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alicセミナー:米国のアニマルウェルフェアをめぐる情勢と業界団体における取り組み

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最終更新日:2025年10月6日
広報webマガジン「alic」2025年10月号
 alicは2025年8月28日(木)〜9月30日(火)、(独)日本貿易振興機構(ジェトロ)ニューヨーク事務所の中島勝紘氏によるalicセミナー「米国のアニマルウェルフェアをめぐる情勢と業界団体における取り組み」を、alicチャンネル(YouTube)にて配信しましたので、その概要をご案内します。

1 米国におけるAWに関する政策の概要・運用

(1)連邦政府におけるAWの制度運用

 米国は連邦制を採用しており、アニマルウェルフェア(AW)に関する制度は、国全体で共通して適用される「連邦法」および各州が独自に定める「州法」によって運用されています。
 AWに関連する連邦法には、家畜の輸送時の取り扱いを規定する「28時間法」や、と畜場における家畜の取り扱い方法を定めた「家畜の人道的と畜法」などがあり、複数の関連法が整備されています。
 一方で、家畜・家きんの生産段階における取り扱いについては、連邦法による統一的な規制が存在せず、州法や業界基準に委ねられています。
 
<講演資料抜粋>

(2)各州政府による規制

 米国においては州の自治権が強く、州内で流通する食品に対しては、連邦法よりも厳しい規制を設けることが可能です。家畜・家きんの生産段階における取り扱い方法について、連邦政府による統一的な規制が存在しない中、各州は独自の州法に基づき規制を行っています。
 2025年1月時点で、15州が家畜の飼養方法に関する州法を定めています。特に豚や採卵鶏の飼養環境に対する関心が高く、妊娠ストールやバタリーケージの使用を制限・禁止するなど、動物が自由に動ける環境の確保を重視した内容が中心です。こうした法整備は、人口の多い大消費地を抱える州を中心に進められています。
 
<講演資料抜粋>
<妊娠ストールに収容される母豚(写真左)、採卵鶏のバタリーケージでの飼養(写真右)>
 代表的な州法としては、カリフォルニア州の「プロポジション12(Prop12)」が挙げられます。この法律では、豚の飼養方法について、1頭当たり少なくとも24平方フィートの飼養面積を確保することなどが義務付けられています。また、州外で生産された豚肉であっても、この基準を満たさない場合には、カリフォルニア州内での販売が禁止されるため、同州に豚肉を供給する全米の生産者にも広く影響が及んでいます。

 全米豚肉生産者協会(NPPC)、米国農業局連合(AFBF)、北米食肉協会(NAMI)などの業界団体は、同州法の制定が違憲であるとして提訴しましたが、連邦最最高裁判所はこの主張を退け、同州法は2024年1月1日から施行され、現在に至っています。
 

2 生産団体による受け止めと対応

 生産者および生産者団体は、AWに関する規制強化に伴うコストの増加や流通の混乱への懸念から、抗議活動や連邦政府などへのロビー活動を積極的に展開してきました。一方で、業界全体としては、統一的な見解や科学的な知見に基づく基準・ガイドラインの整備が求められるようになり、生産段階における家畜の適切な取り扱いを定めた基準やガイドライン、認証プログラムなどの導入が進められています。

 ここでは、生産者団体による認証プログラムなどを紹介します。

(1)牛肉品質保証プログラム(BQA)

 牛肉品質保証プログラム(BQA)は、全米肉用牛生産者・牛肉協会(NCBA)が策定したもので、AWに加え、労働者の安全や環境への配慮を含め、牛が健康かつ安全に飼養されていることを消費者に保証することを目的としています。 このプログラムの財源を拠出している肉用牛生産者牛肉振興調査ボード(チェックオフ団体)によれば、BQA認証を受けた生産者は20万人を超え、認証生産者によって供給される牛肉は米国産牛肉の85%以上を占めるとされています。
<講演資料抜粋>

(2)生産者保証責任管理(FARM)アニマルケア・プログラム

 酪農業界でも、AWに配慮した取り組みとして「生産者保証責任管理(FARM)アニマルケア・プログラム」が導入されています。本プログラムでは、従業員への継続的な教育、飼養施設の管理、牛の健康管理、抗生剤の使用、離乳前子牛の管理など、幅広い項目にわたって基準や目安が示されています。 業界団体によると、現在、米国の生乳供給量の99%以上が、このプログラムに参加している農場から供給されているとしています。
<講演資料抜粋>

(3)豚肉品質保証プログラム(PQA)および輸送品質保証プログラム(TQA)

 養豚業界においては、チェックオフ団体である全米豚肉委員会(NPB)および全米豚肉生産者協議会(NPPC)が、業界全体を主導しています。各州の豚肉生産者協議会は、「ウィー・ケア」という取り組みの中で、AWを重要な柱の一つとして位置づけ、豚肉品質保証プログラム(PQA)および輸送品質保証プログラム(TQA)を通じて、豚の適切な取り扱いに関する普及活動を展開しています。同団体によると、現在、PQA認証を受けた生産者は7万者を超えており、PQA認証を有する生産者によって生産される豚肉は、米国内の豚肉生産量の85%以上を占めているとしています。
 
<講演資料抜粋>

3 消費への影響と消費者の受け止め

  2021年に米国で実施されたアンケート調査によると、食肉購入の際に消費者が重視するのは「品質(85%)」と「食味(84%)」であり、「AW」は「環境への配慮(29%)」に次いで28%の消費者が重要と回答しました。この報告では、「食肉消費量を減らす重要な要素」は「健康」と「価格」であり、「環境への配慮」や「AW」は主要な要素ではないとしています。
 一方、米国食肉業界団体が発行する報告書「パワー・オブ・ミート」によると、約4割の消費者が「小売店で販売される食肉は人道的に飼育されたもの」と信頼しているとしていますが、報告書では同時に飼育方法や調達基準の透明性が求められていることが示唆されています。
 このことから、AWや環境配慮は、消費者の購買意欲には直接的に影響を与える要素ではないものの、店頭での商品選択時の判断材料としては一定の影響力があると考えられます。
 
<講演資料抜粋>

4 今後の展望・まとめ

 米国のAWをめぐる規制は、今後も各州独自の州法が策定される動きが続くと考えられます。これまでAWに関する規制を設けていなかった州での新たな法整備に加え、既に州法が存在する州においても追加的な規制の導入が進む可能性があります。
 一方で、カリフォルニア州のProp12のように、州外で生産された食肉に対しても州内販売の条件を課す規制は、米国内の生産現場にとどまらず、米国向けに食肉を輸出する諸外国にも広く影響を及ぼしています。
 これにより、食肉の生産コストが上昇し、価格にも反映されるなど、経済的な影響も顕在化しています。こうした状況を受けて、生産者団体や業界団体によるロビー活動が活発化しており、次期農業法案(Farm Bill)の審議に向けて、連邦議会や連邦政府への働きかけが強まっています。
 引き続き、州単位でのAW規制強化が断続的に進むと考えられますが、今後、連邦政府によるAW関連政策の議論や調整が一層活発化することが予想されます。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 総務部 (担当:総務広報課)
Tel:03-3583-8196