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さつまいも挿苗機の開発・改良

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最終更新日:2010年3月6日

でん粉情報

[2009年1月]

【生産地から】

鹿児島県農業開発総合センター・大隅支場


1 はじめに

 鹿児島県のさつまいも栽培面積は、約14,000ヘクタール(以下,ha)である。全作業の労働時間は機械開発と導入が進み、でん粉用さつまいも栽培で10アール(以下、a)当たり慣行体系51時間、省力化体系27時間まで24時間の省力化が図られている。多くの作業項目のなかで、植え付け作業は唯一機械開発が立ち遅れ、生産者は長時間の重労働を強いられていたが、当支場では、近年、挿苗栽培条件に適し、植え付け作業の省力・軽作業化をねらいとした植え付け機(挿苗機)を民間企業と共同で開発・改良した。

 本稿では現在、県内で250台程度が稼働し、普及が進みつつあるさつまいも挿苗機の特徴などについて紹介する。


2 開発したさつまいも挿苗機の特徴

 開発機は、慣行苗を人力供給するさつまいも専用植え付け機で、手放し走行のための畦ガイドロ−ラ部、苗載せ台、苗供給部(苗ホルダとベルト式苗搬送)、植え付け部(挟持式植え付け爪)、鎮圧部(植え付け爪連動鎮圧輪)などから構成される。株間・植え付け深さ・機体傾斜調節装置などが装備され、植え付けは1人作業が可能である(写真1)。苗の植え付け姿勢により、船底植え・斜め植え仕様の2型式がある。


写真1 さつまいも挿苗機作業の様子

 植え付け精度は苗に左右され、正常植え付け率は茎長20〜30センチメートル、全長30〜45センチメートル程度の苗の場合で95%以上と良好である。苗曲がりへの適応性は、苗基部の曲がり角度0〜40度で95%以上、41〜60度で93〜96%、61度以上で90%以下となり、曲がりが大きくなると植え付け精度は低下する(表1)。


表1 植え付け精度

 作業能率は栽植様式で異なり、10a当たり青果用で2.2時間、加工用で1.9時間、でん粉用で1.5〜1.7時間であり、人力作業に比べ4〜5倍の能率向上が図られる(表2)。


表2 作業能率


 挿苗機の4月上旬から6月中旬の作業可能面積は、青果用7.6ha、加工用8.5ha、でん粉用10.4haである(表4)。機械導入の損益分岐点は青果用3ha、加工用4ha、でん粉用5ha程度である。


3 挿苗機植え付けに適した苗生産技術

 挿苗機の作業性能は、苗の性状(曲がり、長さなど)に左右されることから、機械に適した苗生産技術の開発が重要な課題である。挿苗機適応性の高い苗生産技術の確立を図るため、種いも伏せ込み方法と苗床構造などについて検討したので紹介する。

(1) 種いも伏せ込み密度は、疎植にすると苗が倒伏し、曲がり苗や、葉柄が一方向に出た苗が多く発生するのでやや密にして伏せ込む(コガネセンガン:1平方メートル当たり25個程度)。


(2) 種いも頂部をカットして縦(垂直方向)に伏せ込むことにより、萌芽揃いが4日程度早まり、苗の揃いが良い(写真2)。


写真2 種いもの伏せ込み方法

(3) スプリンクラーなどによる頭上かん水ではなくかん水チューブなどによる地表面かん水を行うことで、苗の倒伏による曲がり苗や葉柄が一方向に出た苗の発生が少なくなり、挿苗機適応苗の割合が高くなる(写真3)。


写真3 かん水チューブによるかん水

(4) 苗床側面に畔波シートなどの倒伏防止対策を行うことで、苗曲がり約40度以上の曲がり苗の発生が防止され、挿苗機適応苗の割合が高くなる(写真4、図1)。


写真4 畦波シートによる倒伏防止

図1 種いも伏せ込み・かん水方法・倒伏防止の違いによる挿苗機適応苗採苗本数

 以上の種いも伏せ込み・かん水・倒伏防止を組み合わせることにより、挿苗機適応苗の採苗本数は増加する。挿苗機植え付けに適さない苗は採苗時に取り除き、枕地などの人力植えに使用するとよい。

 なお、採苗後の苗取り置きは縦置きすると苗基部曲がりの原因となるため、横置きが望ましい(写真5)。


写真5 挿苗機用苗取り置き法

4 挿苗機植え付けに適した活着安定技術

 さつまいもの活着は植え付け後の気象(降雨)条件に左右されるため、植え付けは朝夕、曇天、降雨前、小雨中などの限られた短期間に行われてきた。このため、適期植え付けや規模拡大、開発した挿苗機の効率利用などが課題となっていた。今回、さつまいも挿苗機の植え付けと同時にかん水を行い、晴天日でも植え付け可能な活着安定技術を開発したので紹介する。

 本機は、前述したさつまいも挿苗機にピストンポンプ、ポリタンク、吐出ノズル(植え付け爪兼用)を装備し、植え付けと同時に植え付け爪先端から株当たり23ccを苗基部周囲にかん水する機構である(写真6、7)。


写真6 ポンプ部
写真7 吐出としゅつ ノズル

 晴天が続く条件下での慣行(かん水無し)の活着率は90%前後であるが、植え付けと同時にかん水することにより98%程度に向上し、欠株補植の必要はなかった。また、挿苗後の苗傷みが少なく、発根が早いことから初期生育は良好で、上いも収量、個数の増加につながる(表3、写真8)。


表3 挿苗後晴天日数の違いとかん水の有無による活着状況
注) 挿苗時土壌含水比(植え付け部):48〜55%、活着率:100〜200株調査
調査日:生育調査:H20.6.5(H20.4.24〜4.28挿苗)、H20.6.18(H20.5.13挿苗)、
収量調査:H20.9.4(H20.4.24〜4.28挿苗)、H20.9.17(H20.4.28〜5.13挿苗)
上いも収量:10株×2カ所、株当たり収量×315本/a×活着率

写真8 かん水の有無による初期生育の差

 植え付け同時かん水を行うことにより晴天時の挿苗が可能となることから、さつまいも挿苗機の4月上旬から6月中旬の作業可能面積は、青果用さつまいもで14.7ha、加工用さつまいもで16.4ha、でん粉用さつまいもで20haと慣行のかん水無しに比べ約2倍に拡大される(表4)。


表4 かん水装置付さつまいも挿苗機の作業可能面
注) 挿苗可能日(小雨:10mm/日以下の雨、大雨:10mm/日以上の雨、翌日雨:午後3時以降植え付け可)
挿苗可能作業時間:挿苗期間(4月上旬〜6月中旬)の過去10年(平成10年〜19年)の平均

5 最後に

 さつまいも挿苗機の開発により植え付け作業の省力・軽作業化が図られつつあるが、大規模経営体などからはさらなる高能率化が望まれており、「新たなさつまいも挿苗機」の開発も進めている。また、苗生産は人力作業が中心であり、これについても省力的な育苗採苗システムの開発に向け検討を進めている。