その後は稼働率が低い状況にあった。このため、現行型挿苗機の課題を抽出するため農家の実態を調査した。その結果、従来の手植え用の苗生産と同様の育苗が行われ、現行挿苗機での対応が難しい「曲がり苗」などが欠株の要因となっていたことが判明した。さらに、現行型挿苗機は、植え付け時の姿勢制御が困難なことや、各種機構の不具合により植え付け精度が低下していること、欠株の発生により普及拡大に至っていないことが判明した(図3)。
そこで、植え付け精度および操作性の向上を目的として、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下「農研機構」という)九州沖縄農業研究センターおよび井関農機株式会社などと共同で、新たな機構を付加した改良型挿苗機を開発した。なお、本研究は、「戦略的プロジェクト研究推進事業」の「青果用かんしょの省力機械移植栽培体系の確立」(JP18065031、2018〜2022年度)の一環として実施した。
3 開発した改良型挿苗機の概要
(1)作業方式および操作体系
改良型挿苗機による植え付け作業では、機体前方に配置されたガイドローラが畝を把持し、畝に沿って自動的に走行する構造となっている。このため、機体操作と苗供給を1人で同時に行うことが可能である(写真2)。
作業者は、機体を前進させながら苗搬送ベルトのブラシ部に苗を挟み込むことで苗を供給する(写真3)。供給された苗は、ベルトにより機体下方へ順次搬送され、挟持式植え付け爪によって把持された後、所定位置の畝内へ挿苗される。
(2)挿苗・活着促進機構
本機は苗の活着促進を目的としてかん水機構を備えており、挿苗と同時に植え付け爪先端から1株当たり最大20ミリリットルのかん水が行われる。
さらに、挿苗後には鎮圧ローラによって表土を軽く鎮圧する構造となっており、苗と土壌の密着性を高めることで活着の安定化を図っている(写真4)。
(3)マルチ栽培への対応
マルチ栽培においては、植え付け爪がマルチ資材を直接突き破って挿苗を行う構造であるため、人力植えで必要とされる事前の穴開け作業が不要となっている(写真5)。このことから、マルチ栽培における植え付け作業の省力化が期待できる。
(4)植え付け仕様および調節機能
本機には、苗の植え付け姿勢の違いにより、船底植え仕様(主に青果用)および斜め植え仕様(主に原料用)の2仕様が用意されている。
いずれも1条植え方式であり、株間は船底植え仕様で6段階(30〜48センチメートル)、斜め植え仕様で9段階(25〜50センチメートル)の調節が可能である。これにより、植え付け時期や用途に応じた株間の選択が可能となっている(表1)。
4 現行型挿苗機からの改良点
現行型挿苗機に対して実施した主な改良点およびそれに伴う改善効果は、以下の通りである(写真6)。
(1)機体昇降機構の改良
圃場条件に応じた機体姿勢の調整を容易にするため、前後輪が連動して昇降する機構へ変更した。これにより、簡易な操作で機体姿勢の調整が可能となり、作業性の向上が図られた。
(2)苗挟持・搬送機構の改良
苗の姿勢を維持したまま安定して植え付け部まで搬送できるよう、苗挟持ブラシの保持力を強化した。これにより、搬送中の苗のずれや姿勢変化を抑制し、安定した植え付け動作が可能となった。
(3)苗連れ出し防止機構の付加
植え付け爪による挿苗時に発生する苗の引き抜きや連れ出しを防止するため、苗連れ出し防止装置を新たに付加した。本機構により、植え付け爪作動時の苗の不要な移動が抑制され、植え付け精度の向上が図られた。
(4)苗分離機構の改善
搬送ベルトからの苗離れを改善し、連続欠株の発生を防止するため、苗分離バーの形状および取り付け位置を変更した。これにより、苗の分離性が向上し、連続した安定植え付けが可能となった。
(5)植え付け爪動作位置の最適化
苗の把持不良(苗つかみミス)を低減するため、植え付け爪の停止位置を見直し、最適な位置に変更した。これにより、苗把持の確実性が向上し、植え付け不良の発生抑制が図られた。
(6)かん水機構の薬剤対応化
かん水時に薬剤を使用する作業にも対応できるよう、かん水ポンプを薬剤耐性素材へ変更した。これにより、薬液使用時の耐久性および信頼性が向上し、作業の多用途化が可能となった。
5 改良型挿苗機の性能
改良した効果を検証するため、品種「べにはるか」の苗(主茎長約25センチメートル、全長40センチメートル以下に調製)を供試し、作業時間および植え付け精度について、人力植えおよび現行型挿苗機との比較試験を行った。
(1)挿苗機の作業能率
植え付け作業時間は、作業者1人条件において、人力植えの10アール当たり6.8時間に対し、挿苗機では同2.2時間で、挿苗機は人力植えと比較して作業時間を約3分の1に短縮した(図4)。また、3月中旬から6月中旬までの稼働期間を想定した場合、本挿苗機の作業可能面積は最大約12ヘクタールと試算された(データ略)。
(2)挿苗機の植え付け精度
植え付け精度については、現行型挿苗機では植え付けが困難であった基部曲がり角度40度以上の苗(写真7)に対しても、苗挟持ブラシおよび苗分離バーの形状変更により、正常植え率は93.2%を示し、現行型挿苗機の85.5%を上回った(表2、図5)。これらの結果から、苗形状のばらつきに対する植え付け性能の向上が確認された。
(3)挿苗機植え付けにおける収量性
上いも収量は、3年間平均で改良型挿苗機が1アール当たり220キログラム、現行型挿苗機が同195キログラム、人力植えが同199キログラムであった(表3)。改良型挿苗機において認められた増収については、かん水機構や新たに導入した苗連れ出し防止装置により苗の活着が向上し、その結果として1株当たりのいも数が増加した可能性が考えられた。
以上の試験成果を基に、農研機構九州沖縄農業研究センターを中心に、「かんしょの省力機械移植栽培体系マニュアル」(令和5年3月)が作成された。本マニュアルでは、本挿苗機の特徴に加え、青果用かんしょを対象とした育苗から本圃植え付け作業までの機械化による省力・軽労化栽培体系が整理されている(図6)。
おわりに
鹿児島県におけるかんしょ栽培面積は、基腐病の発生などの影響から縮小傾向にあったが、各種施策の支援や防除対策の徹底により、基腐病の影響は小さくなってきている。
原料用かんしょについては、今回紹介した改良型挿苗機を用いることで、さらなる生産の効率化が図られると見込まれる。また、青果用については、輸出品目として重点的に取り組まれており、今後さらに大規模化が進むと考えられる。このような状況を踏まえ、鹿児島県では「キバレ!さつまのさつまいも(試練を超えて、次のステージへ)」をキャッチフレーズに増産に向けた取り組みを推進している。当センターでは、今後も軽労化・省力化技術の開発を通じて、生産量確保や規模拡大による収益向上の支援につとめてまいりたい。
【参考文献】
1)農林水産省「作物統計」、「農業経営統計調査」
2)みどりの食料システム戦略実現技術開発・実証事業青果用かんしょ省力コンソーシアム「かんしょの省力機械移植栽培体系マニュアル(令和5年3月)」国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構ホームページ
〈https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/kind-pamph/160377.html〉
3)鹿児島県さつまいも・でん粉対策協議会(2025)「鹿児島県における令和6年産でん粉原料用さつまいもの生産状況などについて」『砂糖類・でん粉情報』2025年11月号、独立行政法人農畜産業振興機構
4)鹿児島県農政部「サツマイモ基腐病対策に関する情報」鹿児島県ホームページ〈https://www.pref.kagoshima.jp/sangyo-rodo/nogyo/motogusare/index.html〉
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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