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さつまいもでん粉を使った冷麺の開発

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最終更新日:2010年3月6日

でん粉情報

[2008年7月]

【生産地から】

鹿児島県農産物加工研究指導センター

はじめに

  さつまいもは台風や干ばつなどの自然災害に強く、ほふく性のつるで地面を覆い大雨などから土壌の流亡を防ぐ働きなどを持つことから長年にわたり栽培されている夏季の主要作物である。
  さつまいもの用途は、現在、焼酎原料用とでん粉原料用がそれぞれ40%程度であるが、平成15年度頃までは約60%がでん粉原料用であった。
  製造されたさつまいもでん粉は、ほとんどが糖化原料用として取引され、一般の食品向けには約20%程度しか利用されていない状況であり、国の制度下で取引されるさつまいもでん粉の品質向上や価格引き下げなどに関するユーザーの声も多くなっていた。
  鹿児島県農産物加工研究指導センターではさつまいもでん粉の食品用途の開発・拡大を目指し、品種別でん粉特性の研究、新たなでん粉製造法の検討およびさつまいもでん粉を用いた新規食品の開発に関する検討を進めていた。
  このような中、当センターでは平成7年度よりでん粉を利用した麺である冷麺に着目し、さつまいもでん粉を利用した冷麺の開発に着手した。
  冷麺は朝鮮半島の食品であるが、国内では岩手県で盛岡冷麺として特産品化されている。この冷麺はばれいしょでん粉と小麦を原料としており、非常に弾力性が強い特徴の麺であり、様々な製法で製造が行われている。
  本稿ではさつまいもでん粉を用いた冷麺製造に最適な製造法について検討した結果を紹介する。


1.麺の製造法および製造条件の比較検討

 冷麺の製造法には、小麦粉とでん粉を混合し加水、蒸気を吹き込みながら練りを加えた後、押し出して麺線を形成する押し出し法やあらかじめ糊にしたでん粉に小麦粉を混ぜて麺生地を形成、蒸気加熱を経て冷蔵後、麺線を形成する混練法などがある。
  今回は、押し出し法として一軸エクストルーダーと二軸エクストルーダーを用いた製造法および混練法の3つについて、それぞれ製造条件を変えて製造し、麺の物性比較を行った。


(1)製造方法の特徴


(1) 一軸エクストルーダーを用いた製法―連続生産が可能―
  今回の製法は韓国や岩手県で製造されている冷麺の製造法を一部改変したものである。具体的には、原料となるでん粉と小麦粉を混合し水分37%となるように加水した後、蒸練機(蒸気を吹き込みながら練る機械(写真1))で生地を練り上げる。練り上げた生地を一軸エクストルーダー(写真2)で押し出し麺線を形成し、切断後冷却して製品とする方法である(図1)。この方法は、連続して製造が可能なため大量生産に適する方法である。


写真1 蒸練機
写真2 一軸エクストルーダー
図1 一軸エクストルーダーを用いた麺製造のフロー

(2) 二軸エクストルーダーを用いた製法―1台で短時間の製造が可能―
  二軸エクストルーダー(写真3)は、パスタ、スナック菓子、大豆たんぱくを用いた人工肉など、さまざまな食品の製造にも用いられる機械であり、粉砕、混合、混練、加熱、加圧、殺菌、冷却、脱水、押し出し、成形など、いくつかの機能を短時間で同時に1台の機械で行うことができるため、冷麺製造の効率化や大量生産に適する方法であると考えられるが、これまでは実用化については検討されていなかったため、今回検討することとした。製造工程は図2のとおり。


写真3 二軸エクストルーダー

図2 二軸エクストルーダーを用いた麺製造のフロー

(3) 混練法―一般的な製造方法―
  混練法は、うどんや中華麺などの一般の麺製造に用いられる設備で製造可能な方法であり、大量生産から少量生産まで適用できる製造法である。具体的にはでん粉に水を加え、万能かく拌機(写真4)で糊(キャリア糊)を作り、小麦粉を加えてニーダー(製麺機、写真5)で混練して生地を形成し、これを熟成後ロールで延ばし厚みと形を整え、蒸煮する。この状態では柔らかくて切断できないため、冷蔵庫で老化させ切りやすい硬さに調整後、麺線状に切断する(図3)。


写真4 万能かく拌機
写真5 ニーダー(製麺機)

図3 混練法を用いた麺製造のフロー

(2)試験方法

ア 製造条件

(1) 一軸エクストルーダーによる製造
  図1の製造フローに従い、表1の条件で、加水量とスクリュー回転数を変化させて製造し、麺の物性等について検討した。一軸エクストルーダーは、富士鉄鋼所製(受注生産品)を用いた。


表1 原料の配合割合などの組合せ

(2) 二軸エクストルーダーによる製造
  二軸エクストルーダーのスクリューの組み合わせを表2、スクリューの回転数バレル(内部でスクリューが回転する金属製のトンネル)温度を表3のように設定し、麺を製造した。麺の形成には冷却ダイ20穴、直径1mmを使用した。なお、二軸エクストルーダーは、日本製鋼所製TEX30F―20BW―Vを用いた。


表2 エクストルーダーのスクリューパターン
スクリューの形状:T:台形スクリュー(搬送力が高い),B:ボールスクリュー(粘性の高い原料処理に適する)
ピッチ:分子が小さいほどスクリューの幅が狭く,そこで長く保持される。
送り: F(フォワード):原料を順送りする

(3) 混練法による製造
  図3の製造フローに従い、生地の熟成時間を0分および30分、生地の蒸し時間を0〜20分まで変化させ麺を製造した。

表3 エクストルーダー押し出し条件

イ 麺の評価方法

(1) 麺の物性評価
  沸騰水で2分間煮た麺を冷水で冷却後、オリエンテック社製テンシロンメーターを用い、型プランジャーの圧縮速度200mm/分の条件でそしゃく試験を行い、硬さおよび凝集性を測定した。
  また、引っ張り強度は、同じテンシロンメーターを用い、引っ張り速度100mm/分の条件で引っ張り試験を行い測定した。

(2) 煮溶け
  麺5グラムを200mlの沸騰水中で2分間ゆで、煮汁をろ過、ろ液を塩酸加水分解、中和後ソモジ―ネルソン法で総還元糖量を定量し、0.9を乗じて溶出でん粉量として示した。


2.試験結果および考察


(1)麺の硬さの評価(表4)

(1) 一軸エクストルーダー
  麺の噛みごたえの指標となる硬さについて測定した。
  麺の硬さは、一軸エクストルーダーの場合、回転数が多いと硬くなる傾向があった。回転数が遅い場合、一軸エクストルーダー内での麺生地の滞留時間が長くでん粉の糊化が進むため麺が柔らかくなり、回転が速いと硬い麺になるものと考えられた。
  また、加水量を多くすると麺の硬さの増加傾向は顕著となった。

(2) 二軸エクストルーダー
  麺の硬さは、出口バレル温度を一定としスクリュー回転数を変化させた場合、回転が速いほど柔らかくなる傾向があった。スクリューの回転が速いとエクストルーダー内部で、でん粉に強いせん断力が加わりでん粉の損傷が多くなり、差が生じたものと考えられた。
  また、スクリュー回転数を一定とし、出口バレル温度を変化させたさせた場合、バレル温度が高いほど麺は柔らかくなる傾向があった。

(3) 混練法
  麺の硬さは、生地を熟成しない場合は蒸煮時間が長くなるほど硬くなる傾向があった。また、生地を混練後30分間熟成すると熟成しないものと比べて柔らかくなる傾向があったが、蒸煮時間を変えた時の硬さには差がなかった。

硬さを評価して
  三種類の方法で製造した麺の硬さをそれぞれ比較した場合、一軸および二軸エクストルーダーで製造した麺は、混練法で製造した麺より硬かった。食味評価した場合、混練法は、押し出し法と比較すると非常に柔らかく‘こし’が感じられなかった。


表4 製造法および異なる条件で製造した麺の硬さ

(2)麺の弾力の評価(表5)

 麺の弾力に関係する凝集性と伸長度について測定した。凝集性は麺を噛んだときの復元性を、伸長度は麺を引っ張ったときの伸びを示す尺度である。

(1) 一軸エクストルーダー
  麺の凝集性は、加水量を変化させると高くなる傾向にあり、加水量を一定量とした場合エクストルーダーの回転が遅いと麺の凝集性が高く伸長度が大きくなる傾向がみられた。

(2) 二軸エクストルーダー
  バレル温度を一定としスクリュー回転数を変化させると回転数が遅いほど麺の凝集性、伸長度が高くなり麺の弾力は増す傾向があった。
  また、スクリュー回転数を一定とし、出口バレル温度を変化させた場合、バレル温度が高くなるほど凝集性、伸長度とも増加する傾向にあった。

(3) 混練法
  麺の凝集性は蒸し時間、熟成時間との間にほとんど差は見られなかった。また、麺の伸長度は熟成させた麺の伸長度が高い傾向にあった。これは熟成させることにより小麦粉のグルテンの網目構造の形性が進んだためと考えられ、押し出し法よりも伸びが大きい麺となった。

弾力性を評価して
  三種類の方法で製造した麺の弾力性を比較した場合、麺の凝集性は二軸エクストルーダーで高く、一軸エクストルーダーと混練法では測定数値の差は認められなかった。
  また、麺の伸長度は、混練法で非常に高く伸びの良い麺が製造できた。逆に、二軸エクストルーダーで製造したものは伸長度が低く切れやすいものであり、一軸エクストルダ−で製造したものは両者の中間的な値を示した。


表5 製造法および異なる条件で製造した麺の弾力

(3)麺の煮溶けの評価(表6)

(1)一軸エクストルーダー
  麺のべたつきの指標として煮溶け量を測定した。
  スクリューの回転数を変化させて製造した麺の煮溶けについて比較すると加水量が多い条件下では回転が遅いと煮溶けが多い傾向が観察された。

(2)二軸エクストルーダー
  温度を一定にしてスクリューの回転数を変化させた場合、回転数が遅いほど煮溶けは少なく、回転数を一定にし出口バレル温度を変化させた場合は出口バレル温度が高いと煮溶けが少ない傾向があった。

(3)混練法
  麺の煮溶けは熟成しない麺では蒸煮時間が長くなるにつれて少なくなり、熟成工程を経たものでは蒸煮時間が長くなるにつれて多くなる傾向にあった。

煮溶けを評価して
  三種類の方法で製造した麺の煮溶けを比較すると混練法で製造した麺の煮溶けが最も少なく、二軸エクストルーダーで製造した麺の煮溶けが最も多かった。
  これは、混練法や一軸エクストルーダーでは、加工処理時に大きなせん断力が加わらないのに対して、二軸エクストルーダーでは処理時に大きなせん断力がでん粉にかかり損傷したためと推察した。


表6 製造法および異なる条件で製造した麺の煮溶け

おわりに

  三種類の方法で製造した麺の総合評価を表7に示した。
  硬さの点から見ると一軸エクストルーダーおよび二軸エクストルーダーを用いたものが硬い食感を与え、混練法では非常に柔らかい食感を与えるものができた。
  また、弾力の面から見ると一軸エクストルーダーおよび混練法で製造したものが凝集性、伸長度とも高く数値的には弾力性があると評価されたが混練法で製造した麺は極端に柔らかいため、冷麺として評価は低く、一軸エクストルーダーで製造した麺の評価が最も高かった。一方、二軸エクストルーダーで製造した麺は麺の噛みごたえはあるものの伸びが少なく切れやすい麺であるため評価は低かった。
  麺のべたつきの指標となる煮溶けの点から見ると混練法がやや煮溶けが少なかったものの一軸エクストルーダーで製造したものとの差は小さく、麺のべたつきは少なかった。
  以上の結果を総合して、今回用いた条件下では一軸エクストルーダーを用いて製造した麺が最も評価が高かった。
  一軸エクストルーダーで製造した麺は、ばれいしょでん粉を用いて製造した麺よりもソフトなゴム感があり、食べやすい麺であったため、この製造法などについて鹿児島県内の企業に紹介した。
  本技術を活用した製品は、県内企業により商品化され、平成16年から鹿児島県の土産品として販売されている。


表7 異なる方法で製造された麺の評価
麺の評価 ◎:かなり良い、○:良い、△やや劣る、×:劣る